地方創生の事例11件|共通していたのは「人を呼ぶこと」ではなかった

地方創生の事例11件|共通していたのは「人を呼ぶこと」ではなかった

地方創生の事例を探すと、だいたい自治体の施策が出てきます。補助制度、移住支援、観光キャンペーン。ではその地域で実際に商売をしている会社は、何をしているのか。

Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、企業や個人が自分の事業で地域に関わっている記事を11件選んで読み直しました。酒蔵の再生、廃校を使った犬の施設、空港のそばの農園、梅酒の販売会、金色のバス、テコンドー道場、ジェラート専門店、湘南の銘菓、会計事務所のイベント、卓球チーム、そして学習塾。業種も規模もまったく揃っていません。

読み終えて意外だったのは、「人を呼ぶ」「盛り上げる」を目的に置いている事例が少なかったことです。11件はむしろ、本業の設備や販路をそのまま地域に向けるか、地域の素材を商品にして外へ出すか、無かった場所をつくるか、のどれかをやっていました。この記事では、その4つの型を11件の記事から追いかけます。

型1:本業の設備と販路を、そのまま地域に向けた

いちばん多かったのは、新しいことを始めたのではなく、すでに持っているものの向き先を変えた事例でした。

コンタクトレンズ大手のメニコンが茨城県笠間市の廃校に作った犬の施設「&HAUS」は、その典型です。同社は1997年からイヌ用眼内レンズを手がけていて、動物の事業そのものは本業の隣にありました。場所の見つけ方が具体的です。

文科省が「みんなの廃校プロジェクト」というものを行っていて、そこに応募したのがきっかけです。いくつかの候補地があったのですが、場所の条件面なども総合的に検討し、笠間市に提案をさせていただいたら採択していただき、ここでやることに決まりました。

犬を預かる施設としての機能だけなら、校舎の内装は変えなくても成り立ちます。それでも黒板や張り紙を残したのは、別の理由からでした。

学校は地域住民の皆様にとって、思い入れのある場所です。

校庭はドッグラン、教室は犬が過ごす空間、そして地域交流ルーム。マルシェも開かれています。目標として語られていたのは「&HAUS があるから笠間市周辺で犬を飼って暮らそう」と思う人が出てくること。観光客を呼ぶ話ではなく、住む理由を一つ増やす話でした。

成田空港のそばで農業をするJAL Agriportの花桝健一さんの場合、向けたのは立地と販路です。2018年4月設立、本格開始は2020年2月。事業は4つの軸で、農業体験、地産地消レストラン、農産品の価値向上、そして環境。3つ目では自社のさつまいもを芋焼酎に加工し、機内のビジネスクラスで提供しています。農園は約3.5ヘクタールで、うち1ヘクタールがさつまいも、8,000平方メートルがいちご。大企業の事業としては小さい規模ですが、本人の評価はこうでした。

規模としては小さいですが、むしろ“小規模だからこそ見える課題”があります。

昨年度に初めて黒字化したこと、そして地方展開について「拡大は拙速に行いません」と語っていたことが、この事例の実感の濃さを示しています。

和歌山放送が始めた梅酒のプロジェクトは、販路と発信力の転用でした。昭和34年から続くラジオ局が、2023年に「わかやま、ええわいしょプロジェクト」として和歌山産梅酒の販売会を開きました。中村社長の言葉がそのまま構造になっています。

ラジオ放送会社から、ラジオ「も」放送している会社にならなくてはならないのではないかと考えました。

県内の梅酒メーカー23社が参加し、東京と大阪でポップアップショップを開催。試飲では「梅酒チャート」を用意して味わいを比較できるようにしました。小ロットで作る農家が多く、味の幅が広いことがそのまま売り場の強みになったという話です。

型2:地域の素材を商品にして、外に出した

2つ目は、その土地にあるものを商品の形にして、外の市場に持っていった事例です。型1との違いは、動かすのが販路ではなく原料のほうにあることでした。

神奈川県開成町の酒蔵・瀬戸酒造店の森社長は、元は建設コンサルタントで橋梁設計の技術者でした。地方創生・官民連携の新規事業を担当していたときに、開成町の元町長から再生の協力依頼を受け、社内ベンチャーのような形で自ら創業した経緯があります。地域に返ってきたものの説明が、お酒の話から離れていました。

地元の酒蔵が世界で評価されていることは、町民の誇りにつながると共に、水がすばらしいという証になります。

そして、その手応えを確かめる場面が具体的です。

授業で弊社に見学に来る小学生が、地元のお米でできたお酒が世界中で評価され飲まれていることを知ると、目の輝きが増すんです。

製造の副産物も循環に回っています。酒粕はわさび漬けやお酢にして販売するほか、地域の畜産業者に飼料として提供し、その堆肥を肥料に使う。廃棄物ゼロが成立していました。

