雪の多い土地では、夏の仕事が生まれる|気候と地形が商売のかたちを決めた13の話
その会社が何を売っているかは、たいてい創業者の経歴やアイデアで説明されます。ところが取材記事をまとめて読み返していると、もっと身も蓋もない理由が何度も顔を出します。そこが寒いから。雪が積もるから。海が近いから。平らな土地が少ないから。
Shikisaiのインタビューとラジオ記事から、気候や地形が商売のかたちに直接効いていると本人が語っているものを13本選んで並べてみました。富山のガラス店、北海道の農園、大阪のワイナリー、京都のチーズケーキ店、山梨の観光協会、岡山のジビエ、神奈川の茶園、兵庫の水産加工、島根の飲食店、群馬と神奈川の自治体、東京の如雨露メーカー、山形のジェラート店。業種はまったくそろっていません。
それでも、いちばんはっきりしたのはこれでした。気候は「何を売るか」より先に、「いつ働くか」を決めていたのです。売れる季節と売れない季節の落差が、そのまま新しい事業の理由になっていた会社がありました。
この記事では、13本から見えたことを5つの型に整理します。自分の土地の条件を商売の説明にどう使えるか、考える材料になるはずです。
目次
型① 気候が「仕事の量の波」をつくり、その波が新事業を呼ぶ
いちばん分かりやすかったのが、富山県で自動車ガラスとカーフィルムを手がける松井板硝子店の話です。三代目の足立一男さんによれば、富山では雪の重みでガラスが割れ、溶けて割れ、さらに冬場はスタッドレスタイヤが噛んだ石が飛び石になってガラスを割る。
その結果、こうなります。
売上が夏と冬で半分ほど違ってしまうのです。そして夏場は人が余ってしまう。
ここが重要な分岐点でした。同社のもう一つの柱であるカーフィルムは、経営者ではなく社員が中心になって始まった事業です。夏に人が余るという季節性を何とかしたい、と考えた社員が立ち上げました。しかも立ち上げ方が慎重で、まずは品質要求の高い法人で鍛えてもらう方針を取り、光岡自動車やトヨタといった厳しい目にさらされる現場で技術を磨いてから広げています。
雪という動かしようのない条件が、需要の山谷をつくり、その谷を埋める第二の柱を生んだ。因果としてはとてもきれいです。
同じ「冬の使い方」を、まったく別の答えで扱っていたのが北海道三笠市で100年以上続く床岡農園でした。夏は暑く、冬は豪雪地帯。収録時の積雪は1メートル50センチ以上ありましたが、5代目の床岡達也さんは「平年並みですね」と事もなげに答えています。
では、その冬に農家は何をしているのか。床岡さんの答えは、納品などの作業もありつつ、いろいろな人とつながれる時間が取れる時期だというものでした。打ち合わせをしたり、次に作る農作物を検討したりして春に備える。雪は仕事を止めるのではなく、仕事の種類を入れ替えていました。
型② 一度の気象が、業種そのものを差し替えることがある
大阪府羽曳野市の飛鳥ワインの成り立ちは、気候が事業構造を変えた例として飛び抜けています。この地域はもともとブドウ農家が多く、昭和の頃は大阪がブドウの収穫量で全国1位になったこともある産地でした。ただし、最初からワインを造っていたわけではありません。仲村茂記さんの説明はこうです。
昭和の初期ごろに大きな台風が来まして、その時にブドウ農家が大打撃を受けたんです。ブドウが生食用に卸すことができなくなってしまったのです。その時に国が救済措置として醸造免許を交付したのが始まりです。
生食用の産地が、ひとつの気象をきっかけに醸造の産地へ切り替わった。当時は近隣に約100社の醸造所があったと伝わっているそうです。
そして飛鳥ワインは、いま逆方向にも土地を使っています。仲村さんは、耕作放棄地になる可能性のある畑を借り受けたり、開墾してぶどう畑に戻したりしながら、5ヘクタールを栽培しています。「山から見る景色は全国的にも珍しい唯一無二の景色だと思っています」という言葉は、産地を守る側に回った人の言葉です。
型③ 「条件が良くない土地」が、そのまま名産の理由になる
土地の条件は、良し悪しで語られがちです。ところが取材記事では、むしろ厳しい条件のほうが商品の説明になっているケースが目立ちました。
京都のチーズケーキ専門店ソラアオの福本大二さんは、舞鶴で偶然出会った落花生に驚き、調べていってこう気づきます。
落花生は知られざる舞鶴の特産で、土地柄水を吸収しない痩せた土地なんですが、痩せた土地だからこそ美味しい落花生が採れるんです。
痩せた土地であることが、そのまま商品ページに書ける理由になっています。
