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高橋力(マルカ高橋水産)とは?一度も凍らせないミズダコで、石巻から全米へ

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宮城県石巻市の若手経営者・高橋力氏が語る、水産業の未来。生きたタコにこだわり、コストコやアメリカのくら寿司への輸出を実現。「水産業をかっこいい職業に」という熱い思いと、伝統的な産業に新風を吹き込む挑戦に迫ります。

高橋力さんと、株式会社マルカ高橋水産

高橋力さんは、宮城県石巻市で水産品の製造業を営む株式会社マルカ高橋水産の取締役です。創業したのは父親(現・会長)で、高橋さんは幼い頃から「お前が継ぐ会社だ」と言われて育ちました。ただし本人は、家業である水産業に特別な興味を持っていたわけではなかったといいます。

その高橋さんがいま手がけているのは、北海道から三陸沿岸で獲れた大型のミズダコを、生きたまま石巻へ運び、一度も凍結させずに加工するという、業界の常識とは異なる製法です。製品はコストコやイオン、さらにはアメリカのくら寿司へと届いています。

震災が進路を決めた──「継ぐつもりはなかった」から家業へ

高橋さんが大学を卒業したのは2011年。その年の3月に東日本大震災が起こりました。卒業の翌月からは、以前からマルカ高橋水産と取引のあった水産商社に入ることが決まっていました。ただ当時の心境は、「合わなければ1年か2年で辞めて、第二新卒で別の会社に行けばいい」という程度のものだったと振り返ります。

震災後、両親とは2週間ほど連絡が取れませんでした。ようやく会えたのは3月末。震災の3年前に建てたばかりの工場は流されていました。それでも、実家に戻った高橋さんが目にしたのは、すでに前だけを向いている両親の姿でした。「全部流れちゃったけど、もう一回やるか」。その姿を前にして、辞めればいいという甘い考えは吹き飛んだといいます。

翌月から水産商社で修行を開始。当初は3年で戻るつもりでしたが、「これで生き延びられる」という確信が持てず、6年目まで外に留まりました。自信と実績がついたこと、そして東京で出会った女性との結婚が重なり、2017年に石巻へ戻ります。

一度も凍らせないタコ──普通の流通と何が違うのか

日本国内に流通しているタコの多くは、西アフリカのモロッコやモーリタニアで水揚げされ、現地で一度凍結されたものです。それを商社が輸入し、水産メーカーが解凍して蒸しダコやボイルダコに加工し、量販店へ供給する――これが一般的な流れです。

マルカ高橋水産のやり方は、ここが根本的に違います。北海道から三陸沿岸部にかけて水揚げされる大型のミズダコを、生きたまま石巻市まで運び、生きたまま加工し、一度も凍結をかけずに全国の量販店や外食店、そして海外へ送り出しています。

高橋さんによれば、スポットで同様のことを行う加工業者はいるものの、これを通年で、しかも無凍結のまま末端まで供給しているのは同社だけだといいます。石巻に戻った2017年当時、水産を取り巻く環境は大きく様変わりし、それまで儲かっていた魚が軒並み獲れなくなっていました。「他と同じことをやっていてはだめだ」という判断から、以前手がけていた鮭やイカの加工をやめ、タコ製品に一本化しています。

なぜタコ一本に絞れたのか──資源が安定しているという理由

一本化の背景には、経営判断としての合理性もありました。サンマやイカは回遊魚であるため、日本近海を回遊する過程で他国の船に獲られることもあり、近年は危機的な不漁が続いています。

一方でタコは回遊魚ではありません。高橋さんは、北海道での漁獲量が年ごとに極端に振れることはこれまでなかったと説明します。製造メーカーにとって、原料が安定しているというのは決定的な条件です。だからこそタコだけに特化して製造現場を回すことができている、というわけです。

コストコ、くら寿司USA──石巻のタコが全米へ

同社の看板製品が「活タコの炙り焼き」です。生きたまま運んだタコを解体し、炙り焼きにしたもので、足1本ずつ真空パックされてコストコで販売されています。コストコを扱うYouTuberに取り上げられることも多く、サムネイルになったこともあるそうです。イオンの関東の店舗にも並んでいます。

