世界中の日本酒コンクールを総ナメ!元建設コンサルタントの社長が率いる酒蔵「瀬戸酒造店」の挑戦


株式会社瀬戸酒造店 代表取締役 森 隆信 MORI TAKANOBU

慶応元年1865年創業の瀬戸酒造。自家醸造を中断していましたが、元々は建設技術者だった森社長が、2018年に醸造を再開。製造したほぼ全ての銘柄がコンテストで賞を受賞する世界トップクラスの酒蔵として生まれ変わりました。今回は、そんな快進撃を続ける瀬戸酒造の森社長にお話を伺いました。

ー森さんはもともと大手コンサルティング会社で橋梁の設計などをされていた中、会社を説得して当時自家醸造を止めていた瀬戸酒造を子会社化して自ら代表取締役に就任されています。並大抵の行動力ではここまで来れなかったと思うのですが、どういった思いでここまでやって来られたのでしょうか?

森社長:幼少期はあまり裕福な家庭でなく、「総理大臣になって豊かな国にする」と恥ずかしげもなく言うような子供でした。そこから徐々に「会社を経営したい」という思いが芽生え、ずっとそれを温めていました。元々は建設コンサルタントかつ橋梁設計の技術者で、橋梁設計から地方創生、官民連携の新規事業を開発する責任者に異動となった時に、開成町の元町長から瀬戸酒造再生に関する協力のオファーを頂き、検討する過程で想いが強くなり、社内ベンチャーのような形で自ら創業することになりました。創業から1年目は特に、営業活動をしても取引に至らないことが多く、苦労しました。

非合理的・非常識だからこそ生まれた快挙

ー建設コンサルタントからの転身ということで、お酒に関しては未経験の中で始められたと思いますが、どういうふうに製造を始められたのでしょうか?

森社長:お酒造りに関して、設備などの導入に関しては協議しますが、杜氏に一任しています。「とにかく美味い酒を作ることだけを考えてくれ」と伝えています。

ーとにかく美味い酒、良いですね。製造にあたっては苦労や失敗の経験もしてきていると思いますが、それを乗り越えたエピソードなどありましたらお聞かせいただきたいです。

森社長:蔵付き酵母を用いて復活した伝統銘柄「酒田錦」、町のあじさいの花酵母で醸した「あしがり郷」、杜氏の技を駆使した「セトイチ」の三本柱でブランドを立ち上げています。「セトイチ」に関しては、杜氏の技が多彩過ぎて、純米吟醸だけで8種類もの酒ができると言われ、その中から選んでくださいと言われたんです。そもそも酒の事も分からず、8種類の中から選ぶことなんて出来なかったので全部作る事に決めたのですが、この種類の多さは酒蔵としては非常に珍しい事なんです。

そしてそれぞれに味わいの特徴があるので、杜氏に「いつどんな時に飲みたい酒か」など聞き、その答えに即して、「自分一人で、もしくは親友と、つまみもなしに飲み続けて酔っ払いたい酒です」と言うのであれば”いざ”という名前をつけたり、「かまぼこでもつまみながらしっぽり飲みたい酒です」と言われたら”月が綺麗ですね”という名前にしたり、その日の気分やシーンに合わせて選ぶ日本酒というブランドで出していきました。

そして創業1年目の海外のコンクールで受賞した際に、どうしても受賞した酒だけが飛び抜けているとも思えず、お金もかかるが全銘柄を出品したところ、「酒田錦」「あしがり郷」「セトイチ」のほとんどの銘柄が何かしらの賞を受賞するという現象が起きまして、酒蔵としての実力が評価される事となりました。また、純米吟醸酒というカテゴリーで多彩な銘柄をもっていることから、世界中のあらゆる料理に寄り添うことができる、全方位型でマリアージュが完成することがわかり、それが我々の作る酒の一番面白いところだと思っています。もちろん受賞することは酒単体で評価されている証ではあり、非常に嬉しい事ですが、我々の酒の本当の魅力を発揮する時は、美味い料理と合わせた時だなと実感しています。

ただ美味い酒を作るために作った蔵

ー名前の由来がとても素敵ですね。先ほど「コンテストに出品したところほぼ全銘柄が受賞した」とさらっと仰られていましたが、簡単にできる事ではないと思います。なぜ受賞する事ができたと思いますか?