山形・山寺のCOZAB GELATOの石田大さんは、地域と繋がるために商材を選んだ、という順番で語っていました。

埼玉出身の僕にとって山形はアウェーの土地で、生産者さんと繋がりがほとんどない、一方で、生産者さんと繋がる活動がしたかった。

山形に豊富な果物や農産物を活かしやすいという理由で、ジェラートが選ばれています。開店後に効いたのは宣伝ではなく口コミで、その背景として挙げられたのが「生産者とか同業者と積極的に繋がって、一人勝ちするのではなく『皆で地域を盛り上げよう!』と周りを巻き込んだ」ことでした。ただ、本人の採点は厳しめです。使える量は1種類の作物につきせいぜい100kgほどで、生産者の役に立っていると胸を張るには今の何倍も作る必要がある。だから海外進出を考える、という話の筋道になっていました。

湘南ゴールドの菓子を手がける谷和の谷口社長は、商品開発を自分でやっています。開発は未経験でしたが、それが枠の外に出る理由にもなりました。地域との関わりについての答えは、意外なほど控えめです。

現在は地元で取れた果物を使っているので、少しでも地域貢献になっていますよね。

そのうえで、販売量を増やして農家を継ぐ若者が増えてほしいと続けていました。地元の人が帰省のときに「湘南のお菓子だよ!」と持って帰るという話も出てきます。土産物は観光客のためのものだと思いがちですが、実際には地元の人の自慢の道具にもなっていました。

型3:無かった場所と、無くなりかけた移動をつくった

3つ目は、地域に存在しなかった場所や機能を、自分の手で足した事例です。

盛岡でウェブ制作とテコンドー道場を両方やるアトリエ望月堂の久保田清史さんは、実家に使われていない家がもう一軒あったことを使いました。練習ができる程度まで自分でDIYして道場にしています。なぜウェブの会社が道場を持つのか。理由の一つは収入の分散ですが、もう一つはこうでした。

「場所がないと、刺激もきっかけも経験もないので」

盛岡市内に他のテコンドー教室はなく、岩手県内では宮古と北上に別団体の教室があるのみだといいます。触れる機会そのものが存在しないなら、オリンピックを目指す人も現れない。だから場所を置く、という順番です。東京で約20年働いて戻ってきた久保田さんが挙げた指標も具体的でした。パスポートを持っている人が首都圏に比べて少なく、海外が「遠い世界の出来事」に感じられる。情報も同じで、流行を聞いても自分たちには関係ないと受け取られてしまう、と。

鹿児島県伊佐市の伊佐交通観光の古田勇樹さんが足しているのは、移動そのものです。貸切バス、タクシー、貸切バスツアーの3本柱で、旅行業の登録も持っています。

うちの地域は本当に高齢化が進んでいて、タクシーがないと移動ができないという方々がほとんど

特徴的なのが買い物代行です。利用者が事前に店へ電話で注文し、それをドライバーが取りに行って玄関先まで運ぶ。米や飲料のような重い荷物を車から降ろすところまでやるかどうかが、使う人にとっては大きな差になります。もう一つがドアサービスで、自動ドアで済ませるのではなく、ドライバーが一度降りて客を迎える。手間を省かない方向に設計されていました。

金色のバスの理由も土地に由来します。伊佐市は米どころであり、金の産出量が日本一の街でもある。そこに「一番=金」の意味を重ねたのだそうです。思わぬ効果もあって、大会のときにゲン担ぎとしてこのバスを指名する客がいるといいます。

沖縄のプロ卓球チーム・琉球アスティーダの早川周作さんは、置く場所を先に決めた事例でした。チームを引き受けた理由として語られたのが、この一行です。

強い地域に光を当てるのではなく、弱い地域に光を当てる

出発点は人口2万人ほどの中城村、家賃48,000円のオフィス。本人の説明によれば「オーシャンビュー松山」と書いてあるのに実際はオーシャンビューではなく、B1Fも半地下だったとのこと。そこから3年で日本一のクラブチームになり、2022-2023シーズンも優勝しています。

型4:「盛り上げる」を目的から外した2件

最後の2件は、地域活性化という言葉そのものを置き直していました。

岡山で学習塾と地域振興の2本柱を手がけるキミイロドリの日置幸さん・梅林龍生さんの答えは、はっきりしています。

私たちは、活性化にはあまり興味がありません。

代わりに置かれているのが「本来の活性化とは、今住んでいる皆さんが、いきいきと1日でも長く暮らせる場所を守ることだと思っています」という定義です。学校の統廃合で子どもが日常的にいなくなった地域に入り、行事やつながりをどう続けるかを一緒に考える。その方法が、増やす方向ではありませんでした。

僕らはよく「適切な縮小」という言い方をします。

秋の文化祭と運動会があるなら、一つにまとめてみる。やめてしまう前に、今あるものの中で最善を出す。この考え方の裏には、失敗から学んだ出来事がありました。タブレットで地域の人と医師をつなぐ取り組みをしたところ、多くの人が悲しんだ。月2回だけ医師が来る診療所を掃除し、漬物やおかずを作って待つ時間が、そこにはあったからです。

