最初にやる仕事は本業ではなかった|未経験から一人前になるまでを12本の取材で整理した

最初にやる仕事は本業ではなかった|未経験から一人前になるまでを12本の取材で整理した

「未経験歓迎」と書かれた求人を見て、いちばん気になるのは待遇よりも先に、入ってから何をやらされるのかではないでしょうか。技術職なら技術を、接客職なら接客を、いきなりやらせてもらえるのか。それとも、しばらくは何も触らせてもらえないのか。

Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、入職直後の話が具体的に出てくるものを12本選んで並べてみました。業種は洋菓子、寿司、大工、建設機械、浄化槽、ゲーム効果音、ブライダル、コーヒー、航空、内航海運、福祉と、見事にばらばらです。

それでも、読み終えてはっきりしたことが一つありました。最初に任される仕事は、たいてい本業ではないのです。皿洗い、掃除、荷物運び、先輩の見学、道具を取りに行くこと。そして重要なのはその先で、「そこで何をしていたか」によって、その後の伸び方がずいぶん違って語られていました。

この記事では、12本から見えた「入職直後の壁」と、それを越えた人たちが実際にやっていたことを、編集部なりに6つの発見として整理します。これから業界に入る人にも、未経験者を採ろうとしている会社にも、材料になるはずです。

発見① 最初に任されるのは、皿洗いと掃除と「道具の名前」

もっともはっきりした形で語られていたのが、淡路島で寿司店「寿司一」を営む岩井文吾さんの京都時代です。料理の専門学校を出て就職した先で学びたかったのは日本料理、なかでも懐石料理でした。ところが実際に始まったのは、まったく別の日々です。

皿洗いや雑用が多く、包丁を握らせてもらえるのは最後の方でした。

包丁を使わせてもらえるようになったのは3年半ほど経ってから。それまでは、先輩が料理をしているところを見て学ぶ時間だったといいます。

兵庫・松岡住研の三代目、松岡さんの弟子入り時代も似ています。隣町の工務店に入ったものの、できる仕事があるわけではありません。掃除をしたり、荷物を運んだり、道具を取りに行ったり。手が空くと、現場に落ちている木を拾って道具で刀を作ったりしていたそうです。

ここが面白いところで、松岡さんはその「刀づくり」を通じて、早い段階から道具の名前を覚えていったと振り返っています。雑用の時間は空白ではなく、道具と現場の言葉を頭に入れる時間になっていたわけです。

ゲームの効果音を手がける株式会社ソノロジックデザインの牛島正人さんも、横浜の小さな音響制作会社で修業を始めています。

最初の3年間はまさに下積みで、言われたことをひたすらこなす日々でしたね。

寿司、大工、音響。分野はまるで違うのに、最初の数年の形は驚くほど似ています。

発見② 「見て覚えろ」は、いま過去形で語られていた

では、その下積みの中でどうやって技術が身についたのか。ここで出てくるのが「見て覚えろ」です。

長野市で建設機械の修理を専門にする有限会社小宮山建機の小宮山正樹さんは、油圧ショベルやクレーンを扱います。機械は種類が多く、壊れる箇所もさまざまで、「これを学べば直せる」というものではありません。電気系統が悪いのかと思って現場へ行くと、油圧系統だったりする。ではどうやって身につけたのかを尋ねると、答えはこうでした。

私たちの時代は、見て覚えろの時代だった。

先輩たちがやっていることを見て、「ああ、こうだったらこうなのかな」と考えながら覚えていったといいます。メーカー時代を含め、ひととおり修理ができるようになるまでにかかったのは4〜5年。しかも4〜5年経っても、得意な機械と苦手な機械はあるのだそうです。

注目したいのは、この言葉が「私たちの時代は」という過去形で語られている点です。同じことが、UCCコーヒーアカデミーの回でも出てきます。バリスタとして現場で働いていた頃を、土井さんはこう振り返りました。

私自身も、現場でバリスタとして働いていた頃は、感覚的に覚えていることが多かったです。先輩の背中を見て学ぶ、という形が中心でした。

そのやり方の弱点も、あわせて語られています。教えられる人が限られていて、その人が辞めてしまうと知識が途切れてしまう。だから同アカデミーは、学ぶ内容とレベルを整理した体系的な教育プログラムに軸足を移しました。レベル分けを明確にすることで、どこを目指せばいいのかが分かりやすくなり、誰が教えても一定の水準に到達できるようになる、という考え方です。

