コンタクトレンズ大手のメニコンが廃校を活用して犬の終生飼養施設&HAUSを作った背景とビジョン


株式会社メニコン いきいき動物事業部&Dビジネス推進部 部長 今枝 稔晶 TOSHIAKI IMAEDA

コンタクトレンズ大手の株式会社メニコン。同社は動物医療にも力を入れており、1997年にイヌ用眼内レンズ「メニわんレンズ」を発売開始してから、2003年には株式会社メニワンという子会社を設立し、犬の白内障を治療する眼内レンズや犬猫用コンタクトレンズの製造・販売を手掛けてきました。そんな同社が2022年に茨城県笠間市の廃校を活用して&HAUSという動物のための施設を完成させました。今回はそんな同社の取り組みについて、株式会社メニコン・いきいき動物事業部&Dビジネス推進部・今枝部長にお話を伺いました。

ーまずは&HAUSがどういう施設で、どんなサービスかお聞かせいただけますか?

今枝部長 まずベースとなるサービスに「&D」というサービスがあります。「&D」は会員型のサービスで、2つのコースがあり、「&Dコース」は月額1,650円で提携施設の優待が受けられたり、獣医師の電話サポートが受けられたりと、さまざまな体験型サービスを受けることができるものです。

 そのサービスの大枠の中に&HAUSという施設が存在します。&HAUSは廃校を活用した施設で、校庭にはドッグラン、教室部分は犬たちが安心して過ごせるよう設計した空間を用意しています。2つ目のコース「&HAUSコース」(小型犬 月額8,690円)では、こちらの施設を活用して、飼い主に万が一のことがあったり、急な海外出張や入院で愛犬の世話ができなくなったときに、ワンちゃんを&HAUSでお預かりできる「犬のみらい保障」というサービスが含まれています。

「一頭でも不幸になる犬を減らしたい」メニコンという会社の企業文化

ーメニコンというとコンタクトレンズのイメージが強いのですが、そもそもどういった経緯で動物向けの事業を展開するようになったのでしょうか?

今枝部長 弊社では、1997年にイヌ用眼内レンズの販売を開始してから、ずっと動物の健康や福祉に関する事業を手がけてきているんです。弊社の会長の田中が愛犬家ということも大きく影響しています。そういった影響もあってか、犬好きの社員も多いんです。

ーもともと会社として犬を愛する文化の土壌があったわけですね。&HAUSの構想自体はどのように生まれてきたのでしょうか?

今枝部長 動物に関する事業をさらに展開していこうという会社の方針があった中で、サブスク型の犬関連の事業のアイデア出しを行っていました。その際に、色々な動物保護団体へのヒアリングをしていたのですが、みんな場所がなくて困っていると。そこで、複数の犬を預かりつつも、その犬たちが安全・安心で過ごせるような施設を作ろうという方向に話がまとまっていきました。

ー現在の笠間市の学校にはどのような経緯で決まったのでしょうか?

今枝部長 文科省が「みんなの廃校プロジェクト」というものを行っていて、そこに応募したのがきっかけです。いくつかの候補地があったのですが、場所の条件面なども総合的に検討し、笠間市に提案をさせていただいたら採択していただき、ここでやることに決まりました。地域活性化につながるような施策も練り込んでいたので、地域交流ルームなども設けています。マルシェを開催して、県外からの人が訪れてくれるようなイベントも開催しています。

飼い主の万が一に備えて犬を預かることのできる&HAUS

ー「&D」にはドッグランなどのサービスを利用できる「&Dコース」と、万が一の際の預かりサービスを利用できる「&HAUSコース」があると思いますが、すでに多くの方が利用されているのでしょうか?

今枝部長 そうですね「&D会員」の方は頻繁にドッグランなどご利用いただいています。コロナ禍ではオンラインでドッグヨガのセミナーを行ったりもしていました。また、「一時預かり」をご活用していただく会員の方も少しずつ増えてきました。

ー愛犬を預ける際、ワンちゃんがストレスなく過ごせるか心配に思う方も多いと思うのですが&HAUSに預けられたワンちゃんはどのような1日を過ごすのでしょうか?

