1916年から東京すみだにて食品、化粧品、医薬品のガラスびん容器を中心に企画、販売を行う「大川硝子工業所」。
50年近く続くロングセラー「Familiarシリーズ」や、小林幹也スタジオがデザインを手がけた、使用済みガラスびんを原料としたガラスコップ「BINKOP」など、限りある資源を大切に使うことが求められている今、使い捨てるガラスびんではなく、「使い続けるガラスびん」を提唱し続ける、大川岳伸さんの考えや想いに迫ります。
いい部分、好きな部分をどう伸ばしていくか
ーまずは大川さんの生い立ちや、大川硝子工業所に向き合うきっかけになったことからお伺いできますか?
実家が食品のガラスびん容器を中心に販売をしていたので、何かあったら役に立つかも?くらいのスタンスで、大学では、食品製造工学を専攻していました。小学校の時の将来の夢には、「会社を継ぐ」と一応書いていましたが(笑)。
私自身、家業に入って今のような形でやっていくというビジョンはなくて、最初は全然「継ぐ」ということを意識していませんでした。大川硝子工業所で働き始めたのはちょうど14年前ほどですが、3年くらいぼーっとしていました(笑)。自分のなかで、仕事はやらされるものという感じで捉えていたんだと思います。
そんな状況からスイッチが入ったきっかけは、趣味でDJをやっていた時に知り合ったフリーランスのデザイナーさんたちとの出会いでした。そこで、自分よりも若いのにフリーランスで、かつ、自分で何かを成し遂げていること、仕事に対してエネルギッシュなところをみて自分が恥ずかしくなったんです。
それがきっかけで、自分が好きなこと、したいことを仕事に結びつけてもいいんじゃないかと考えるようになりましたね。今までは、こういうことしたらダメだよね、と自分を狭めていたな、と。仕事をしているとどうしても辛いことってあると思うんです。でもそんなことより、いい部分や好きな部分を伸ばしていこう!と仕事に対して前向きになりました。
ほんとうのサステナブルなものづくり
ーでは次に、大川さんが提唱している「使い捨てるガラスびんではなく、『使い続けるガラスびん』」といったサステナブルなものづくりについてお伺いできますか?
サステナブルを前面に押し出すのはあまり好きじゃないですが(笑)、自分の会社で扱っていたものがガラスびんだったので、気づいたらそういうことを意識していたという感覚です。でも、リサイクル素材の製品を買って満足な世間には危機感を感じていました。そこから、次の段階になる「捨てなければいけない時にどうしたらいいのか?」を考えるようになりましたね。
そこから生まれたのが『BINKOP』です。
『BINKOP』はガラスびんの製造技術で作られているコップで、びんなのでリサイクル素材だし、捨てなければいけなくなった時に再びリサイクルできるんです。
元々、リサイクル素材で出来た一部製品には不満や疑問があって。新たな素材を使用することで、生産システムの変更で工場に負担がかかったり、製品の耐久性が下がったり、それって全然サステナブルじゃないよね(笑)って。
だからBINKOPは工場に負担をかけないように、あくまで既存のシステムの範疇で生産し、製造上出来てしまうディテールもそのままデザインに落とし込んで製品化しました。
つくらないでつくった「Familiarシリーズ」
ー手さげびんや地球びんなどの「Familiarシリーズ」についてはどんな経緯で生まれたんでしょうか?
BtoBだけでなく、BtoCも意識していきたかったことや、大川硝子といえば!というオリジナル商品がなかったことから、もともとあった地球びんなどをBtoC寄りにリブランディングしようと思い立ちました。まぁ単に目立ちたかったこともあるんですが(笑)。
ー新しい製品を作るのではなく、リブランディングという選択をとった理由は何かありますか?
先ほどもお話した通り、もともとは問屋だし看板商品なんてなくても良いかと考えていたんですが、会社を発展させていく上で、自社商品を作ることも重要だと思いはじめて。でも、ガラスびんでオリジナルの形状で作ろうとすると、金型に莫大な費用がかかるんです。一から作るのは、当時の会社の資金では到底不可能で。
ならばモノはそのままで、価値の部分を再構築し、パッケージをリデザインしようと考えたんです。
そうすれば、同じモノだったとしても新商品だ!と。
世の中をいい方向に変えたいなと思っています。会社は変わったなという自信はあるんで、次はどんよりしているガラスびん業界ですかね(笑)。
ーでは最後に大川さんの今後のビジョンをお聞かせください。
子どもっぽいけど、世の中を変えたいな〜と思っています。会社は変わったなという自信はあるんですが、ガラスびん業界は暗いままなので、ハッピーな方向へ変えていきたいな〜と考えています。
あとは、海外にもっと展開していきたいですね。江戸切子など他のガラス製品については、海外にどんどん進出していっていますが、ガラスびんについてはまだまだだなと感じています。日本のガラスびんは、容量がきっちり収まるし、キャップとの嵌合も良く、更にリサイクル率も高い。世界的に見てもハイクオリティなんですよね。日本のガラスびんを海外の方に評価してもらうことで、日本人が日本のものづくりにもっと誇りを持ってもらえたらいいなと思っています。
編集後記
お話を伺う中で、大川さんの考えや想いが作り出す新たな製品や、既存の製品を新商品にしてしまう発想の転換が印象的でした。「株式会社大川硝子工業所」の公式サイトでは、今回ご紹介した『BINKOP』や 『Familiarシリーズ』の他、専門学校東京デザイナー学院との共同開発商品など様々な種類のガラスびん製品をご購入いただけます。
普段の日常に、大川硝子工業所のサステナブルな製品を取り入れてみるのはいかがでしょうか。