神奈川・東京・埼玉エリアで駆けつけロードサービスを展開する「Aspiration/HI-JUMP」。代表の岡本真司さんは、バッテリー上がりやタイヤトラブルなど、生活の“急所”に発生する課題に対し、明朗な料金体系と誠実な対応を徹底しています。一方で、ロードサービス業界には不透明な価格や強引な営業が残る現実もあると語ります。線路工事、ITサポート、物流、業務委託…多様なキャリアを経て辿り着いた「適正価格で困りごとを救う」という理念。岡本さんの道のりと、現場で見つけた業界の構造を紐解きます。
今回は 石塚直樹がナビゲーターを務め、アスピレーション(Aspiration/HI-JUMP)代表・岡本真司さんに、キャリアの歩み、ロードサービス業界の構造、そして“適正価格での駆けつけ”という理念について伺いました。
目次
キャリアの原点──想定外から始まった社会人生活
石塚:
岡本さんは、社会人としてどのようなスタートを切られたのでしょうか。
岡本さん:
高校卒業後は、実家が塗装業を営んでいたので「自分もそのまま家業に入る」と考えていました。そのため、同級生が就職活動をしている中でも、自分は就職先を探していなかったんです。ただ、ちょうど自分の世代は“氷河期世代”と呼ばれていて、家業の仕事も少しずつ減っていました。最終的に塗装の仕事を続けることが難しくなり、予定していた道を変更せざるを得なくなりました。
石塚:
予想していた進路が突然閉ざされたわけですね。
岡本さん:
そうですね。その時に、同級生の知り合いが線路工事の仕事をしていて、「アルバイトで入ってみないか」と声をかけてもらいました。それが最初の仕事です。そこから気づけば15年。昼夜の勤務が続くかなりの肉体労働でしたが、働き続けるうちに長いキャリアになりました。
石塚:
15年続けられた理由は何だったのでしょうか。
岡本さん:
正直、気づいたら続いていたという感覚です。ただ、30代前半の頃に「この働き方は40代になったら体力的に持たない」と感じました。昼夜の入れ替わる勤務ですし、身体への負担も大きい。だからこそ「今のうちに別の働き方を考えないといけない」と思うようになりました。
石塚:
そこでキャリア転換を考え始めたのですね。
岡本さん:
はい。線路工事の仕事は嫌いではありませんでしたが、体力に依存する働き方は長く続けられないと感じていました。段取り力や現場対応力など、そこで培った力は大きかったと思います。ただ、「このままでは先が見えない」という感覚が強くなり、別の可能性を探し始めたのが転機でした。
ITサポートで得た“状況を正確に掴む力”
石塚:
線路工事から、次はどのような道へ進まれたのでしょうか。
岡本さん:
体力仕事を続けるのは難しいと感じたので、まったく違う分野に挑戦しようと思い、外資系のテクニカルサポートセンターに入りました。パソコンやスマートフォンの不具合について、困っている方から電話を受け、原因を切り分けていく業務です。
石塚:
大きな転換ですね。なぜITサポートを選ばれたのですか。
岡本さん:
手に職をつけられ、将来長く続けられる仕事を探していました。当時からパソコンが生活の中心になっていく流れは強く感じていましたし、学んでおけば必ず役に立つと思ったからです。
石塚:
テクニカルサポートでは、どのような業務を担当していたのですか。
岡本さん:
基本的には、パソコンやスマートフォンの操作ができない・動かないというお問い合わせを受けて、ヒアリングしながら原因を特定していきます。例えば、ソフトウェアの問題なのか、アプリによるものなのか、ハードウェアの不具合なのか──電話越しに情報を整理して切り分ける必要があります。
石塚:
電話だけで状況を把握するのは難しそうです。
岡本さん:
本当に難しいです。お客様も状況が把握できていないことが多いですし、誤った認識で説明されることもあります。こちらも推測しながら確認しなければならず、正確な判断に時間がかかることもありました。画面共有サービスも始まっていたのですが、まだ使いこなせる方が少なかったので、“現場を見なければ分からない”という感覚が強くなりました。
石塚:
その「現場で見なければ分からない」という感覚は、今の仕事にもつながっているように感じます。
岡本さん:
そうですね。ロードサービスはまさに「現場で見る」ことがすべてなので、そこで得た感覚は大きかったと思います。お客様の話だけでは状況が断片的で、判断材料としては足りない。実際に現場へ行き、車の状態を見て、触って、ようやく正確な対応ができる。ITサポートの経験が、その重要性を再確認させてくれました。
石塚:
ITサポートの経験は、コミュニケーション面にも影響していそうですね。
岡本さん:
