鶴岡八幡宮からほど近い位置に店舗を構える「鎌倉彫 山水堂」。木に繊細な彫刻と漆塗りを施し、いくつもの工程を経て仕上げた鎌倉彫製品を販売しています。国内外のイベントにも出展し、精力的に活動する小泉社長に、地元鎌倉への思いや鎌倉彫の魅力、今後のビジョンについて語っていただきました。
愛着のある鎌倉だから迷わず帰郷
ーまずは小泉さんの生い立ちや鎌倉彫との出会いをお伺いできますか。お父様から受け継がれて、といった形でしょうか?
小泉社長 生まれも育ちもずっと鎌倉で、私の生まれた時にはもう鎌倉彫の店を祖父がやっていました。父が暖簾分けのような形で別のお店を立ち上げたのが今の山水堂です。小学生ぐらいの時は父も忙しく仕事をしていたので、職人さんのところに一緒についていって、手伝いみたいなことはよくやっていました。そういう意味では普通の生活の中になじみすぎて、継ぐとかいう意識もなかったっていう感じです。
兄がいて「吾妻屋」という別の店を継いでいますし、私は家を出て一般企業に就職して、元々この仕事をやるつもりはなかったんですね。ただ、鎌倉彫や鎌倉自体がやっぱり好きで、愛着はあるので、父から手伝わないかっていうオファーがあった時にはもう迷わず帰ってきちゃいました。
鎌倉への貢献を意識しながら海外にも出展
ー小泉さんが今の仕事でやりがいを感じるのはどんな時でしょうか。実際に使ってよかったというお客様の声を聞くが一番でしょうか?
小泉社長 それはやっぱり嬉しいですね。私の仕事は職人ではなく販売なので、お客様のオーダーや希望を伺って職人に伝えるっていう、間をつなぐという役割をしています。それぞれの思いやリアクションを伝えてあげると、お互い喜びや嬉しさはあると思います。
ー人との関わり合いもそうですが、御社では地域との関わり合いも大切にしているという印象を受けました。
小泉社長 単純に、鎌倉そのものに少しでも貢献できればというふうに思っています。鎌倉彫もそうですし、鎌倉そのものも知ってもらいたい、理解を広めたいっていう気持ちもあるので。もちろん利益は大事ですけれど、小中学校の課外授業などには、声がかかれば可能な限り協力させていただいています。
2月には「MADE IN JAPAN IN MONACO」というモナコでのイベントに出展をしました。お隣のニースが鎌倉と姉妹都市なので、鎌倉市長に「ニース市の人にもモナコで鎌倉彫が出展するってことを伝えてほしい」とお話ししていたんです。文化交流の1つになればと思って。ニース市職員の方にはブースに訪ねていただきました。
ー海外のお客様にはどんな商品が人気なのでしょうか?
小泉社長 国内のイベント出展でも一番売れるのはお箸なんです。海外の出展でも一緒で、みんなめちゃめちゃお箸を買っていくんですよ。ここ10年間で傾向が変わったと思います。例えばフランスでもスーパーで巻き寿司とかベトナム料理の生春巻きとか買ってきて、自宅でお箸を使う機会があるようです。それだけ今使う機会が多くなっているんだと思います。
ダメージ感も楽しめる鎌倉彫の魅力
ー小泉さんが感じている鎌倉彫の魅力はどういったところでしょうか?
小泉社長 鎌倉彫の特徴をよく聞かれるんですけど、工芸品としては漆器のカテゴリーです。漆塗りの器というのは日本や東アジア独特のもので、まず漆塗り自体の魅力があります。その上で、漆器の中で彫刻してあるものって実は意外と少ないんです。彫刻をしてあるからこそ、蒔絵のようなピカピカの食器とはまた違う魅力があります。
ちょっと雑に扱って剥げてきたり傷が付いたりしても、ダメージ感がいい。気に入らなくなったら塗り直せばいいし、ガシガシ洗ってためらわずに使っていただきたいなと思っているので。レザーやデニムみたいにダメージがちょっとかっこいいぐらいの感覚で使ってもらえるといいなと思っています。
例えばお盆って、お客さんが来た時にお茶を出すのに使うイメージが強く、今の時代なかなか使う機会がないという声をよく聞きます。ただ個人的にはもう、自分用に使ってほしいっていうのがすごくあって。お茶を飲んだり晩酌したりする時に、こういうものを使うと気分がアガるじゃないですか。自らをもてなすという使い方をしてもらいたいなっていう気持ちがあります。
伝統技術の継承が一番の使命
ー子どもたちに描いてもらった絵を鎌倉彫にするというイベントをブログで拝見しました。立体感のあるすてきな仕上がりで、なぜそんなに正確に再現できるのか不思議です。
小泉社長 彫っているのはプロの職人なので、そこはやっぱりうちの職人の腕ですよね。それは本当に誇るべき技術です。ある時は、ピザ屋さんがオープンするお祝いに「ピザの形で」という注文でお盆を作ったことがあります。それから東京で開催された世界的スポーツイベントのライセンス商品も作りました。技術的にエンブレムをちゃんと再現できるかどうかという課題があったんですけど。サンプルを作って見せたところ、ここまで正確だったらOK、となりました。
ー最後に小泉さんが思い描く御社の今後のビジョンをお伺いできますか。
小泉社長 海外もですが、地元やWEBでの販売に力を入れて需要を延ばしていきたいです。ただ、手作業でのものづくりなので一度にたくさん作ることは難しい。規模拡大だけを目指すと違うものになると思います。それでも、できるだけ売上を伸ばすことが職人さんの仕事を増やすことにもなり、技術の保存にもつながりますから。バランスを取りながら仕事を確保していくのが大事です。最終的には伝統技術を残すっていうのが一番大きな使命だと常々思っています。
編集後記
お話を伺う中で、歴史と伝統のある鎌倉彫製品が海外の方にも注目されていることや、どんどん洗ってダメージ感も楽しむという意外な使い方が印象的でした。「鎌倉彫 山水堂」の公式サイトには、国内外で人気のお箸や定番の美しいお盆など、多彩な商品が並んでいます。来客時だけでなく、ぜひ自分や家族が過ごすいつもの食事や晩酌時にも手に取って、特別な時間に変えてみてはいかがでしょうか。