「営業とは“思いやり”の仕事である」。そう語るのは、株式会社営功社 代表取締役 奥田邦博さん。法人営業代行・営業コンサルティングを手掛ける営功社は、「営業が成功する会社」というキャッチコピーを掲げ、顧客企業の新規開拓から組織づくりまでを伴走型で支援している。奥田さんは金融機関・リクルートでの経験を経て独立。バブル崩壊の現場で「営業とは人を理解すること」だと気づいた原体験をもとに、“昭和の絶滅危惧種”の精神を受け継ぐ営業支援のあり方を追求している。
今回は石塚直樹がナビゲーターとなり、株式会社営功社 代表取締役 奥田邦博さんのキャリアと理念、そして営業支援を通じて描く未来像について伺いました。
目次
挑戦の原点──金融マンから見えた「営業の本質」
石塚:まずはご経歴から伺います。もともとは金融機関にお勤めだったそうですね。
奥田さん:卒業後、大阪の信用金庫に入庫しました。ちょうどバブル崩壊の直後で、7年間ほど勤務しました。貸し渋りや貸し剥がしの時代で、20代前半の私が経営者に「返済してください」と頭を下げる。できるはずもない無理難題の中で、必死に働く社長の姿を見ていました。
石塚:その中で営業の原点を感じられたんですね。
奥田さん:ええ。「ものづくりしかしてこなかった」という中小企業の社長たちが、「営業をやってくれ」と私に言うんです。自社の強みを誰より知っているのに、それを外に伝える手段を持たない。その姿を見て、「この人たちの代わりに営業をしたい」と思いました。24、5歳の頃、営業代行の着想を得たのはその瞬間でした。
リクルートで培った「競争と成長」の感覚
石塚:その後、リクルートに転職されたそうですね。
奥田さん:はい。30歳のときに入社しました。優秀な営業が集まる環境で、努力しても追い抜かれる。そこで初めて“自分の限界”を意識しました。マネジメントを任されましたが、できない部下の気持ちに寄り添えず、苦労も多かった。後に振り返ると、あの時に「人を育てるとは何か」を学んだと思います。
石塚:営業経験者として、今に活きている部分はありますか?
奥田さん:ありますね。成果を上げるために最も大切なのは“思いやり”です。相手を理解しようとする努力がない営業は成立しません。準備の質や想定力は、相手をどれだけ想像できるかに比例します。
営功社の創業──「営業が成功する会社」であるために
石塚:そして独立された。営功社の立ち上げにはどのような思いがあったのでしょうか。
奥田さん:リクルートを卒業後、2012年に営功社を設立しました。当時は営業代行や営業コンサルティングを行う会社が少なかった。だからこそ、「営業を成功させるための営業会社」でありたいと思いました。社名の“営功”には「営業の営みに功(いさお)を立てる」という意味を込めています。
石塚:キャッチコピーの「昭和の絶滅危惧種」という言葉も印象的です。
奥田さん:はい。昔の営業マンは、お客様の叱咤や感謝を受けながら育ちました。今は叱られも褒められもしない時代です。だからこそ、古き良き営業の精神を忘れずに、人と人の信頼関係で成果を出す会社でありたいと思っています。
“思いやり”が営業の質を決める
石塚:営功社の強みはどのような点にありますか?
奥田さん:全員が法人営業経験者であることです。最低でも5年以上の実務経験を持つメンバーしか採用していません。経験者と未経験者では、相手の反応を想定する力が全く違います。準備の段階で「こう来るかもしれない」と考えられるかどうか。そこが営業成果を分けます。
石塚:質にこだわる姿勢が徹底しているんですね。
奥田さん:そうですね。私たちは「量より質」を貫いています。例えばアポイントを取る段階から、すでに潜在ニーズを顕在化させるヒアリングを行う。単なる“説明の場”ではなく、“商談の入口”をつくることを意識しています。
分業化の時代における「非効率の価値」
石塚:近年は営業活動の分業化が進んでいますが、その点についてどう感じられますか?
奥田さん:効率化が行き過ぎて、本質を見失っていると感じます。MAツールやCRMが普及しても、なぜその情報が出てきたのかを理解せずに動く営業が増えた。結果として顧客満足度が下がり、担当者が頻繁に変わる“ストレス営業”になっています。
石塚:営功社のやり方は、ある意味「非効率」かもしれませんね。
奥田さん:ええ。ただし“非効率”こそが本当の効率です。我々はお客様をよく知る2名体制で担当し、長期的な信頼関係を築きます。分業の効率より、顧客理解の深さが結果的に成果を上げるんです。
教育と再生──営業を再び「人の仕事」に戻す
石塚:今後の展望について教えてください。
奥田さん:営業代行を10年続けてきて、これからは“営業教育”と“組織再生”に力を入れたいと考えています。多くの企業がCRMを導入しても成果が出ないのは、ツール以前に「人」が育っていないからです。社員一人ひとりの状態を把握し、個性を活かす教育が必要です。
石塚:まさに「人に戻る」営業ですね。
奥田さん:そうです。できる営業はごく一部に見えますが、実際は相性やタイプの違いです。10人の社員がいれば、10通りの顧客がいる。経営者がその多様性を理解し、戦略的に配置できるかどうかが鍵になります。私は“営業教育の再構築”を通じて、日本の営業組織をもう一度豊かにしたいと思っています。
編集後記
取材を通じて印象に残ったのは、「営業とは思いやりである」という言葉だった。奥田さんは、効率化やデジタル化が進む現代において、営業の本質を「人と人の信頼関係」として再定義している。金融機関での原体験、リクルートでの競争、そして営功社での実践。いずれも「人を知る」「相手に向き合う」という軸で一貫している。
昭和的と形容されるその姿勢は、実はこれからの時代にこそ必要なものだと感じた。数値では測れない誠実さや手間を惜しまない姿勢が、結局は最も効率的な成果を生む。営功社の仕事は、“営業を再び人の営みに戻す”挑戦であり、そこに日本の営業の未来が見える。
ご紹介
Profile
株式会社営功社
代表取締役
株式会社営功社 代表取締役。大阪府出身。高校卒業後、信用金庫に入庫し、金融業界で7年間勤務。
バブル崩壊期の企業現場を経験する中で、「営業とは人を理解すること」という原点に気づく。その後リクルートに転職し、法人営業・マネジメント領域で約10年にわたり実績を積む。
2012年に株式会社営功社を設立し、法人営業代行および営業コンサルティング事業を展開。
すべてのスタッフが法人営業経験者という体制で、質の高い営業支援と教育を提供している。「昭和の絶滅危惧種」という言葉を掲げ、効率化の時代においても“信頼に基づく営業”を貫くことを理念とする。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。