ニッチで地域の一番になる。成長を続ける大松運輸が追求するビジネスとその想いとは


株式会社大松運輸 代表取締役 仲松 秀樹 NAKAMATSU HIDEKI

神奈川県で3拠点を展開する大松運輸は、住宅建材に特化した運送会社として差別化を図り、売り上げを順調に伸ばしています。また、長時間労働が多い運送業界ではめずらしく、従業員の労働環境の改善にも力を入れ、新卒やアスリート社会人を積極採用。横浜市から働きやすい職場環境づくりが評価され、「よこはまグッドバランス企業」に認定されるなど、先進的な取り組みが成果をあげています。今回は2代目社長 仲松秀樹さんに、これまでの挑戦の背景にある想いや今後のビジョンをお聞きしました。

なぜ伸びた?事業拡大でとった経営戦略とは

ー仲松さんは2代目の社長として大松運輸を継がれていますが、創業から社長就任に至るまでの経緯を教えてください。

仲松秀樹:52年前(1972年)の今日5月15日は、戦争が終わり沖縄が本土に復帰した日です。沖縄から本土に出るのにパスポートが必要なくなったことで、会長である私の父が弁護士を目指して上京。夜は大学で学び、昼はタクシーの運転手をしながら東京で生活をしてました。そして、私が生まれ、母と3人の生活を成り立たせるために親戚からシステムキッチンを運ぶ仕事を紹介してもらい、1台のトラックを買って、始めました。うちは始まりから住宅分野の配送なんです。

仲松秀樹:そして18年前の2006年、33歳で社長に就任しました。実は20歳のときに一度入社していますが、若さもあって思うようにいかなかったことから辞めています。退社後は、ペットフードを扱う会社や建具メーカーの会社で働きながら、埼玉県飯能市で家を購入し、子どもも生まれて家族で暮らしていたのですが、父が60歳を過ぎてトラックに乗れなくなったことをきっかけに、もう一度戻ってこないかという話が出て、後を継ぐことを決めました。

ー社長就任後、従業員数が20人から120人規模の会社へと拡大しましたが、力を入れた取り組みは何ですか?

仲松秀樹:まず、約6万3000社もの運送会社があるなかでひときわ違うことで差別化しようと、創業時から行っていた「住宅建材に特化した運送会社」を打ち出すことにしました。というのも、住宅建材の配送は、建築現場にただ持っていくだけでなく、保管場所の中まで商品を運び入れる重労働な業務です。しかも誰もいない場所で、あらかじめ教えてもらった番号をもとにキーボックスを開けて中まで運び入れるので、信頼がないとできない仕事でもあります。ニッチだし、なかなかできる運送会社がないんですね。ここを尖らせようと思ったんです。そこでホームページを立ち上げ、社会に広く認知してもらうための発信の場をつくりました。

仲松秀樹:その次に力を入れたことが、新卒採用です。いずれドライバー不足になると言われていたので、何か対策を打たなければいけないと思っていました。当時は中途採用がメインで、給与が他社より2割ぐらい高かったため求人を出せば応募が来る状況でしたが、これからの若い人材は、ホワイト企業に限りなく近い会社でないと、とれないと感じていました。

仲松秀樹:従業員が20人規模のときは、インフルエンザや怪我でも会社を休めなかったですね。配送という仕事は必ず次の日の分を積み置きするので、明日も絶対に仕事やるよっていう世界でした。「子どもの運動会で土曜日休みます」と言えないので、若い子をはじめ今後は続かないだろうなと感じました。従業員が生き生きと働くことは大切なことです。まずは従業員数を増やし、労働環境を整えていきました。

仲松秀樹:そして残業なし、週休2日、有給取得が当たり前の労働環境をつくると同時に、会社のユニフォームを作り、企業理念やビジョン、ロゴマークをホームページで開示するなど、この時期に会社を組織化しました。新卒採用は2015年から始め、この9年間で、多いときの新入社員数は7、8人くらい、今年(2024年)は4人でしたね。

ー2020年以降、誰もが働きやすい職場環境づくりを積極的に進める企業として「よこはまグッドバランス企業」認定を継続して取得されています。取得しようと思った理由を教えてください。

仲松秀樹:ひとつは、採用力を高めるためです。会社を選ぶ基準として、こうした認証を持っているほうが選ばれやすいですよね。もうひとつは、従業員とその家族である奥さんや子どもに、安心して勤められる会社だと思ってもらうためです。

ー従業員の働き方は変わりましたか?

仲松秀樹:5月から産休に入る事務の従業員がいますし、2カ月の育休を取得した男性従業員もいます。従業員が約120人いる分、誰かが休んでもほかの人員でカバーしやすい環境で、長時間勤務になりがちな運送業の中でも休みを取りやすく、残業も少ないほうですね。

ニッチだけど地域の一番に。収益アップと働きやすさを両立するエリア配送に注力

ー今後、推進したい取り組みや課題は何でしょうか?

