歯科技工士は個人事業主が多く、横のつながりが希薄。そんな業界の課題を解決するのが、株式会社CoLabo代表の安元昭裕。技工士同士の連携を促進し、歯科医院との架け橋となることで業界全体を活性化。コスト削減、経営支援、福利厚生までサポートする独自の取り組みとは?20年以上の業界経験を活かした、革新的な技工士ネットワーク構築の秘訣を語る!
目次
歯科技工士同士を「つなぐ」という仕事
安元昭裕さんは、福岡県久留米市を拠点とする株式会社CoLaboの代表取締役です。
メインの仕事は歯医者さんと歯科技工士さんをつなぐこと。そして、歯科医院や歯科技工所の経営サポートも行っています。
まず、この業界の構造から。歯医者が型を取ったあと、被せ物などを作るのが歯科技工士です。歯科医院に技工士が勤めている場合もありますが、多くは外注になります。
そして技工士には専門分野があります。
被せ物が得意な技工士、入れ歯が得意な技工士。
歯医者はその専門に応じて発注します。ただ、安元さんが着目したのはその先でした。
技工士さん同士も横でつながっていたほうが、お互い仕事がスムーズに行く。
ライバル同士だから、直接は頼みづらい
なぜ間に人が要るのか。理由は、技工所の多くが個人事業主であることにありました。
ある意味ライバルなので、直接はなかなか頼みづらい。
けれど本音では「助けてもらったほうが助かる」という意見が結構ある。だから安元さんが間に立つ。
実際に助かっているケースが2つ挙げられました。
1つ目。被せ物を作っている技工士のところに、歯医者から入れ歯の相談が来る。対応できないのでそこで話が終わっていた。そこに安元さんが入って入れ歯ができる技工士を紹介すると、話を受けられるようになる。双方の仕事が増える。
2つ目。病気などで仕事はあるのに作業ができない状況のとき。一人でやっているとサポートがない。そこで同じものが作れる技工士に頼めるようにする。
「広げる」ではなく「広がる」
同社の理念は「つなぐ、広がる」です。この一字に、安元さんのこだわりがありました。
「つなぐ」は、自社が技工士と歯医者をつなぐハブになるという意味。
そして続く言葉を、あえて「広げる」ではなく「広がる」にしています。
「広げる」だと弊社がやっている感じになる。つなぐことで連携が自然に広がっていけばいい。
「一番したくなかった営業」から始まった20年
安元さんは歯科業界に20年以上いますが、入ったきっかけは偶然でした。
大学卒業時、この業界に行くつもりはなかった。父親の知り合いから紹介があり、つなぎのつもりで始めたのが本当のところだといいます。
しかも職種は一番したくなかった営業職。ところが、やっていくうちに成果が出始め、面白みも出てきた。
やがて歯科技工業界のことはほぼ分かるようになります。しかし、そこで壁にぶつかりました。
歯科技工以外の相談――経営の相談を受けることが多々出てきた。けれど自分に経営の知識がなく、なんとなく流して答えられなかった。
それが自分の中で引っかかっていたとき、知り合いから誘いがあり別の会社へ。2020年頃から金融的な知識の勉強を始めます。
ある程度知識がついた頃、たまたま技工所から「営業を助けてほしい」という相談が来る。家族とも相談して、そこから独立が始まりました。
独立して変わったのは「目線」
独立して良かったことを尋ねられた安元さんの答えは、関係性の変化でした。
サラリーマンとしての付き合いと、独立して事業主としての付き合いは違う。歯科医の先生も、技工士も、他の業者も、事業主として同じ目線で接してくださる。
その結果、今までと違うつながりが増え、情報量も全然変わったといいます。
一方、大変だったこともはっきりしていました。技工所の営業をしていたので歯医者とのつながりはある。しかし技工士を紹介する立場になると――
その技工士からどういうものが出来上がってくるのか、最初は信用してもらえない。
そこを、信頼してくれている先生から少しずつ出してもらって広げていく。ただし今度は別の問題が起きます。
歯医者からの仕事が増える反面、作る側の技工士の確保も常にしていかないといけない。
この両輪が、面白みでもあり大変なところでもある、と。
歯科技工士になる人は、年間800名台
この回でいちばん重要な数字が、後半で出てきました。
歯科医院は「コンビニより多い」と言われます。一方で、作る側はまったく違う状況にありました。
歯科技工士になる方がかなり減っていて、技工の学校も閉校が増えている。今、年間で新卒で技工士になる方は800名台しかいない。
さらに、その全員が続くわけではありません。
そこから技工所に勤めて、本当に技工士としてやっていく方は3分の1ぐらいになっているのが現状。
その結果、業界の力関係も変わってきているといいます。
