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まちづくりの裏側で積み重ねられてきた判断と対話の記録/NPO法人まちづくり山形・相羽康郎

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“まちづくり”は、完成した風景だけを見ていても、その全体像はなかなか見えてきません。
計画がどこで生まれ、どのような議論を経て形になっていくのか。
その過程は、専門的で分かりにくいものとして、市民の視界から外れてしまいがちです。

NPO法人まちづくり山形 理事長の相羽康郎さんは、そうした「見えにくさ」に向き合い続けてきました。
行政主導で進む都市計画の裏側で、住民の声を整理し、議論をつなぎ、まちづくりを市民の言葉へと翻訳する。その役割を担ってきた人物です。

本稿では、相羽さんの言葉を通して、山形で続いてきたまちづくりの実務と、その背景にある考え方をたどります。
完成図の手前で、どのような判断が重ねられてきたのか。
街を「つくる」以前に、「理解する」ための対話を記録します。

まちづくりは、いつの間にか分かりにくくなった

石塚:
まず最初に、相羽さんご自身の経歴と、NPO法人まちづくり山形との関わりについて、簡単にご紹介いただけますか。

相羽:
NPO法人まちづくり山形で理事長を務めております、相羽です。
令和元年から代表を引き継ぎました。それ以前は、東北芸術工科大学で教員として勤務していました。定年退職のタイミングと、ちょうど法人の代表交代の時期が重なり、現在の立場で業務を引き継ぐことになりました。

石塚:
ありがとうございます。
では改めて伺いますが、「NPO法人まちづくり山形」は、そもそもどのような役割を担う団体なのでしょうか。

相羽:
設立の背景からお話しすると、もともと前理事長は、県の外郭団体である都市整備公社に東京から招かれて山形に来ていました。その公社が解散することになり、まちづくり部門を何とか残したいという思いから、山形に残ってNPOを設立した、という経緯があります。

石塚:
行政組織の再編の中で、まちづくりという機能が切り離されてしまった。

相羽:
そうですね。都市整備公社は区画整理事業が中心でしたので、まちづくりが主軸になることは難しかった。その結果、解散という形になり、まちづくり業務をNPOとして引き継ぐことになりました。

行政事業として進むまちづくりの現実
── なぜ市民目線から遠ざかるのか

石塚:
相羽さんのお話を伺っていると、まちづくりは単独で存在するものではなく、行政事業に伴って発生するものだ、という印象を受けます。

相羽:
その理解で間違いありません。
日本のまちづくりは、基本的に事業主体型です。行政が都市計画道路事業や都市開発を行う際に、住民との協議が必要になる。そのときにまちづくり業務が発生します。

石塚:
行政がすべてを担うのではなく、外部にコンサルティングを委託するということですね。

相羽:
はい。行政だけでは手が回らないため、NPOやコンサルティング会社が関わる形になります。住民との合意形成や調整、そのプロセスを整理する役割を担っています。

石塚:
ただ、その構造自体が、市民からは見えにくくなっている側面もあるように感じます。

相羽:
おっしゃる通りです。
まちづくりはプロジェクト主義で進められるため、どうしても縦割りになります。全体を横断的に理解できるのは、かなり上の立場の人だけで、市民の目線では実態が掴みにくいのが現状です。

「報告書をつくる」という仕事の中身

石塚:
まちづくり業務の中核が「報告書づくり」だというお話がありましたが、それは単なる記録作業ではないですよね。

相羽:
はい。
法律や制度の整理、事業全体を束ねるマスタープランづくりなど、専門的な内容が多く含まれます。
地図や図面を作成し、委員会で議論し、その結果を報告書としてまとめていく、という流れです。

