社名は、仕事の中身を説明していなかった|名前の由来を語った12社のまとめ
会社の名前は、何でできているのでしょうか。
Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、本人が社名・屋号・ブランド名の由来を語っている記事を12本選んで並べてみました。タオルメーカー、養鶏専門のコンサルタント、美容サロン、心理カウンセリング、舞台と映像の会社、会計事務所、人材と婚活の会社、電気設備の保守会社、ヘッドスパ専門店、映像広告の制作会社、腕時計ブランド、そして文房具店。業種はまるでそろっていません。
それでも、並べた瞬間にはっきりしたことが一つありました。
12社とも、名前の固有な部分では仕事の中身を説明していないのです。東進、KT、SK re:birth、SILIM、キルト、Quattro、Aer、ブリッツ、AWARE、Doppo、MATOW、おかげさま——この12個の語から業種を当てられる人は、まずいないはずです。
では仕事の中身は誰が説明しているのか。固有名の後ろにくっついた普通名詞のほうでした。「コンサルタント」「ソリューション」「文房具店」「Management&Accounting」。12社のうち業種が読み取れるのはこの4社だけで、しかもそれは全部、名前の後半部分が担っています。
つまり社名は、看板の前半でどうなりたいかを言い、後半で何屋かを言う、という二層構造になっていました。この記事では、その前半部分——願いの側がどこから来ているのかを5つの型に整理します。
目次
型① 方角を選ぶ——「東に登る。東京に登る」
いちばん分かりやすかったのが、大阪・泉州(泉佐野市)を拠点とするタオルメーカー、株式会社東進の代表取締役会長・大和谷進さんの話です。
同社の名前は、創業と同時には決まっていません。独立当初は別の屋号で、法人化するにあたって社名を考えることになったといいます。そこで大和谷さんが依頼したのは、のちに東進のはんこを作ることになる知人でした。返ってきたのは2案。「東進」と「泉進」です。
泉佐野が拠点ですから、「泉進」には土地の名前が入っています。地元のメーカーとしては自然な案です。それでも大和谷さんが選んだのは「東進」でした。理由はこの一点だったと語られています。
東に登る。東京に登る。
拠点の名前ではなく、行き先の名前を採った。20歳から10年の丁稚奉公を経て一代で会社を築いた人が、最初に紙に書いた言葉が方角だったというのは、この12本の中でもとりわけ手触りのある話でした。
型② 自分の名前は、そのまま使われない
自分に由来する名前を付けた会社も複数ありました。ただし共通しているのは、誰も自分の名前をそのままは使っていないことです。
鹿児島県を拠点に養鶏専門の経営コンサルタントを営むKTコンサルタントの木村拓哉さん。社名の「KT」は、ご本人のイニシャルです。あの有名な方と漢字まで同じで「千回ぐらいは突っ込まれている」という木村さんは、屋号についてこう語っています。
さすがに「木村拓哉コンサルタント」は憚られる
自分の名前を屋号にする経営者は珍しくありませんが、木村さんはそのまま置かずに頭文字まで削ったわけです。
削るのではなく、ずらした人もいます。イベント企画・映像制作・公共ホールの運営を手がける株式会社キルト代表取締役の矢代順さんです。
“QUILT(キルト)”には“布”という意味があります。硬いものを柔らかく包む、そんな会社でありたいという想いを込めました。
ところが、そのまま QUILT にはしませんでした。布の会社だと思われるのは避けたかったから、そして「K」という文字が好きだったから、少しひねって Kilt にしたのだそうです。意味を込めた綴りを、意味が伝わりすぎないようにずらす。名前の付け方としてはかなり珍しい判断です。
意味より語感を優先した例もあります。株式会社Quattro Management&Accounting・上田巧さんの「Quattro」は、経営資源のヒト・モノ・カネに「情報」を加えた4つから来ています。ただし、その先が率直でした。
英語の「four」だと面白くないなと思って、語感で「Quattro」にしてしまいました(笑)
