音楽一家に生まれてダンスの道に進んだ先に手に入れたものとは?紆余曲折を経て完成した「誰もが心地よく通えるダンススタジオ」


ミサ・ダンスマニアクス ダンスインストラクター 山本 美砂 YAMAMOTO MISA

三鷹のダンススクール「MISA-DANCE-MANIACS(ミサ・ダンスマニアクス)」を主宰する山本美砂さんは、現在の場所にたどり着くまでにさまざまな体験をされてきました。幾度も壁にぶつかりながらも続けてきたダンスへの情熱や、コンプレックスを乗り越えた先に見つけた居場所、そしてダンスのレッスンを通じて生徒のみなさんに伝え続けてきたことーー。今回のインタビューでは、そんな山本さんの幼少期の思い出から今後の展望まで、たっぷりとお聞きしています。

大学時代に演じた「ウエストサイド物語」が忘れかけていたダンスへの情熱を呼び起こす

本日はよろしくお願いいたします。山本さんは現在、ダンススクールの代表を務めながら現役のダンサーとしてもご活躍されていますが、小さいころはどんなお子さんだったのでしょうか?

山本さん:もともと音楽が好きな子どもでした。母方の祖母が音楽の先生で、声楽家をしているおばがいたり、父も青山学院大学のグリークラブという合唱団に入っていたりと、音楽好きに囲まれて育ったんです。私自身も、おばの勧めで「東京少女少年合唱隊」というところに入って、中学2年生まで活動していました。同時に、子ども向けのバレエも習っていましたが、成績が下がってしまって、全部辞めさせられることに(笑)。

家系的には音楽一色だったのですね。バレエやダンス関係のご親戚もいらっしゃったんですか?

山本さん:いなかったですね。でも幼いころから、バレエに対する憧れは抱いていました。小学3年生で祖父母と同居するために東京に引っ越したところ、近所にバレエ教室があったので、自分から「やりたい!」と。楽しく続けていましたが、中2で辞めてしまってからは、バレエから離れてしまったんです。その後、大学でESS(※English Speaking Society:英語を使ってスピーチや演劇などの活動をするサークル)に入ってミュージカルに触れたことで、ダンスへの想いが再燃しました。

ESSに入ったきっかけは?

山本さん:母方の祖父が英文学者だったこともあり、英語は小さいころから好きでした。大学に進学するときも、なんとなく「英語が盛んな学校に行きたいな」と。そこでたまたま勧誘されたのがESSだったんですね。とくに強い意志をもって入ったというより、英語が好きだし面白そうかな、という軽い気持ちでした。ただ、このESSでの活動の経験が今の私につながっていることは間違いありません。

大学2年生のとき、ミュージカル「ウエストサイド物語」を上演することになったんです。仲間と協力して作品を作りあげる喜びはもちろん、セリフや歌、ダンスを交えて演じることの楽しさに魅了されたのを覚えています。残念ながら、大学対抗のオーディションは落ちてしまいましたが、この経験をきっかけにミュージカル映画をたくさん観るようになり、「もう1回バレエを習おうかな」「ジャズダンスもやってみようかな」という気持ちが芽生えてきました。

コツコツ続けてきたから今があるーー。不器用で苦労したからこそわかる「できない人の気持ち」

ESSでミュージカルに挑戦したことで、本格的にダンスの道に進み始めたんですね。大学卒業後はすぐにダンサーとして活動されたのでしょうか?

山本さん:卒業する直前にミュージカル劇団に入団しました。卒業後は家庭の事情もあり、アルバイトをしながら劇団生活を続けていましたが、研究生として1年間ダンスや歌、お芝居を学びました。そこではモダンダンスをやっていたんですが、私はタップダンスへの興味があったので、劇団の先輩にタップの先生を紹介してもらったんです。週に1回のレッスンだったんですが、ものすごくのめり込んでしまって……。週1回では物足りなくなり、毎日レッスンをしているスタジオに入会してしまいました。

そうしたら、もう本当に毎日、週7日入り浸るほどタップダンス漬けの日々を送るようになったんです。午前中にアルバイトして、午後から毎日スタジオに入って、1時と3時と6時のクラスを全部受けるほどでした。

タップダンスにかける情熱のすさまじさを感じますね。当時目指していたのはプロのタップダンサーだったんですか?

山本さん:いえ、そこまでは考えていませんでした。ただ漠然と「いつかミュージカルをやりたいな」くらいは考えていましたが、とにかくダンスが好きで、踊らせとけば機嫌がいいっていうくらい、踊ることに夢中になっていました。ただ、タップはものすごく苦労しましたね。タップの靴を履けば音が出ると思うじゃないですか?でも、そんなに簡単なものではなくて、なかなか音が出ないんです。後から入ってきた人に追い越されて、悔しくてカーテンの陰で泣くこともありました(笑)。

それでもめげずにコツコツ通っていたら、ある日先生から「クラスやってみる?」と持ちかけられて、初心者向けのクラスを教えることになったんです。といっても、先生が作る振り付けを覚えて、それをそのまま生徒さんたちに伝授する程度のレッスン。同時期に、タップダンス上達のためにジャズダンスも本格的に始めたところ、今度は見事にジャズダンスにものめり込んでしまいました(笑)。

すごいですね。いろいろなジャンルのダンスをどんどんマスターしていったんですね。

山本さん:当時はジャズダンス全盛期で、身長が高くてスタイルのいい人は、バックダンサーのお仕事がたくさん入ってきていました。でも私は160cmもないし、派手な見栄えでもない。なのでそういったお仕事には縁がなかったんですが、ありがたいことに恩師の先生の公演に呼んでいただいて、何度も舞台に立たせていただきました。その流れで、紅白歌合戦やNHKの歌謡ショーに出演したこともあります。ただ、私はやっぱり体格的にも、ショーダンサーやバックダンサーとして活躍するには限界を感じていました。

悩みながらもコツコツ続けていたところ、ダンススタジオの先輩から「タップできるんだったら教えてみたら?」と勧められて、スポーツクラブでクラスを受け持つことになったんです。

そこから本格的に講師業をスタートさせることになったんですか?

