仕入れの話に、値段はほとんど出てこなかった|材料の選び方を語った13本に共通していた5つの段階

仕入れの話に、値段はほとんど出てこなかった|材料の選び方を語った13本に共通していた5つの段階

材料の仕入れというと、まず値段の話を想像します。どこから安く買うか、どう値上げを飲み込むか、量をまとめて単価を下げられるか。経営の話としては、いちばん分かりやすい入口です。

Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、原料や素材をどこから・どう選んでいるかを具体的に語っている記事を13本選んで読み直しました。油揚げ、チーズケーキ、ペットフード、キムチ、和紅茶、レモンの加工品、ソフトクリーム、ガーリックオイル、生姜、立ち飲み屋、ウェディングドレス、お茶、プラスチック成形。食べものが多いものの、業種も規模もばらばらです。

読み終えて意外だったのは、安く買う工夫の話がほとんど出てこなかったことです。代わりに繰り返し出てきたのは、仕入れという工程を自分の側にどこまで引き寄せたか、という話でした。問屋から来たものを使う状態から、自分で基準を持ち、産地に出向き、仕様を指定して作ってもらい、最後は自分で作る側に回る。並べてみると、そこには段階がありました。

この記事では、その5つの段階を13本の記事から追いかけます。

段階1:「持ってきてもらったもの」を使う状態から出る

いちばん最初の変化は、来たものを使う状態から、自分で選ぶ状態へ移るところで起きていました。

揚げたての油揚げを手がける谷口屋・谷口誠さんの記事には、その前後が一行で入っています。

昔は問屋さんが持ってきたものでやってるといった状況でしたが、今は、いいものは全て使おうって思っています。

主語が「問屋さん」から「うち」に移っている。短い言葉ですが、仕入れの決定権がどちらにあるかが入れ替わった、という話です。

同じ移動を、もっと長い距離で語っているのが京都のチーズケーキ専門店ソラアオ・福本大二さんの記事です。

最初は、京都の名だたる企業様とコラボさせていただき、ソラアオという名前を広げていたのですが、やがて直接農家さんのとこに行って材料を仕入れるようになったんです。

そして、行くようになったからこそ分かったことが続きます。

京都市外にはまだまだ知られていない良い食材が豊富で、農家さんのところに行くうちに、お客さんに向けての発信について悩んでいるということを聞きました。

材料を取りに行ったら、材料以外の情報が入ってきた。この「現地に行くと仕入れ以外の話が増える」という構図は、このあと出てくる記事にも繰り返し現れます。

段階2:選ぶ基準を、落とす基準として言葉にする

次の段階は、良いものを選ぶ基準を、自分の言葉で固定するところです。興味深いのは、言葉になっている基準のほとんどが「選ぶ理由」ではなく「扱わない理由」として書かれていたことでした。

もっとも明快なのが、プレミアムペットフードの小売・GREEN DOGを20年運営する株式会社カラーズの記事です。商品を扱うかどうかを判断する自社基準が、6つ挙げられています。

合成酸化防止剤を使っていないこと/原材料そのものの安全性が確認できること/酸化していないこと――これは第三者機関を使って検査し、クリアしたものだけを品揃えする/倉庫で26度以下の温度管理をしていること/賞味期限をすべて開示していること/何かあった場合、安全性の確認が取れるまで絶対に再販しないこと

6つのうち4つが、仕入れたあとの保管・表示・停止の約束です。つまり基準の半分以上が、買う瞬間ではなく買ったあとの扱いについて決めてある。なかでも高山さんが「これもあまり(他社は)やらないかなと思う」と挙げたのは、5つ目の賞味期限の全面開示でした。同記事では、通販サイトにも「何年何月何日」と表示していることと、レシピはゼロから自社で入っていることも紹介されています。

基準が文章ではなく人の目に宿っている例もありました。川崎のキムチ「おつけもの慶」の記事です。この会社の原点は、近隣の飲食店やスーパーに野菜を届ける野菜卸業でした。渥美和幸社長は、キムチ作りを始めた当初をこう振り返っています。

ですが職人の城野の技術と、私の野菜の目利きで本当に美味しいキムチができているという自負はありました。

同記事は、その目利きの出どころをこう説明しています。

長年にわたって野菜を扱ってきた経験があるからこそ、キムチ作りに適した素材を見極めることができます。

前の仕事で身についた基準が、次の商売の仕入れ基準になっている。卸をやっていたから選べる、という順番です。

段階3:産地まで出向く人は、何を見に行っているのか

3つめの段階は、産地や生産者のところに自分で足を運ぶところです。ここで共通していたのは、見に行っている対象が「品物」ではなく「作り方」だったことでした。

和紅茶を扱うレインブラントティー・森本さんの記事は、セレクトの方法をこう述べています。

レインブラントティーでは、日本全国の和紅茶の産地を巡り、特に品質の高い和紅茶をセレクトし、お客様に分かりやすい、選びやすい形で紹介しています。

森本さんが和紅茶に向かったきっかけも、産地側の声でした。「全国地紅茶サミット」というイベントで生産者の生の声を聞く中で、品質は高いのに国内への浸透率が低く、地方の生産者が大半を占めるなかで首都圏の販売に特化した事業者がいない、という課題に気づいたと語られています。産地を巡るところから事業の形が決まった例です。

