資格は仕事より先、とは限らなかった|資格・免許が要る仕事の「入口」12本まとめ
資格が必要な仕事に就くには、まず資格を取る。学校に行って、試験を受けて、合格して、それから働き始める。順番としてはそういうものだと、なんとなく思っていました。
Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、国家資格や免許・許認可が要る仕事の「入口」を本人が具体的に語っている記事を12本選んで並べてみました。測量、薬剤師、社会保険労務士、税理士、建築士、司法書士、公認会計士、臨床心理士、歯科技工士、ドローン、軽貨物、民間救急。士業も現場仕事も混ざっています。
並べてすぐに崩れたのが、冒頭の「順番」でした。
資格を取った時期がはっきり語られている10人のうち、6人はその仕事を始めたあとで資格を取りに行っていたのです。
問屋業をやっていた人が30代で夜間の学校に通って建築士を取り、カウンセラーとして30年活動してきた人が52歳で臨床心理士を取り、貸切バス会社が震災のあとに「自分たちにもできるのか」と調べて要件を満たしている。資格は職業の入場券ではなく、すでに始まっている仕事の続きとして取りに行かれていた、というのが12本を読み終えたあとの実感です。
この記事では、12本から見えた「入口の形」を整理します。前の仕事が家業に何を残したかは家業に入る前の別の仕事まとめで、入ったあとに一人前になるまでの話は未経験から一人前までのまとめで扱っているので、ここでは資格そのものの階段だけを見ていきます。
目次
発見1:入口はたいてい二本あり、片方は「時間で積む道」
一番きれいに二本のルートが語られていたのが、測量でした。
札幌のモリ技術コンサルの回では、測量士になるための道筋がそのまま整理されています。まず資格は二段構えで、測量士と測量士補があり、測量士のほうが上位にあたります。そのうえで、測量士になるルートは大きく2つ。
国家試験を受ける/卒業後に資格を取得できる大学・短大・専門学校を卒業し、約2年の実務経験を経て、国土地理院に測量士として申請する
試験で一発で入る道と、学校を出たあとに約2年という実務の時間を積んで申請する道が、並んで用意されている。後者は「合格発表」の日が存在しないタイプの入口です。
同じ構造が、まったく違う場所にもありました。国税の職員から税理士になった大倉佳子さんは、よくある誤解として「国税に勤めれば税理士資格がもらえるのか」という問いを取り上げ、答えは「自動的に付与されるものではない」とはっきり言っています。
実際の手順はこうでした。国税のなかに選抜研修があり、自分で試験を受けて研修を受講する。そこをきちんと卒業し、さらに何年か勤務することで、一部試験免除のうえ登録してください、という形になる。大倉さんの体感では、税務職員の半分ぐらいは資格を持っているのではないか、とのことです。
測量士の「約2年の実務経験」も、税理士の「選抜研修+何年かの勤務」も、働いている時間そのものが試験の一部に換算されているという点で同じ形をしています。資格の階段は、どちらか一本しかないように見えて、たいてい横にもう一本かかっている。ここが12本を読んで最初に効いた発見でした。
発見2:免許が要らないのに、免許を取りに来る人がいる
逆のことが起きている分野もありました。ドローンです。
車椅子のインストラクターとしてドローンの講習を行う株式会社KAの澤田一徳さんの回は、この記事でいちばん実用的な整理でした。まず資格の種類から。
2022年12月までは民間のドローン資格しかありませんでした。それ以降、国家資格ができ、現状は民間資格と国家資格の2種類が存在します。
そのうえで、澤田さんははっきりこう言います。ドローン自体は、資格がなくても飛ばせる。
では何が必要なのか。機体のほうです。ドローンは車と同じで、機体それぞれにナンバープレートのような登録が必要で、国土交通省に申請します。そして特定飛行を申請するときに、免許を持っている場合と持っていない場合とで扱いが違ってくる。免許を持っていることが仕事につながる、という側面があるわけです。
つまりこの免許は、「やっていい」を与えるものではなく、「手続きが軽くなる」「仕事を受けられる」を与えるものとして機能している。澤田さんのところに来る人も、定年を迎えて新しい趣味として来る年配の方、勤務先でドローンを使って仕事をするために免許が必要という企業勤めの方、将来性を感じて今のうちに取っておこうという方、の3種類だといいます。特に印象的なのは1つ目だ、とも語っていました。