山本さん:そうですね。最初は「教えるなんて絶対にできない。私は振り付けをもらって踊るのが楽しいのであって、振り付けを考えるなんてとんでもない」って思っていたんです。でもよく考えたら、私自身とても不器用で、苦労しながらもティッシュを一枚ずつ積み重ねるように上達してきたので、できない人の気持ちがすごくわかるんですよね。「もしかしたら、自分は向いているのかもしれない」と思い始めると、振り付けを考えたり人に教えたりすることが、だんだん楽しくなってきたんです。

ダンスを通じて仲間であり家族のような温かい関係を大切にしていきたい

その結果今にいたる、ということですね。ダンススタジオ「ミサダンス・マニアクス」は、2004年の立ち上げから20年経ちましたが、吉祥寺・三鷹という場所にこだわりがあったのですか?

山本さん:ここにいたるまでの経緯は複雑で……。最初に教えていた武蔵境のスポーツクラブのクラスがクローズしてしまったことで、生徒を抱えて「どうしよう」となり、あちこちスタジオを探し歩きました。タップって床の問題があるので、できるところが少ないんですよね。で、たまたま見つけたのが吉祥寺にあるダンススタジオ。そこでなんとかタップを教え続けることができました。その後、成り行きでジャズダンスも教えることになったんですが、結局そのスタジオも閉鎖することに。困ったな、と再度スタジオを探して、荻窪にちょうどいい場所を見つけたのをきっかけに、独立したのが2004年です。

複雑な事情が重なって、独立することになったんですね。

山本さん:はい。荻窪のスタジオではジャズダンスのクラスだけ教えていたのですが、結局そのスタジオが入っていたビルも取り壊しになり……。またスタジオを探して、最終的に三鷹に落ち着きました。紆余曲折を経て、独立してから20年になります。生徒さんたちも、長く続けている人は15年くらい通ってくれていますよ。もう家族のような感覚ですね(笑)。

そのあたり、詳しくお聞かせいただきたいです。スクールを運営するにあたって、生徒さんへの接し方を含めてどのようなことを意識されていますか?

山本さん:みなさんがダンスを通じて楽しんでくれることが一番大事だと思っています。そのうえで、一対一の関係をちゃんと築きたい。一人ひとりと家族のような、親戚のような感じでお付き合いしていきたいんです。それが生徒さんたちにも伝わっているので、今定着している方たちはみんなすごく仲が良くて、新規で入会された方を温かい雰囲気で迎えてくれています。子どものクラスはないですが、高校生や大学生が入ってきたときなんか、みんな娘のように迎えてくれますよ(笑)。

コロナ禍以前はよく食事会をしていたり、クリスマスパーティーをしたりと、みんなでワイワイやっていました。今はレッスンスタジオを使って、ゲームや歌や振り付けをするなど3時間くらい遊んでいます。とにかく和気あいあいとした雰囲気で、その居心地の良さで続けてくれている生徒さんもいるほど。高校生から続けている子は、今では結婚して川崎から通ってくれています。下は30歳から一番上は70歳まで、平均年齢は50歳くらい。社会人の男性メンバーもいらっしゃいますよ。老若男女仲良くレッスンしているので、男性も大歓迎です!

生徒のみなさんの仲の良さが伝わりますね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

山本さん:これからも、みんなが楽しく通うコミュニティとしてやっていきたいですね。コロナ禍で中断していた時期もありますが、定期的に舞台やライブミュージカルを上演しているので、今後もそのような活動は続けていきたいと思っています。初心者の方でも入会してすぐの方でも、できる範囲で舞台に出演していただいているので、「出てよかったな」と思ってもらえるように、一人ひとりにスポットライトが当たる演出を用意しています。「ちょっと興味がある」「ただ身体を動かしたい」「ブランクがあって不安だけど再チャレンジしたい」など、ダンスを始めるのに特別な理由はいりません。基本はきちんと教えますので、やりたいと思っている人は誰でも参加してほしいですね。

また私自身、ピラティスを学ぶなど「身体づくり」も重視しながらレッスンしています。なので、怪我をしない丈夫な身体をつくるためにも、年齢を重ねても続けられるダンスをもっと多くの人に伝えていきたいと思っています。

編集後記

本記事を通じて、身体だけでなく心も元気になりそうなダンスの魅力が伝わったのではないでしょうか。紆余曲折を経てたどり着いた居場所を大事にしている山本さんの想いは、きっと生徒のみなさんにも届いているはず。「ミサ・ダンスマニアクス」のスタジオは2カ所あり、火曜夜のクラスは三鷹駅から徒歩3分、土曜昼のクラスは三鷹駅から徒歩7分とどちらも便利な場所です(※詳しくは公式HPをご覧ください)。これを機に、お近くの方はぜひレッスンを体験してみませんか?

Profile

ミサ・ダンスマニアクス ダンスインストラクター

山本 美砂 YAMAMOTO MISA