広島で食品の製造販売を手がけるカスターニャ・竹村崇さんの記事では、選ぶ範囲を地域で区切る考え方が語られます。

素材については、地元のいいものを使いたいという思いがあります。広島でいうとレモン、岡山でいうと桃といったように地域の良さをベースに考えて、重視していますね。

そして、なぜ広島のレモンなのかの説明が、作り方の話になっています。

広島産のレモンは、農薬をなるべく使わずに、農家さんが一個一個手作りしているエコ農法といったやり方で作っています。

皮まで丸ごと使えるのは育て方の結果である、という筋道です。仕入れ先の選定理由が、品質そのものではなく生産方法に置かれている点が特徴的でした。

沖縄県久米島のアメリカンカフェYUNAMI FACTORY・摺木社長の記事も、素材の出どころを一つずつ指定しています。

自家製でガーリックオイルを作っているんですが、それを国産のニンニクと沖縄県産のシークワーサーを素材として使用しています。

同記事では、海洋深層水の塩や香辛料を使って無添加で作っていることにも触れられています。そして、仕入れる量が地域に返る話がこう語られます。

車海老はうちの店だけで毎年1トンくらい使いますし、地域の業者さんに貢献できているのではないかと思います。

仕入れを自分の調達の話としてだけでなく、地域の売り先としても数えている語り方でした。

段階4:「作ってもらう」——仕様を指定して、そこだけの材料にする

4つめの段階になると、既にあるものを選ぶのではなく、自分の仕様で作ってもらう話に変わります。選択から発注へ移る段階です。

千葉県君津市でソフトクリームとジェラートを手がける風鈴堂の記事が、その典型でした。

南房総市に全国で初めて酪農を始めた峰岡牧場があるのですが、そこでとれるいい牛乳を使って、ソフトクリームの原料であるソフトクリームミックスを作ってもらっています。砂糖や生クリームの濃さを細かく指定し、日本全国ここでしか食べられない原料にしています。

同記事では、形を保てるぎりぎりのラインの添加物だけを加えて製造してもらっていることも説明されています。原料の時点で自社仕様になっているので、他店が同じものを仕入れることができない。仕入れが、そのまま差別化になっている形です。

食品以外でも同じ構造が見つかりました。1950年創業の横浜のブライダルサロンを扱ったモリノブライズの記事は、オリジナルドレスの作り方をこう整理しています。

現場で接客するスタッフが日々のお客様の要望を吸い上げ、将来のトレンドと組み合わせながらメーカーと共同でオリジナルドレスを開発するという体制は、単なる仕入れ販売のサロンとは一線を画します。

接客で集めた声が、仕入れる商品そのものの仕様に戻っていく。同記事によれば、上層階には世界的なブランドのドレスが並ぶ一方、着用実績としては下層階のオリジナルドレスのほうが圧倒的に多いとのことでした。選べる品揃えを持ったうえで、自分たちで作ったものが選ばれている、という結果です。

段階5:買い続けられる形にする、そして作る側へ回る

最後の段階は、一回の仕入れではなく、来年も買える状態をどう維持するかという話でした。ここでは値段が出てきますが、安く買う話ではなく、むしろ逆向きです。

高知で生姜の卸売を手がける株式会社あさのの記事で、浅野社長はこう語っています。

弊社は契約栽培に取り組んでいますが、出来るだけ高く買うことにより「生姜をまた作ろう」となる生産者が一人でも増え、それにより地域の荒廃地が減る。

そして、買い方を会社の役割として位置づけ直します。

どういう外部環境になっても、買い続けることが地域でリーダーシップを取るということであり、同時にお客様への安定供給に繋がると思っています。

高く買うことが安定供給につながる、という筋立てです。仕入れ単価を下げる話とは正反対の論理が、同じ「調達の安定」という目的から出てきています。

値段の決め方そのものを仕入れから切り離していたのが、京都・大阪・兵庫で立ち飲み屋を12店舗展開する株式会社人を大切にする会社・辻戸康宏さんの記事です。開業前、辻戸さんは東京・名古屋・大阪で約100店舗を回り、衝撃を受けた一軒には休みの日に働かせてもらったと語っています。

