高知県は生姜の生産量が国内1位であることを知っていますか?そんな生姜の名産地である高知県で、長年生姜の卸売を行っている会社が「株式会社あさの」です。昭和25年の創業から一貫して生姜を扱い、業界シェアトップクラスの取扱高を誇っています。そんな株式会社あさの・浅野社長に、地域に対する想い、そこから生まれたオリジナルブランド商品の開発秘話を伺いました。
─まずは浅野社長が社長に就任されるまでのお話をお聞かせください。
浅野社長:5人兄弟の末っ子だったのですが、いろいろ想定外のことが起き、結局私が継ぐことになりました。継ぐつもりで入社したのは今から17年前になります。その時は大学で就職活動をしていましたね。大学のサークルで雑誌の制作をしていたため、広告を作る会社に入る予定でしたが、内定先をお断りして株式会社あさのに入りました。当時はそこまで今の仕事をやりたかった訳ではなかったので、モチベーションがあったわけではないです。ただ、家に帰って親の手伝いをするというのは親孝行にもなると思いましたし、決断しました。今思えば少し安易な気持ちではありましたね。
農家、社員、地域を率いていくリーダーとしての重責
─入社してから社長になるまで長い期間があったと思うのですが、仕事に対して、会社に対しての想いが変わったという瞬間はありますか?
浅野社長:いざ仕事をはじめてみると、当時はいわゆるブラック企業的なところもあり、一緒に入ってくれた何人かの同期はみんな辞めてしまいました。その時は寂しかったですね。なので、できるだけ社員さんが辞めなくて済むような会社にしたいという想いはとてもありました。
代を継いでからは、社員さんだけでなく農家さんの暮らしも支えなくてはいけないなと強く感じました。地域でのリーダーシップや責任感・使命感は、どちらかというと継いでから醸成されたような気がします。
─責任が重くなってから、苦労を感じることも増えたのではないでしょうか?
浅野社長:自分が一番若輩で経験も少ない中で社長になっているのですが、社員も200名近くいますので、方向性をしっかり示さないといけないと感じています。社員の中でのベクトルの不一致が起きないようにするのは、今でも苦労します。その中で経営理念をより浸透させるべく取り組みを行ってきました。
「共に創るしあわせ」を新たな経営理念に
─経営理念の刷新を行われたのですね。新しい経営理念にはどのような想いが込められているのでしょうか?
浅野社長:新経営理念は「共に創るしあわせ」です。「しあわせ」という言葉は絶対に残したかったんです。しあわせは与えるものではなく感じるものだと思います。農家さんが作ってくれたものを食卓に届けるという中で自己実現していくのが自分のしあわせにも繋がるという意味でつくりました。若い人たちにも納得してもらえるように、昔作った経営理念を一から刷新したという形です。社員さん同士の仲が良く、和気藹々としながら仕事をしている社風も好きなところです。なので、「共に創るしあわせ」を実践して、良い人生を歩んでもらえるような社員さんが一人でも増えていくような、そんな会社にしていきたいという想いも込めています。
─素晴らしい経営理念ですね。地元の農家さんとの関わりも重要視されているとお聞きしました。何か特別に取り組まれていることはありますか?