ボタン一つでつながれる便利さによって、地域の方の役割を奪ってしまった。

その取り組みはすぐにやめたそうです。イベントについての見方も同じ軸でした。しめ縄を作るなら藁を集めて干す、集まりのために道をきれいにする、溝掃除をすれば田んぼに入る水も増える。「イベントがあることで、地域の皆さんの日常そのものが動いているんです」と語られていました。当日の集客ではなく、その前後の日々が本体だという整理です。

静岡県沼津市のイワサキ経営・吉川正明さんは、会計事務所という本業から地域を定義していました。

地元の中小企業が元気になれば地域全体が活性化する

やっていることは、売上向上のヒントを得る場として毎年開く「売上アップ祭り」(約400〜500人)や、創立50周年の「イワサキ経営グループ感謝祭」(来場者3,000人以上)。地元の中学生が記念Tシャツを作って販売したという話もありました。市長からは「これは、いち民間企業がやるレベルじゃないですね」と言われたそうです。

動かしているのは社長一人ではありません。本業とは別に約16個の委員会制度があり、委員長は20代・30代の若手社員が中心。地域貢献委員会や生活お役立ち委員会もあります。目指しているのは「東京に負けない地域を作りたい」で、各小中学校での職業講話や夏休みの子ども向け税金教室も続いています。最近入社した社員が「お父さんやお母さんに勧められました」と言うようになった、という変化が報告されていました。

11件を並べて見えたこと

4つの型に分けてみると、順番が共通していました。地域のために何かを始めたのではなく、すでにやっている仕事の中に地域と接する面を見つけて、そこを広げている。メニコンの動物事業、JALの立地と販路、和歌山放送の発信力、瀬戸酒造店の水、COZAB GELATOの生産者との接点、谷和の原料、望月堂の空き家、伊佐交通観光の車両、琉球アスティーダの志、キミイロドリの塾、イワサキ経営の顧問先。どれも先に手元にあったものです。

もう一つは、成果の単位でした。来場者数や売上が語られる場面もありますが、各社が手応えとして挙げたのは、小学生の目の輝き、1年ぶりに会った犬が尻尾を振ったこと、「ありがとう」と言われて笑顔で帰る子ども、ゲン担ぎでバスを指名する客、親に勧められて入社した社員。どれも集計しにくい単位です。

今回読み直した11件

  1. コンタクトレンズ大手のメニコンが廃校を活用して犬の終生飼養施設HAUSを作った背景とビジョン(株式会社メニコン/茨城県笠間市)
  2. カーボンゼロ農業から地域創生へ|日本航空が見据える“循環する未来”(JAL Agriport株式会社/千葉県成田市)
  3. 全国トップの梅の産地和歌山で「和歌山放送」が取り組むあらたなプロジェクトとは?(和歌山放送/和歌山県)
  4. 世界中の日本酒コンクールを総ナメ!元建設コンサルタントの社長が率いる酒蔵「瀬戸酒造店」の挑戦(瀬戸酒造店/神奈川県開成町)
  5. 山形発のジェラート専門店。本場イタリア仕込みの石田流ジェラートとは?(COZAB GELATO/山形県)
  6. 新たな湘南名物・湘南ゴールドを全国へ!谷和の挑戦(谷和/神奈川県)
  7. ウェブ制作とテコンドー道場を両方やる理由。盛岡のアトリエ望月堂に聞くデジタルとアナログ(株式会社アトリエ望月堂/岩手県盛岡市)
  8. 伊佐交通観光とは?鹿児島・伊佐市の金色のバスと、買い物代行までするタクシー(伊佐交通観光株式会社/鹿児島県伊佐市)
  9. 沖縄から世界一を!プロ卓球チーム「琉球アスティーダ」早川周作が描く、地域密着スポーツチーム経営の新しい形とは?(琉球アスティーダ/沖縄県)
  10. 地域は「盛り上げる」ものではなく、続けていくもの。キミイロドリが考える教育と地域の関わり(株式会社キミイロドリ/岡山県)
  11. 静岡の未来を切り拓く!イワサキ経営代表・吉川 正明氏の地元愛が育む地域貢献の在り方(株式会社イワサキ経営/静岡県沼津市)

この記事の作り方について

本記事は、Shikisaiがこれまで公開したインタビュー記事・ラジオ記事のうち、企業や個人が自分の事業で地域に関わっていることを本人の言葉で語っている11件を選び、編集部が読み直してまとめたものです。自治体の施策そのものを扱った記事は、今回の対象から外しています。

引用はすべて各記事の本文からで、リンク先で全文を読めます。社名・人名・数値は各記事の表記に合わせました。事業内容・規模・価格は各記事の取材時点のものです。4つの型への分類と考察は編集部によるもので、取材先が自分の取り組みをそう位置づけているわけではありません。

この記事を書いた人

Shikisai編集部

Shikisai編集部

「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。

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