インターネットで旅行を予約するようになった昨今。大手旅行会社から独立し、旅行会社の価値について考えながら、学びのある視察旅行を提供し続けている「SQUARE」。業界の大きな変化やコロナ渦を乗り越えて、体験型ツアーという武器で、九州各地の魅力を「旅」で多くの人に伝えている安達社長にお話を伺いました。
旅行業界30年の大ベテラン!大手旅行会社から独立して起業
―どのような経緯で旅行業界でのキャリアを築かれていったのですか。
安達さん:元々、特に旅行が好きということでもなく、この業界に入ったのはたまたまなんです。初めは大手旅行会社に、10年弱勤めていました。当時はベンチャー企業で、会社には若い社員しかいなかったこともあり、2年目から支店長をやったり、熊本拠点の立ち上げをやったりしていました。
手探りでやることも多かったのですが、対外的な交渉などの責任ある仕事を20代の時から経験したのは大きな財産になっていますね。誰かが教えてくれるというより、自分で考えることの方が多かったので、その経験が今に生きていると感じます。
―そのような中、ご自身で会社を立ち上げられたのはどのような経緯があったのですか。
安達さん:独立のきっかけは、自身の体を壊してしまったことです。仕事が大変になりすぎた結果、入院することになり、退職しました。当初はロンドンに留学しようかと思ったのですが、ちょうどその頃妻の妊娠がわかったため、ロンドン行きは辞めることにしました。じゃあ、どうしようと考えた時、仕事を探すのも面倒なので、自分で会社を立ち上げる事にしたんです。ちょうど勤めていた大手旅行会社が上場することになり、社内持ち株を売って、幾ばくかの資金調達ができたことも、独立した理由の一つですね。
2002年に今の会社を立ち上げて、旅行会社時代のつながりを大切に継続しながら、それまでやってきた旅行業の延長を20年以上やってきました。ただ、旅行業はこの30年大きく変わりました。特にWEBシステムで、人件費をかけなくても業務ができるようになったことは大きいですね。皆さんも旅行に行くとき、まずはWEBで検索をしますよね。特に、航空券と宿泊のみのツアーはどうしても料金勝負になってしまいます。そんな、『旅行会社の存在意義』がどんどん薄れていく中で、自分たちのような企業が価値を見出すには、旅行自体の内容に創意工夫をしていく必要があります。
コロナで考えた、これからの旅行業とは
―独立して20年以上旅行事業を行っていく中で、大きな出来事や転機はありましたか?
安達さん:アメリカの同時多発テロやSARSの流行などで影響がありましたが、やっぱりコロナが一番大きかったですね。ご存じの通り、旅行業界は大きな影響を受け、私たちも事業を見直しをせざる得なくなりました。
―現在の主な事業や取り組みついて教えていただけますか。
安達さん:現在は、視察旅行を主な事業とし、いわゆる『学べるツアー』を企画しています。一般的な旅行だと主に観光地にいき、その他の自治体にはあまり行かないですよね。私たちは自治体や地元企業と一緒に、農家さんに宿泊するアグリツーリズムや6次化産業を視察するツアーなどを作っています。最近は、廃棄食品などについて学ぶSDGsやサステナブルというキーワードで企画するツアーも多いですね。
例えば、長崎県で作られている陶磁器『波佐見焼』に関するツアーでは、工場見学や絵付け体験のほかに、捨てられる陶器の再利用方法としてシェアリングエコノミー事業を立ち上げた企業で話を伺う時間も設けました。今年は五島列島へのツアーを企画していて、洋上風力などの海洋エネルギーについてや廃棄される魚などについても学ぶ予定です。
私たちのツアーの中で大事にしていることの一つとして、体験するだけでなく発表の場を設けていることです。ただ参加して終わるのではなく、どのような学びがあったのか考えてアウトプットしてもらう場を作っています。現在は、感想をテキストで頂くようにしているのですが、今後は学生さんにツアーでの学びを英語で発表をしてもらい、海外の方にも取り組みを知ってもらえるといいなと考えています。
―素晴らしい取り組みですね!このようなツアーを作るきっかけはどのようなものでしたか?
コロナ後に、九州のとある自治体からお声がけ頂き参加した視察旅行がきっかけで、九州の農業や畜産業をもっと知ってもらえるようなツアーをやりたいと考えるようになりました。日本の農業や畜産業は、就業人口の減少や後継者不足などの問題を抱えています。そんな状況の中でも、少しでも若い人たちに夢や興味を持ってもらえるようなお手伝いをしたいという思いがあります。
―ツアーの参加者は、どのような方が多いのですか。
安達さん:主に、社会人や学生さんにご参加いただいています。事業をやっている経営者の方が現地視察のために参加されることもありますね。
例えば、フィリピンへの介護福祉関連施設の視察ツアーは、学生さんの他に、老人ホームの経営者の方も多数参加いただいています。介護の現場では、日本人の採用が難しく、外国人労働者を受け入れたいと考えている事業者さんが多くいらっしゃいます。ただ、言葉の問題など不安な面が多いため、それらを払拭するため、現地を知ってもらうツアーを10年以上前から開催しています。
実際のツアーでは、スラム街でのボランティア体験や、大学の看護学科でのヒアリングなどを組み込み、現場を肌で感じていただくような内容になっています。参加者からは、「いい経験ができました」というお声を多く頂くのですが、「一緒に参加された経営者の方とのお話がとてもためになった」という声も頂きますね。
体験型ツアーで、九州の魅力を発信!
―今後の事業ビジョンについて教えていただけますか。
安達さん:私たちが企画するツアーは、体験型で学びを提供することを価値として、他との差別化を図っています。引き続き、今の事業を広げていきながら、地元九州の地域創生に貢献していきたいですし、海外と双方向でやり取りをする企画もしていきたいです。
例えば、トスカーナへの農業ツアーをやりたいと思っていて、ぜひ九州の農家さんに参加して頂き、イタリアのアグリツーリズムについて学んでもらいたいですね。また、逆に海外のお客さまをご案内し、地域の魅力を知ってもらう体験型のツアーもやっていきたいですね。日本食は海外で人気があるので、海外の方にも九州の食についてもっと知ってもらえたらと思います。
直近では、上五島地域のインバウンド向けのWEBシステムの構築やPR素材の作成の取り組みを進めています。島の人たちはとっても暖かくていい人が多いんですが、ホームページがなく連絡が取りづらかったり、フェリーの到着時間の関係でなかなかツアーを組みにくかったりする問題があるんです。そこで、大学の学生さんたちの教材として、この島をどうやってPRするかを一緒に考えていこうと思っています。魚を採るところから体験してもらう、「究極のすしづくり」みたいな企画も面白いかなと思いますね。
編集後記
激変していく旅行業界とコロナ禍を乗り越えて、30年以上旅行業界に携わり、地元九州に根ざしたビジネスを続けて来たSQUARE社。その原動力は、九州の人と地域への想いであり、旅を通じて多くの人に魅力を知ってもらいたいという熱い気持ちが伝わるインタビューでした。体験型ツアーで地域のお困りごとを一緒に解決していきませんか。