新人に時間を割く前に、仕事を言葉にしていた|「教え方」を語った13本に共通していた順番

新人に時間を割く前に、仕事を言葉にしていた|「教え方」を語った13本に共通していた順番

人に仕事を教えるとき、たいてい最初に考えるのは「どれだけ時間を使えるか」です。横についてやってみせる時間、質問を受ける時間、やらせてみて直す時間。教える側の悩みは、だいたい時間の足りなさとして語られます。

Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、後輩・新人・受講者に「どう教えているか」を具体的に語っている記事を13本選んで読み直しました。建設機械の修理、タービンの分解、コーヒー、民泊清掃、ブライダル、児童発達支援、福祉、研修講師、経営コンサルティング、新卒採用。業種はばらばらで、教える相手も社員から利用者までさまざまです。

読み終えて意外だったのは、「教える時間を増やしました」という話がほとんど出てこなかったことです。代わりに繰り返し出てきたのは、教え始める前の工程でした。これまで感覚でやっていた仕事を言葉に起こす。順番を決める。迷いが生まれる場所を先に潰す。教えるという行為より前に、仕事の側に手を入れている人が多かったのです。

この記事では、その順番を13本の記事から追いかけます。

「見て覚える」で覚えた人たちが、いま向き合っていること

出発点として面白いのが、自分自身は体系的に教わっていない世代の語りです。

長野県で建設機械の修理を手がける小宮山建機・小宮山正樹さんの記事では、どうやって技術を身につけたのかという問いにこう答えています。

「私たちの時代は、見て覚えろの時代だった」

機械の種類が多く、「これを学べば直せる」という性質の仕事ではない。電気系統の不調だと思って現場に行くと油圧系統だった、ということが起きる。ひととおり修理ができるようになるまで4〜5年かかり、それでも得意な機械と苦手な機械はあるのだそうです。そして記事では、いま作業しているのは小宮山さん一人であり、だからこそ技術の継承が課題になっていると続きます。

同じ構図を、教える側の言葉としてはっきり語っているのがUCCコーヒーアカデミーの川口さん・土井さんの記事です。

教えられる人が限られていて、その人が辞めてしまうと知識が途切れてしまう、ということです。また、人によって基準が違うので、何が正解なのか分かりにくい状況もありました。

バリスタとして現場にいた土井さんは「先輩の背中を見て学ぶ、という形が中心でした」と振り返り、感覚だけでは伝えきれない部分が多いと感じたと語っています。ここから生まれたのが、学ぶ内容とレベルを整理し、段階的に理解を深めていく体系化されたプログラムでした。

福島県でタービンの分解・組立を手がける吉田工業・吉田さんの記事は、時間の長さを数字で示しています。

25歳で入社しても、一人前になるのは35歳。

一人前になるのに10年かかる仕事で、社員の平均年齢は40代を超えている。だから人事部を新設して初めて新卒採用に踏み込み、吉田さんは「私自ら教育していこうと思っています」と語ります。注目したいのは、その教育が入社前から始まっている点です。ミスマッチが起きないよう職場見学に来てもらい、実際の作業をスライドで詳細に説明したうえで、「辛いのがほとんどだよ」と隠さずに伝える。先に現実を見せておくという判断でした。

3本に共通するのは、「見て覚える」が悪いという話ではないことです。本人はそれで身につけている。ただ、それを次の人に渡す段になって、渡せる形になっていないことに気づいている。だから形にする作業が始まります。

最初の工程は、手順書ではなく「言葉」だった

では、形にする作業はどこから始まるのか。13本のうち何本かは、驚くほど同じ言葉を使っていました。「言語化」です。

バリュー・コア・コンサルティング・弥左大志さんの記事は、営業の「勝ちパターン」を社内に広げる手順を語っています。

その人たちの考え方や判断軸を言語化して、真ん中の6割や下位の2割の方たちが、トップセールスマンに近い能力を身につけられるようにしていきます。

印象的なのは、その言語化が会議室で行われていないことです。1ヶ月目は分析だけに充てる。クライアントのマニュアルと営業音声を、うまくいっている人と苦戦している人の分を合わせて450件ほど預かり、すべて読み込む。商談に同席もする。トップセールスマン、一般のセールスマン、経営者それぞれにインタビューする。そこまでやってから2ヶ月目・3ヶ月目に研修の中身を作り込み、現場の人と「この判断軸でいいのか」を議論していく、という組み立てでした。

