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NPO法人UPTREE代表 阿久津美栄子|家族介護者の孤立を支える支援拠点とは

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東京都小金井市で家族介護者の支援に取り組むNPO法人UPTREE。代表理事を務める阿久津美栄子さんは、自身の介護経験をきっかけにこの活動を始めました。37歳のとき、突然始まった母親の介護。情報も相談先も見つからず、孤立する家族介護の現実を経験したといいます。現在は介護者同士が共感し合える「介護者カフェ」や、ヤングケアラーの居場所づくりなどを展開しています。家族介護者を支える活動の背景と、その社会的意義について伺いました。

今回は
石川陽大がナビゲーターとなり、
NPO法人UPTREE代表理事 阿久津美栄子さんのキャリアや取り組みについて伺いました。

家族介護者を支援するNPO法人UPTREE

石川:現在はどのような活動をされているのですか。

阿久津さん:私はNPO法人UPTREEの代表として、東京都小金井市で家族介護をしている方の支援に取り組んでいます。いわゆる「ケアラー」と呼ばれる人たちの支援です。

石川:ケアラーという言葉は最近よく耳にするようになりましたね。

阿久津さん:そうですね。ケアラーというのは、おむつ交換や食事介助などの直接的な介護だけではなく、家族の情緒的な支えになる人も含まれます。家族の中で支援を担っている方を広くケアラーと呼びます。私たちの活動は、そうした家族介護者を支援することが中心になります。

石川:具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか。

阿久津さん:家族介護者が安心して話ができる居場所づくりが中心です。東京都小金井市では喫茶店の空き時間を借りて、介護者カフェという形で集まりの場を提供しています。また企業に出向き、介護と仕事を両立している社員の方を対象にした「企業カフェ」も実施しています。自治体から委託を受けて居場所づくりを行うこともあります。

活動の原点となった自身の介護経験

石川:この活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

阿久津さん:きっかけは自分自身の介護経験です。私が37歳のとき、母が突然倒れ、介護が始まりました。

石川:かなり早い時期の介護だったのですね。

阿久津さん:そうですね。当時は、親の介護というのは50代くらいになってから始まるものだと思っていました。でも実際には37歳のときでした。しかもそのとき、娘はまだ3歳だったんです。幼い子どもを育てながら母の介護をするという状況は想定外でした。

石川:突然の出来事だったわけですね。

阿久津さん:はい。さらに私は介護についてまったく知識がありませんでした。母の介護は肺がんの末期で、余命3か月というところから始まりました。どうやって治療の情報を探すのか、誰に相談すればいいのか、その方法すら分からなかったんです。

石川:情報の取得そのものが難しかったのですね。

阿久津さん:そうなんです。当時は今ほどインターネットが普及していませんでしたし、家族介護をしている人が情報を発信している状況でもありませんでした。結局、知っている人に出会うことができないまま、孤立した状態で介護を続けることになりました。

家族介護者が直面する「情報の断絶」

石川:その経験の中で、特に困ったことは何だったのでしょうか。

阿久津さん:一番は情報の取り方が分からないことでした。医療のことは医療の専門家に聞けば解決すると思っていましたが、実際にはそうではありませんでした。

石川:どういうことですか。

阿久津さん:医療の専門家は医療のことは詳しいですが、その後の生活や介護のことまでは分からない場合が多いんです。例えば、在宅介護になった場合は介護保険制度などが関わってきますが、医療側がそこまで詳しいとは限りません。

石川:確かに制度が分かれていると、情報も分断されてしまいますね。

阿久津さん:そうなんです。結果として、家族介護者が一つ一つ自分で調べていかなければならない状況になります。そして最終的に一番詳しいのは、すでに家族介護を経験した人だということに気づきました。

石川:実際に経験した人が一番全体の流れを知っているということですね。

阿久津さん:そうです。その経験から、同じ立場の人同士がつながる場所が必要だと思うようになりました。

介護者同士がつながる「介護者カフェ」

石川:現在行っている介護者カフェは、どのような場所なのでしょうか。

阿久津さん:家族介護者が集まり、お互いの経験や気持ちを共有する場所です。最初は誰でも参加できる形で始めましたが、運営していく中で課題も見えてきました。

石川:どのような課題ですか。

阿久津さん:家族の立場によって介護への感情が大きく異なるという点です。例えば、実の娘が親を介護する場合と、お嫁さんが義理の親を介護する場合では、感じ方がまったく違います。

石川:確かに立場によって状況は変わりそうですね。

阿久津さん:そうした違いがあると、同じ場で話をすることでトラブルになりかけることもありました。そこで、介護者の属性ごとにカフェを分けるようにしました。例えば、お嫁さんだけのカフェ、娘だけのカフェといった形です。

