埼玉県戸田市と東京都足立区で学童保育を運営する、特定非営利活動法人ENERGY「学童保育DOG!!」。
2019年に開設した戸田市本町クラブは8年目を迎え、2025年には足立区六町クラブを開設。現在は45名弱の子供たちが通い、両施設を合わせて20数名のスタッフが子供たちを迎えている。(2026年7月時点)
代表を務める小山英昭さんは、もともと保育や教育の畑にいた人ではない。現在も「H-DOG!!」の名で活動し、26年のキャリアを持つダンサーだ。2009年には「UK BBOY CHAMPIONSHIP」のLOCKING 2on2部門で世界2位、2016年には「JAPAN DANCE DELIGHT」で3位に入賞するなど、国内外の舞台で実績を重ねてきた。
「自分がとても子供だったので、人の子供の面倒を見るなんてできないな、と思っていました」
そう振り返る小山さんが、なぜ学童保育の代表になったのか。
そこには、ダンス人生を通じて見つけた3つの言葉——「好きと個性を全力支援」「リスペクト」「チャレンジ」——が深く関わっている。
目次
「できた」という小さな感覚から生まれた自信
——ダンスを始めたきっかけを教えてください。
小山: 中学校3年生の時、体育の選択授業で創作ダンスというものがあったんです。当時流行っていたダンス番組の映像を見て、友達4人で始めました。2人はめちゃくちゃ上手くて、1人はそれなり。僕は全然上手くなくて、振り付けを覚えられない方でした。
でも、少しだけできるようになった瞬間があって。それがすごく嬉しかったんです。その感動が、ダンスを続けるきっかけになりました。最初からセンスに恵まれていたわけではありません。ただ、自分はダンスが好きだった。だから続けることができたんだと思います。
——そこから世界大会まで進まれたんですよね。
小山: 大学では国際関係を学び、ブラジルに留学した経験もありました。卒業後は、世界のいろいろな地域に関わる仕事に興味があったので、秘境旅行を専門に扱う会社に就職しました。ただ、ちょうどその頃、同世代のダンサーが全国大会に出たり、優勝したりするようになっていたんです。自分のダンスも少しずつ動き始めていた時期で、「自分にもできるかもしれない」と思うようになりました。
会社は半年で辞めて、そこからダンスを中心にした生活になりました。国内外の大会に挑戦し、2009年には日本代表としてイギリスの世界大会に出場して、2位になることができました。
ダンスから、放課後の現場へ
——ダンサーから、なぜ学童保育の道に進まれたんですか。
小山: お世話になっている先輩がいて、僕が世界大会で2位になった時に、「学童に来て、ダンスも教えてくれないか」と声をかけてもらったのがきっかけです。最初は、ダンスを教えることがメインだと思っていました。でも、蓋を開けてみたら保育がメインで。そこから学童に関わるようになりました。
正直に言うと、最初は子供が苦手でした。自分自身がとても子供だったので、「人の子供の面倒を見るなんて、自分にはできないな」と思っていたんです。でも、実際に子供たちと関わっていくうちに、一人ひとりの魅力や可能性が見えるようになってきました。子供たちは、こちらの想像を超える変化を見せてくれる。そのことに気づいたのが、今につながる大きなきっかけになりました。