一方で同社は「Management&Accounting」を社名に入れています。管理会計が自分の一番得意で好きなところだから、という理由です。前半は語感、後半は仕事の説明。先ほどの二層構造がそのまま表れている名前でした。
型③ 由来が、自分の外から来ている
12本を通して意外だったのが、名前の出どころが自分以外のところにある会社の多さです。
名古屋市南区の美容サロンSK re:birthの福島政治さんの店名には、二つの由来があります。前半の「SK」は、福島さんがまだ社員だった頃のオーナーのイニシャル。数年後に福島さんが独立して店を引き継いだとき、店名は変えませんでした。イニシャルをそのまま残してほしいという気持ちがあったのだといいます。自分の店なのに、名前の半分は前の人のものなのです。
映像広告のなかでもインフォマーシャルに特化する株式会社Doppo代表取締役・倉原慎二さんは、業界の外の言葉を持ってきました。
「独歩高」という株式用語があります。ある銘柄だけが飛び抜けて高値をつける状態を指す言葉です。
その「独歩高」の存在になりたい、と願って Doppo と名付けたという話です。映像の会社が株式市場の用語を看板にする。これも、自分の内側から出てきた言葉ではありません。
腕時計の輸入商社である株式会社ビヨンクールの自社ブランドMATOW(マトウ)にいたっては、名前が決まる順番そのものが逆でした。ブランド責任者の大石さんとPR責任者の宮崎さんの説明によれば、順序はこうです。
デザインが先。次にコンセプト。そして名前。
2021年、コロナ禍の真っ最中にローンチしたこのブランドは、まずベルトを簡単に変えられる時計という商品があり、そこからコンセプトを決めていきました。当初の名前の案は「四季チェンジャブル」。しかし議論のなかで、「四季」のままだと日本の感性に寄り添いすぎているという話になります。そこで手がかりになったのが、対象とする相手でした。女性につけてほしいという前提で作られたブランドであり、「何かを身にまとう」という言い方は、どちらかといえば女性的な響きを持つ——そこから MATOW にたどり着いたといいます。
この2人はもともと販売員として現場に立っていた人たちです。名前が最後に決まったのは、商品と売り場が先にあったからでした。
型④ 外国語の一語に、願いを預ける
前半に外国語をそのまま置いた会社も目立ちました。いずれも、意味を説明すると一文で終わる短い語です。
エグゼクティブ層の転職支援と婚活サポートを手がける株式会社Aer代表取締役CEO・小針明子さんの「Aer」は、ラテン語で「空気」「空」を意味する語で、英語の air と同じ語です。込められているのは、みんな力を入れて働いているけれど、もっと空気を吸うように、空の下にいるように、自分らしく息を抜いて自由にしてほしい、という願いでした。
同社が運営する結婚相談所の名前も面白い付け方をしています。カタカナで「アエル日」。誰かと「会える」だけでなく、その「会える日」に向けていろいろな活動をしましょうという二重の意味が込められている、という説明でした。社名の音を日本語に開いて、そこにもう一つ意味を足した形です。
茨城県ひたちなか市で高圧・特別高圧の電気設備保守を手がける株式会社ブリッツソリューション代表・松原博さんの「ブリッツ(Blitz)」は、ドイツ語で閃光、稲光を指します。松原さんは「あまり良いイメージではないかもしれない」と断ったうえで、こう続けています。
一瞬光るその光は、すごく眩しく感じる。やりたいことが見つからなくても、「ここが面白い」というものを瞬間瞬間で見つけて、光り輝くような存在になってもらえればいい。
社名の由来を語りながら、その対象が自社ではなくそこで働く人になっているのが、この会話の特徴でした。
銀座で漢方アロマヘッドスパの専門店を営む株式会社アルポフ代表・村田友和さんの店名「AWARE」は、英語の「気づき」です。「気づきから始まる美しさ」という言葉とセットで語られていました。
型⑤ 説明するのは、名前の一部分だけ
もう一つ、この12本を並べてはじめて見えたことがあります。由来として語られているのが、名前の全部ではないケースがあるという点です。
兵庫県西宮市を拠点に心理カウンセリングを行うSILIM代表・横田純一さんは、名前の意味をこう説明しています。