山梨県都留市の観光協会とC-Tableが紹介していた「水かけ菜」も同じ構造でした。都留は寒く、冬は凍ってしまうため作物が育ちにくい土地です。ところが富士山の湧水が豊富に湧き、その流水を水田に引いて水をかけ流しながら育てると、温度が一定の湧水のおかげで冬でも育つ。12月から2月ごろまでしか手に入らない青菜として、地元ではお正月のお雑煮に入れる冬の風物詩になっています。「寒い」と「水がある」が組み合わさって初めて成立する作物です。
岡山県新見市のおかやまジビエみなみの南社長も、猪の質を土地で説明していました。
岡山県の新見は自然が豊かな場所です。石灰岩質の綺麗な風土と、気候も涼しいため、ストレスが少なく育って脂も乗った健康な猪を獲れるんです。
石灰岩質という地質と、涼しいという気候。どちらも人の努力では動かせない条件ですが、だからこそ他所が真似できない説明になります。
型④ 同じ作物でも土地で味が変わる。だから産地に名前をつける
土地が味を決めるなら、次に起きるのは「産地に名前をつける」動きです。
神奈川県藤沢市の茶来未の佐々木健さんは、「丹沢大山茶」というブランドを立ち上げた理由をこう語っています。
茶は土地ごとの気候・風土・環境で質が変化します。(中略)ワインの格付けである「シャトー」に近い考え方で茶園の特性を捉えて「神奈川のお茶」の再建に貢献したいと考えています。
面白いのは、佐々木さんがワインの言葉を借りていることです。そして実際、飛鳥ワインの仲村さんも同じ概念を使っていました。ブドウの栽培地の環境が味に表れることをテロワールと呼び、寒い地域では酸が強くなり、暖かい地域ではトロピカルな風味が生まれる。仲村さんは「大阪のテロワール」を表現することを目標に置き、ぶどうは1年1作なので仕込みができるのは残り27回ほどだ、と逆算までしています。
お茶とワイン、産地も業種も違う2人が、土地と味の関係を説明するのに同じ枠組みへたどり着いていました。
型⑤ 海の条件は、鮮度と流通の設計まで決めていた
海に面した土地では、地形が「どう運ぶか」に効いていました。
兵庫県明石市の明石蛸仙人の松本さんは、明石の海をこう説明します。潮の流れが速く餌も豊富で、海域的に良質な魚が獲れやすい。そのうえで独特なのがセリの方法でした。漁協自体が大きな生け簀になっていて、魚は生きたままセリ台に上がり、仲買人も生きたまま持ち帰ります。競り落とされた後に神経締めや血抜きを丁寧に施すため、料理人の手元に届く5日後の状態がまるで違うのだそうです。
産地の名前が営業を助けている、という指摘も率直でした。
展示会などを見てみると、聞いたことのない産地で聞いたことのない魚はやはり売るのが難しいんです。ですが明石産はメジャーで、高級というイメージがあるので商談や展示会で全くの空振りということはあまりないんです。
さらに、明石浦漁協は海の底を機械で耕して、沈殿した栄養微生物を魚が泳ぐ深さまでかき上げる取り組みも行っています。農家と協力して農地から流す水を海に流す試みもあるといいます。海の条件を「与えられたもの」で終わらせない発想です。
島根県出雲市でのどぐろ専門の居酒屋を営む日本海の加田義憲さんは、数字で産地を語っていました。
実は、のどぐろの水揚げ量は島根県・山口県と合わせて全体の7割以上を締めているんですよ。
のどぐろは日本海沖の水深200メートルの海底に生息し、底引き船で漁獲します。単一の魚種で勝負をかけるのは水揚げ量や仕入価格の面でチャレンジだったそうですが、押し寿しから丼のネタセットまで商品を広げ、9月6日を「のどぐろ感謝の日」として記念日に制定するところまで進んでいます。
自治体は、地形を「産業ポートフォリオ」に翻訳していた
企業だけではありません。自治体の担当者も、地形を産業の言葉に置き換えて話していました。
群馬県沼田市の星野市長が挙げた誘致の重点3分野は、そのまま地形の一覧になっています。第一に、豊富な森林資源と首都圏への近さを生かした木材加工。第二に、昼夜の寒暖差を生かした漢方薬栽培。第三に、市内に水力発電所が複数あることを背景にしたデータセンターです。平成2年には全国初の「森林文化都市宣言」を行い、市有林約800ヘクタールの管理を起点に、森林由来のJクレジット創出を四者連携で進めているといいます。
神奈川県横須賀市の企業誘致・工業振興課の武田祥汰さんは、半島という地形を立地の説明にしていました。
三浦半島の南部にあり、三方を海に囲まれています。自然が豊かでありながら、東京までは車・電車で1時間ほど。
港についても具体的です。横須賀港は東京湾口に位置するため速度規制の影響を受けにくく、入出港の時間短縮ができる。陸運と海運を組み合わせた物流展開ができる点が企業から評価されている、という説明でした。地図の形が、そのまま営業資料になっています。
気候の違いは、国境を越えると「作り分け」の変数になる
土地と商売の関係を、いちばん遠くまで広げていたのが東京都墨田区の根岸産業です。盆栽用の銅製如雨露をつくる、日本にただ1社残るメーカーだといいます。