大きかったですね。相手がどこまで理解しているのか、どこでつまずいているのかを丁寧に聴き取る力は、ロードサービスでもそのまま活きています。特にトラブル時のお客様は焦っているので、落ち着いて状況を整理しながら聞き取り、安心してもらうことが重要になります。
石塚:
ITサポートの経験が、後の独立や現場判断のベースになっているのですね。
岡本さん:
そう思います。技術的な知識よりも、「状況把握」「切り分け」「相手に合わせた説明」という力が大きく残っています。それらは今のロードサービスの現場で、毎日使っているスキルです。
独立準備とコロナ禍──止まった計画と再構築
石塚:
ITサポートを経て、独立を意識されたのはどのタイミングだったのでしょうか。
岡本さん:
5年ほどテクニカルサポートを続けていた頃、「そろそろ独立してみたい」という気持ちが強くなりました。当時考えていたのは、パソコンの不具合を出張で解決するサービスです。トラブルを現場で直接見る必要性を痛感していたので、ニーズはあると感じていました。
石塚:
すでに方向性は見えていたのですね。
岡本さん:
はい。チラシを用意したり、ポスティングの準備をしたり、宣伝の段階まで進めていました。ところが、ちょうどそのタイミングで新型コロナが広がり始めたんです。
石塚:
ダイヤモンド・プリンセス号のニュースの頃ですね。
岡本さん:
そうです。2020年2月頃に横浜港でダイヤモンド・プリンセスの報道があり、「これはまずいことになる」と感じました。最初は一週間ほど様子を見るつもりでしたが、状況はどんどん悪化していきました。
石塚:
出張型のサービスでは、確かに難しい状況ですね。
岡本さん:
知らない人が家に来ること自体が受け入れられない雰囲気になり、計画していたビジネスは完全に止まりました。ロックダウンのような空気になり、出張修理は不可能になりました。「出鼻をくじかれた」という表現が近いですね。
石塚:
計画がすべて白紙に戻ってしまったわけですね。
岡本さん:
はい。独立に向けた準備も止まり、そこからしばらくは何も動けませんでした。とはいえ仕事をしないわけにはいかないので、物流関係の倉庫で仕分けの仕事を始めました。
石塚:
そこから物流の現場に入ることになるのですね。
岡本さん:
はい。大手物流会社の倉庫で3〜4年ほど働きました。途中で「新しい小型拠点を立ち上げるので入ってほしい」と声をかけてもらい、3人ほどの少人数チームでスタートアップのように仕組みづくりを行いました。
石塚:
立ち上げ業務は経験値として大きそうですね。
岡本さん:
大きかったです。人員配置、動線設計、業務手順の整備など、自分たちで仕組みを組み立てる経験は、その後の独立にも役立ちました。「現場をどう回すか」を考える力がついたと思います。
石塚:
そして、ここから再び独立へつながるわけですね。
岡本さん:
そうです。拠点の立ち上げが落ち着いた頃に、「今ならまた違うことに挑戦できる」と感じました。まずは配達の業務委託の仕事を始めて、そこが初めての本格的な個人事業主としてのスタートです。その時一緒に仕事をしていた仲間から“ロードサービスの仕事がある”と教えてもらい、試しにやってみたことが現在の事業につながっています。
物流現場で培った組織立ち上げの実践知
石塚:
倉庫仕分けの仕事から、具体的にどのような経験を積まれたのでしょうか。
岡本さん:
物流の現場では、まず作業量の変動が大きいことを前提に動く必要があります。荷物が多い日もあれば少ない日もある。人員も常に一定ではない。そうした中で、どう効率よく処理するかを考える機会が増えました。
石塚:
変化が激しい現場で、判断力が磨かれたのですね。
岡本さん:
はい。さらに途中で「新しい小規模拠点を立ち上げる」という話があり、そこに参加したことで経験値が一気に広がりました。メンバーは3人ほど。設備も最低限。ゼロから仕組みを作る必要がありました。
石塚:
3人で立ち上げというのは相当大変な環境ですね。
岡本さん:
大変でしたが、やりがいは大きかったです。どこに棚を置くか、荷物の動線をどうするか、仕分け作業をどう効率化するか…。自分たちで考え、試し、改善する。その繰り返しでした。現場の仕組みづくりを経験できたことは、今の独立後の事業運営にも強くつながっています。
石塚:
どのような力が特に今につながっていると感じますか。
岡本さん:
段取り力と全体把握の力です。ロードサービスも、結局は「限られた時間でどれだけ効率的に動くか」の仕事です。依頼が重なることもあるので、どの案件を先に行くか、どれが時間がかかるか、どのエリアが優先か──物流で鍛えられた判断力が大きく役立っています。
石塚:
組織立ち上げが、個人での動きにも影響を与えているわけですね。