三つの言葉を、日々の保育に
——学童として大切にしていることは何でしょうか。
小山: うちの理念は、「好きと個性を全力支援」です。一人ひとりが好きなものや、その子ならではの個性を伸ばしていける場所にしたいと思っています。それから「リスペクト」。これはダンスの世界でも大切にされている言葉です。そして、もう一つが「チャレンジ」です。
「好きと個性を全力支援」「リスペクト」「チャレンジ」。この3つを、学童保育DOG!!ではとても大切にしています。
——イベントや日々の保育にも、その考え方が反映されているのでしょうか。
小山:そうですね。イベント自体は、他の学童でも行っているようなものと大きく変わらないかもしれません。ただ、何かを作って終わるのではなく、「自分らしさを出してみよう」「いつもとは少し違うことにチャレンジしてみよう」というテーマを入れるようにしています。
僕自身の経験を子供たちに押し付けるつもりはありません。ただ、自分が経験してきたことをシェアしたり、学童が大切にしている理念を一緒に体験したりすることで、「自分にもできるかもしれない」と思ってもらいたいんです。
自分が好きなものを、大切にしてほしいです。例えば、友達がみんなBを選んだとしても、「私はAをやってみたいから、Aを選ぶ」と言える子を育てたいと思っています。そういう子供たちが育つことが、これからの日本を支える人を育てる手助けになるのではないかと思っています。
ワクワクの隣にある怖さ
——「チャレンジ」について、子供たちにはどのように伝えていますか。
小山:新しいことにチャレンジしようとすると、「ワクワクする」という気持ちと同時に、「怖い」という気持ちも出てくると思うんです。どちらか一つではなく、両方が出てきます。
そういう時に、怖さをなくそうとするのではなく、「それでもやってみたい」という気持ちを大切にしてほしいと思っています。自分の個性も、自分にしかないものです。だから、自分の好きなものや、自分がやってみたいと思ったことを大事にしてほしいですね。
——ダンスの練習でも、そうしたことを伝えているのでしょうか。
小山:そうですね。ただ振り付けを覚えるだけではなくて、目的や、その先にある姿を意識してもらうようにしています。今度、1,200人のお客さんの前に立つ発表の場があるんですが、子供たちには「ステージの上で、自分がどんな姿を見せたいのかをイメージして練習しよう」と話しています。
もちろん、楽しむことも大切です。ただ、本番を楽しむためにも、練習や準備は必要です。
チャレンジやリスペクトを、言葉として覚えるだけではなく、普段の行動に表せるようになってほしいと思っています。

過ごし方にも、それぞれの個性を
——子供たちは、普段どのように過ごしていますか。
小山:戸田市本町クラブでは、対象となる学校までスタッフがお迎えに行きます。学童に帰ってきたあとは、基本的には最初に宿題に取り組みます。室内は、宿題をする場所と、宿題が終わった子が過ごす場所を分けています。宿題が終わった子は漫画を読んだり、レゴブロックで遊んだり、絵を描いたりしています。同じ空間にいても、全員が同じことをしなければならないわけではありません。それぞれが自分の好きなことを選びながら過ごしています。
——スタッフにも、いろいろな経歴を持つ方がいるそうですね。
小山:戸田市と足立区の両施設を合わせて、20数名のスタッフがいます。学生もいますし、主婦の方やフリーターの方、50代、60代の方にも活躍していただいています。僕自身もダンスをやっていますし、スタッフの中にもダンス経験者がいます。それ以外にも、習字を教えられる人など、いろいろなキャリアや個性を持った人がいます。子供たちの個性を大事にするのと同じように、スタッフ一人ひとりの個性も生かせる場所でありたいと思っています。
通っていた場所へ、今度は先生として
学童保育DOG!!には、かつて子供として通っていた卒業生が、大人になってスタッフとして戻ってきている例がある。上田拓海さんも、その一人だ。

