「映像広告は人を動かす力を持っている」。そう語るのは、株式会社Doppo代表取締役・倉原慎二氏。19歳で広告映像の世界に飛び込み、以来20年以上にわたりインフォマーシャルの第一線を走り続けてきました。現場でディレクションを続ける一方、2022年には代表に就任。従来「ブラック」と言われてきた映像業界を変え、若い人材が夢を諦めずに挑戦できる環境づくりにも力を注いでいます。本記事では、倉原氏の歩み、理念、そして未来への展望に迫ります。
今回はウェブリカの石塚がナビゲーターとなり、株式会社Doppo代表取締役・倉原慎二さんのキャリアと想いについて伺いました。
目次
19歳から映像広告一筋──映画少年が広告の世界へ
石塚:まずは自己紹介をお願いします。
倉原:株式会社Doppoの倉原慎二です。映像広告の中でも特にインフォマーシャルに特化した制作会社の代表を務めています。同時に現役のディレクターとして現場に立ち、日々撮影を行っています。
石塚:もともとこの業界に入られたのはいつ頃ですか?
倉原:私は映画が大好きで、学生時代は週に10本、20本とレンタルDVDを借りて観ていました。映画に携わる仕事がしたいと考え、福岡にある映画の専門学校に進学しました。1年目の終わりにテレビCM制作会社でインターンを経験したのですが、そこで広告映像の面白さに出会ったんです。15秒という短い時間に多額の資金と多くの人の力が注がれる。その濃密さに魅了され、広告の世界に進むことを決めました。
石塚:映画志望から広告へと舵を切った瞬間だったわけですね。
倉原:はい。インターン先ではアルバイトとして現場に入り、学生時代の多くを撮影に費やしました。気づけば専門学校より現場の方が生活の中心になっていましたね。

ブラックな現場と夢の両立、葛藤の20代
石塚:当時の現場はかなり過酷だったと伺いました。
倉原:そうですね。今では考えられないほどハードでした。丸3か月休みなし、徹夜続きで倒れてようやく眠れる、といった日々です。正直、辞めようと思ったことも何度もありました。ただ「いつかディレクターになる」という夢があったから続けられたんです。
石塚:夢を諦める人も多かったのでは?
倉原:はい。パワハラや過労で去っていく仲間も多く、本当に残念でした。だからこそ私は「この業界を変えたい」と強く思うようになったんです。
石塚:なるほど。そこから転職や独立へと進まれたのですね。
倉原:はい。価値観の合う経営者との出会いをきっかけに転職し、2022年に代表を引き継ぎました。
代表就任と「株式会社Doppo」という名前に込めた想い
石塚:社名「Doppo」にはどんな意味があるのでしょうか?
倉原:「独歩高」という株式用語があります。ある銘柄だけが飛び抜けて高値をつける状態を指す言葉です。広告映像、特にインフォマーシャルの分野でそんな“独歩高”の存在になりたい。そう願って「株式会社Doppo」と名付けました。
石塚:飛び抜ける存在を目指す決意が込められているわけですね。
倉原:はい。ディレクターとしても会社としても、常に業界をリードする存在でありたいと考えています。
インフォマーシャル制作の現場──“本物の声”を引き出す技術
石塚:インフォマーシャルでは、どんな点を大事にしているのですか?
倉原:一番大切なのは「本物の声」です。愛用者のインタビューを徹底し、作られた言葉ではなく、リアルな実感を引き出します。たった20秒のコメントのために、2時間かけて話を聞くこともあります。
石塚:その違いで売上も変わると。
倉原:そうです。同じ構成でも声を差し替えるだけで結果が大きく変わることがあります。だからこそ、緊張をほぐし自然な言葉を導くインタビューが重要なんです。
石塚:倉原さん自らインタビューをされているのも驚きです。
倉原:評価いただけることも多いですが、常に「まだまだだ」と思っています。お客様の心からの言葉をどうすれば引き出せるか──それを探る作業は職人技に近いですね。
働きやすい映像業界をつくるために
石塚:Doppoの社風についても教えてください。
倉原:この業界は長らくブラックなイメージがありましたが、私たちはそれを変えたい。2024年の平均残業時間は月数時間、1日あたり1時間以下です。お客様に理解をいただき、無理のないスケジュールを確保することで実現しました。
石塚:働き方改革を会社として取り組まれているのですね。
倉原:はい。福利厚生も充実させています。資格取得支援、社長と1対1で話せる“飲み会制度”、社員のパートナーへの誕生日祝い金など、ユニークな制度も導入しています。また、未経験者採用にも積極的です。健康食品や化粧品の業界経験者、DJや農業経験者など多彩な人材が集まり、制作に新しい視点をもたらしています。

映像の未来と挑戦──旅行・日本酒・地域との連携へ
石塚:今後の展望についてお聞かせください。
倉原:インフォマーシャルはテレビ中心ですが、媒体が変わってもノウハウは生きると考えています。Webや自治体との連携、旅行や日本酒のPRにも挑戦したいですね。特に旅行は高齢者のバスツアーなどで安心感を伝える映像のニーズがあるはず。日本酒も国内外に広めたいテーマです。
石塚:インフォマーシャルの可能性はまだまだ広がりそうですね。
倉原:はい。私たちは企業の商品やサービスを映像で正しく魅力的に伝えることで、売上拡大やブランド力向上に貢献していきたい。映像広告が企業の成長を後押しする、その力を信じています。

編集後記
倉原さんの話から感じたのは、インフォマーシャルという領域の奥深さです。単なる宣伝映像ではなく、商品を愛用する人々の「生の声」をすくい上げることで信頼を築き、購買につなげる。その姿勢は映像広告の本質を突いていると感じました。
また、業界のブラックな体質を自らの手で変えようとする姿勢も印象的でした。過酷な現場で夢を諦めざるを得なかった仲間を見てきたからこそ、残業削減や福利厚生、未経験者の積極採用といった改革を進めている。映像業界に新しいスタンダードを提示していると言えるでしょう。
さらに「旅行」「日本酒」といった新領域への挑戦は、Doppoの柔軟さと未来志向を象徴しています。地域や文化と連携した映像づくりがどのように展開していくのか、今後が楽しみです。株式会社Doppoが描く“独歩高”の未来に進んでいくのを見守っていきます。
ご紹介
Profile
株式会社Doppo
代表取締役
株式会社Doppo代表取締役。
1984年生まれ、福岡県出身。
専門学校九州ビジュアルアーツ卒業後、CM制作会社で制作進行を経験し、20代半ばからインフォマーシャルに特化したディレクターとして活動。
2022年4月、株式会社Doppo代表取締役に就任。現在も現場でディレクションを続けつつ、経営者として組織づくりや働きやすい環境整備に注力している。
強みは愛用者インタビューを通じて「本物の声」を引き出す力で、健康食品や化粧品を中心に数多くのプロモーションを成功に導いてきた。映像広告業界の“独歩高”を目指し、福岡から全国へ挑戦を続けている。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。