
労務トラブルや人材マネジメントの課題が複雑化する現代において、社会保険労務士の役割は大きく変化しています。小野純氏は、労務トラブル対応を軸に、採用・教育・制度設計まで踏み込んだ支援を行っています。特に「休職・復職」をめぐる問題においては、単なる制度対応ではなく、企業と従業員双方に向き合う姿勢を重視していると語ります。本記事では、小野氏の実務経験をもとに、社労士の本質的な価値と企業支援のあり方に迫ります。
今回はShikisaiの小林がナビゲーターとなり、小野先生へ取材。労務トラブルの話やその解決へ向けた取り組みについて伺いました。
目次
労務トラブルの中心にある「問題社員」と休職問題
小林:現在、クライアントからのご相談で最も多い領域はどのあたりでしょうか?
小野先生:やはり労務トラブルが多いですね。その中でも「問題社員」と呼ばれる方に関する相談が増えています。
小林:具体的にはどのようなケースが多いのでしょうか?
小野先生:精神疾患による休職です。入社してすぐに休職に入るケースや、精神疾患を隠して入社されるケースもあります。業務に適応できず、結果として企業側や顧客に影響が出てしまうことがあります。
小林:採用のミスマッチが背景にあるということですね。
小野先生:その通りです。ですので、採用段階でのミスマッチを減らす取り組みが重要になります。
休職・復職を左右する「ルール設計」の重要性
小林:休職者の復職に関しては、企業として判断が難しいケースも多いと思います。
小野先生:まず重要なのは休職ルールの整備です。中小企業ではこのルールが不十分なケースが非常に多いです。
小林:どのような問題が起きるのでしょうか?
小野先生:想定が甘いまま制度を作ってしまうと、実際に問題が起きた際に機能しません。ですから、就業規則上の休職ルールをしっかり設計することが重要です。
小林:企業規模による違いはありますか?
小野先生:あります。中小企業は制度が未整備なケースが多く、大企業は福利厚生が充実している分、休職期間が長期化する傾向があります。その結果、復職と休職を繰り返すケースも少なくありません。
復職判断の現実と「医師の診断書」の壁
小林:復職の判断において、企業としては難しい局面も多いと思います。
小野先生:大きなポイントは医師の診断書です。主治医が「復職可能」と判断した場合、それを企業側が否定することは非常に難しいです。
小林:特に中小企業では産業医もいないケースが多いですよね。
小野先生:その通りです。専門的な判断を覆せる立場の人がいないため、基本的には復職を受け入れる必要があります。
小林:企業側としては葛藤もありますね。
小野先生:ありますが、採用した以上、その人の可能性を信じて復職支援を行うべきだと考えています。そのための復職プログラムの構築を支援しています。

ハラスメントの本質は「制度」ではなく「心の在り方」
小林:労務トラブルの背景として、人間関係の問題も多いのではないでしょうか?
小野先生:非常に多いです。特にハラスメントはその典型です。
小林:多くの企業が研修を実施していますが、なかなか減らない印象があります。
小野先生:理由は明確で、知識ではなく「心の持ち方」の問題だからです。
小林:具体的にはどのような点でしょうか?
小野先生:上司が部下を成長させるという意識を持っていないケースが多いです。本来は指導であるべきものが、単なる感情的な叱責になってしまっています。
小林:なるほど。
小野先生:ですので、ハラスメント研修では法律の説明だけでなく、「上司としてどうあるべきか」という考え方まで踏み込んでいます。
中小企業における復職支援の現実的アプローチ
小林:中小企業では配置転換が難しいケースも多いと思いますが、その場合の対応はどうされているのでしょうか?
小野先生:非常に難しいですが、働き方を変えるしかありません。
小林:具体的にはどのような方法でしょうか?
小野先生:短時間勤務からの復帰や業務負荷の軽減です。いきなり元の業務量に戻すのではなく、段階的に戻していく必要があります。
小林:復職プログラムの一環ということですね。
小野先生:そうです。復職直後に100%の業務を求めると再発リスクが高まります。まずは6〜7割程度からスタートすることが重要です。

社労士の役割は「手続き」から「経営支援」へ
小林:社労士の役割も変化している印象があります。
小野先生:大きく変わっています。従来の手続き業務はシステムで代替可能になっています。
小林:そうなると価値の出し方も変わりますね。
小野先生:はい。労務トラブル対応や制度設計、人材育成といった領域に踏み込まなければ生き残れません。
採用・教育・制度設計まで一貫支援する強み
小林:御社の強みについて教えてください。
小野先生:採用と教育に力を入れている点です。高額な適性診断ツールを自前で導入・活用し、問題社員のリスクを事前に把握する取り組みも行っています。
小林:採用段階から関与されているのですね!
小野先生:はい。また、求人票の作成や賃金設計、評価制度の構築まで支援しています。結果として離職率の低下にもつながります。
法改正対応と「情報伝達」の難しさ
小林:最近は法改正も多い印象があります。
小野先生:非常に多いです。給与制度や社会保険(子ども子育て支援金の新設)、ハラスメント法律改正など、企業が対応すべき内容は増え続けています。
小林:企業側の理解は進んでいますか?
小野先生:必ずしも十分ではありません。情報を送るだけでは伝わらないため、直接訪問して説明する必要があります。
小林:その工数も大きいですね…
小野先生:そうですね。ただし、売上に直結しないケースもあるため、バランスが難しいところですが、ここは顧問先の方にしっかり理解いただきたい部分ですので、直接伝えることを大切にしています。

編集後記
今回の取材から見えてきたのは、社会保険労務士という職種の本質的な変化です。従来の「手続き代行」から、「人と組織に深く関与する専門職」へと役割がシフトしています。
特に印象的だったのは、休職・復職というセンシティブなテーマに対する小野先生の姿勢。制度や法律の枠組みだけでなく、「採用した以上、その人を信じる」という前提に立ち、企業に対してもその視点を提示している点に、単なる実務を超えた思想性が表れていると思いました。
また、ハラスメント問題を「心の在り方」と捉える視点も興味深いです。制度設計や研修だけでは解決しない領域に踏み込み、組織文化そのものにアプローチしている点は、現代の人材マネジメントにおいて重要な示唆を与えると思います。
労務問題が高度化・複雑化する中で、企業が求める社労士像は確実に変化しています。小野先生の取り組みは、その変化の最前線を体現していると言えるのではないでしょうか。
ご紹介
Profile
社会保険労務士法人ソリューション
代表
資格
特定社会保険労務士
年金アドバイザー2級
DCアドバイザー
IPO内部統制実務士
研修・セミナー開催実績
全国の商工会・法人会様主催の労務管理、
就業規則、労働社会保険手続、マイナンバー、等の社会保険労務士関連の講演多数(計400回以上)
大手企業様主催セミナーにて基調講演や顧問先企業での労務管理セミナーも多数
経歴
1967年11月22日 東京都生まれ
1992年 中央大学卒業
1992年~1997年 一部上場会社にて営業担当
1998年~2001年 大学予備校 教科主任兼教室長
2002年 社会保険労務士試験合格
2002年~2003年 大手社労士事務所インターン、社労士受験予備校 講師
2003年 社会保険労務士 小野事務所 開業
2007年 特定社会保険労務士付記
2017年 社会保険労務士法人ソリューションに組織変更