——ここで働こうと思ったきっかけを教えてください。
上田:自分がダンスをしていたことと、子供の頃にこの学童で6年間過ごしていたことです。自分の経験を生かせる部分が多かったことが、一番大きなきっかけでした。
——子供の頃、小山代表はどのような先生でしたか。
上田:昔からアクティブでパワフルな人でした。鬼ごっこも本気でやるような人で、今も変わらず、そのパワフルさを子供たちに伝えている印象です。
——実際に働いてみて、どのようなやりがいを感じていますか。
上田:自分と子供たちの好きなものが一致していることには、すごくやりがいを感じます。共通点が多いからこそ、一緒に楽しめる部分も多いと思います。
それから、自分が子供だった頃、学童の先生たちがどうやって自分たちを楽しませてくれていたのか、その裏でどれだけ忙しく動いていたのかが、働いてみて初めて分かりました。表からは見えなかった先生たちの準備や大変さを、今は自分が経験しています。
何か目標を持って頑張っている人にとっては、すごく楽しめる職場だと思います。
チキンハートと歩いていく
——学童保育DOG!!のロゴには、それぞれ意味があるそうですね。
小山:「DOG!!」という言葉には、「仲間」という意味があります。自分自身、ダンサーとしてさまざまなことにチャレンジしてきましたが、新しいことに挑戦する時には、毎回必ず怖さや不安が出てきました。その一方で、「やってみたい」「ワクワクする」という気持ちも出てきます。怖さとワクワクのどちらを選ぶかとなった時に、僕はやりたい気持ちを大事にしてきました。でも、チャレンジするたびに、必ずチキン、つまり臆病な気持ちは出てくるんです。
——怖さを克服するのではなく、一緒に進んでいくということでしょうか。
小山:そうですね。今では、チキンはなくなるものではないと思っています。だから、「チキンハート」でいいということです。チキンと仲良くしながら、それでも自分がやりたいことや、好きなことをやっていこうよ、という意味を込めて、ロゴの中にチキンを入れました。これは、自分が子供たちに伝えたいことでもあります。

——太陽など、ほかのモチーフにはどのような意味がありますか。
小山:太陽には、子供たちを照らす場所でありたいという想いを込めています。それから、僕が大切にしている「Life is Beautiful」という言葉、「好きと個性を全力支援」という理念、法人名である「ENERGY」にもつながっています。子供たちにエネルギーを与えたい。そして、ここ自体がエネルギーにあふれた場所でありたい。そうした想いを込めて、2025年にこのロゴを作りました。
子供から子供へ、受け継がれるもの
現場を日々見ている、現場統括マネージャーの大野拓真さんにも話を聞いた。

——毎日子供たちと接する中で、印象的な変化はありますか。
大野:子供たちに囲まれて仕事をしているので、エネルギッシュというか、常に活気にあふれた環境だと感じています。1年生、2年生の頃は上級生についていって、上級生によく面倒を見てもらっていた子たちが、3年生、4年生になってくると、今度は自然と下の子の面倒を見るようになるんです。先生が「下の子の面倒を見てあげて」と逐一教えなくても、自分がしてもらったことを、次の子に返していく。そういう意思の引き継ぎは、日々よく感じます。
——子供たちの成長に驚かされることもありますか。
大野:子供たちは、こちらが1を言ったら、5とか10で返してくるんです。自分たちの予想以上に成長しますし、教えていないことまで自分たちでやり始めることもあります。日々、驚かされてばかりですね。
——大野さんも、もともとはダンサーだったんですよね。
大野:この仕事を始める前は、ダンスを生業にしていて、それを中心に生活していました。ダンスに携わってきた期間は長いんですが、学童保育の中で教えるダンスは、普段ダンススタジオで教える時とは気持ちが違います。もちろん、ダンスそのものも教えます。ただ、学童では、ダンスを通してその子が人間として成長できるように、ということを考えながら接しています。
——今後、どのような人と一緒に働きたいですか。
大野:学童保育DOG!!は、子供たちに本気で向き合う場所だと思っています。自分自身も未経験からこの法人に入り、この仕事を始めました。だから、最初から保育の経験があるかどうかだけではなく、子供たちに負けない情熱を持っている方と一緒に働きたいと思っています。

ダンスの先にあるもの
—— 一般的なダンススクールとは、どのような違いがありますか。
小山:ここはダンススクールではなく、あくまで学童保育です。もちろんダンスも教えますが、上手に踊れるようになることだけが目的ではありません。まずは、ダンスを好きになってもらうことを大切にしています。そのうえで、ダンスを通して自己表現をしたり、「できなかったことができるようになった」「少し上手になった」「楽しく取り組めた」と感じたりする経験を大切にしています。
——発表の機会も設けているんですよね。
小山:はい。発表の場をいくつか設けています。保護者の方に成長した子供たちの姿を見ていただく機会でもありますし、子供自身が「やってみたら、こんなこともできた」と気づく機会でもあります。子供たちには、本当にいろいろな可能性があります。実際にやってみたからこそ気づけることもあります。