石塚:
その報告書自体が、合意形成の結果であり、次の判断の基礎になるということですね。

相羽:
そうです。
まちづくりは、一つひとつの判断を積み重ねていく作業です。その痕跡が報告書として残っていきます。

ワークショップという翻訳装置
── 専門家と市民のあいだで

石塚:
そうした専門的なプロセスを、市民にどう伝えるか。そのためにワークショップを行っている、という理解でよろしいでしょうか。

相羽:
はい。
新体制になってからは、市民にとって分かりにくいまちづくりを、開いていくことを意識しています。
その手段の一つがワークショップです。

石塚:
具体的にどのような形で進めているのでしょうか。

相羽:
5人から10人程度の少人数で、テーマごとに分かれて議論します。話題提供を行い、その内容をもとに意見を出し合い、最後に整理してまとめていきます。

石塚:
一般市民だけでなく、まず専門家の方々から始めている。

相羽:
そうです。
いきなり一般市民の方だけで議論すると、専門的な前提が共有されず、議論が難しくなることがあります。まず建築士や建築家など、専門的な立場の方々に参加してもらい、その上で市民と議論する形を取っています。

具体事例に見る、合意形成の現場
── 七日町通り・霞城公園・歴史ゾーン

石塚:
これまでの活動の中で、具体的にどのような事例がありますか。

相羽:
山形市内では、薬師町通り、栄町大通りの事例があります。
道路整備にあわせて、歩道空間や街のデザインについて、NPOが主体となって住民と議論しました。
その結果を事業に反映させています。

石塚:
建築協定にも関わっているということですね。

相羽:
はい。
周辺の建物について協定を結び、その内容を一件一件審査会で確認していく。
その過程にNPOがコンサルティングとして関わっています。

ワークショップで交わされた「未来の選択肢」

石塚:
今年度のワークショップでは、どのような議論が行われたのでしょうか。

相羽:
中心市街地を対象に、三つのゾーンに分けて議論しました。
霞城公園周辺、七日町通り、歴史的ゾーンです。

石塚:
実際にどのような意見が生まれたのでしょうか。

相羽:
公園内での体験施設、飲食機能の配置、歴史文化を歩いて理解できる展示のネットワーク化、市民会館跡地の活用案など、現実性と合理性を踏まえた意見が出ました。

まちづくりを、市民の言葉に戻すために

石塚:
今後、NPO法人まちづくり山形として、どのような役割を果たしていきたいと考えていますか。

相羽:
まちづくりを、市民目線で捉えることが何より大切だと考えています。
情報公開のあり方、行政からの分かりやすい説明、それに対して市民が意見を交わせる場をどう作るか。その支援を続けていきたいと思っています。

石塚:
まちづくりを「結果」だけでなく、「過程」として共有するということですね。

相羽:
はい。
市民が常に話し合いに参加できる状態をつくること。それがまちづくり山形の役割だと考えています。

編集後記

まちづくりという言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、完成した道路や建物、にぎわいのある風景かもしれません。
しかし本対話を通じて見えてきたのは、そうした「結果」に至るまでの長い過程が、必ずしも市民に開かれてきたわけではない、という現実でした。

行政主導で進むまちづくりは、法制度や計画に基づいて着実に進められます。
その一方で、計画同士のつながりや、判断が積み重なっていく過程は、専門性の壁もあり、市民の目には見えにくくなりがちです。
NPO法人まちづくり山形は、そうした見えにくさの中で、報告書の整理やワークショップの運営を通じて、まちづくりを市民にとって「理解できる形」にしようとしてきました。

派手な成果が前面に出る活動ではありません。ですが、まちづくりを誰か一部のものにしないためには、こうした地道な役割が欠かせないことも、本対話から伝わってきます。
「まち」は誰が考え、誰が決め、誰が関わっているのか。
その問いに向き合うための手がかりとして、本稿が読者の中に静かに残れば幸いです。

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ご紹介

Profile

相羽 康郎

特定非営利活動法人 まちづくり山形
理事長

相羽 康郎

あいば やすお

山形県内のまちづくり活動とくに景観まちづくりに関わってきました。
2018年芸工大を定年退職しました。
今後は街づくり活動とともに設計も実践したいと考えています。

公式サイトはこちら
石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

編集長インタビュー「Shikisai」立ち上げの背景とは? 公式サイトはこちら

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