資格と聞くと「これが無いとできない」という制限のイメージが先に立ちますが、ここでは無くてもできるものを、あえて証明しに行っている。入口の性質がまるで違います。
発見3:順番が逆——仕事を始めてから、必要になって取りに行く
そして冒頭の発見です。順番がはっきり語られている10人のうち6人が、仕事のほうが先でした。
建材の問屋業をしていた田口住生活設計室の田口寛英さんは、意外なことに「建築が好きなわけではない」と言い切ります。問屋業は物流の世界で、直接のユーザーと話すには間に何軒も挟まる。どんなに良い提案をしても、自分のお客さんがいて、その先にお客さんがいて、その先にやっとユーザーがいる。遠い。
ならば自分が直接お客さんに会おう。そのためには資格が要る——そう考えて、30代で夜間の学校に通い、建築士の資格を取りました。
「建築をやりたいんじゃないんです。人に伝えたいための資格だったんです」
田口さんは笑いながら「今でも図面は書けない」とも言い添えたそうです。資格の使い道が、技能の証明ではなく会話の相手を変えるための道具になっている。
貸切バスを営むスター交通の碓氷さんの場合は、さらに順番がはっきりしています。震災後の1か月半、会社に行っても仕事は何もない。予定していた仕事がすべてキャンセルされていたからです。その時間を、民間救急を調べることに充てました。
問題は、社長を含めて従業員に医療従事者が一人もいないことでした。「本当に僕らにもできるのか」と思いながら調べたところ、当時必要とされたのは、ホームヘルパー2級という福祉の資格と、消防が認定する患者等搬送に関する適任証——傷病者を輸送してよいという証明でした。そして半年後には許認可を取得しています。
先に「やりたいこと」があり、あとから「では何が要るのか」を調べている。碓氷さんの言葉で言えば、2度の転換はどちらも自分の事業の弱さを直視したところから始まっていました。
ベリテワークスの浅賀桃子さんも同じ形です。IT企業で人事として採用や労務を担当するなかで、退職希望者と面談していると、ほとんどの方がすでに辞める決意を固めている状態だった。もっと早い段階で支援できたら、と痛感してカウンセリングの資格を取得しています。現場で足りないものが先に見えて、それを埋めるために資格が選ばれている。
STGこころのおしゃれ塾の田中梅野さんに至っては、時間の幅が桁違いでした。カウンセラーとして30年以上活動してきたうえで、臨床心理士の資格を取ったのは人より20年遅く、52歳。その後、69歳で公認心理師の資格にも挑戦しています。
「遅いから無理、というのではなく、人生のどの段階でも挑戦できると実感しました」
田中さんは「資格を取ったからできる、というものではない」とも話しています。訓練を重ね、スーパービジョン(カウンセラー自身が行き詰まった理由に自分で気づけるよう支援する仕組み)を受けることで深まっていく、と。資格と実力が別勘定になっているのが、この回のいちばんはっきりした線引きでした。
発見4:合格までの「足踏み」を、みんな具体的に数えている
一直線で通った人が、ほとんどいませんでした。そして面白いことに、本人たちが足踏みの回数をきれいに数えているのです。
株式会社ながせの石川裕基さんは薬剤師です。薬学部を選んだ理由は「理系科目の中で唯一得意だったのが化学」「薬学部ならまだバランスが良いのでは」という、本人いわく格好の良くない動機でした。そこから国家資格までの道のりを、石川さんはこう数えます。
大学に入るのに1年余計にかかり、卒業にも1年、国家試験合格にも1年と、いわば何度も”足踏み”しました。
1年、1年、1年。三段階すべてで1年ずつ余計にかかっているという数え方が、妙に正確でした。副代表にも「必ず一歩遅れて進むタイプだよね」とよく言われるそうです。
あすく社労士事務所の泉隆一さんは、社会保険労務士です。きっかけは、健康診断会社で働いていたときに出会った80代の社会保険労務士の先生との会話でした。これまでの仕事を話すと、先生は「こんなに多様な職場を知っているのは、社労士として大きな強みだよ。むしろ羨ましいくらいだ」と言ってくれた。転職回数の多さをマイナスに感じていた泉さんの見方が、そこで裏返ります。
2016年春に会社を退職し、半年間は勉強だけに集中。しかしその年は不合格でした。