「見て覚えろ」で育った人自身が、次の世代には別の渡し方を用意しようとしている。12本を通して読むと、その移行期の真ん中にいることがよく分かります。

発見③ 覚える順番が決まっている会社は、未経験を採れている

未経験者の受け入れがいちばん具体的だったのが、千葉県で合併処理浄化槽を手がける株式会社共同テクノの回でした。採用の話で驚かされるのは、この一点です。

同業から社員になった人は一人もいない。

全員が異業種からの転職者。では、どうやって仕事を覚えていくのか。手順ははっきりしています。まず3か月ほど先輩と現場を回り、浄化槽の「中身」に関する国家資格である浄化槽管理士に挑戦する。次に外側の設置工事に関わる仕事を覚え、さらに資格を取っていく。資格を完璧に取っている先輩が何人もいるので、そこから聞けばすぐ教えてもらえる、と板寺さんは言います。

覚える量については率直で、多種多様なパイプがあり、そこから全部覚えなければならないので大変な道のりだ、とも語られています。ただし続けてこう言い添えられました。

焦って覚える必要はない。一つ一つ、経験とともに覚えていけばいい。

「何を、どの順番で、いつまでに」が言語化されていること。これが、同業経験ゼロの人ばかりを採れている理由なのだろうと感じます。

同じ構造は、祝林タンカー株式会社の林俊資さんが語る船員の入口にもあります。未経験者でも船員を目指せるかという問いへの答えは明快で、広島の海事系養成校(半年課程)で基礎資格を取れば海技免状(国家資格)を取得でき、乗船経験を積めば1年ほどで上位資格も目指せるとのことでした。

「見て覚えろ」が期間の見えない道のりだったのに対し、資格の階段は距離が見えます。未経験から入る側にとって、この差はかなり大きいはずです。

発見④ 1年目から現場に立てるかどうかは、研修の濃さで決まっていた

「最初はやらせてもらえない」の逆側の事例も、きちんとありました。

横浜のブライダルサロンで働く1年目のスタッフに密着した回では、入社から間もない時期にもかかわらず、お客様の小物合わせの接客をひとりで担当しています。一般的に接客業では、最初の数ヶ月から半年ほどは先輩の様子を見ながら学ぶ期間が設けられることも多いものです。なぜ1年目から任されるのか。本人の答えはこうでした。

1年目から接客をさせてもらえるのは、その分、研修制度がすごく濃いからなんです。

いきなり現場に放り出されているのではなく、実践に耐える準備を短期間で積んだ上で立っている、というわけです。同席していた先輩スタッフは、この1年目スタッフについて「責任感がすごくありますし、お客様への思いがとても強い」と評価し、それが指名にもつながっていると語っています。

その研修の中身が見えるのが、同じ会社のヘアメイクスタッフの回です。ここで出てくるのが「シスター制度」と呼ばれる仕組みでした。新人スタッフには1ヶ月限定でマンツーマンの先輩が付き、一緒に着付けやヘアメイクの現場に入りながら、実践を通じて技術を覚えていきます。技術面だけでなく、プライベートな悩みごとがあっても「何でも聞いてね」と声をかけてもらえる環境があったそうです。

不安に思っていることを、分からないままにしない環境があったからこそ、今の自分がいるのかなと思います。

このスタッフは、もともと「元々めちゃめちゃ人見知り」で、入社当初は何を話していいのか分からなかったと打ち明けています。それを変えたのは、先輩から教わった会話の広げ方でした。髪の毛の話、普段のメイクの仕方、休みの日の過ごし方——一つの話題から次へつなげていく方法を、実践の中で身につけたといいます。

技術職に見える仕事でも、最初の壁は技術ではなく会話だった。この順番は、覚えておく価値があると思います。

発見⑤ 「一人前まで何年か」の答えは、3年半から20年までばらけた

12本の中には、年数がはっきり語られたものがいくつもありました。並べてみます。

分野語られた年数出どころ
大工一人前まで最低3年から10年(松岡さんは3年間修行)松岡住研
日本料理包丁を任されるまで3年半寿司一
建設機械修理ひととおり直せるまで4〜5年小宮山建機
ゲーム効果音下積み3年ソノロジックデザイン
洋菓子下働き2年を含め、修行は合計3年半ほどイルフェジュール
内航海運半年課程+乗船経験で、1年ほどで上位資格へ祝林タンカー

松岡さんが弟子入りしたときに言われた言葉は、そのまま業界の相場観でした。

大工で一人前になるには最低3年から10年かかるぞ。

一方で、年数を長く取ったことがそのまま強みになった例もあります。静岡おでんの店「伊豆の味 そうだら」の小林さんは、18歳で和食から始め、洋食も覚えたいと考えてレストランで1年ちょっと、さらにお酒が好きだからとバーテンダーへ進みました。修行の期間はおよそ20年です。

面白いのは、そのバーで得たものが料理の技術ではなかったことです。小さな店で、目の前にいるお客さんと直に会話する。そこで初めて「リアルな接客」を覚えたと語られています。

川崎麻生区の洋菓子店「イルフェジュール」の宍戸シェフは、専門学校を出ていない4大卒からのスタートでした。

4大卒で入っているのは自分くらいなもので、専門学校を卒業した年齢が下の子たちが先輩で…その中敬語使いながら…大変でした…(笑)

