農園「きしの屋」は千葉県南房総地域の特産品である「房州びわ」を無農薬で栽培しています。自動車整備士としての経歴を持つ穂積 秀和氏がびわ栽培を始めたのは令和元年。令和4年、5年には2年連続で皇室献上びわに選出されています。穂積さんにびわ農家ならではの苦労や喜び、今後のビジョンなどをお伺いしました。
移住して自動車整備士からびわ農家に転身
ー穂積さんは自動車整備士をされていたそうですが、それまでと違ったびわ農家を始められ、栽培方法などはどなたから教わったのでしょうか。
穂積さん それまで植物を育てた経験もなかったので、最初は近所のおじさんをつかまえて聞いていました。近所には、びわ農家でなくても昔から育てている人はいっぱいいるんですよ。道の駅にちょっと出したりとか。
房州びわって大きいのが特徴なんですが、本当は花が咲き終わる前に8割くらい間引いて、1個ずつ実に袋をかけるんです。最初は袋をいっぱいかけたくなっちゃって、かけすぎたらやっぱり小さい実にしかならないので。それで1年目とかは失敗していましたね。
ー写真で見てもすごく立派なびわですね。房州びわを育てるのはやっぱり結構手がかかるのでしょうか。
穂積さん つぼみを落とす間引きの作業と春先に袋をかける作業、収穫作業と、繁忙期が大きく分けて3回です。ほかの果物を作ったことがないのでわからないんですけど、デリケートで扱いづらい果物だとは思います。周囲にも、やっぱりもうびわほど大変なのはないっていう人はいっぱいいますね。
例えば袋を3万かけたとしても、実際にお客さんの手に届くのは多分そのうちの半分ぐらい。収穫の直前に落ちちゃうのもあるし、ちょっとでもぶつけると黒ずんだり、傷みがすぐに出たりするので。傷むのもすごく早く、やっぱりもぎたてが一番おいしいので、基本的に予約販売で、収穫したら次の日か、次の次の日に発送するようにしています。
2年連続で皇室献上びわに選出
ー皇室献上びわに選ばれたとのことですが、どういう経緯で声がかかるのでしょうか。
穂積さん 自分でもびっくり。房州びわ農家の組合連合会が8個の支部に分かれてるんですね。それぞれの支部の代表で1人ずつ出して、皇室献上品の選考会を行うんです。それで、僕がいる岩井地区で2、3年前からやらせてほしいって言って。ベテランの人たちは、高齢化もあって通常の業務にも支障出ちゃうし、もういいから「ほかの人にやってもらえよ」みたいなところもちょっとあって、僕に回ってきたんです。
令和4年からやらせてもらって、その年は4位で上皇后の美智子さまに食べていただきました。令和5年はたまたま運が良くて1番で、天皇陛下への献上品に選んでもらえました。
ほかの地区だと代々ベテランの人がやっているはずで、多分僕みたいなのは普通だったらやらせてもらえない。所属している地区がいい人ばっかりなんで、やりたいならやってくれよという感じで。
ー元々は全く違う地域にいらっしゃったそうですが、すごくなじんでいらっしゃるんですね。
穂積さん 周りの人がほんとに優しくて、すぐになじめました。
地域とお客様の喜びがモチベーション
ー穂積さんがお仕事をされていく中で、どういうところが一番のモチベーションだと感じていますか?
穂積さん 実際びわを育ててお客さんに食べてもらうと、「おいしい」って言ってもらえることも結構あるので、人に喜んでもらえるところですかね。地域の人に喜んでもらえるのも、やっぱりいいですよね。受け入れてもらえているっていうふうに感じるし。
30代40代とかでびわをやり始める人って、この地域でほぼいないんですよ。家にびわがあっても、子どもの世代は大変なのを見ているらしくて、絶対やりたくない、と。実際若くはないんですけど、周りの人は「若いのにがんばっているね」みたいに、すごく声をかけてくれるんですよ。こっちが聞きたいことや聞いていないことまでいろいろ教えてくれる優しさもあって。人に喜んでもらえる仕事かなとは思います。
ー穂積さんが今後どうしていきたいかという、お仕事に対するビジョンをお聞かせください。
穂積さん 今は兼業で仕事をしているんですよ。びわは実働が半年で、あと半分は農協の農機具を修理する部門で整備をやっています。だから、普段は何もなければ平日はそっちに行って、土日で草刈りしたり木を伐ったりと管理をやっている状態ですね。
うちの規模では全然もう小さ過ぎるので、専業びわ農家でやっていけるほどではないので、副業というか、休みなしにやっていますね。雨が降れば休みって感じです。なので、農園をもっと大きくしていきたいというのが目標ですね。圃場を広げて、働いてくれる人も増やしていきたいです。
ー穂積さんの栽培したおいしいびわが、より多くのお客様の手に届けられる日が楽しみですね。本日はありがとうございました。
編集後記
大変だというびわの栽培も楽しそうに語ってくれた穂積さん。日々の努力はもちろん、周囲の人とのコミュニケーションを積極的に取り、地域になじんでいるからこそ、すばらしい結実にもつながっていると感じました。きしの屋のびわは公式サイトにて期間限定で販売されます(5月1日開始予定)。例年、収穫数には限りがあるとのことですが、おいしいびわを求めている方はぜひチェックしてみてください。