最後の“M”は、英語の“Mirror(鏡)”から取りました。カウンセリングは、鏡を通して自分の姿を見つめるような行為。その鏡をそっと支える存在でありたいと思い、この名前をつけました。
語られているのは最後の一文字だけです。SILI の部分については触れられていません。5文字のうち1文字に意味を置き、残りは語の響きとして持っておく。先ほどの Kilt が「意味が伝わりすぎないようにずらした」のと、向きは違いますが発想は似ています。
反対に、日常のあいさつをそのまま看板にした人もいます。山形県上山市の「おかげさま文房具店」(通称・おかぶん)の店主、土屋さんです。
「おかげさま」というこの言葉が大好きで、周囲への感謝を忘れずにやっていくという意味で名付けました。
ちなみに同店のロゴマークは、友人のデザイナーが作ったもので、上から見るとえんぴつの形をしています。名前は感謝の言葉で、ロゴは商品の形。役割がきれいに分かれていました。
名前が先にあって、現実があとから寄ってきた話
最後に、12本のなかで編集部がいちばん印象に残った現象を一つ。名前を付けたあとで、名前のほうに現実が寄っていくことがある、という話です。
先ほどの SK re:birth の後半「re:birth」は、生まれ変わる・再生という意味でした。髪は年を追うごとにどうしても弱っていくので、それをキープし、なるべく強く再生するような施術をしたい。そして人としても何か生まれ変わったような気分になってほしい——そういう思いが込められた言葉です。
ところが開業後、現実は思ったのとは違う形で名前に追いつきました。福島さんは当初、消耗しない働き方をしたくてあえて価格を少し上げてスタートしたのですが、ありがたいことに非常に忙しくなります。そのときのことを、こう笑って振り返っていました。
吐きそうになるくらい忙しくて、ちょうどリバースだからいいじゃん、と
名前に込めた意味とはまったく別の意味が、あとから重なってしまったわけです。
同じことが、もっと静かな形で AWARE にも起きていました。村田さんがヘッドスパを通じて担いたい役割として語ったのは、現代人はどうしてもオーバーワークになりがちなので、自分をいたわるということにもう少し目を向けられる世の中になっていくといい、という内容でした。これは店名の意味とぴったり重なっています。名前を決めるときに言語化した願いが、何年も経ってから同じ言葉で語り直される。名前は、経営者にとって一番短い経営理念なのかもしれません。
編集部の整理——名前は「どうなりたいか」でできている
12本を並べて見えた型をまとめます。
- 方角・行き先を採る(東進=東に登る、東京に登る)
- 自分の名前を削る・ずらす(KT=イニシャル、Kilt=QUILT の綴り替え、Quattro=four の語感替え)
- 由来が自分の外にある(SK=前オーナーのイニシャル、Doppo=株式用語、MATOW=売り場の前提から)
- 外国語の一語に願いを預ける(Aer=空気・空、Blitz=閃光、AWARE=気づき)
- 一部分にだけ意味を置く/日常語をそのまま使う(SILIM=最後の M、おかげさま=あいさつの言葉)
そして全体を貫いていたのが、冒頭に書いた二層構造でした。前半で「どうなりたいか」を言い、後半で「何屋か」を言う。仕事の中身を説明する役目は、固有名ではなく普通名詞に預けられています。
もう一つ、これから名前を付ける人に向けて実務的な発見を挙げるなら、名前は創業と同時でなくていいということです。東進は独立してしばらく別の屋号で営業したあと、法人化のタイミングで付け直しました。MATOW は商品とコンセプトが固まったあとで名前を決めました。先に名前を決めきらなければ動けない、ということはないのです。
Shikisaiでは、地域の企業で働く人・経営する人の言葉をそのままの形で残しています。今回取り上げた12社の記事には、名前の由来以外の話——独立の経緯、技術の中身、働き方の設計——も詰まっていますので、気になった社名があればぜひリンク先も読んでみてください。
この記事を書いた人

Shikisai編集部
「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。
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