世界25カ国のショップで扱っていただいていて、国によって気候や水質が違うので、環境に合わせた如雨露を作っています。
如雨露は単なる容れ物ではありません。根岸社長の説明によれば、雨水は雲から落ちる時に空気を取り込むので微生物が活性化しやすく、活性化しすぎると虫が寄ってくる。逆に水道水のようにろ過されすぎると栄養素がないので肥料で調整する必要がある。その加減をコントロールする道具のひとつが如雨露なのだそうです。
つまり、水と気候の条件が変われば、道具の設計も変わる。菊ならステンレス、バラなら真鍮といったように、植物と相性のいい金属が科学的なデータで分かるという話まで出てきます。国内で「土地ごとの違い」だったものが、輸出の場面では「作り分けの仕様」に変わっていました。
番外編:土地の風景そのものが、人を呼ぶこともある
最後に、因果が逆向きの一本を。山形県のジェラート専門店COZAB GELATOの石田さんは、埼玉出身で、イタリアに料理留学した人です。帰国後に東京で働きながら「イタリアを感じない」と悶々としていた時期に、山形を初めて訪れます。
「ここはまるでイタリアじゃないか!」と感動しまして。自然とか、風土とか、文化の残り方とか、ほんとにイタリアに似てるなぁと思ったんです。
さらに、最初の店の近くには泳げるくらい綺麗な清流が流れていて、イタリアで通ったジェラテリアも川岸にあった、という記憶と重なります。「ここはジェラートだ!」と決めたのは、その光景でした。
石田さんは、農産物の味はその年・その時期・その日で変わり、天候はもちろん生えている木の位置によっても変わる、と言います。だからジェラートの味に「ゴール」を設けず、その日の味をそのまま伝える。土地の条件を平準化せずに商品にするという考え方です。
13本を並べて分かった、土地の使い方3つ
まとめとして、編集部の側の整理を書いておきます。
1. 気候は「季節の落差」として効く。 富山の雪や北海道の冬のように、需要や作業量の山谷をつくります。ここで生まれるのは新商品より先に「谷の時間の使い道」でした。松井板硝子店のカーフィルム、床岡農園の打ち合わせの時期は、どちらも同じ問いへの答えです。
2. 不利な条件ほど、説明として強い。 痩せた土地の落花生、凍る土地の水かけ菜、石灰岩質と涼しさの猪。他所が真似できない条件は、そのまま「なぜここのものが良いのか」の答えになります。 逆に言えば、条件を消して均質にすると、説明する材料も消えます。
3. 地形は、流通と立地の設計図になる。 明石のセリ、横須賀の東京湾口、沼田の森林と水力発電。ここでは土地が味ではなく、時間とコストの話になっていました。同じ「地形」でも、食品では品質の語彙に、産業では物流の語彙に翻訳されています。
自分の会社がどの型に当てはまるかを考えると、少なくとも「うちには何もない」という結論にはなりにくいはずです。寒い、狭い、遠い、平らでない。それらは全部、まだ言葉になっていない説明材料かもしれません。
今回まとめた記事(13本)
- 富山の自動車ガラスでシェア7割。松井板硝子店が転換を重ねてきた100年
- 床岡農園とは?北海道三笠の5代目が育てるBLOF理論の米と赤肉メロン
- 激務の霞ヶ関勤めからワイナリーへの転身!飛鳥ワイン・仲村茂記が目指す「大阪のテロワール」
- 「農家さんの良い食材を発信したい」チーズケーキ専門店「ソラアオ」福本大二さんの想い
- 「ARだけ作っても仕方ない」市民が城下町を知らなかった山梨県都留市の、ポイ活を組み込んだ仕掛け
- おかやまジビエ・南社長が語る猪肉の可能性とは?
- 世界緑茶コンテスト最高金賞の日本茶を生み出す茶来未・佐々木健の次なる挑戦
- 素材よし鮮度よし!明石蛸仙人の海の幸の秘密とは?
- 「のどぐろといえば島根」をモットーに挑戦し続ける有限会社日本海・加田義憲の想い
- 企業誘致企画 沼田市編:星野市長が語る、沼田市の企業誘致戦略と「森林文化都市」の未来
- 横須賀市編:横須賀が描く「経済と福祉の好循環」──企業誘致の現場から見える、新しい自治体のかたち
- 根岸産業の銅製如雨露とは?世界のBONSAI愛好家に選ばれる理由と購入方法
- 山形発のジェラート専門店。本場イタリア仕込みの石田流ジェラートとは?
この記事を書いた人

Shikisai編集部
「ありのままの想いが地域と未来を紡ぐ」をコンセプトに、地域で働く経営者の想いと取り組みを取材・発信しているWebメディアです。補助金・認証制度などの記事は、行政機関の公表情報(一次情報)を編集部が確認のうえ執筆しています。
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