創業のきっかけは4つの型に分かれる——経営者10人の話を集めてわかったこと
「なぜ自分の会社を始めたんですか」。Shikisaiはこれまで、地域で事業を営む経営者の方々にインタビューとラジオ番組でお話を伺ってきました。その数は取材記事とラジオ記事を合わせて300本近くになります。
あらためて読み返すと、「創業のきっかけ」には、いくつかのはっきりした型があることに気づきます。ドラマチックなひらめきで始めた人は、実は少数派。多くは、危機や違和感や積み重ねが、あるとき「独立」というかたちを取ったのです。
この記事では、10人の経営者の実話を4つの型に分けて紹介します。起業を考えている人にも、いま事業をしている人にも、どこかに「自分と同じ型」が見つかるはずです。
型①:危機が転機になった
最初の型は、外からやってきた危機が、結果として新しい事業の入り口になったケースです。
群馬県の株式会社スター交通・碓氷代表は、貸切バス事業を営んでいたとき、震災で予約が全部消えるという経験をしました。そこから始めたのが、緊急性のない入退院や通院の搬送を担う「民間救急」の事業です。旅行業一筋20年以上のキャリアの上に、危機をきっかけとした事業転換を重ねた話は、聴き応えがあります。
ビーンズ・コネクティッド株式会社の宮崎代表も、平坦ではない道のりの人です。リクルートを経て独立し広告の世界で長く仕事をしたのち、ミャンマーでカフェを経営。長く続いた赤字と政治情勢に翻弄された日々の先に、一台の焙煎機との偶然の出会いがあり、コーヒーを起点に人と社会を結ぶ今の事業が生まれました。
計画通りに始まった事業ではなく、「そうせざるを得なかった」ところから立ち上がった事業。この型の話には、事業を続けることそのものへの覚悟がにじみます。
型②:長い修業の先に独立があった
二つ目は、若いうちから現場に入り、長い修業期間を経て独立した職人型です。
株式会社プラスプレッドの石井代表は、15歳で左官の世界に入り、30歳で独立しました。壁や床の下地を整え仕上げる左官業を、さいたま市を拠点に長年担ってきた方です。15年の修業が独立の土台になっています。
大阪・泉佐野のタオルメーカー株式会社東進の大和谷会長は、学生時代から丁稚奉公で学び、30歳で起業。波乱の資金繰りや倒産危機も、社員や家族の支えで乗り越えて、一代でメーカーを築きました。現在は次男が社長を継ぎ、アジア展開に挑んでいます。
そして、この型でひときわ目を引くのがブリッツソリューションの松原代表です。資格を取るために工業高校の定時制に編入し、電気関連の会社に30年勤めたのち、独立したのは53歳のとき。その30年を「すごく楽しくやっていた。自分がやった成果がお客様から評価されるのが、すごく嬉しかった」と振り返ります。楽しく勤めた30年の先にも、独立という選択肢はあるのです。
型③:「安定」に違和感を覚えた
三つ目は、安定した立場をいったん手にしたからこそ、違和感に気づいて独立した型です。
株式会社ラシクの黒野代表は、安定を求めて日本郵政公社に転職しました。しかしそこで「仕事の在り方」について深く考えた結果、独立を決意。いまはポジティブ心理学を軸にした人財育成プログラムで、参加者から「こんなに刺激的で実用的な研修は初めて」と言われる研修を作っています。
大倉佳子税理士事務所の大倉代表は、国税の職員から税理士に転身した方です。国税の「女性一期生」というキャリアから独立して8年。相続の現場で「いちばん困るのはパスワード」という、実務家ならではの話も伺いました。
リーガル・アソシエイツの藤川代表の出発点は、学生時代の気づきでした。「単位をとるだけの勉強をしても社会に出ても役に立たないと気づきました」——そこから心を入れ替えて司法書士を志し、在学中に試験に合格。証券会社で経営視点を得たのちに起業し、いまは経営支援へと事業を広げています。
型④:働き方の限界が背中を押した
四つ目は、身体や働き方の限界を直視したことが、次のキャリアへの一歩になった型です。
ロードサービス事業を営むHI-JUMPの岡本代表は、もともと線路工事の仕事をしていました。昼夜の入れ替わる勤務で身体への負担も大きく、「このままでは先が見えない」と感じたことが転機に。ただし本人は、線路工事で培った段取り力や現場対応力が今の仕事の土台になっているとも語っています。限界を感じた仕事も、無駄にはなっていないのです。
株式会社ながせの石川代表は、薬剤師としての原点を「理科の中で化学が得意だったから」と語る、意外なほど普通の動機から始まった人です。しかし独立直後に病気で入院するなど、歩みは平坦ではありませんでした。それでも「他と同じことでは満足できない」と、地域の”駆け込み寺”となる薬局づくりに挑み続けています。
10人に共通していたこと
型は4つに分かれましたが、読み返して気づく共通点がひとつあります。きっかけそのものは、誰にでも起こりうる出来事だったということです。震災、転職先での違和感、身体の限界、長い勤め人生活。特別な才能や人脈の話は、ほとんど出てきません。
違いが出るのは、その出来事を「独立の理由」に変換したかどうか。そして10人とも、前の仕事で培ったものを捨てずに次の事業へ持ち込んでいます。旅行業のノウハウが民間救急に、線路工事の段取り力がロードサービスに、国税の経験が税理士業に。創業とは、ゼロから始めることではなく、積み上げてきたものの使い道を変えることなのかもしれません。
Shikisaiでは、これからも地域の経営者の「なぜ始めたのか」を聞き続けていきます。気になった経営者がいたら、ぜひリンク先のインタビュー本編をどうぞ。
※本記事は、Shikisaiが過去に掲載したインタビュー・ラジオ記事をもとに編集部が再構成したものです。各記事の内容は取材・収録時点のものです。
この記事を書いた人

Shikisai編集部
「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。
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