どこで買い付けをされているのかとか、大体の仕入れの値段も教えていただいて。

仕入れ先と仕入れ値を、現場に入ることで学んだという話です。そのうえで、値付けについてはこう述べています。

仕入れの価格から値段を僕は出していなくて。

同記事では、原価率が最初は60%超だったことと、お客様が感動する価格から値段をつけて最終的にいくら残るかを見ていったことが語られています。仕入れを学んだ人が、仕入れを値段の根拠にしていない。この記事がいちばん極端な形でした。

そして、最後まで引き寄せると、自分が作る側になります。神奈川県で「丹沢大山茶」を手がける茶来未・佐々木健さんの記事には、その移り方が書かれています。

最初の頃は、既存の農家さんと契約茶園という形で結ばせていただいてたのですが、そもそもの茶葉の生産で試してみたいことがたくさん出てきたんです。

自分のやり方を農家さんにやってもらうということはなかなか難しく、であれば自分でやろう、ということで取り組み始めました。

契約栽培でも足りなくなったから、生産そのものを自社に持った。段階4の「仕様を指定する」をさらに進めると、ここに着きます。

仕入れる側と作る側を行き来した例として、1936年創業のプラスチック成形メーカーを扱った天昇電気工業・藤本健介さんの記事も挙げておきます。藤本さんは三井石油化学工業でポリプロピレンとポリエチレンの営業を長く務めたのち、当時の顧客だった同社の社長に就きました。原料を売る側から、その原料を成形して製品にする側へ移った経歴です。同記事では、会社の歩みが藤本さんの言葉でこう要約されています。

多素材からプラスチックへの流れを作ってきたのが天昇電気

金属や木箱だったものを樹脂に置き換えてきた会社だ、という説明です。材料を選ぶというより、材料そのものを入れ替える仕事。仕入れの話を突き詰めると、こういう業種では「どの素材でできているか」を変える話になるのだと分かります。

13本を並べて見えた、仕入れの5段階

整理すると、13本の記事はこう並びます。

段階やっていること記事
1来たものを使う状態から、自分で選ぶ状態へ谷口屋/ソラアオ
2扱う・扱わないの基準を言葉か目に固定するカラーズ/おつけもの慶
3産地に出向き、作り方を見て選ぶレインブラントティー/カスターニャ/YUNAMI FACTORY
4仕様を指定して、自社向けに作ってもらう風鈴堂/モリノブライズ
5買い続けられる形にする/自分で作る側に回るあさの/立ち呑み 庶民/茶来未/天昇電気工業

この並びを上から下へ辿ると、共通して増えているものが一つあります。手間です。 産地を巡れば移動の時間がかかり、基準を6つ決めれば検査と温度管理の仕事が増え、仕様を指定すれば相手との打ち合わせが必要になり、自分で作れば生産そのものを抱えることになります。

そのうえで、13本に書かれていた見返りは、おおむね3種類に分かれていました。

  1. 他が同じものを持てなくなる。風鈴堂の自社仕様のソフトクリームミックス、モリノブライズのオリジナルドレス、茶来未の自社茶園。仕入れが差別化の中身になっているパターンです。
  2. 選ぶ速さと確かさが上がる。カラーズの6基準とおつけもの慶の目利きは、どちらも判断を毎回ゼロから考えないための仕組みでした。
  3. 来年も同じものが買える。あさのの契約栽培と「できるだけ高く買う」、YUNAMI FACTORYが年1トンの車海老を地域から買い続けること。仕入れを自分の調達であると同時に、相手の売上として見ている語り方です。

もう一つ気づいたことがあります。段階が進んでいる人ほど、仕入れを商品の説明の中で語っていました。谷口屋の「いいものは全て使おう」もカスターニャの「農家さんが一個一個手作りしている」も、値段の話ではなく、なぜそれを使うのかの説明です。仕入れを引き寄せた結果として、お客さんに話せる材料が増えている。安く買う工夫は顧客に語れませんが、どう選んだかは語れる、ということなのかもしれません。

材料の選び方というと、目利きや人脈といった属人的な話になりがちです。13本を読み直して見えたのは、もう少し構造的な話でした。仕入れをどこまで自分の側に引き寄せるかを決め、その分の手間を引き受ける。段階が上がるほど手間は増えますが、代わりに、他では持てないものと、来年も買える関係が残る。それがこのまとめの結論です。

同じ材料の話を別の角度から扱った記事として、捨てていたものを商品に変えた事例を集めた「使われなかったものが商品になった11本まとめ」、土地の気候や水が商品を決めている例を並べた「その土地でしか作れなかったもの」もあります。100年以上続く会社が材料とどう付き合ってきたかは「100年続いた会社の8本まとめ」で扱っています。あわせて読むと、仕入れの段階が商品の形をどこまで決めているかが見えてくるはずです。

この記事を書いた人

Shikisai編集部

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「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。

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