今枝部長 実際に会員である飼い主様が手術で入院する関係で3週間の一時預かりをした事例でご紹介しますと、ワンちゃんはまず朝起きてドッグランで遊んでおトイレをして、ご飯を食べて、スタッフが常駐していますので、スタッフと遊んで、写真を撮って、またドッグランで遊んで写真を撮って、、というのを1日に何回も繰り返すんです。もう夜はヘトヘトでぐっすり寝てしまいます。初日は寂しくて鳴いてしまうことが多いですが、二日目三日目はもう慣れて楽しんでいるワンちゃんが多いですね。やはりこれだけ広大な敷地で走り回れることって今の犬の飼育環境ではあまりないですので、預けられたワンちゃんたちも楽しんでくれているのかなと思います。

ー犬にとっても過ごしやすい空間なのですね。寝床がしっかりと区切られて、それぞれの犬のプライベート空間があるのも良いですね。

今枝部長 なるべく犬にとってストレスにならないような空間作りを心がけています。先程の一時預かりをさせていただいたワンちゃんは、その後1年ぶりに再会する機会があったのですが、ワンちゃんも覚えてくれていたようで、ものすごく尻尾を振って喜んでくれたんですね。そのくらいワンちゃんにとっても、ストレスなく楽しい環境が実現できていると思っています。

廃校活用だからこそできる地域活性化

ー内装を見てみると、学校時代の黒板や張り紙などそのまま残っていますが、やはりそこは残していこうという思いがあったのでしょうか?

今枝部長 学校は地域住民の皆様にとって、思い入れのある場所です。動物の保護施設なので内装はそのままで問題なかったという理由もありますが、地域の皆様がフラッと訪れてコミュニケーションを取れる場として維持したいという思いはありましたね。

ー今後&HAUSをどのような場所にしていきたいですか?

今枝部長 まだまだ改装途上の状況ですので、設備の整備をしっかり行っていきたいです。室内の整備や、屋外ドッグランの芝の整備なども進めていきます。今後、制約があって難しいところもありますが、飼い主の方が過ごしやすくなるようなカフェ施設なども拡充してできればと考えています。こういった施設の改善を通して「&HAUSがあるから犬との生活がしやすい」とか「&HAUSがあるから笠間市周辺で犬を飼って暮らそう」と思う人が出てくると良いと思っています。

動物の権利が保障され、動物との共生がしやすい社会へ

ーペットとの関わり方は、昨今のサステナブル文脈でも注目されていますし、非常に価値の高い取り組みだと感じます。

今枝部長 まさにそうですね。ペットの殺処分問題などは、徐々に課題認識が広まっていると感じますが、まだまだ解決には至っていません。&HAUSはその解決の一助になることができると考えています。また、殺処分問題などの明確な課題へのアプローチも大事ですが、その先も見据えたより良い社会作りというのも考えていきたいと思っています。そもそももっと動物の権利が保障され、動物にとっても人間にとっても共生のしやすい社会作りにも貢献していきたいんです。そういった観点で、自治体とも連携をとっていければと考えています。

ー確かに「ペットとの共生」を掲げた街づくりなどが実現すると面白いですよね。「ペットフレンドリーな街」というブランディングなども面白そうです。

今枝部長 はい、いずれそういった提言などもできるようになっていくと良いと思っています。我々は「犬との共生」ということをずっとテーマに掲げてやってきています。例えば、日本の犬の飼育率って10%くらいなんです。もちろん好き嫌いはありますが「飼えるなら飼いたいけど、飼えない」という人も多いんですね。だからそこをクリアする一助に少しでもなっていきたいと思っています。動物を飼うことは、子供たちの情操教育にも大きな影響がありますし、動物を大事にできる社会は、人間も大事にできる、文化的に豊かな社会につながると思っています。そんな理想に向けて、一歩ずつ進めていきたいと思っています。

編集後記

コンタクトレンズ大手の株式会社メニコンが、犬のための施設を作った背景を取材させていただきました。「一頭でも不幸になる犬を減らしたい」という想いを持つ同社だからこそ、この先進的な取り組みを実現できたことが分かりました。実は、廃校を活用した動物保護施設は、実現までに周辺住民の理解を得るなどのハードルが高いため事例としては多くないのですが、同社のような大手企業が適切な運営を行うからこその安心感もあったと推察できます。&HAUSにも実際に訪れましたが、犬にとっては夢のような場所です。飼い主の方が、自分の身に何かあった時に安心して犬の生活を保障できるということは、今後の社会に求められる機能です。もし&HAUSにご興味を持たれた方は、公式サイトやLINE公式アカウントで問い合わせをしてみてください。

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株式会社メニコン いきいき動物事業部&Dビジネス推進部 部長

今枝 稔晶 TOSHIAKI IMAEDA