キャリア官僚出身の若き副市長が目指す、地方自治体DXとは?


新潟県三条市副市長 上田 泰成 UEDA YASUNARI

2023年4月に32歳という若さで新潟県三条市の副市長に就任された上田泰成副市長。経済産業省に勤めるキャリア官僚から、三条市の副市長に転身され、非常に注目が集まっている方です。今回は上田泰成副市長に、三条市の課題や、未来に向けての取り組み、地域企業のこれからについてお話を伺いました。

ー本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、キャリア官僚から副市長への転身というのは非常に珍しいと思うのですが、どういった経緯があったのでしょうか?

上田副市長:もともとは新卒で文部科学省に入省しまして、教育行政に関わっていました。その後、経産省へ出向する機会があり、そこでe-sportsやWeb3.0、DXなどの新成長産業の分野に携わっていました。そんな中で副市長の話をいただいた流れです。三条市の滝沢市長も37歳で若いんですが、市長の方から中央省庁から誰か副市長を出して欲しいという要請があったようで、人事部署の方で色々と探っていたようなのですが、私にも声がかかりまして、何人か候補はいたようですが、手をあげたら通ったという経緯です。

ーではいわゆる人事異動で来たということなのでしょうか?

上田副市長:一応そういうことになります。ただ、公務員法の関係で割愛退職というのをして、文科省に辞表は出しています。副市長の任期は最大4年ですが、今後どうなるかは全然わかりません。なので、今はとにかく職責を全うする所存ですね。

ーご自身のキャリアにとっては大きなことなのではないかと思いますが、どのように捉えていますか?

上田副市長:そうですね、もともと三条市に限らず、地方で働きたいという思いはずっと持っていたんです。霞ヶ関にずっといても地方の実態っていうのはやっぱりわからない。それだと、日本全体の生産性の向上や成長には繋がらないというのは思っていたんです。だからいずれは地方で働きたいっていうのはずっとありました。なので、タイミングが来たから、もうその場で手を挙げて、という感じです。

現場は地方にある

ー地方で働きたいという思いはどういったところから来たのでしょうか?

上田副市長:文科省や経産省の経験を踏まえても同じなのですが、結局、現場ってやっぱり地方にあると思うんです。例えば地方の学校があるからこそ、文科省が存在します。学校が1つもなかったら文科省の存在する意味もないわけです。経済でいえば、地元の商工会などの経済団体がコミュニティとして存在するのを最終的にまとめる。そういう役割で経産省という組織があるわけです。だけど、日本のGDP比でいうと、4割東京に集中してて、あとの6割地方に分散しています。この6割をどう活性化するかが、日本の生産性向上、経済成長につながっていくっていうのが、入省してからずっと思っていたことです。霞ヶ関のビルの中の机の目の前だけでやってると、何も変わらないっていうのは実感としてありました。だから、ある程度自分なりに裁量とか権限が持てる役職になった段階で、ほとんど霞が関の机におらず、出張ばかり行っていました。その時から、いろんな場所でいろんな方と意見交換しながら、やっていました。

ー文科省時代や経産省時代からも現場を重視して動いていらしたんですね。着任して三条市の現状を目の当たりにしてみてどう感じましたか?

上田副市長:率直にいうと「キツい」です。道路がガタガタだったり、雑草は生えてるし、若者は全然いないし。娯楽施設もないし、公共施設もボロボロで。今の若い世代は、やっぱりそりゃ新潟市とか長岡とか、東京に行くよねっていうのは感じます。新潟の三条市の場合は夏がすごく暑いんですよ。何年か前にあの40度を記録して、今年も39度くらいあって。冬はこれから雪のシーズンなので、生活しづらいんですよね。そういう気候的なところもありますし、率直に着任した感触としては「キツい」の一言ですね。

移住推進施策ではなく「循環を作る」施策を

ーそういった環境の中で、実際にどういう対処をしていこうと考えられていますか?

上田副市長:大きな軸としては、いかに首都圏の人口をこっちに持ってくるかという点です。移住政策というのはどこの自治体でもやっていますよね?例えば「子育てするなら〜〜」みたいな。キャッチフレーズをつけてみたりということもあると思うんですけど、実はああいう施策って、反動が来てしまうんです。隣の自治体から一気に人が流れちゃうと、その自治体の公共インフラがパンクしてしまう。そういう点は気をつけなければならないです。さらに、移住ってやっぱりハードルが高いんですよね。車が必須だったり、色々とものを揃えたりしないといけない。さらに、リアリティショックというのですが、移動した後に受けるショックが大きくて、やっぱり首都圏に帰ってしまう人たちが結構いるんですよね。そこに対処しようにも、そもそも限界がある。なんとかしようとして、首都圏の劣化版を作っても仕方ない。だから、三条市ならではのバリューをちゃんと出していく必要があります。例えば三条市には、空き家が2000件ほどあります。これを活用して、首都圏のテレワークができるビジネスマンに向けて、アウトドアの自然体験をしながら2〜3日くらいのワーケーションを提供する。三条市は新幹線で2時間弱で東京から来れますので、日帰りでも全然来れるんです。そういった他の自治体との差別化ポイントをうまく使いながら勝ち筋を見つけていく必要があると思っています。

ー何かそこに向けて、具体的な取り組みも進めているのでしょうか?