当時の合格率は2.7%(正確には2015年が2.6%、2016年が4.4%)と非常に低く、甘い世界ではないと痛感しました。
その後は勉強を継続しながら生活基盤を保つために転職し、勤務時間外はほとんど勉強にあてて、2017年に2回目の挑戦で合格しています。「半年間専念して落ち、働きながら受けて受かった」という順番は、勉強時間の量だけでは説明がつきません。
リーガル・アソシエイツの藤川健司さんは、学生時代に司法書士を目指しました。法学部に入ったものの明確な目的意識があったわけではなく、単位を相当落としていた。そこで心を入れ替え、「資格取得を目指そう」と考えたのがきっかけです。
幸い、大学を5年に延長することになりましたが、その年に司法書士試験に合格することができました。
大学の年数を1年伸ばした、その年に受かっている。足踏みが、そのまま合格の条件になっている形です。
発見5:合格はゴールではなく、次の階段の踊り場だった
もうひとつ共通していたのが、「取ったあとに、もう一段ある」という構造です。
藤川さんは司法書士の資格を持っていましたが、やはり法律の世界で専門家として生きていくには弁護士資格が必要ではないかと考え、都内の一般民事を扱う法律事務所に転職します。債権回収や個人破産、債務整理、裁判実務、企業法務、相続案件と幅広く経験し、弁護士のサポートをしながら実務を徹底的に学びました。司法試験には7年ほど挑戦し、結果としては合格できなかったと語っています。ただし現在は、弁護士や会計士、税理士、社労士、弁理士といった各分野の資格者とネットワークを組み、案件ごとに最適なプロジェクトチームを編成して対応している。一人で二つ目を取る代わりに、資格者を横に並べるという解き方に着地しています。
池田幸弘公認会計士事務所の池田さんは、順番そのものを設計していました。もともと独立願望があり、何か資格を取りたいと思っていた。ただ初めから税理士になったわけではなく、独立のときにも有利になるだろうと思い、まずは公認会計士の資格を取得しています。そのうえで、税金に関する話は周りからも重宝される知識になりお客さまに喜ばれると思い、公認会計士としての実績を活かしながら税理士の資格を取った、と。
ヒプノセラピーの満藤由加さんも階段型です。ロンドンで結婚・出産を経て、子どもが小さいときにチャイルドケアの資格を取得。そこからいろいろなプロジェクトに関わる中で、より具体的で専門的なサポートを提供できるようになりたいと思い、ヒプノセラピーの資格を取得しました。取材時点では、さらに「認知行動催眠療法」というもうひとつの資格取得に向けて勉強しているところだといいます。
チャイルドケア、ヒプノセラピー、認知行動催眠療法。一段ごとに扱える範囲が広がる設計になっていて、最初の一段だけを見ても全体像は見えません。
発見6:同じ資格名でも、国が違えば中身が違う
満藤さんの回には、もうひとつ重要な指摘がありました。同じ「ヒプノセラピーの資格」でも、日本とイギリスで取り方が違う、という話です。
日本ではバックグラウンドがなくてもヒプノセラピーの資格を取れば活動できる一方、イギリスでヒプノセラピーの資格を取るためには、ケーススタディをしたり、必要な知識をどれだけ勉強したかを提出して、ヒプノセラピー協会のチェックを受けるんですね。そこで一定のレベルに達しているという判断があった上で資格が取れて、ヒプノセラピー協会のメンバーになれるんです。
満藤さんは、確かな知識とスキルを持っていることが、イギリスと日本のヒプノセラピーの資格の大きな違いだと思っている、と話しています。
試験の点数ではなく、積み上げた実例を提出して審査されるというのは、発見1で見た「時間で積む道」に近い形です。測量士の実務経験2年も、イギリスの協会のチェックも、紙の上の点数ではないものを入口の条件に置いているという点では同じ発想でした。資格の名前が同じでも、その後ろにある階段の段数はそろっていない。
発見7:資格を取っただけでは、入口に立てたことにならない
最後に、少し冷静な話をひとつ。資格は取れても、その仕事に就けるとは限りませんでした。
浅賀さんは、小学5年生のときに近所の公共図書館で「司書体験」をしたのがきっかけで図書館司書を志し、大学でも図書館情報学を専攻しています。資格は取得したものの、当時は司書職の採用が少なく、志をそのまま仕事にできなかったと率直に振り返っています。ただし本を愛する原体験は、のちの「人と人をつなぐキャリア」に結びついていきました。