今までは歯科医師が上で技工士が下、というような上下関係の常識が割とあった。今はむしろ、歯医者のほうが技工士に頼みたくても頼めないということが出てきている。
そしてこれは、業界内の問題では終わりません。
実際に、患者に影響が出てくる。
なぜ技工士が減っているのか
減少の理由として、安元さんは2つ挙げました。
1つは昔からのイメージです。
深夜まで残業。ほとんど夜中までやって、その割には対価としての収入がない。きついし、休みも少ない。
もう1つが、現在進行形の事情でした。
機械化が進んでいる分、設備投資に費用がかかる。
トータルで見て、他の業種のほうがいいのではないか――そう見えてしまうのではないか、と。
だからこそ安元さんは、横の連携で長時間労働を減らす、歯医者との交渉に入るといった業務改善の支援をしています。実際に改善できている技工士も最近は増えているそうです。
あわせて、技工所の福利厚生の整備も支援対象です。個人事業主が多いため、そこが手薄になりやすいからです。歯科医院に対しては、警備会社や複合機といったコスト削減の提案も行っています。
歯科技工士という仕事の魅力
では、この仕事の魅力はどこにあるのか。安元さんが最初に挙げたのは、代替のきかなさでした。
技工士が作るものに、二つとして同じものはない。同じ場所の同じ歯を作っても、人が違えば形は必ず違う。
そして精度の話。
口の中は、髪の毛1本入れるだけでも違和感があるくらいの領域。
そこで患者や歯医者に喜んでもらえるものを作って届けるのは歯科技工士の特権だ、と。
近年は虫歯治療だけでなく、審美的な要望も増えています。歯医者や患者と連携して、最後に患者が納得して笑顔になったときの感動は、他にはなかなかない。
将来性についても見立てが語られました。子どもや若い世代は予防が行き届いて虫歯が少ない一方、日本は高齢化が進んでいるため入れ歯などの需要は大きい。
そういう職人技が活かせるフィールドは、これからますます増える。
そして安元さんが強調したのが、この点でした。
日本では歯科技工士はきちんとした国家資格。誇れる資格だと思う。
「最新設備を入れられるようになった」技工所
やりがいを感じる瞬間として、安元さんは2つの声を挙げました。
歯科医院からは、相談窓口としての評価。大手の技工所は規模が大きい分技工士の顔が見えず相談しづらいという面がある。そこで先生の相談に合う技工士をつなぐと「診療がしやすくなった」という声をもらえる。
そして技工所から。
「このまま経営をどうしようか」と思っていたところが回復し、最新設備を入れられるくらいになった。
そうなったときが、やってよかったと感じる瞬間だといいます。
相談は歯科に限らない。犬の健康相談も来る
同社の強みは、安元さんの20年以上の業界経験と人脈です。ただ、そこにとどまりません。
一度技工業界を離れて金融の世界にいたためファイナンシャルプランナーの資格を持ち、さらに動物が好きでペット系の資格も持っています。
そのため、こんな相談も来るそうです。
ワンちゃんの健康相談。
安元さんの立ち位置は明快でした。業者というよりも、何でも相談できる窓口として使ってもらえれば、何らかの答えは出せる。
対応エリアについても補足がありました。歯科業界もデジタル化が進み、データでのやり取りや宅配ができるため――
北海道から沖縄まで対応できる。
恩返しとしての事業
今後の目標として語られたのは、業界への恩返しでした。
20数年、歯科業界にお世話になって育てていただいた。だから歯科医院や歯科技工士をサポートすることで恩返しをしたい。
そのうえで、歯科医師や技工士のご家族、さらには業界に関係ない方の役にも立てるような事業へ広げていきたい――というのが安元さんの展望でした。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。数値・業界動向は収録時点で語られた内容です。
ご紹介
Profile
株式会社CoLabo
代表
福岡県久留米市に位置する株式会社CoLaboの代表。高い技術力を持ちながらも、その力を十分に発揮できていない技工士の方々が多く存在する課題を解決するため、「つなぐ、ひろがる」という理念のもと、歯科医院と歯科技工所、また歯科技工所同士をつなぎ、広がりを生みだしていく。歯科業界にとどまらず、様々な分野とのコラボレーションを実現することで、最終的には歯科業界に貢献できる企業を目指す。
経歴:大学卒業後、「東京アナウンスセミナー」でスキルを磨く。2015年に「第24代椿の女王」に選ばれ、1年間伊豆大島の観光大使として活動。2020年にNHK和歌山放送局の契約アナウンサーとして入局。出演番組:「ギュギュっと和歌山(わかやま見つけ隊)」「ぐるっと関西おひるまえ」