上田副市長:PwCさんやDNPさんなどの首都圏で大きいコンサル会社とか、ITの会社さんをお招きして、実際に空き家を見学してもらって、サテライトオフィスやワーケーションで使ってもらえるよう、見学ツアーを組んだりと取り組みを始めています。また、来年の事業として計画しているのは、マインクラフトなどのメタバースゲームで、理想の空き家をメタバース空間に作ってもらって、そのコンテストを行なって、それを実際にデベロッパーに立ててもらう。デベロッパー側も、実際にユーザーからどんな建物のニーズがあるか掴みきれないところがあるなかで、デジタルを活用して、情報を提供し、空き家を使って再現し、それに惹かれて三条市に来る人が増えて、、そんな形でデジタルも絡めながら循環していくモデルができると良いなと思っていて、いま進めています。

ーインバウンド関連で何か狙っていることや進めている施策などありますか?

上田副市長:三条市は今年の7月に「アウトドアのまち三条」を宣言しましたが、一方でコロナ禍から比較するとキャンプへの来客数が少しずつ下がってきているという指摘もあります。なので、いかに外国人観光客を取り込むかは重要な観点です。いまできたら良いなと思っているのは、私が経産省時代に携わっていたNFTなどを活用して、例えばキャンプに由来したものを販売して、それを買ったらここでキャンプの体験ができるという特典をつける。そんな形で海外で盛り上がっている新しい市場に何らかの形で切り込んでいきたいと思っています。また、三条市は刃物の製造が有名で、面白いところで言うとフィギュア専用のニッパーなど売っているんです。日本のフィギュアってやっぱりまだ海外から人気は高いので、そういったところも絡めて、色々模索している最中ですね。

ーこれまでのご経験をフル活用しながら、多方面で街おこしに奔走されているわけですね。副市長としての役割期待は他にどのようなものがあるのでしょうか?

上田副市長:1つは役所組織のDX化です。KDDIさんとデジタル包括協定を10月に結んだのですが、実はこれを元にKDDIさんから人材を送ってもらっているんです。30歳くらいの若い方なんですが、このデジタル包括協定で人材まで送るというのはなかなかないことなんです。その方が、着任して一ヶ月ぐらい経つんですけど、いろんな庁内の業務効率化をデジタルを駆使してどう進めていくか、という報告を逐一受けている状況です。今はこちらにも非常に力を入れていますね。街づくりという、三条市の営業的な攻めの部分と、役所内の業務効率化の守りの部分、この両輪がしっかりできていることが重要だと思うので。

ー地域の経済に対してはどのように思われますか?行政の立場から、課題として見えるものなどあればお聞かせください。

上田副市長:燕三条エリアって社長の数が日本で一番多いといわれていて、中小企業の街なんですよね。5000人ぐらい社長がいるといわれています。なので社長の意識が重要になってきます。今、人的資本経営と言われてたりしますけど、その組織の中の人に対してどれだけ投資できるかが企業にとってのメリットに繋がります。それが職場のウェルビーイングにつながって、それが利益につながるという、いい循環をどうやって生み出せるかというのはテーマです。いま、産官学でビジョンを取りまとめて、いろんな企業に入ってもらって、ようやく浸透してきているかなと思います。

県外の学生が三条市に就職する流れを

ー地元の企業さんたちが共通して抱えている課題などはどのようなものがあるのでしょうか?

上田副市長:やはり採用の部分かなと。ものづくりをしたいといって、外から就職してくる人は増えてきているんですが、若者は外へ就職してしまう現状があります。ここに対する取り組みとして、3年前に三条市立大学を設立しています。まだ3年生までしかいないのですが、県外からの入学者が5割以上いるんです。ただ、普通はどうしてもその後地元に戻ってしまう。そこをなるべくこのまま三条市内に就職してもらえるよう、様々な取り組みを行なっています。例えば3年生は16週間のインターンシップが、自分の興味のある企業でできたりします。それが結果につながると良いなと。またこの取り組みが企業側にとっても刺激になっているようで、学生と長期間に渡って直接的に関わることで、今の若者が職場にどんなことを求めているかということを感じて、様々な改善を行なっていると聞いています。いわゆるZ世代は執務環境を重要視するとか、SDGsなどの文脈も重視するなど、そういった生の情報に触れることで、人材確保のための環境整備などが進んでいるようです。

ーありがとうございます。最後に上田副市長が任期中に「これだけは成し遂げたい」というような目標をお聞かせください。

上田副市長:やはりデジタル領域をずっとやっていたので、その価値は出していきたいと思います。先程お話しした、街おこしや業務効率化をデジタルを活用して進めていくことが自分の役目だと思っています。あと、他にやりたいこととして、e-sportsを活用した街おこしやコミュニティ作りというのもあります。e-sportsって、老若男女誰でも参加できるコミュニティ作りになると思っているんです。三条市でも高齢化が非常に問題になっています。そこを例えば、学生のe-sportsのサークルと一緒に、ボランティアでお年寄りとゲームを楽しむ。そうして人が集まる場所を作って地域を活性化させていく。これを行政が少し後押しする。そういういろんな世代が表に出てこれる街づくりをやっていきたいと思っています。

加えて、11月に鹿児島で実施された全国都道府県対抗eスポーツ選手権において、北信越代表として新潟県から三条市の「ひからいと」山田明宙さんが準優勝(全国2位)しました。このような素晴らしい成果を契機として、e-sportsを通じた「新たなつながりや体験」の創出、新しい文化や社会の創造、地域活性化への貢献に繋げていきたいと思っています。

編集後記

非常にアグレッシブに新しい取り組みにチャレンジしているお話を伺うことができました。地方自治体の街おこしというと、どうしても各地で取り組みが似通ってしまう傾向があると思いますが、上田副市長はこれまでの経験を踏まえて、他の自治体にはない取り組みを推進しています。こうした取り組みが実を結べば、他の多くの地方自治体の課題解決にも資すると感じました。今後の更なるご活躍が楽しみです。

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新潟県三条市副市長

上田 泰成 UEDA YASUNARI