大倉さんの話にも同じ構造が出てきます。国税の選抜研修を経て税理士資格を得ても、外に出るかどうかはまた別の話。取得のタイミングで税理士として独立する人もいれば、まったく出ずに定年まで勤める人もいる。子育てなどもあるので、生活スタイルに合わせて選んでいく、と語られていました。
福岡県久留米市を拠点に、歯科医院と歯科技工士をつなぐ仕事をしている株式会社CoLaboの安元昭裕さんは、この仕事の入口の人数を具体的な数字で挙げてくれました。
今、年間で新卒で技工士になる方は800名台しかいない。そこから技工所に勤めて、本当に技工士としてやっていく方は3分の1ぐらいになっているのが現状。
安元さんは同時に、この資格の位置づけをはっきり語っています。日本では歯科技工士はきちんとした国家資格。誇れる資格だと思う、と。技工士が作るものに二つとして同じものはなく、患者や歯医者に喜んでもらえるものを作って届けるのは歯科技工士の特権だ、とも話していました。安元さん自身は一度技工業界を離れて金融の世界にいたためファイナンシャルプランナーの資格を持ち、さらに動物が好きでペット系の資格も持っているそうです。
「取れる人数」と「続ける人数」は別に数えないといけない。これは資格の入口を考えるうえで、合格率と同じくらい大事な数字だと思いました。
おまけ:免許の大きさが、事業を始める順番まで決めることがある
資格が個人の入口だけでなく、会社の順番まで決めていた例もありました。
軽貨物の合同会社LaMerciの佐藤亮さんは、21歳頃に「そろそろ正社員として職を」と考え、車の免許を活かしてトラック運転手になった人です。会社としての目標は、立ち上げ時から一般貨物(トラックでの配送)への挑戦にあります。
両者の違いはこう整理されていました。車のサイズが違い、そのため必要な免許が変わる(一定のサイズを超えると中型免許が必要)。軽貨物は宅配で各家庭に届けるのがメイン、一般貨物は企業対企業で倉庫から倉庫が多くなる。
本当は最初から一般貨物をやりたかったものの、法改正以降、乗れる人が限定され始めているという事情がありました。若い世代で中型免許を持っている人は多くありません。だから運転免許さえあればできる軽貨物を窓口としてスタートし、そこから一般貨物へという順序を考えている、と佐藤さんは語ります。
免許という条件が、事業計画の順番そのものを規定している。個人のキャリアの話だと思って読み始めた「資格の階段」が、会社の設計図の話につながった瞬間でした。
Shikisai編集部の整理:入口は4つの型に分かれる
12本を並べ終えて、入口の形はおおむね4つに整理できました。
- 試験型……点数で一度に通る。薬剤師の国家試験、社労士、司法書士、公認会計士。足踏みの年数が語られやすいのはこの型です。
- 時間型……学校を出たあと実務を積んで申請する、勤務年数で一部免除になる。測量士の約2年、税理士の選抜研修と勤務。合格発表の日が存在しません。
- 審査型……提出した実例と学習量を見て、団体が判断する。イギリスのヒプノセラピー協会のチェックがこれにあたります。
- 証明型……無くてもできるが、あると扱いが変わる。ドローンの国家資格、民間救急のヘルパー2級と適任証、一般貨物の中型免許。
そして、どの型であっても共通していたのが冒頭の発見でした。資格を取る動機は、資格の外側から来ている。田口さんは「人に伝えたいため」、泉さんは80代の先生のひと言、浅賀さんは退職面談の現場、碓氷さんは仕事が消えた1か月半、佐藤さんは中型免許を持つ若手の少なさ。誰一人として「その資格が欲しかったから取った」とは語っていません。
資格の要る仕事に興味があるなら、最初に調べるべきは合格率ではないのかもしれない、と12本を読んで思いました。調べるべきは、自分がいま立っている場所から、その資格までの階段が何段あるかのほうです。
※資格・許認可の要件は制度改正により変わることがあります。最新の情報は所管の窓口や公的機関の案内をご確認ください。本記事は、Shikisaiに掲載されたインタビュー・ラジオ記事で本人が語った内容をもとに、Shikisai編集部が整理したものです。
この記事を書いた人

Shikisai編集部
「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。
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