LIBERATE合同会社・豊川諒さんの記事でも、プロセスの第一歩は同じ位置にあります。

まず本人の目標を言語化し、部下や同僚からのフィードバックを収集。現状とのギャップを明らかにし、実践とフィードバックを繰り返していきます。

教える内容を先に用意するのではなく、本人の言葉と周囲の見方を並べて差を見えるようにする。そこからしか実践が始まらない、という順番です。

さらに踏み込んでいるのがディシプリナ・山本真吾さんの記事です。フレームワークを埋める形式の研修に違和感があったという話から始まり、記事はこう締められています。

ディシプリナが出した答えは「フレームを教えること」ではなく「顧客が成し遂げたいことを、自分の頭で徹底的に探させること」でした。

20〜30名規模のワークショップでグループディスカッションを行い、自分のアウトプットだけでなく周囲から出てきた内容も見る。「僕はこう思っていたけれど、この人はこう思っていたのか」と他者の価値観を知ることで、探求の網羅性が上がる、という設計です。言語化を一人の作業にしないところまで含めて手順になっています。

3本とも、教える側が持っている答えを渡す話ではありません。先に言葉を置く場所を作り、そこに本人の言葉を出させる。順番が共通しています。

「迷う時間」を減らすのは、教える側の仕事

言葉にした次に来るのが、順番の固定でした。ここをもっとも具体的に語っているのが、民泊清掃を手がけるLOGPOSE(FiveStar)・大谷真一さんの記事です。

大谷さんが現場に入った当初、清掃には基準もマニュアルもなく、「綺麗になっていればいい」と言われても何をもって綺麗なのかが定義されていなかったといいます。そこで作ったものが、作業手順の一覧ではありませんでした。

部屋に入った瞬間から最後までの流れをマニュアル化します。電気を付けて換気し、布団カバーを外し、ゴミを集める。こうした“当たり前に見える最初の動き”を含めて、点と点をつなぐ「線」を作ります。

狙いは速さそのものではなく、迷いの削減です。記事では、仕組みのない状態で「1時間半で終わらせて」と言えば手を抜く方向に向かってしまう、だから手を抜かずに現実的に1時間半で終わるよう、考える時間を削り段取りを固定するのが会社の責任だと述べられています。間取りの写真や備品の置き場所を整理するのも、何をどこに置くか分からない時間を積み上げないため。マニュアルはスマホで閲覧でき、現地で自己完結できる体制になっているそうです。

「教える」という言葉はあまり出てきません。けれどやっていることは、新しく入った人が自分で判断できる状態を先に用意することで、教え方の設計そのものです。

マニュアルを技術として扱う視点は、ミライストラテジー・渡辺博之さんの記事にも出てきます。年間150本を超える研修を担当する渡辺さんが、構想中の飲食事業について語った一節です。

マニュアル通りにできることも一つの技術。それを正しく評価し、現場の声を取り入れながら進化させていく組織をつくりたいんです。

徹底したマニュアルと数値管理を行いながら、同時に働く人がやりがいを持てる環境を整える。マニュアルを窮屈さの象徴ではなく、評価できる技術の側に置いているところが特徴的でした。

「言葉にしない」と決めている現場もあった

ここまでと逆向きの判断をしている記事もあります。この2本があることで、共通点の意味がはっきりしました。

京都で福祉サービスを運営する特定非営利活動法人ノンラベル・田井啓太さんの記事では、現場での支え方を尋ねられて、こう答えています。

田井: マニュアル化はしません 。同じ時間を過ごし、会話の中で「今の言い方、とても良かったですね」と その場でフィードバック する。

利用者同士の良い表現も拾い上げて肯定的に可視化し、小さな成功体験を積み重ねていく。一方で、場づくりの側はかなり具体的です。家族が運営するコンビニエンスストアで実際の職場体験や実践訓練ができる「安心して試せる場」を用意している、と記事にあります。手順を固定しないかわりに、試して戻ってこられる場所を用意する。これも設計です。

ナーシング・鈴木由紀子さんの記事も、教える内容を言葉に落とす細かさが印象に残ります。児童発達支援の現場で、場面を想定して一緒に対応を考えるほか、こうした伝え方をすることがあるそうです。

「『前へならえ』くらいの距離のパーソナルスペースをあけよう」など具体的に教えることもあります。

抽象的な心がけではなく、体で再現できる長さに置き換えている例です。同じ記事では、大人の側についてもこう語られています。

背中を見られている意識を忘れずに、我々が意識的にチーム全員で、気持ちの良いものの貸し借りや「ありがとう」「ごめんね」などのコミュニケーションを実践して、モデリング学習を促しています。