理念を、体験に変えていく
——これから、どのような学童にしていきたいですか。
小山:「好きと個性を全力支援」「リスペクト」「チャレンジ」という理念や、大切にしていることは、これからも変わらないと思います。そのうえで、理念をもっと具体的なプログラムやイベント、普段の保育に落とし込んでいきたいです。例えば、子供たちがもっと大きなスケールで物事を考えられるような体験を増やしたいと思っています。一流の先生や講師を招き、本物に触れる機会もつくっていきたいです。一流のものに触れることで、感性が開く子もいると思います。
大好きなものを「大好き」と言える場所でありたい。そして、自分の個性を思い切り表現できる場所でありたい。
「チャレンジ」と「リスペクト」を、言葉として知っているだけではなく、自分の行動で表せる。そんな子供たちが育つ場所をつくっていきたいです。
編集後記
「好きと個性を全力支援する」という理念は、子供がやりたいことを何でも自由にさせる、という意味ではない。発表の舞台を楽しむために練習する。自分がどのような姿を見せたいのかを考える。友達と違うものを選ぶ時には、相手の選択も尊重する。そして、怖さがあっても、自分で決めた一歩を踏み出してみる。
学童保育DOG!!では、「好き」「リスペクト」「チャレンジ」が、日々の保育や子供たちへの言葉がけの中に組み込まれている。
小山さん自身、最初からダンスが得意だったわけではない。友達と同じように振り付けを覚えられなくても、わずかに「できた」と感じた時の嬉しさをきっかけに、ダンスを続けてきた。子供の個性も、最初から分かりやすい才能として表れるとは限らない。本人にしか分からない小さな興味や、「もう少しやってみたい」という気持ちが、やがてその子らしさにつながっていくことがある。大人にできるのは、その気持ちを急いで評価するのではなく、試してみるための時間や機会をつくることなのだろう。
その役割を担っているスタッフの背景もさまざまだ。学生や主婦、50代、60代のスタッフ、ダンスや習字の経験を持つ人が、それぞれの個性を生かしながら子供たちと接している。かつて学童で6年間を過ごした上田さんは、今度はスタッフとして子供たちと向き合っている。現場統括マネージャーの大野拓真さんも、保育未経験からこの仕事を始めた一人だ。
子供たちに何かを一方的に教えるだけではない。好きなことを一緒に楽しみ、時には本気で遊び、その子が自分で選ぶ瞬間をそばで支える。そこで求められているのは、完成された先生であることよりも、子供たちに負けない情熱を持ち、一人ひとりと本気で向き合おうとする姿勢なのかもしれない。
学童保育DOG!!の「好きと個性を全力支援する」という理念は、子供たちだけに向けられたものではない。働く大人にとっても、自分が積み重ねてきた経験や好きなことを、次の世代の成長に生かせる場所になっている。
「怖くない人」を育てるのではない。怖さを抱えながらも、自分の「好き」を選べる人を育てる。
学童保育DOG!!が全力で支援しているのは、子供たちの好きや個性だけではない。その気持ちを、自分自身で信じて選び取る力なのだ。
ご紹介
Profile
特定非営利法人ENERGY・学童保育DOG!!
代表
ダンサーネーム「H-DOG!!」として、ALL GOOD FUNK、3KICK SPLITSに所属する。
中学3年生でダンスを始め、2009年に「UK BBOY CHAMPIONSHIP」LOCKING 2on2部門で世界2位、2016年には「JAPAN DANCE DELIGHT」で3位に入賞。
ダンスを始めた当初は振り付けの飲み込みが遅く、最初に覚えられた約20秒の振り付けに感動したことが、活動を続ける原点となった。
ダンスや東南アジア・中南米・インドへの旅を通じて、感動することが人の感性や個性を育てると実感。
現在は「好きと個性を全力支援」を理念に、子供たちが自分の可能性を信じ、リスペクトを忘れずにチャレンジできる学童保育づくりに取り組んでいる。