石川:参加者の状況を揃えることで、安心して話せる環境を作ったのですね。

阿久津さん:そうです。同じ境遇の人が集まることで、共感が生まれやすくなります。

カフェで行われるのは「傾聴」

石川:カフェでは具体的にどのようなことを行うのでしょうか。

阿久津さん:基本的には話をする場です。ただし、アドバイスをする場ではありません。

石川:アドバイスではないのですね。

阿久津さん:はい。実際にカフェに来る方の多くは、アドバイスを求めているわけではありません。多くの場合、共感を求めています。誰かに話を聞いてほしいという気持ちが強いのです。

石川:その場ではどのように対応されているのでしょうか。

阿久津さん:サポーターと呼ばれる方が参加します。サポーターは養成講座を受けており、傾聴のスキルを学んでいます。その役割は、アドバイスをすることではなく、話を丁寧に聞くことです。

石川:話を聞くことが支援になるのですね。

阿久津さん:はい。実は相談に来る方の多くは、すでに自分の中に答えを持っています。カフェに通い、話をすることで、自分自身で答えに気づくようになります。そうなると、自然とカフェを卒業していくんです。

死別後の居場所「グリーフカフェ」

石川:介護が終わった後の支援も行っているのですか。

阿久津さん:はい。家族介護が終わると、多くの場合は死別を経験します。そのとき、これまで通っていた介護者カフェには通いにくくなります。そこで「ワンデーグリーフカフェ」という場を設けています。

石川:死別を経験した人のための場所なのですね。

阿久津さん:そうです。介護が終わった後も、気持ちを共有できる場所が必要だと考えています。

また、病気ごとに分けたカフェもあります。例えば認知症の家族を介護している方を対象にした認知症カフェです。同じ状況の人が集まることで、より話しやすい環境になります。

ヤングケアラー支援への取り組み

石川:現在はヤングケアラー支援にも取り組まれているそうですね。

阿久津さん:はい。ヤングケアラーもケアを担う存在という点では同じなので支援を行っています。

石川:具体的にはどのような取り組みでしょうか。

阿久津さん:ヤングケアラーの場合は、居場所づくりに加えてアクティビティを中心にしています。例えばバーベキューやキャンプです。

石川:なぜアクティビティを重視しているのでしょうか。

阿久津さん:ヤングケアラーを経験した方から話を聞くと、子どもの頃に学校行事やイベントに参加できなかった人が多いんです。家庭の事情で学校に行けなかったり、いじめを経験したりすることもあります。

石川:子どもらしい経験ができなかったということですね。

阿久津さん:そうです。そこで、当時できなかった経験を取り戻す場としてアクティビティを行っています。

社会に必要な「介護者支援」という視点

石川:最後に、この活動の社会的な意義についてどう考えていますか。

阿久津さん:介護制度は整っていますが、介護する側の支援はまだ十分とは言えません。家族介護者は孤立しやすい存在です。だからこそ、同じ経験をしている人同士がつながる場が必要だと考えています。

石川:制度ではカバーできない部分を支えている活動ですね。

阿久津さん:そうですね。家族介護は誰にでも起こり得ることです。そのときに孤立せず、支え合える社会を作ることが重要だと思っています。

編集後記

家族介護というテーマは、日本社会において今後さらに重要性を増していく領域である。しかし制度の整備が進む一方で、「介護する側」の支援は見えにくいまま残されている。阿久津美栄子さんの活動は、まさにその空白を埋める取り組みだと言える。

印象的だったのは、支援の中心が「アドバイス」ではなく「共感」にある点である。家族介護者の多くは、解決策そのものよりも、自分の状況を理解してくれる存在を求めている。傾聴を軸とした介護者カフェは、そうした心理的ニーズに応える仕組みとして機能している。

また、ヤングケアラー支援ではアクティビティを通じて経験の回復を目指している点も特徴的である。これは単なる相談支援ではなく、失われた機会を補う社会的取り組みとも言える。

家族介護は誰にでも起こり得る出来事である。阿久津さんの活動は、制度だけでは支えきれない領域を地域のつながりで補う一つのモデルとして、多くの地域に示唆を与える取り組みと言えるだろう。

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ご紹介

Profile

阿久津 美栄子

NPO法人UPTREE
代表理事

阿久津 美栄子

あくつ みえこ

X(旧:Twitter) Youtube

東京都小金井市を拠点に、家族介護者(ケアラー)やヤングケアラーの支援に取り組んでいる。
37歳のときに母親の介護を経験したことをきっかけに活動を開始。
現在は「介護者カフェ」や「グリーフカフェ」など、家族介護者が安心して話せる居場所づくりを中心に、地域で支え合う仕組みづくりを進めている。

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石川 陽大

株式会社ウェブリカ

石川 陽大

いしかわ あきひろ

新卒で株式会社ウェブリカに入社。インターン時代から地域色彩の番組制作に深く携わり、数多くのコンテンツを手がける。
地域密着メディア「地域色彩」を通じて、企業の魅力や想いをストーリーとして発信。メディア運営にとどまらず、企業の成果創出までを一貫してサポートする。

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