社内の教育体制としては各店舗でのOJTと勉強会、年数回の全社研修があり、業界未経験者が7割在籍しているとのこと。「背中を見て学ぶ」を偶然任せにせず、見られる側の振る舞いを意識的に揃えるところまで含めて仕組みにしている形です。

教えたあと、どこまで見るか

もう一つ共通していたのが、教え終わりの位置です。研修やレクチャーの終了を終わりにしていない記事が目立ちました。

前出の弥左さんの記事は、研修後の流れを3段階で説明しています。インストールしたものを自分の言葉で書く、次にロールプレイングで話す、それをお客様に対して実行する。研修が終わったあと1ヶ月間で実行されるかどうかがものすごく大事だ、という理由からでした。

ロールプレイングが人を育てている様子は、横浜のブライダルサロンを扱ったモリノブライズの記事にも出てきます。ドレスコーディネーター責任者の酒井さんについて、記事はこう書いています。

若手からの信頼も厚く、ロールプレイング研修でのフィードバックがあまりに的確なため、「酒井さんみたいになりたい」と口にする後輩は一人や二人ではないといいます。

10年間現場を見てきた酒井さんに「伸びる人」の共通点を尋ねると、返ってきたのは「一番は、多分、素直さですね」という答えだったそうです。アドバイスを受けたときに、言い訳から入らず、まずやってみるかどうか。教える側から見ると、受け取り方がそのまま成長速度になるという実感でした。

マナー講師として新人教育にあたる金城あやさんのひとてらすの記事は、教える側が何を渡すべきかを時間の観点から語っています。

できるようになるまで反復練習をする時間をいただけるのは、新入社員の間だけ。

「知っている」と「できている」は違う、という話の流れで出てくる一節です。新人の頃は誰でも早く覚えなきゃと焦り、理解したつもりになってしまう。反復の時間が確保されているのは最初だけだから、そこで基礎を固めてほしいという趣旨でした。教える側の時間配分を考えるうえで、わかりやすい基準になります。

そして、教わった人を教える側に回す設計まで語っているのが、沖縄のHuman Creation・山川代表の記事です。地方の企業10〜15社でチームを作り、就活生から新入社員までを一気通貫で育てる「OFA」というプロジェクトについて、2年目以降の構想をこう述べています。

1年目に「OFA」に参加して参加企業とご縁があった内定者が、次は参加企業サイドの採用メンターとなってもらい、企業側として参画いただき後輩学生へのアプローチや育成を促す存在になってもらいたいなと。

教わった人が翌年には教える側に立つ。それが続けば地域で自走できる体制になる、という読みでした。

13本を並べて見えた、教える前の3工程

整理すると、13本に共通していた順番はこうなります。

  1. 自分がどう覚えたかを棚卸しする。小宮山建機、UCCコーヒーアカデミー、吉田工業は、いずれも「自分は見て覚えた」「10年かかった」という自覚から出発していました。
  2. 感覚を言葉に置き換える。バリュー・コア・コンサルティングの450件の音声分析、LIBERATEの目標の言語化、ディシプリナのワークショップ、ナーシングの「前へならえくらいの距離」。抽象度を落とす作業です。
  3. 迷いが出る場所を先に塞ぐ。FiveStarの導線設計、ミライストラテジーのマニュアル観、ノンラベルの「安心して試せる場」。順番を固定するか、戻ってこられる場所を用意するか、方法は分かれますが目的は同じでした。

そのうえで、教え終わりを研修の終了に置かない。1ヶ月後の行動まで見る、ロールプレイングを挟む、反復の時間を最初に確保する、教わった人を翌年の教え手にする。

教え方の工夫というと、言い方や接し方の話になりがちです。13本を読み直して見えたのは、もう少し手前にある作業でした。自分がやっていることを言葉にして、順番を決めて、迷う場所を減らしておく。そこまでやってから人に向き合っている人が多かった、というのがこのまとめの結論です。

同じ道を学ぶ側から見た記事として、未経験で入った人が一人前になるまでを整理した「最初にやる仕事は本業ではなかった」、資格が必要な仕事の入口を扱った「資格・免許がいる仕事の入口まとめ」もあります。教える側と教わる側、両方から読むと見え方が変わるはずです。

この記事を書いた人

Shikisai編集部

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「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。

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