岡本さん:
そうです。ロードサービスは個人で動く場面が多いので、自分で段取りを組んだり、仕事の流れを組み立てたりする力が重要になります。物流で学んだ「仕組みをつくる能力」が、今の仕事を支えていると感じています。
石塚:
物流現場での経験を経て、ついに独立への道が拓けたのですね。
岡本さん:
はい。拠点の立ち上げが一段落したところで「今なら次のステップに進める」と思いました。そこで、配達の業務委託に入り、個人事業主として正式に動き始めました。その頃、一緒に働いていた仲間が「ロードサービスの仕事がある」と紹介してくれて、試しにやってみたら、自分の経験や性格にも合っていると感じました。そこから本格的にロードサービスの仕事に入っていきました。
ロードサービス参入と“適正価格”への確信
石塚:
ロードサービスの仕事に入られた当初、どのような印象を持たれましたか。
岡本さん:
最初は「専門的な技術が必要なのでは」と思っていましたが、実際に触れてみると、一般の方でも動画などを参考にすればできる作業も多いと分かりました。もちろん知識があるに越したことはありませんが、バッテリージャンプや簡易的なパンク修理などは、現場経験を積めば習得できます。
石塚:
参入のハードルが思ったより低かったわけですね。
岡本さん:
そうですね。ただ、その一方で「価格の仕組み」に強い疑問を持ちました。自分が所属していた大手系列の現場では、お客様が支払う金額の 6〜7割がマージンとして引かれてしまう んです。例えばバッテリージャンプ1万円の仕事をしたとしても、自分の手元に残るのは3,000〜4,000円程度でした。
石塚:
かなり大きいマージンですね。
岡本さん:
そうなんです。そのせいで、適正な価格を提示しようと思っても、価格を上げないと自分の収入が成り立たない構造になっています。「2万円にすれば8,000円残る」というような話になり、結果としてお客様の負担が大きくなる。これはおかしいと思いました。
石塚:
その構造に強い違和感を覚えたわけですね。
岡本さん:
はい。自分が直接やれば、マージンも広告費もほぼゼロなので、 1万円で十分に成り立つ と確信しました。実際、大手では2万1,700円ほどかかるケースでも、自分たちは1万円で提供できています。
石塚:
利用者側からすると、2倍以上の差が出るわけですね。
岡本さん:
そうなんです。さらに、多くのお客様は相場を知らないので、「高いけど緊急だからしょうがない」と思ってしまう。中には、電話の段階で金額を言わないよう指示する会社もありました。お客様が落ち着くと料金が気になり始めるため、あえて短く会話して見積もりを避けるんです。
石塚:
非常に計算された動きですね。
岡本さん:
そうなんですよ。自分はそこに強い疑問を持ちました。自分のところでは、お客様が不安そうであればその場で料金を伝えますし、比較のために大手の価格も説明します。それで安心していただいた上で伺うようにしています。
石塚:
安心感がまったく違いますね。
岡本さん:
はい。うちは 料金表をホームページにすべて掲載 しています。例えばジャンピング作業なら1万円。バッテリー交換が必要になっても、交換作業代のみをいただき、ジャンピング代は加算しません。他社ではジャンピング+交換の二重で請求されるケースもありますが、それは適正ではないと考えています。
石塚:
段階ごとの説明も徹底されているのですね。
岡本さん:
現場で状態を見て、初めて正しい判断ができます。だから「こういう段階を踏みますが、最終的にはこの金額です」という説明を必ずします。お客様が選べる状態にすることが大事だと思っています。
石塚:
適正価格を守るという姿勢には、どのような背景があるのでしょうか。
岡本さん:
単純に、「お客様が困っている時に、適正な金額で助けたい」それだけです。必要以上に高い金額を取る必要はない。自分でやれば半額で品質も保てるのなら、そちらを選ぶべきだと考えています。そして、自分にもきちんと利益が残る。双方にとって正しい形だと思います。
現場で見た業界課題と、健全化への展望
石塚:
ロードサービスの現場では、さまざまな案件に向き合われていると思います。印象に残っている出来事はありますか。
岡本さん:
あります。特に衝撃的だったのは「自転車のパンク修理」で呼ばれたケースです。本来ロードサービスが対応する内容ではありませんが、依頼元の会社が“どんな案件でも受ける”方針だったため、案件として回ってきました。
石塚:
自転車のパンクですか。確かに専門外の案件ですよね。
岡本さん:
