公務店の三代目として、職人から経営者へ。家づくりのプロが語る、理想の住まいを実現するためのポイントとは?地域に根ざしたサービスの強み、土地選びの重要性、そして大工時代から培った現場での経験を生かした経営哲学。時代の変化の中で会社をどう進化させていくのか、その挑戦に迫ります!
【株式会社松岡住研のHP】
https://www.matsuokajuuken.com
目次
兵庫県西脇市の、三代続く工務店
株式会社松岡住研は、兵庫県西脇市で祖父の代から三代続く工務店です。代表の松岡克師さんは収録時点で39歳。三代目にあたります。
手がけているのは、戸建ての注文住宅、リフォーム、リノベーション、古民家再生、店舗工事、外構工事。それだけではありません。
- 住宅ローン選びのアドバイス
- ローン審査のサポート
- 土地探しのお手伝い
- 作業場の掃除
- 道具の手入れ
- それまで仕事をいただいたお客様の家に伺って「何か今、困っていることはないですか」と声をかける
土地探しについて松岡さんが強調したのは、地元であることの意味でした。地元に住んでいるからこそ、地元を熟知した人が土地を案内するのが一番重要。
対応エリアを「車で1時間圏内」と決めている理由
同社は施工エリアを明確に区切っています。
事務所から車で約1時間圏内。
理由は営業効率ではなく、建てた後にありました。
家に不具合やトラブルが発生したときに、すぐ駆けつけられないと困るから。
主要エリアは西脇市を中心とした北播磨地域です。
「1年間、社会勉強してこい」
松岡さんは三代目ですが、まっすぐ家業に入ったわけではありませんでした。
もともと大工になるつもりでいたところ、父親から言われます。
「1年間、社会勉強してこい」
高校卒業後、1年間だけ工場でサラリーマンを経験します。当時は勤務先の専務と男二人暮らしで、朝は目玉焼きを焼いてパンを焼いて――という生活だったそうです。
その後、隣町の工務店に弟子入り。いわゆる丁稚奉公です。
当時言われていたのは「大工で一人前になるには最低3年から10年かかるぞ」。松岡さんは3年間修行したのち、松岡住研に入社しました。
もっとも、現場との付き合いは子どもの頃からでした。父親も大工で、その背中を見て育っています。
休日に「暇やったら現場来いよ」と連れて行かれ、掃除をしたり、荷物を運んだり、道具を取りに行ったり。
仕事ができるわけではないので、現場に落ちている木を拾って、道具を使って刀を作ったりしていた。そうやって早い段階から道具の名前を覚えていったといいます。
職人同士だから、父親とは何度もぶつかった
三代目としての苦労を尋ねられた松岡さんは「いや、もう、いろいろありましたね」と笑いました。
数年前に亡くなった祖父も大工でした。孫である松岡さんをとても可愛がり、優しさの中にも職人の厳しさを、言葉で丁寧に教えてくれたといいます。
一方、父親との関係は違いました。
自分も職人。お互い職人で負けず嫌いなので、言われたら言い返して、何度もぶつかった。
それでも続いてきた理由も語られています。ものづくりに関してはお互いすごく真面目で、いかにお客様にいいものを作って喜んでもらうかという方向は同じだったから、と。
仕事が全くない時期に、していたこと
経営の浮き沈みについても、率直に語られました。
祖父の代は、地元の方から直接仕事をいただける時代でした。しかしその後はOBのお客様と地元のお客様だけでは食べていけない現状があり、なんとか食いつないでいた時期があったといいます。
仕事が全くない時期も、結構ざらにあった。
そういうときに何をしていたのか。答えが具体的でした。
そうすると「じゃあ、こんなことしてくれへんか」と1日2日でも仕事をいただけた。「本当にいいお客様ばかりに恵まれていた」と振り返ります。
好きだった現場を、飛び出した
ただ、それだけでは食べていけない。大工として働くなかで、松岡さんはある事実に気づきます。
このままではご飯を食べていけない。自分も家族も、そして会社の未来があまり明るくない。
そこで好きだった現場仕事を飛び出します。理由は、構造的な問題でした。
現場ばかりに出ていると、現場はきっちり収まる。けれど次のことが動き出せない。仕事を取っていけない。
世代交代を進めながら、これまでのお客様のアフターフォローは崩さず、新規のお客様から仕事をいただけるよう事業を展開していきました。
「腕のいい大工が建てればいい家が建つ」時代ではない
熟練の大工が経営者になったことの安心感を指摘されたとき、松岡さんの答えは意外なものでした。
昔は「腕利きの大工が家を建てればいい家が建つ」と言われていたが、そういう時代ではない。
勘や経験ももちろん大事。そのうえで、いろいろな側面を判断するために必要なものがある、と。
正しい知識と判断力を、お客様が身につけること。お客様が「物差し」を持つこと。
それが今まで経験してきたなかで一番大事だと思う、というのが松岡さんの結論でした。
実際、住宅の性能は可視化が進んでいます。気密・断熱などは数値化され、立体パースで外観もイメージでき、家の性能も建てる前から分かる。昔のように「どんな家ができるのか完成しないと分からない」という状態ではなくなった、と。
