「これはスピリチュアルとは違う、エビデンスに基づく心理療法」。満藤由加さんに聞くウェルビーイングな生き方を後押しするイギリス式ヒプノセラピー


Yuka Mando Hypnotherapy&Well Being 代表 満藤 由加 MANDO YUKA

「一言で言うと、私は問題解決で人の生きやすさをサポートするセラピストです」と話すのはイギリスに拠点を置き、日本でもヒプノセラピストとして活動する満藤由加さん。「催眠」や「前世療法」といった言葉からスピリチュアルに捉えられがちなヒプノセラピーを、イギリスの医療現場が取り入れる信頼性の高い手法で行っています。スピリチュアルとは一線を画す確かな手法“イギリス式ヒプノセラピー”とは、どういったものなのでしょうか。満藤さんにお話をお聞きしました。

エビデンスに基づく確かな手法“イギリス発ヒプノセラピー”

ヒプノセラピーについて教えてください。

満藤:ヒプノセラピーとは催眠療法のことで、「潜在意識」に働きかける最新の心理療法のひとつです。潜在意識とは私たちが自覚していない意識のことで、無意識とも呼ばれています。私たちの意識はこの「潜在意識」と、いつも自覚している「顕在意識」とに分かれています。思わず取ってしまう行動や気がつくと取っていた行動などは、潜在意識に組み込まれている行動・思考パターンからくるものです。そこでセラピストが適切な誘導をして、普段はアクセスできない潜在意識の中の記憶にアクセスしていきます。その結果、悩みである思考や信念、行動を変え、なおかつ、明るいイメージや肯定的な言葉を用いることで、ポジティブな行動へとつなげることができるのです。

ヒプノセラピーにはスピリチュアルなものから医療的なものまで幅広くありますが、私が用いるのは科学的に証明され、エビデンスがあると認められたイギリス式のヒプノセラピーです。もともと欧米で、精神科医が患者の過去のトラウマなどを癒すために使われていましたが、イギリスの心理学では「記憶は不確かなもの」と判断されていて、幼少期の記憶を辿るという手法が真実なのかどうか、科学的に検証できませんでした。そこでイギリスでは、ヒプノセラピーの手法が科学的なエビデンスが取れる、ジェネラル(普遍的)な方向へ一気にシフトし、病院やクリニックでも取り入れられるようになったんです。

日本に渡ってきたヒプノセラピーは、スプーン曲げなどユリ・ゲラー氏の超能力がブームになった時代のアメリカで、スピリチュアル的に人気になったものです。なので、ちょっと怪しいイメージで捉えている方が多いかもしれません。

プロセスを辿る着実なアプローチが行動を変えていく

ヒプノセラピーの資格を取ったきっかけは何ですか?

満藤:日本で社会人として働いた後、幼い頃から好きだったイギリスのロンドンに住みました。そこで、結婚・出産を経て、子どもが小さいときに離婚したことをきっかけに、チャイルドケアの資格を取得。さらに心理学を学ぼうと通った大学在学中に、Victim Supportという刑事事件の被害者とその家族の方々をサポートする機関にボランティアとして関わり、卒業後に就職しました。そこでいろいろなプロジェクトに関わる中で、より具体的で、専門的なサポートを提供できるようになりたいと思い、ヒプノセラピーの資格を取得したんです。

資格を取ったことで、どういったサポートができるようになりましたか?

満藤:犯罪被害者に対して、日常の暮らしへ戻っていくためのカウンセリングをして実践的なサポートをしていたときと比べると、ヒプノセラピーを使うことで、より早くポジティブな気持ちで積極的に戻っていくサポートができるようになりました。さらに、ヒプノセラピーを通して、犯罪被害者から普段の暮らしで悩んでる方まで幅広くサポートできるようになりましたね。

具体的な手法としては、クライアントが「どう思い、何を考えているのか」「どうしたいのか」を非常に大事にするので、まずはそこを深掘りして気づきを得てもらったり、大切なことを認識してもらったりします。その上で、何か変わりたいと望むのであれば感情や思考、行動が変わるように働きかけます。そして、必ずポジティブな気持ちで行動できるようにつなげるので、ポジティブな言葉を使って暗示をかけ、明るい気持ちで取り組む自分の姿などをイメージしながらモチベーションを上げるアプローチも行います。

今のお話を聞くと、スピリチュアルというよりはカウンセリングのひとつの手法なのかなと思います。

満藤:そうですね。ヒプノセラピーは心理療法のひとつなので、英国心理学学会でも一般的なカウンセリングとヒプノセラピーはつながっているんですよね。例えばイギリスの病院では、不眠症やダイエット、禁煙の対処法に、ヒプノセラピーが積極的に使われています。

また、イギリスのヒプノセラピーはカウンセリングのレベルも大きく違います。日本ではバックグラウンドがなくてもヒプノセラピーの資格を取れば活動できる一方、イギリスでヒプノセラピーの資格を取るためには、ケーススタディをしたり、必要な知識をどれだけ勉強したかを提出して、ヒプノセラピー協会のチェックを受けるんですね。そこで一定のレベルに達しているという判断があった上で資格が取れて、ヒプノセラピー協会のメンバーになれるんです。確かな知識とスキルを持っていることは、イギリスと日本のヒプノセラピーの資格の大きな違いだと思っています。

例えば、私自身がカウンセリングを受けるクライアントだとします。ダイエットをしたいのに外食ではついカロリーの高いお店に行ってしまうというときに、どんな手立てがありますか?