そうなんです。こちらとしてもパンク修理キットを持っていませんし、前提としてサービスの範囲外です。そこで会社に「どう対応するのか」確認したら、返ってきた答えが “自転車を積んで自転車屋に持っていき、修理して戻ってくればいい。その上で4万円くらい請求すればいい” というものでした。
石塚:
4万円…。自転車が買えてしまいますね。
岡本さん:
まさにそうです。自転車のパンク修理は1,000〜2,000円、多くても5,000円ほどで済むものです。それを4万円請求しようとするのは、どう考えても適正ではありません。私が「その金額をお客様に伝えたのですか?」と聞くと、「言うわけないじゃん」と。現場に行ってから請求するつもりだったわけです。
石塚:
完全にトラブルになりますね…。
岡本さん:
はい。もしその通りに動いたら、詐欺として警察を呼ばれてもおかしくないレベルです。そこで私は、お客様に正直に事情を説明しました。「本来対応外であり、会社は4万円請求しろと言っているが、それは適正とは言えない」と。幸い、お客様は高齢の男性で理解のある方でした。
石塚:
正直に話されたわけですね。
岡本さん:
そうです。その上で、「お金はいらないので今回は私の同僚を呼んで修理だけしてもらいます」と伝えました。ちょうど近くにいた仲間がパンク修理セットを持っていたので、持ってきてもらって無料で対応しました。お客様も非常に喜ばれて、後日その方の娘さんからもお礼の連絡をいただきました。
石塚:
本来のロードサービスの姿勢そのものだと感じます。
岡本さん:
一方で、業界には“トラブル覚悟で高額請求をする”会社も存在します。「揉めてもいい」という指示を事前に受けることもありました。その考え方が現場の混乱や不信感を生み、サービス全体の評判を下げていると感じています。
石塚:
そうした背景があるからこそ、適正価格を徹底されているわけですね。
岡本さん:
はい。だからこそ今後は「業界を健全化する仕組みづくり」が必要だと考えています。例えば、会員制・サブスク型の駆けつけサービス の仕組みなども構想しています。信頼できる業者が適正価格で対応する仕組みがあれば、詐欺的な業者の入り込む余地は大きく減ります。
石塚:
“安心して依頼できる場所”をつくるということですね。
岡本さん:
そうです。車に限らず、水道・鍵・害虫駆除などの駆けつけサービス全体に言えることですが、不透明な料金体系や不誠実な対応が多い分野でもあります。だからこそ、透明性のある価格で、適正に、迅速に対応できる仕組みを5〜10年かけて整えていきたいと考えています。
石塚:
最後に、困りごとに直面した人へメッセージをいただけますか。
岡本さん:
トラブルが起きた時は、とにかく一度落ち着くことが大事です。電話する前に深呼吸を2〜3回するだけでも判断力が戻ります。値段を教えてくれない業者や、料金表がない業者には注意してほしいです。適正な業者であれば、必ず明確な説明があります。安心できる業者を選んでいただければ、トラブルは確実に減ります。
編集後記
今回の取材を通じて強く感じたのは、岡本真司さんが語る「適正価格」の背景には、単なるサービス運営ではなく、現場で積み重ねてきた“構造的な理解”があるということでした。線路工事、ITサポート、物流、業務委託という多様なキャリアは一見バラバラに見えますが、どれも「状況を正確に把握する」「仕組みを組み立てる」「相手の立場を理解する」という共通点でつながっています。
ロードサービスは緊急性が高く、利用者は冷静な判断が難しい場面で依頼を行います。その構造に付け込むように、高額請求や不透明な見積もりが発生する。岡本さんはその“脆弱な瞬間”を誰より理解した上で、料金表の公開や事前説明など、透明性を徹底した運営を続けています。現場で起きた不正確な対応や不誠実な商習慣に触れた経験が、いまの理念をより強固なものにしているように感じました。
「まず落ち着いてください。それから判断できます」。岡本さんが繰り返し語ったこの一言は、ロードサービスに限らず、混乱や不安に直面した時に必要な姿勢そのものです。駆けつけというサービスは“技術”だけでなく“信頼”で成立している。今回の取材で、その本質を改めて理解することができました。
ご紹介
Profile
Aspiration/HI-JUMP
岡本 真司
大阪府出身。15年にわたり線路工事業に従事したのち外資系IT企業に入社し、テクニカルアドバイザーとしてパソコン操作のサポートに携わる。
その後、運輸業を経て「Aspiration」を設立し、バッテリー救急サービス「HI-JUMP」を立ち上げた。
完全明朗会計と適正価格にこだわり、不透明な請求が横行するロードサービス業界に一石を投じている。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。