浅野社長:中山間地域の活性化に貢献できるような会社になっていきたいと考えています。弊社は契約栽培に取り組んでいますが、出来るだけ高く買うことにより「生姜をまた作ろう」となる生産者が一人でも増え、それにより地域の荒廃地が減る。それこそが高知県の特産品である生姜を扱うことで社業を伸ばしてきた「恩返し」だと考えています。農家さんと共存共栄していくのが我々の目指すビジネスモデルです。やはり、農家さんの生姜があってこそ、我々の仕事も成り立ちます。「生産者に尽くす」というのは弊社が守るべき行動規範であると同時に、強みとしている部分です。どういう外部環境になっても、買い続けることが地域でリーダーシップを取るということであり、同時にお客様への安定供給に繋がると思っています。そして、農家さんが苦労して育ててくれた生姜を出来るだけ廃棄することなく商品化することも大事にしています。廃棄ロスを減らすことで、農家さんにも還元ができるためです。原料が天候に左右されやすい農産物であることから、需要と供給のバランスを取ることが非常に難しいのですが、生姜の安定供給のためにも農家さんが作り続けてくれるということを常に意識していますね。
─長年農家さんと深い関係を続けてきたからこそ、自然と地域でのリーダーシップが生まれてきたということですね。そんな中新たな取り組みとして自社ブランドの立ち上げもされています。
浅野社長:はい、弊社の強みは「使い切る」という点でした。卸先に販売する際には形が悪くて製品化できないものも多いのですが、それを活用して何か新しいものを作れないかなと。また、高い衛生レベルを持っていますので、もっと消費者さんに近い、直売みたいなことができないかなと考えました。
生姜屋だからできる、生姜を前面に押し出した商品作り
─それで「クラフトジンジャー」シリーズが生まれたのですね。商品としての差別化はどのような点でしょうか。
浅野社長:母体が生姜屋ですので、まずは生姜をふんだんに使えるというのが強みですね。
クラフトジンジャーシロップの種類は3種類ありますが、うち1種類はすごく生姜を利かせています。辛さがガツンとくる大人なシロップです。生姜のしぼり汁のみを使っている商品などは良くありますが、弊社は長年の歴史の中で様々な生姜の特性を知っているので、しぼり汁とすりおろしとパウダー、搾ったあとのファイバーもいれた方が良いとか、計算された配合をして独特の味にするように拘っています。市販のしょうがシロップは、少し甘みが強いものが多いのですが、うちの商品はかなり生姜の味がします。そういった点で他社製品とは違っているかなと。
─たしかに、しょうがシロップって甘く感じるものが多いですよね。生姜を長年取り扱ってきた御社だからこそ、しょうが風味が強く効いたシロップを製造されているというのは非常に納得感があります。
浅野社長:そうですね。弊社は加工食品のメーカーではないので、作った商品を個人のお客さまにどう受け入れてもらうかは模索しながらやっています。それでも、やはり生姜メーカーとして、生姜の特性を活かすものは提案していきたいと思っています。
冷凍加工原料を販売している大手の食品メーカーさんから「もっとこういう味をきかせたいけどどうしたらいいのか?」などご相談頂いた際にも、こういう味・商品を作りたいならこういう原料使うと良い、などのノウハウが出てきます。生姜を長年扱ってきたノウハウがある弊社だからこそ作ることができる商品だと思っています。あとは、できるだけ廃棄をなくすという部分に繋がるのですが、表面に傷がついている生姜でも味は変わらないので、自社加工に使い食品ロスにも配慮しています。
そういう意味では、生姜に向き合ってきた我々だからこそ出せる味・価値が表現できているかなと思います。
ー今後のビジョンを教えてください。
浅野社長:今後は、より付加価値の高い商品開発を行い、インターネット販売等を通じて、社員さんや農家さんに利益還元できる販売をしていきたいと思っています。また、今まで培った生姜の加工・販売のノウハウを活かして、高知県以外の生姜産地の活性化や海外の生姜産地での加工を行っています。現在、茨城県やタイで生産工場を展開中です。お客様の要望に合わせて産地や加工場を変更し顧客要望を満たすことで、産地を活性化させることができますし、成長意欲の高い社員さんへのチャレンジの場を作る事も出来ると考えています。農産物のブランディングにも取り組み、その一環として、地域の大学と協同研究も進めていきます。生姜業界のパイオニアとして、研究開発型の企業として業界を支える存在になっていきたいです。
編集後記
今回、浅野社長のお話を伺うことができ、長い間、生姜屋として真摯に生姜と向き合ってきたからこそ生み出せる価値があるのだと知ることができました。生姜の味を知り尽くした会社だからこそ、クラフトジンジャーをはじめとして、さまざまな生姜製品作りにも挑戦しています。本当に美味しい生姜を味わいたい方は、ぜひあさののクラフトジンジャーを試してみてください。