完全に実力主義の現場だったといいます。下働き2年を含めて修行はおよそ3年半、その後カリスマシェフの下で3年働き、次の店ではシェフになりました。

つまり「一人前まで何年」に共通の正解はありません。分野と、その会社が用意している道筋によって、3年半にも20年にもなるというのが12本から見えた答えです。

発見⑥ 最初の1年にしか手に入らないものがある

年数の話とは別に、複数の記事で繰り返されていたことがあります。最初の期間に教わる「細かいこと」の価値です。

マナー講師の金城あやさんは、元キャビンアテンダントです。CAの訓練というと笑顔や立ち居振る舞いを仕込まれるイメージがありますが、実際は訓練の8割が安全・緊急脱出訓練だったといいます。仕事の中心が「お客様を安全に目的地までお連れすること」だからです。ではサービスの訓練はどれくらいかというと、最後の1〜2週間、1か月に満たないほど。

それでも金城さんが「すごく大きかった」と振り返るのは、先輩や教官から教わった細かい部分でした。手の動かし方。目線の使い方。そうしたことを最初の段階で教えてもらえたことが、後々まで効いているといいます。

さらに興味深いのが、その価値に気づいたタイミングです。CA時代はそれらが当たり前に与えられるもので、しかも周囲の全員が同じように育っている。その環境の中にいるときには気づけなかった。中小企業に転職したり、個人で仕事をするようになったりしてから、はっきり見えてきたそうです。

人材育成の会社を営む立場からの金城さんの言葉は、この記事でいちばん実務的かもしれません。

CAであれば訓練期間、一般企業であれば新入社員の研修期間って、人生の中で一番勉強する時期なんです。

できるようになるまで反復練習をする時間をいただけるのは、新入社員の間だけ。

新人の頃は誰でも「早く覚えなきゃ」と焦りがちです。けれど、できるようになるまで繰り返す時間を会社が用意してくれるのは、その期間しかない。発見③で見た共同テクノの「焦って覚える必要はない。一つ一つ、経験とともに覚えていけばいい」という言葉と、きれいに裏表になっています。

未経験から入れる入口は、思っているより広い

12本を採用の目で読み直すと、未経験の受け入れ方は大きく3つに分かれていました。

  1. 資格の階段を用意する型——共同テクノ(3か月の同行→浄化槽管理士→設置工事の資格)、祝林タンカー(半年課程→海技免状→乗船経験で上位資格)
  2. 短期集中の研修で現場に立たせる型——ブライダルサロン(濃い研修で1年目から接客/新人に1ヶ月マンツーマンのシスター制度)
  3. 教える内容そのものを体系化する型——UCCコーヒーアカデミー(レベル分けした教育プログラムで、誰が教えても一定の水準へ)

このどれもが、「見て覚えろ」の時代から一歩進んだ設計です。未経験からの転職を考えている人は、求人票の待遇欄と同じくらい、この3つのどれを用意している会社なのかを見るとミスマッチが減ると思います。

そして、入る側にとってもう一つ心強いのは、異業種からの入職が例外ではないことです。共同テクノは同業からの入社がゼロ。ブライダルのヘアメイクスタッフは、美容師の国家試験に向けて勉強していた進路から方向転換した人でした。イルフェジュールの宍戸シェフは専門学校を出ていません。前職の経験が無駄になったという話は、12本のどこにも出てきませんでした。

まとめ:一人前への道のりは、「年数」ではなく「順番」で語られていた

12本を並べて残ったのは、次の4つです。

  • 最初に任されるのは本業ではない。皿洗い、掃除、道具の名前、先輩の見学から始まる
  • ただしその時間は空白ではない。道具の言葉を覚え、先輩の手元を見る時間として使われている
  • 一人前までの年数は3年半から20年までばらけるが、入口の3か月〜1年をどう設計しているかは会社ごとにはっきり違う
  • そして、できるようになるまで反復練習する時間をもらえるのは、新入社員の間だけ

「何年かかりますか」は、入る前にいちばん聞きたくなる質問です。けれど12本の話者たちがそろって具体的に語ったのは年数ではなく、最初の3か月に何を回り、次に何の資格を取り、その次に何を覚えるかという順番のほうでした。年数は結果として出てくる数字にすぎないのだと思います。

Shikisaiでは、こうした「中に入った人の話」を業種を問わず伺っています。職人の世界で実際に何が起きているのかは職人の世界の「実はそうだったのか」12選に、その先で経営を担った人たちが越えてきた場面は「いちばん苦しかった時期」をどう越えたかにまとめています。あわせて読むと、入口から先の景色までひとつながりで見えてくるはずです。

この記事を書いた人

Shikisai編集部

Shikisai編集部

「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。

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