満藤:1つは、なぜカロリーが高いお店に行くのか、その心理の潜在意識下に潜む本当の原因をまず探ること。もう1つには、痩せて、どういう自分になりたいのか、自分のセルフイメージを明確化しておくことが必要になります。また、癖になっている直したい行動と反対の方向に持っていくようにセッションする方法(認知行動催眠療法もありますね。プログラムを組んで必要なことを見極めながら、一人ひとりに合った進め方をします。

行動の原因を掘り下げていくと、つい我慢ができなくてカロリーの高いものを食べてしまうなど、いろいろなことが出てくると思うのですが、それを見つけた後に、どんなアプローチをするのですか?

満藤:まず原因は人それぞれですよね。例えば、その原因がストレスだと特定できたとすると、ストレスを軽減するためにヒプノティックな瞑想を習慣化してもらうことがあります。瞑想の中でどういう思考や感情が出てくるのかを認識する瞑想もあるし、ストレスがマックスで筋肉が硬直しているときは、リラックスさせるような瞑想もあるんですよね。

何より、ストレスのもとが何なのかをきちんと調べること。掘り下げして認識しても、また出てきてしまうものは、一つずつ順番に暗示をかけて誘導していきます。暗示というのは要するに、感情のレベルを下げる瞑想や誘導瞑想のことで、他には、自分で怒りなどの感情をコントロールする作業もあります。

感情のレベルや、感情の出方をコントロールするということですか?

満藤:バッと怒りの感情が出てきたときの具体的な対処方法として、まずダイヤルを思い浮かべてもらいます。怒りを感じるときは、何かしらのきっかけがあるはずなので、このきっかけがもとになり怒りをわなわな感じるシチュエーションをイメージしてもらいます。

次に、深呼吸してダイヤルを下げていくとともに、感情が次第に収まっていくことをイメージします。このイメージ力を活かした練習を繰り返し、どんな状況下でもコントロールできる力を身につけるということです。

最初におっしゃった「ポジティブな気持ちで行動できるようにつなげていく」とは、どういうアプローチですか?

満藤:ヒプノセラピーには「ヒプノ誘導」という手法があります。クライアントがリラックスした状態のもとで、セラピストが話すポジティブな言葉をイメージしながら瞑想してもらうというものです。ここで使うポジティブな言葉とは、なりたい自分になれたり、イメージが湧いたりするような言葉で、モチベーションが高まり、前向きな行動へつなげることができます。

つまり、ある行動の原因を突き止め、軽減した上で、ポジティブな未来へのイメージを高めて動き出せるように働きかける。この一連のプロセスがヒプノセラピーなのですね。でも、本当に行動は変わるのでしょうか?

満藤:セッションを受けた初日から、みなさん変わりますよ。ストレスが溜まっている人が多いので、ストレスを軽減するための誘導をして瞑想してもらうと、どんな感情があってどういうことを考えているのかを見ることができます。そのほか、筋肉をほぐし、呼吸法を行うこともあります。

まずはここから始めると、いろいろな感情や思考が表に出やすくなるし、リラックスできるので、新しいアイデアが沸いたりとポジティブな気持ちになれるんです。さらによく眠れるようにもなりますよ。睡眠不足や疲れはどうしてもネガティブな方向にいってしまいますから。

ウェルビーイングな時代にもマッチ。ヒプノセラピーで前向きで自分らしい人生を生きてほしい

今後は、この活動をどう広げていきたいですか?

満藤:日本のたくさんの方に、イギリス式の心理療法をどんどん活用してもらいたいですね。日本人は真面目で完璧主義者なところがあって悩みを抱えがちです。この心理療法を活用して、もっと心を軽くして前向きになり、希望が持てる人生をつくってもらいたいです。もともと人は生まれてくるとき、ワクワクしてやってきたのだと思います。だからこそ、人生の最期に「この人生で良かった」って思えるといいですよね。

最近は「ウェルビーイング」という言葉もよく聞くことからも、そういう課題意識が高まっているのだと思います。

満藤:ウェルビーイングが求められるこの時代に、ヒプノセラピーは大いに役立つと思います。イギリス式のヒプノセラピーには、カウンセリング、催眠療法、コーチングというすべてのスキルが入ってるんですね。つまり、段階的に原因を見つけて、実践的に問題を解決していくことができるんです。

ヒプノセラピーは決して怪しいものではないんです。前向きな言葉を使って心を軽くすることで毎日が生きやすくなるし、自分の内側に問いかけることで本来の自分を知ることができます。そう認識してもらえるように、ヒプノセラピーのイメージを変えたいと思っています。

私は今、ヒプノセラピーをさらに深めるために、イギリスで「認知行動催眠療法」というもうひとつの資格取得に向けて勉強しています。その中であらためて感じることは、イギリスではスピリチュアルな手法は全く受け入れられないということです。その理由は、イギリスが、本当に医療的で具体的なアプローチで症状の改善を目指しているから。このイギリス式ヒプノセラピーを日本で広め、一人でも多くの方に、前向きで自分らしい人生を送ってもらいたいと思います。

編集後記

ヒプノセラピーで人の行動まで変えられるのか。そんな疑問を抱きつつ挑んだ取材では、ヒプノセラピーの本質を伺うことができ、効果的かつ信頼性の高い手法なのだと気づかせてくれるものでした。「イギリス式ヒプノセラピー」は、ヒプノセラピーを知ってる人にも知らない人にもあらためて伝えたい、ウェルビーイングを後押ししてくれる手段です。「どう在りたいか」という自分の在り方が求められるこの時代に、大きな力になってくれるのではないでしょうか。

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Yuka Mando Hypnotherapy&Well Being 代表

満藤 由加 MANDO YUKA