仲松秀樹:40周年を迎えた2019年には、「大松はチームだ。ほかには真似できない事で未来のオンリーワン企業を目指していく。」というビジョンを策定しました。このビジョンをもとに、社員の負担軽減や待遇改善、そしてお客さまの運賃の高騰を抑えつつ安定して届けられるように還元していくことを考えています。そのために力を入れていることのひとつが、アスリート採用です。大松運輸ではバランスを考えたシフトを組んで競技と仕事の両立ができるよう、社会人アスリートを応援しています。今度、大きな大会の選考に残るかもしれない陸上のアスリート社員もいるんですよ。また、配送という仕事は、1日できちっと終わります。社会人アスリートは試合などで抜けることもあって、ルーチンの仕事だと続けにくい面があるので、次の日に持ち越さない点で相性がいいと思います。

仲松秀樹:2つ目はエリア配送です。大手運送会社で行われている各営業所の近くを運ぶエリア配送という手法を、住宅建材の配送ではめずらしく取り入れています。大松運輸にある幸浦・瀬谷・平塚の3拠点からだと、神奈川県のどこにでも行きやすいんです。例えば平塚だと小田原へ、幸浦なら横須賀に行きやすいし、ど真ん中にある瀬谷はどこへでも出やすい。これら3拠点の倉庫に荷物を入れてさえくれれば、エリア内で効率的、かつ安価に配送できます。これは、ドライバーの労働環境の改善にもつながるんです。例えば、幸浦から小田原へ配送すると、往復だけで業務終了の時間になって非常に効率が悪い一方で、平塚の営業所で荷物を預かり小田原へ配送すれば、効率が上がり残業も減ります。さらに、毎年従業員の給与をあげなければいけないなかで、自助努力でお客さまを増やし、混載して多くの荷物を配送すれば、1車当たりの効率と単価が上がり、給与にも反映できるんです。それによりこの5年間、収益は上がり、狭いエリアでの配送なので仕事も早く終わらせることができ、従業員の働きやすさにもつながっています。僕たちは、住宅建材の配送というニッチなビジネスをする中小企業です。幅広く手がける大企業と競うのではなく、大企業が手が出せないニッチな分野で、神奈川の一番を目指しています。

ーこの仕事のやりがいはどういうところですか?

仲松秀樹:現場で「持ってきてくれて助かるよ」と感謝の気持ちを言われたときに、モチベーションが上がった経験がありますね。僕たちが物を運ばなかったら仕事が始まらない、という責任感を持っています。また、トラックの運転が好きな人にはやりがいのある仕事です。ひとつの所にずっといるわけではなく景色が変わるし、あのときの現場はこうなってるんだ、自分が運んだキッチンを使ってるんだ、など現場ごとに思い出がありますね。この仕事は、その日その日で、きちんと終わります。営業のように休みの日に電話がかかってくることもなく、1日できちっと終わる仕事なので、リセットができる点では精神的にもいいと思います。

地域に特化し、他県と配送をシェアする「協業」で100億企業を目指す

ー2023年10月には沖縄に事業所がオープンしましたね。今後の展望を教えてください。

仲松秀樹:沖縄では低所得の方が多いですが、住宅はたくさん建っている状況です。そのため大松運輸のノウハウを持って行き事業を行うことで、彼らの給与水準を上げ、沖縄を発展させたいという想いがあります。両親が宮古島出身なので役に立ちたいですね。

仲松秀樹:また今後は、他県の運送会社さんと「協業」するプロジェクトを組み、事業の拡大を図っています。首都圏内の住宅建材の配送に特化し、例えばうちの配送ルートが埼玉県に出たら、そこの運送会社に頼み、他社から神奈川県の配送ルートが入ったらうちが配送する、という協業の仕組みを作ろうと思っています。これは、ひとつの組織を作り、そこから紐付けして並列で配送をシェアするので、今問題になっている多重下請け問題の解決にもつながります。いろいろな会社を巻き込み、10年後には100億円の売り上げを目指しています。

ー10年後に目指す100億企業には、どんな想いが込められていますか?

仲松秀樹:規模が大きければいいわけではないのですが、この18年間で従業員が20人から120人規模へと増えたことにより、誰かが休んでもメンバーで業務をカバーできるといった数のメリットを感じています。100億企業で1000〜2000人規模になれば、こうしたメリットも大きくなりますよね。また、営業所が他県や、もしかしたら海外にできる可能性もあって、そうするともっと違うイノベーションを起こしたい従業員が出てきたりと、働くモチベーションも高まるのではないかと思います。あと、100億規模の会社なら安定するだろうというのはあって。これから次の世代へ引き継いだあとも続いていってほしい、という想いがあります。

編集後記

これまで多くの道を切り開いてきた根底には、従業員が生き生きと働くことを大切にする仲松社長の姿勢が感じられました。従業員とその家族が安心できる会社でありたい、という仲松社長の言葉にあるように、従業員とその家族の幸せを第一に考えることこそが、お客さまの信頼にもつながっているのだと思います。そんな大松運輸は、ニッチなビジネスモデルを軸に運送会社を巻き込んだ“協業”に挑もうとしています。人を大切にする大松運輸の想いも一緒に、神奈川を越えて地域へ広がっていくことを願っています。

Profile

株式会社大松運輸 代表取締役

仲松 秀樹 NAKAMATSU HIDEKI