そして海外。高橋さんはもともと「アメリカに売りたい」と、根拠もなく言い続けていたといいます。それが言霊になったのか、あるインポート商社から「現地に提案させてほしい」と問い合わせが入りました。最初は現地の小さな飲食店から始まり、やがてくら寿司USAへの供給につながります。取材時点で全米約60店舗。前年は40数店舗だったといい、店舗数は年々増えています。

次に見据えているのはヨーロッパです。かつてタコを食べる国といえば圧倒的に日本でしたが、いまはスペインやイタリアの消費量が大きく伸びています。むしろ日本は「スーパーで安く買う」という消費者心理が残っているため、産地のアフリカから見ても高く買ってくれるヨーロッパのほうへ流れていく。ならば、と高橋さんは言います。アフリカ産のタコで満足しているのなら、うちのタコを食べてもらえばもっと満足してもらえるのではないか、と。

水産業を「憧れる職業」にしたい

番組の後半、水産業に足りないものは何かと問われた高橋さんは、迷いなく人材を挙げました。若くて優秀な人が、この業界に入ってきていない。賃金の問題もあるが、根本にあるのは水産業や水産メーカーに対するイメージの悪さだ、という見立てです。

汚い、きつい――いわゆる3Kのイメージ。高橋さんはこう続けます。水産業の家業に生まれた自分ですら憧れを持てなかったのだから、まったく関係のない家に育った子たちが入ってくるわけがない、と。だからこそ、若い人に憧れてもらえる水産業をつくらなければならない

取り組みは、内と外の両面です。内側では就業規則の見直しや賃金の改善。外側では、アメリカへの輸出のように「自分が思っていた水産業とは違うものが宮城県石巻市にあるのではないか」と思ってもらえる姿を見せること。その結果として、同社は前年、初めて大卒の新入社員2名を採用しました。水産業に良いイメージを持っていなかった彼らが入社を決めたのは、高橋さんのビジョンに共感したからだといいます。

そのビジョンとは何か。もともと洋服が好きで、大学卒業時にはアパレルの道も考えていたという高橋さんですが、実際に業界に入ってみて考えが変わったと語ります。おいしい水産物を食べるということが、これほど人の人生を豊かにするものだとは思っていなかった――。それを伝えていければ、水産業の素晴らしさを理解してもらえるのではないか。水産業をより良い業界にしたい、というのが高橋さんの言葉です。

これから──「安かろう悪かろう」の先と、養殖という課題

高橋さんが目指しているのは、水産物の本当のおいしさを届けることです。安かろう悪かろうの時代はとうに終わった。小さなメーカーではあっても、安売り前提の製品はつくらず、本当に良い製品だけを日本にとどまらず世界へ届けたい、と語ります。

一方で課題も見えています。同社が扱うのは天然の原料であり、天然資源に頼り続ければどこかで痛い目を見る。従業員の生活を守るためには、安定的な原料の確保、つまり養殖にも進まなければならないのではないか――。ただしタコの養殖は非常に難しいのが現実です。生け簀で生かしておく際も、タコは共食いをするため一匹ずつネットに入れる必要があるほどで、養殖が成り立っていない魚種なのだといいます。だからこそ、別の魚種での養殖も検討している段階だと明かしました。

震災で工場を失った家業を継ぎ、業界の常識と違う製法で石巻から世界へ。高橋さんの挑戦は、水産業という一次産業がこれからどう変わりうるのかを、具体的な形で示しています。

※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。数値・店舗数は収録時点のものです。

公式サイトはこちら→https://shop.maruka-t.com/

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Profile

高橋  力

株式会社マルカ高橋水産
取締役

高橋 力

たかはし つとむ

会社創業と同じ1988年生まれ。宮城県石巻市の雄勝町で育った。高校までは野球一筋の体育会少年。 大学を出て水産物卸会社に就職する直前、東日本大震災が起きた。実家の父母が営んでいたマルカ髙橋水産は被災。工場はわずかその3年前に建てたばかりだった。甚大な被害にもかかわらず、震災の翌月には事業再開に向けて闘志をたぎらせていた父の顔を見て、「地元に戻って家業を継ぐ」と決意を固める。 水産物卸会社で営業マンとしての経験を積み、2017年にマルカ髙橋水産に入社。 現在は取締役営業部長として経営全般を取り仕切り、来年5月には代表取締役社長に就任予定。

石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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