猪肉と聞くと、どのようなイメージをもたれるでしょうか?「くさみがある」「かたい」など、食材としての期待値を高く持っていない人が多いのではないでしょうか?
有限会社ミナミ・南社長が運営する「おかやまジビエみなみ」は、そんな猪肉のイメージを覆し、新たな食文化の創造に取り組んでいます。今回はそんな南社長にこれまでの取り組みと今後の展望についてインタビューしました。
電線加工業からジビエ事業への転換
ー家業を継ぐ形で社長になられていますが、小さい頃から継ぐイメージはあったのでしょうか?
南社長:家業はもともと電線加工の工場を経営していました。私自身は小学生のころからテレビゲームが大好きで、中学の部活ではコンピューター部で活動していました。大学では工学部で画像処理を使った3次元形状計測を研究していました。そう考えると、電線加工の家業を継ぐイメージはあったと思います。ただ、猪肉を売ることになるとは思っていませんでした(笑)
ーもともとは電線加工の工場だったのですね。そこからどうして猪肉の販売を始めるようになったのでしょうか?
南社長:はい、お取引先から電線の加工を依頼され、しっかりと作業を行い納めるということをやっていました。ですが、2008年に起きたリーマンショックと下請け業務の海外移転をきっかけに、工場の取引はゼロになり経営危機に陥ったんです。その時に父から社長の職を引き継ぐことになりました。ジビエ事業を始めたきっかけは、経営危機と下請け脱却を行うための事業を検討していた時に、父と交友があった地元猟師から、「地元で獲れる猪肉が味が良いにもかかわらず商売として成り立っていない」ということを知り、自分が得意としていたインターネットを利用して、地元のおいしい食材をビジネスにできないかと考えたためです。
ーでは、ジビエに関しては、ゼロからのスタートだったのですね。ジビエ販売は順調にスタートできたのでしょうか?
南社長:いえ、事業を始めたころは、売り方や売り先がわかっていなかったので非常に苦労しました。猪肉というと「聞いたことはあるけど食べたことはない」という人がほとんです。メジャーな商品ではないためお客様に手に取って頂くことが難しく、一時は「求められていない商品を、生産者のエゴで販売しているのではないか」など悩むこともありました。
ー最初はなかなか売れない時期があって苦労されたのですね。そこから今の形になるまで、どんな工夫をされて来たのでしょうか?
南社長:とにかく販路を広げるためにいろんな販売方法をやってみようということで、インターネットでの販売はもちろんのこと、地元の祭りなどのイベントに出店したり、道の駅などに商品を卸したり、飲食店やスーパー・百貨店などへの営業や、催事への出店を行ってきました。
地域の資源を活用し可能性を広げるために
ー新しい商品を広めていくのは、エネルギーが必要なことだと思いますが、それをやり切ってこれた原動力は何だったのでしょうか?
南社長:私は、常々「自分が生まれ育った町が廃れてしまうのが嫌。賑わいや魅力のある街であってほしい」と考えています。 そのためには、地域の資源を売り込むことが必要なのと、地域で生活するすべての年代の人々が生き生きとしていることが重要だと思っています。ジビエの販売は新見の自然が育てたおいしい食材で地域の発展に貢献できることと、狩猟・解体は年配者、加工や製造・販売は若い世代といったように幅広い年代の人々がかかわることができるためやりがいを感じています。 最初はインターネットという直接対面しない販売方法からスタートしましたが、今では百貨店の催事や自店舗での直接お客様と対面して販売させていただくようになり、お客様から喜びの声を直接お聞かせいただけるのが原動力です。
ーそもそも新見の猪には、どんな特徴があるのでしょうか?
南社長:岡山県の新見は自然が豊かな場所です。石灰岩質の綺麗な風土と、気候も涼しいため、ストレスが少なく育って脂も乗った健康な猪を獲れるんです。解体についても自社で行うので、どのように解体すればより新鮮で美味しくお届けできるかということも、日々研究しながらスキルアップしています。
ー猪肉などのジビエに苦手意識を持っている方も多いと思いますが、お客様の反応などはいかがですか?
南社長:猪肉に対して「くさみがあるんじゃないか」などよくない印象を持たれている方はいらっしゃいますよね。そういう方には、ぜひ一度で良いので召し上がってみていただきたいなと思います。 きちんと処理がされているものであれば、くさみなどなく肉の味がしっかりと感じられる食材なんです。 むしろ鳥豚牛は苦手だけど、猪肉なら不思議と食べられるというお客様も中にはいらっしゃるくらいです。ほかのお肉とは違う可能性を秘めた食材ですし、これからの日本の食を考えた際も、猪肉はより注目されるのではないかと思っています。
ー「猪ガリペバーガー」など、思わず食べてみたくなる商品の開発にも力を入れているようですね。
南社長:はい、まずは新見に昨年オープンした直売所を「人が集まる場所」にしていきたいと考えているんです。そのためにも「岡山の」「新見の」「みなみの猪肉」をこれまで以上に、多くのお客様に知って頂くこと。 そして、「あそこの店はおいしい商品でおもしろい取り組みをしているぞ」と思っていただけるように 企画を打ち出し続けていきたいと考えています。地域の飲食店などと連携して猪肉を使った新メニューなどをどんどん開発して、猪肉やこの地域の可能性を模索していきたいと考えています。 そして、業務用・家庭用に限らず、猪肉をはじめとした食品を加工して販売していける工場に進化できるよう事業を展開していきたいと考えています。
ー南社長が「地域に根ざす」ことを大事にされていることがとてもよく伝わります。今後、地域とどのように関わっていこうと考えていらっしゃいますか?
南社長:新見を魅力ある街にするために、自分が新見で生活し続けるために 新見=猪産業が盛んなまちにしたいと考えています。 そのためには、「猪肉のブランド化・有名化」と「猪肉が流通するための仕組みの構築」をしなければならないと考えています。 これは事業開始当初から念頭にあったことです。 都市部に比べると「なにもない所」と自分たちでつぶやいてしまうこの中山間地域で 地域に昔から存在している資源を活用して、新しい商売・経済を興すこと、興し続けていくことがこれらの地域の発展するきっかけになると信じています。
編集後記
丁寧に処理をした猪肉は、豚肉よりも弾力があって味わいも非常に深く、一口食べて感動するほどです。特に角煮にした時には脂身がしつこくなく、肉の味をストレートに味わうことができます。
南社長は新しいことにチャレンジするエネルギーに溢れ、ハンバーグやハンバーガーなど、次々と新しい商品を開発されています。お近くにお住まいの方はぜひ一度お店に行ってみていただきたいですし、遠方の方もオンラインショップで猪肉を購入することができます。
今後の日本の食文化を考える上でも、猪肉はこれからより注目を集めてくる食材です。冬はぼたん鍋、夏はBBQ用、オールシーズンで猪ハンバーグなど、この機会にぜひお試しいただければ幸いです。