家を建てる時は地元のレストラン、建てた後は主治医
地場工務店の役割を、松岡さんは2つの比喩で説明しました。これがこの回でいちばん印象的な部分です。
家を建てる時は「地元のレストラン」。家を建てた後は「お客様の主治医」。
レストランの比喩は、こう続きます。地元のレストランでは顔見知りのスタッフとたわいない話をする。通い続けているとお客に合わせて料理を作ってくれたり、オーダーメイドのもの、裏メニューが出てきたりする。
その安心できる空間が、地元の工務店なのだ、と。
工務店も一生地元で暮らしているからこそ、地域特有の気候や環境を熟知している。膝を突き合わせて打ち合わせを重ねるなかで、お客様のことを誰よりも理解できる。
そして主治医の比喩。家は人と同じで、引き渡した後に怪我や病気もする。だからアフターサービスやメンテナンスがあり、家族構成や環境の変化にも合わせていく。
建てた工務店が、お客様の家のことを誰よりも理解している。
年間の仕事量を、きっちり決めている
仕事をするうえで大切にしていることを問われた松岡さんの答えは、意外な角度からでした。
仕事量です。
同社は少数精鋭のチーム体制。今の体制で年間どれだけ仕事をこなせるかを、きっちり決めているといいます。新築なら年間の棟数を決め、リフォームでも着工日をずらしてもらう。
基準は、この一点でした。
自分の目が行き届く範囲内で仕事をこなす。
松岡さん自身が営業もやり、現場管理もし、お客様との仕様決めもしています。それが結果的に品質、信頼、その後のメンテナンスにつながるから、直接家づくりに携わっている、と。
西脇では、7〜8割が平屋を建てる
地域による住まいの違いも語られました。西脇市で人気なのは平屋です。
同社で建てるお客様の7〜8割が平屋。
売られている土地が広いことが背景にあります。都市部の細長い土地に3階建てを建てる事情とは対照的です。
ただし、無条件に勧めるわけではありません。ここに地元工務店の知見が出ます。
西脇は川に囲まれた街で、過去に大きな水害も起きている。だから土地が広くても、エリアによっては平屋が組みにくい場所がある。
その場合は無理に平屋を建てず、主寝室だけ1階にするといった考え方でもいい、と提案するそうです。
ちなみに間取りの流行も時代を映していました。コロナ禍では玄関のすぐ近くで手を洗ってからリビングに入る動線や、在宅ワーク用に2畳ほどの小部屋や間仕切りを作る提案が増えたそうです。
なぜ社長がTikTokに出るのか
松岡さんはInstagramやTikTokに自ら出演し、頻繁に更新しています。理由は2つありました。
1つは性格。「やらないで後悔するより、やって後悔したいタイプ」。このラジオ出演も同じで、とりあえずやってみようと。
そして、もっと大きな理由がありました。
お客様が近道できたらいい。
背景にあるのは、業界の現実です。家は人生で最も高価な買い物で、生命保険をかけて35年ローンを払う。それなのに――
家を建てた後に後悔している人が、すごく多い。
だから松岡さんは、自分の発信がすべて正しいわけではないと断ったうえで、こう考えています。
会社の雰囲気、社長の考え方、家づくりへの思いを顔を出して伝える。画面の中で「好きか嫌いか」を判断してもらってもいい。それでふるいにかけてもらってもいい。
そうやって住宅会社選びの物差しを作ってもらうことで、後悔のない家づくりへの近道になれば――というのが発信の動機でした。
実際、ホームページやSNSを見た県外からの問い合わせも来ているそうです。
「建てた会社ではなく、建てた家を自慢してほしい」
最後の告知で語られた言葉に、この会社の姿勢が集約されていました。
家を建てた後でも気軽に相談できる「暮らしのパートナー」として永続的にサポートする。子育て世代からセカンドライフの方まで相談が多いなか、家事・育児・仕事で忙しい方向けにオンラインでの打ち合わせも行っている。
そして、こう続きます。
「私どもは小さな工務店ですが、建った住宅会社を自慢するのではなく、建てた家を自慢していただきたい」
掲げているコンセプトは「シンプルに、もっと自分らしく」です。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。数値・状況は収録時点のものです。
ご紹介
Profile
株式会社松岡住研
代表取締役
株式会社松岡住研の代表として、兵庫県西脇市を拠点に活動する大工職人。三代続く大工の家系に生まれ、幼少期から祖父や父の仕事を見て育ち、現在の技術力を培った。注文住宅やリフォーム、リノベーションなど多岐にわたる施工を手掛け、地域に密着した丁寧な仕事が評価され、LIXILメンバーズコンテストでは「グッドリビング賞」を受賞。その技術と信頼性は高く評価されている。
2012年4月 NHKさいたま局 キャスター・リポーター2014年4月 新潟テレビ21(テレビ朝日系列)2017年4月 テレビ山梨(TBS系列)2021年4月〜 フリーランスとして活動スタート