美容専門学校で国家試験の勉強に励み、将来は美容師になるつもりだった一人の女性が、今はブライダルフォトスタジオでヘアメイクとして働いている——。キャリアの選択肢として「美容師」を考えている方の中には、実は美容師免許を活かせる仕事が美容室以外にもあることを知らない方も多いのではないでしょうか。今回は、そんな進路の分岐点を経験したヘアメイクスタッフの物語を通じて、ブライダル業界という選択肢のリアルな魅力に迫ります。
目次
姉の付き添いで訪れた場所が、人生を変えた
このスタッフがブライダルフォトスタジオのヘアメイクという仕事を知ったのは、決して就職活動の中でのことではありませんでした。きっかけは、お姉さんの付き添いで訪れた振袖選びの日。着物に囲まれた店内で、ヘアメイクも着付けも同じ場所ですべて完結できるという環境を目の当たりにし、心を惹かれたといいます。
当時は美容専門学校に通い、美容師の国家試験に向けて授業を受けている最中でした。将来は美容室で働くことを思い描いていたはずが、姉に付き添って訪れたその日を境に、進路は大きく方向転換することになります。
「姉と一緒にここに来ていなかったら、フォトスタジオのヘアメイクという仕事に憧れを持つこともなかったと思います。多分、今頃は美容師になっていたと思います」
そう振り返る言葉には、偶然の出会いが人生の選択を変えた実感がにじんでいます。美容師という夢に向かって努力していた期間は決して無駄になったわけではなく、その土台があったからこそ、ヘアメイクという専門性を活かせる新しい道へ踏み出せたのでしょう。
人見知りだった自分が、会話の広げ方を教わった日々
意外にも、このスタッフは「元々めちゃめちゃ人見知り」だったと打ち明けます。初めましてのお客様と接する機会が多い仕事にもかかわらず、入社当初は「何を話していいのか分からない」「失礼なことを言ってしまわないか」という不安から、うまく言葉が出てこなかったといいます。
そんな状態を変えたのは、先輩から教わった会話の広げ方でした。髪の毛の話、普段のメイクの仕方、休みの日の過ごし方——一つの話題から次の話題へと自然につなげていく方法を、実践の中で少しずつ身につけていったといいます。
「一つの話から全部つなげていくみたいなことを教えていただいたので、それから結構話せるようになりました。この仕事について、すごく身になったことだと思います」
人見知りという自身の弱点を、仕事を通じて克服していったこのエピソードは、コミュニケーションに自信が持てず就職に不安を感じている方にとって、大きな励みになるのではないでしょうか。技術職であるヘアメイクという仕事も、実際にはお客様との対話の積み重ねの上に成り立っているということがよく分かります。
こだわり抜いたメイク道具と、現場ならではの工夫
化粧品は基本的に会社で用意されたものを使用しますが、それでも足りないと感じるものは自分で用意することもあるといいます。会社のメイク用品は化粧水、下地、ファンデーション、パウダーなど一式が揃っており、チークやアイシャドウも七五三からブライダルまで幅広いシーンに対応できる色味が用意されています。
ただし、撮影という特性上、必要になる道具もあります。たとえば七五三の撮影では、子どもらしい愛らしさを引き立てるために、目元に赤みのある色をのせることが多いといいます。一方、ブライダルの撮影では、写真映えを意識してハイライトやローライトを丁寧に入れることで、より立体感のある仕上がりを目指すそうです。撮影のシーンごとに使う道具や技術を微妙に変えているという細やかな工夫からは、単に「メイクを施す」だけでなく、「写真として美しく残る仕上がり」を常に意識しているプロフェッショナルとしての姿勢が伝わってきます。
屋外でのロケーション撮影の場合、景色を背景に写ることも多いため、普段のメイクよりも少し濃いめに仕上げることを意識しているといいます。こうした現場ならではの知見は、実際に数多くの撮影に携わってきたからこそ得られるものでしょう。
「苦しい着付け」の記憶が、仕事へのモチベーションに
このスタッフには、着物にまつわる少し特別な原体験があります。7歳の七五三のとき、着付けが苦しくて、着物を着ることに強い抵抗感を持ってしまった記憶があるといいます。そのため、大人になってから姉の振袖選びに付き添った際も、本当は自分が着物を着るつもりはなかったそうです。
ところが、その日担当してくれたスタッフ(現在は同じ職場の同僚だといいます)から「ちょっと着てみなよ」と声をかけられ、実際に着付けてもらったところ、まったく苦しくなかったといいます。
「着ける人によって、苦しさが変わるんだよ、という豆知識を教えてくださって」
この経験が、今の仕事への強いモチベーションにつながっています。
「私みたいに、苦しい思いをして着物を着たくないと思う人を、少しでも減らせたらいいなと思って。いろんな年代の着付けに携われるのがいいなと思って、ここを選びました」
自分自身が味わったつらい経験を、他の誰かが繰り返さないようにしたいという想い。この仕事を選んだ理由が、単なる憧れだけでなく、こうした実体験に裏打ちされている点は、読む人の心に深く残るエピソードではないでしょうか。
「シスター制度」が支えた、不安のない2年間
入社してから2年目を迎えた今、振り返って感じるのは「入って後悔はしなかった」という率直な気持ちだといいます。その背景には、この会社ならではの手厚い教育制度がありました。
「研修制度がすごくしっかりしているので、今2年目という立場でも、結構いろいろな施術に入らせていただいています」
特に印象的なのが「シスター制度」と呼ばれる仕組みです。新人スタッフには、1ヶ月限定でマンツーマンの先輩が付き、一緒に着付けやヘアメイクの現場に入りながら、実践を通じて技術を覚えていくことができます。仕事の技術面だけでなく、プライベートな悩みごとがあっても「何でも聞いてね」と声をかけてもらえる環境があったといいます。
「不安に思っていることを、分からないままにしない環境があったからこそ、今の自分がいるのかなと思います。いい会社だったなと思いました」
技術を教わるだけでなく、精神的な支えとなる存在が身近にいるという安心感は、初めての職場で不安を抱えがちな新人にとって、何よりも心強いものだったのでしょう。
まとめ:偶然の出会いが導いた、天職という選択
美容師を志していた一人の学生が、姉の付き添いという偶然の出会いをきっかけに、ブライダルヘアメイクという新しい道を見つけ、2年間を経て「入って後悔しなかった」と胸を張って言えるまでに成長する。このストーリーは、美容師資格を取得しようとしている方や、美容系の仕事に興味がありながらも進路に迷っている方にとって、一つの選択肢を示してくれるものではないでしょうか。
技術も大切ですが、それ以上に、人見知りな自分を変えてくれた対話の積み重ねや、不安を一人で抱えさせない「シスター制度」のような教育の仕組みこそが、この仕事を長く続けていくための土台になっているようです。美容の道に興味がある方は、美容室という選択肢だけでなく、ブライダルの現場という道も、ぜひ視野に入れてみてはいかがでしょうか。
ご紹介
Profile
モリノブライズ株式会社
ヘアメイクアーティスト
撮影前のヘアメイクや着付けを担当し、ロケーション撮影を前提とした映りやバランスを意識した仕上がりを大切にしている。
7歳の七五三で着物が苦しかった経験から、「着付けによって苦しさは変えられる」と感じ、苦しい着物体験を減らしたいという想いでこの仕事に向き合っている