森社長:そもそも「美味い酒を作ってくれ」というオーダー自体、珍しいみたいなんです。賞をとれる酒を作って欲しい、という要望やコスト面について要望があるのは普通みたいなのですが、ただ私は全くの素人でしたので、まずうまい酒を作るのに必要な条件を聞き、設備、タンクのサイズなどについて合理性をあまり考えずに決めたことが要因の1つではないでしょうか。

ーある意味先入観なく、0から始めた事が数多くの受賞に繋がったんですね。

森社長:ただ美味いものを作るために作った蔵でした。正直、コスト面での合理性は全くないですね(笑)

ーお客様からのお声など頂いたりはしますか?

森社長:そうですね、幅広く喜んではいただけますが、どちらかというと日本酒は飲んだ事がなかったり、嫌いだった方が好んでくれる傾向が強いです。「今まで日本酒を飲んだら喉の奥にストレスを感じていたが、それを感じずにスイスイ飲んでしまう。」と女性の方が中心に仰られます。一方でコアな日本酒ユーザー、ご年配の方からは「ラベルがチャラいのでチャラい酒だと思っていたが、ちゃんとしているね!」とお声を頂いたり、玄人からは良い酒だと評価をされ、素人からは飲みやすいと評価され、飲んでいただければ理解していただける酒だと思っています。

ー「ただ美味いものを作るために作った蔵」だからこそ、飲めば理解していただける完璧な仕上がりになったんですね。日々成長され続けているかと思いますが、仕事をしていく上でモチベーションや、原動力はどんな事になりますか?

森社長:面白い仕事をすること、そのために仕事を面白くすることにエネルギーを費やすことです。 純粋に美味しいお酒、楽しいお酒をつくることが、合理性や市場性の原理が常態化している世界では、”酔狂”に見えるんだと感じることが多いです。ですが我々は”酔狂”上等、非合理的だろうが美味しいお酒をお客様に飲んでもらいたい、日本酒を楽しんでもらいたい、そのために面白い仕事をしよう、と常々思っています。

銘酒が作れる=地域の水がすばらしいことの証

ー面白い仕事をする…とても素敵な言葉だと思います。地域との関連についてもお話を伺いたいのですが、開成町に対して想い、貢献してきたことなどございますでしょうか。

森社長:開成町は典型的なベッドタウンみたいなところがあり、主だった産業や地域の名物がないんです。便利で住みやすい町ですが、シビックプライドみたいなものはあまりないのが地域の特徴です。ただ”紫陽花祭り”と言うお祭りは皆んなで盛り上がりますね。紫陽花を大事にしている地域です。今後、子供達世代がこの町で住み続けようと思う源泉になるものを作りたいと思っています。地元の酒蔵が世界で評価されていることは、町民の誇りにつながると共に、水がすばらしいという証になります。授業で弊社に見学に来る小学生が、地元のお米でできたお酒が世界中で評価され飲まれていることを知ると、目の輝きが増すんです。弊社のお酒が地域のすばらしい水をブランド化することで、農産物や飲食の産業が活性化され、地元で生計を立てようと考える子供が今後増えていくと嬉しいです。

ー自分の仕事で子供達の目の輝きが増すというのはとても嬉しいことですね。水がすばらしいということですが、環境に対しても何か取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

森社長:製造過程でできる副産物の酒粕は、そのまま販売するだけでなく、わさび漬けやお酢にして販売しています。また、地域の畜産業者(牛、豚、鶏)に飼料として提供しており、その堆肥を肥料に使うなど、循環による廃棄物ゼロを実現しています。

ー酒粕にも一工夫されているところがまた更に、こだわりを持っているのを感じられました。では最後に今後のビジョンをお聞かせください。

森社長:日本酒が、世界のあらゆる料理に寄り添えることを実践し、伝えていきたいです。そのゴールとして日本料理における日本酒とのマリアージュの世界が広がることを目指し、日本の食文化のギアをもう一段、上げたいと思っています。

ー今後幅広いジャンルの飲食店で、瀬戸酒造店さんのお名前を伺う機会がありそうで私も楽しみです。本日は有難うございました。今後更なるご発展を祈念しております。

編集後記

お話を伺って、日本酒に関しては素人の状態から酒蔵経営を始めた森社長だからこそ、既存の枠に囚われることなく、本当に美味しい日本酒作りを進めてきたことがわかりました。お酒を飲みたいシーンを想像してから日本酒を作っていったという話も非常に面白く、一度は飲んでみたくなりますよね。瀬戸酒造のお酒はオンラインショップでも購入できますので、ぜひ一度試してみてください。

Profile

株式会社瀬戸酒造店 代表取締役

森 隆信 MORI TAKANOBU