公益財団法人JELAが描く「支える」という構造──難民支援・教育支援・奨学金事業の実践
「私たちはキリストの愛をもって、日本と世界の助けを必要とする人々に支えます。」
公益財団法人JELA 理事長 古屋四朗さんは、組織の根幹にある理念をそのように表現する。19世紀末に来日したアメリカ・ルーテル教会を起点とするJELAは、土地管理法人としての歴史を経て、現在は難民支援、カンボジアにおける幼児教育支援、奨学金事業、人材育成を展開する公益財団法人へと発展した。本記事では、JELAの歴史的背景と事業構造、そして今後の展望について、古屋四朗さん、渡辺さん、奈良部さんに話を伺った。
今回は石塚直樹がナビゲーターとなり、公益財団法人JELA 理事長 古屋四朗さん、職員 渡辺さん・奈良部さんのキャリアや取り組みについて伺いました。
宣教師の土地管理から始まったJELAの原点
石塚:
まず、公益財団法人JELAの成り立ちについてお聞かせください。
古屋さん:
JELAの源流は、19世紀末にアメリカのルーテル教会が日本で行った伝道活動にあります。当時、宣教師たちは教会設立に加え、幼稚園や学校、社会福祉施設も立ち上げました。しかし外国人が直接土地を取得できなかったため、土地を保有・管理する法人が必要となりました。それが現在の法人の原型です。
石塚:
戦前・戦後で組織の状況も変化したのでしょうか。
古屋さん:
戦時中は日米関係の悪化により宣教師が帰国し、施設は分離・再編されました。戦後は再び宣教師が来日しましたが、1980年代以降、日本教会の自立が進み、宣教師は減少しました。その結果、宣教師館などの不動産が遊休化しました。
石塚:
そこから公益事業へ転換されたのですね。
古屋さん:
はい。私たちは二つの財産に気づきました。一つは長年の社会的信用、もう一つは不動産資産です。これを活用し、資産管理法人から公益財団法人へと方向転換しました。
難民支援という公益事業の出発点
石塚:
公益事業の最初の柱は難民支援だったと伺いました。
古屋さん:
1980年代、インドシナ難民が日本にも到着し、受け入れが社会課題となりました。その際、政府から難民受け入れの相談があり、私たちは支援を引き受けました。これが公益事業の出発点です。
石塚:
現在の支援内容を教えてください。
古屋さん:
難民申請には時間がかかります。その間、安全に生活できるシェルターを提供しています。現在は2棟で約10カ国の人々が生活しています。単なる住居提供ではなく、日本語教育や自立支援も行っています。
石塚:
支援の本質は「自立」にあるということですね。
古屋さん:
その通りです。支援は依存を生まない形で設計する必要があります。
カンボジアにおける幼児教育支援
石塚:
海外事業として、カンボジアでの取り組みについて教えてください。
渡辺さん:
2007年からカンボジアでプレスクール建設を行っています。物資支援も重要ですが、教育は人生の選択肢を広げます。毎年1棟ずつ建設し、幼児教育の機会を創出しています。
石塚:
運営体制はどのように構築されていますか。
渡辺さん:
信頼できる現地パートナーと連携し、地域調査を実施します。対象児童数や世帯状況を確認した上で、プロジェクトを進めます。
石塚:
資金面はどのように支えられていますか。
古屋さん:
遊休不動産を売却して得た資金を活用しています。加えて寄付も募り、財団としての資産運用と寄付の両輪で事業を支えています。
奨学金事業と人材育成
石塚:
奨学金制度について詳しくお聞かせください。
古屋さん:
奨学金は二種類あります。一つは難民対象、もう一つは社会貢献を志す若者対象です。後者は志と計画性を重視して選考します。
石塚:
どのような分野を学ばれていますか。
奈良部さん:
IT分野、医療、看護、社会福祉など多岐にわたります。将来的に支援を必要とする人々に貢献できる人材を育てることが目的です。
石塚:
単なる金銭的援助ではなく、未来への投資ですね。
古屋さん:
支援を受けた人が将来支える側になることを目指しています。公益は循環構造であるべきです。
ビジネス経験が活きる公益経営
石塚:
古屋さんは富士通で技術開発・マーケティングを経験されています。企業と公益の違いはありますか。
古屋さん:
ビジネスで培った経験はすべて活きています。失敗も含めてです。ただ目的は異なります。自己実現ではなく、他者のために活かすという視点に変わりました。
石塚:
渡辺さん、奈良部さんはどのような思いでJELAに関わられましたか。
渡辺さん:
キリストの愛をもって人に仕えるという理念に共感しました。自らの経験を活かせる場だと考えました。
奈良部さん:
公益を仕事として実践できることに意義を感じています。
今後の展望と社会への呼びかけ
石塚:
今後、特に力を入れたい分野は何でしょうか。
古屋さん:
既存事業の質向上です。特にカンボジアの幼児教育施設における衛生環境改善には専門的知見が必要です。
石塚:
具体的にはどのような協力を求めていますか。
古屋さん:
建築・施工の専門家、衛生管理の専門家です。水処理や衛生環境の改善に関する技術的支援を求めています。また、企業のCSR活動やプロボノによる協働も歓迎しています。
石塚:
企業にとっても連携の機会になりますね。
古屋さん:
公益は協働によって広がります。知識と経験を共有してくださる方々と共に事業を発展させたいと考えています。
編集後記
公益財団法人JELAの取り組みは、歴史的資産を再定義し、公益へと転換した事例である。土地管理法人として始まった組織が、社会的信用と資産を活かし、難民支援・教育支援・奨学金という三つの柱を構築した点は示唆に富む。
特に印象的だったのは、「支援を受けた人が将来支える側になる」という循環設計である。公益を一時的な救済ではなく、持続可能な構造として設計している。
企業経験を持つ理事長の視点と信仰理念が融合した経営は、非営利組織の新たなモデルとして注目に値する。JELAの今後の展開は、公益と企業を結ぶ接点としてさらに広がる可能性を感じさせるものであった。
ご紹介
Profile
公益財団法人JELA
理事長
富士通にて長年海外部門のIT業務に従事。新規事業の立ち上げや国際業務を経験し、ビジネスの現場で培った組織運営・資金計画・事業構築の知見を有する。
信徒として教会活動に関わる中で、教団の財務計画や施設整備にも携わり、その後JELA理事に就任。
資産管理法人から公益財団法人への転換期に経営を担い、難民支援、カンボジアにおける幼児教育支援、奨学金事業などを推進。
「キリストの愛をもって支える」という理念を軸に、支援を“循環構造”として設計することを重視している。
公益財団法人JELA
理事・事務局長
カンボジアにおける幼児教育支援プロジェクトを担当。
2007年より開始したプレスクール建設事業に携わり、現地パートナーとの連携、地域調査、事業審査・運営支援を担う。
教育を通じた自立支援を重視し、物資支援にとどまらない長期的な社会基盤の整備に取り組んでいる。
理念と実務を一致させることを大切にし、「キリストの愛をもって支える」というミッションを現場で体現している。
公益財団法人JELA
事務長
JELAにおいて奨学金事業や教育支援関連業務に従事。
難民を対象とした奨学金制度および社会貢献志向の若者を支援する奨学金事業の運営に関わる。
IT、医療、看護、社会福祉など、多様な分野で将来的に社会に貢献する人材の育成を支えている。
支援を単なる経済的援助にとどめず、将来“支える側”へとつながる人材育成として位置づけ。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。