揚げたての油揚げを世界へ!谷口屋代表・谷口誠が語るビジョン


有限会社谷口屋 代表取締役 谷口 誠 TANIGUCHI MAKOTO

全国でも珍しい油揚げ専門のレストランを運営する谷口屋。油揚げは「畑のステーキ」と称されることもありますが、谷口屋の油揚げは、外側はサクサク、内側はふんわりとしたジューシーな味わいで昔から多くの人に親しまれています。そんな谷口屋の代表である谷口誠さんに、油揚げを作る上で大切にしていることや、今後のビジョンを伺ってきました。

昔はたった8坪の地下室で豆腐作りをしていた

—大正創業ということで歴史のある御社ですが、「谷口屋」はどういった経緯で生まれたのでしょうか?

谷口さん 当時は、地域の人が持ってくる大豆と、うちで作った豆腐・油揚げを交換するのが始まりでした。豆腐を作りながら、荒物屋や山仕事、蕎麦挽きや味噌作りと色々とやっておりました。そこから、地域の豆腐屋が撤退するようになりその株を引き継いでからですかね、豆腐屋一本として「谷口屋」は生まれました。当時はたった8坪の地下室で作っていて、コンクリートで囲まれた防空壕のようなところでした。地下に作業をするスペースを設けて、煙突も出してそこで豆腐を作っていたんです。

—地下の作業スペースというのが、まさに歴史を感じますね。誠さんは家業を手伝いながら郵便局に勤められていたようですが、自分が家業を継いでいくという思いはあったんでしょうか?

谷口さん 子供の頃は嫌でしたね。服に油揚げの油の匂いが付くんですよ。香水みたいな良い匂いならよかったんですけどね。もともとは、定年退職をしてから家業を継ぐつもりでいたんです。ですがもの作りは好きでしたので、土日だけ家業の手伝いで行商に出たりしていました。

—行商というと、最近あまり耳にしない販売方法ですが、どのように販売されていたのでしょうか?

谷口さん 基本は、個別訪問でしたね。一度買ってくれた人はリピートする人ばかりでした。お客様からは、今度はこれが食べたい、あれが食べたい。とリクエストされるんです。そうしたお客様のヒントから、豆腐屋を継ごうと思いまして、、郵便局を辞めて豆腐の本格的な修行を初めていきました。

油揚げ作りで大事なのは「掃除」

—継ごうと思ったきっかけはお客様のヒントにあったのですね。修行というとなかなかイメージが付かないところもあるんですが、油揚げ作りで肝となる部分はどこになるんでしょうか?

谷口さん 掃除ですね。掃除をすることで、精神性を鍛えられます。掃除が下手くそだと、他のことが見えなくなるので、いろんなことに関して後々大変になったりします。また、揚げ師が手作業でじっくり揚げていますが、掃除が上手くなることによって、手首の使い方が上手くなるのかなあ・・と。お客様の口の中に入れるものなので、衛生面などはしっかりせんといかんなと思いますし、今考えると1つの修行だったのかなと思いますね。

—掃除が肝になってくるんですね。油揚げ作りにおいて、素材にこだわる部分はありますか?

谷口さん 昔は問屋さんが持ってきたものでやってるといった状況でしたが、今は、いいものは全て使おうって思っています。美味しい大豆や油、色々試行錯誤している部分でもあります。ちなみに、国産の油は希少ですが、うちは国産100%でやっています。

—こうした素材のこだわりや丁寧な手作業が味の美味しさに繋がっているわけですね。御社では人材育成にも力を入れていると思いますが、若手の育成についてはどのようにお考えですか?

谷口さん 私は家業を継いだ時から、元気で明るい、かっこいい豆腐屋さんになりたいなと思っていました。そのためには若い子に手伝ってもらいたいという思いがあったんです。

今では、揚げ師なんかも結構育ってますし、若い子たちには、積極的にチームを作ってチーム力を上げてもらっています。結構それが私たちも、勉強になったりするんですよ。

—誕生の背景や油揚げ作りについて伺ってきましたが、一番苦労したことは何でしょうか?

谷口さん そうですね。元は家族でやってきたものなので、外の人を使ってやっていくという苦労と、規模が大きくなるにつれて今度は自分が大きくならないといけない状況になってきまして、器を広げないといけないということですね。経営者としての人並みの苦労はだいたい味わってきていると思います。

—そうした苦労があってこそ、今があるというわけですね。では、今後のビジョンについて教えてください。

揚げたての油揚げを世界で作りたい

谷口さん はい。「私たちは食を通じて、お客様、仲間たち、縁あるすべての方々の幸福を考え続け、世の中に貢献します」という理念を世界に広げていきたいと思っています。お店に友達と来る。または家族と来る。そしてそれを近所の人に持っていく。そうしてこの油揚げは、絆が結ばれていくんやなぁって。家族団欒としていきたいなぁと思っているので、そういった意味で世界にも行きたいなと思っています。小さい油揚げ屋さんが世界で作れたらいいなと思うのが今の夢ですね。

—素晴らしいと思います。ぜひ実現したいですね。海外展開として、実際に動いていたりするんでしょうか?

谷口さん はい。以前2回ほどアメリカのニューヨークに行き、色々視察を行いました。

そこではどういう状態で売られているのか確認しましたが、揚げたてのものはなく、やっぱりあるといいなと思いましたね。また、ブルックリンで試食会をやることができたんですが、非常に好評で、全部で70枚くらい持っていっていたんですが、半分はもう予約で売れてしまったんです。本当にここで揚げたての油揚げをやりたいなと確信した出来事でした。

ヴィーガンの人や宗教的な人など、そういった人たちにも広がる可能性を感じました。

—海外での販売が成功する未来が見える気がします。是非とも実現させたいですね。本日はありがとうございました。

編集後記

海外で油揚げ屋をしたいという夢を持つ谷口さんの熱い想いがすごく伝わるインタビューでした。油揚げ作りの肝を伺った際に「掃除」と聞いた際は意外に思いましたが、調理場を綺麗にするとともに、細部まで綺麗にすることのこだわり自体が、良い油揚げ作りの要諦と伺った際は、職人の仕事の一端を垣間見た気がしました。外側はサクサクで内側はふんわりとしたジューシーな味わいを持つ油揚げは、店舗だけでなく、オンラインショップからも購入できますので、ぜひ一度食べてみてください。

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谷口 誠 TANIGUCHI MAKOTO