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企業誘致企画 沼田市編:環境と産業が共に息づくまちへ──星野市長が語る、沼田市の企業誘致戦略と「森林文化都市」の未来

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「地方が自信を失っている。森林文化都市としての矜持を取り戻す」。群馬県沼田市の星野市長は、人口約4.3万人の中核自治体として、企業誘致と環境政策を両輪に据えた再構築に挑みます。固定資産税3年間免除や最大5,000万円の補助制度を整備し、水力発電を背景にした電力供給体制の整備を進めています。木材加工、漢方薬栽培、データセンター誘致を柱に、Jクレジット創出や教育環境の再編を進める星野市長。地域に根ざした行政経験をもとに、10年先を見据えた沼田の未来像を語りました。

今回は石塚がナビゲーターとなり、星野市長のこれまでの歩み、企業誘致の戦略、そして「森林文化都市」を軸とした地域ビジョンについて伺いました。

挑戦の原点:就職より「学び」を選んだ高校時代

石塚:まず、市長ご自身の歩みから伺えますか。
星野市長:私は群馬県片品村の出身です。高校時代は自動車整備工場で住み込みで働きながら通学していました。卒業前、担任の先生から「就職は急がなくていい。何を学びたいか考えなさい」と言われ、政治を学ぶと決めました。昼は働き夜に学べる国士舘大学政治学科の第二部に進学し、卒業後は地元政治家の秘書として10年間活動しました。2003年に沼田市議会議員に初当選し、5期19年にわたり地域経済や福祉政策に携わり、2022年に市長に就任しました。
石塚:現場で培った信頼や行動力が、政治への原点につながっているのですね。
星野市長:そうですね。職人の現場で同じ仕事を任され、信頼の上に社会が成り立つことを体感しました。それが今も行政の根幹になっています。

現状認識:産業構造の転換と財政再建の必要

石塚:企業誘致の観点で、沼田市の現状をどのように見ていますか。
星野市長:現状は決して順風ではありません。平地が少なく、産業団地の造成が遅れたことが課題です。沼田は木材集積の町として栄えましたが、国内木材の低迷で衰退し、現在は医療・介護・福祉分野が最大の雇用を支えています。財政力指数は0.49と依存度が高く、税収はここ15〜20年、約63億円前後で推移しています。産業団地を県と連携して造成・分譲し、8〜10年で税収を10億円増やすことを目標にしています。
石塚:企業誘致を柱に税源を再構築するわけですね。
星野市長:はい。設備投資に伴う税収効果を地域に還元していきたいと考えています。

誘致戦略:木材加工・漢方薬栽培・データセンター

石塚:重点的に誘致を進めたい業種はどのような分野でしょうか。
星野市長:第一に木材加工です。沼田周辺には豊富な森林資源があり、首都圏にも近い立地を生かせます。第二に、昼夜の寒暖差を生かした漢方薬栽培です。品質管理に適した気候を活かし、遊休農地を有効利用したいと考えています。第三に、データセンターです。市内には水力発電所が複数あり、東京電力の高圧送電網も通っています。大容量電力の確保が鍵であり、**特別高圧の確保は個別協議(要相談)**の前提で、企業のニーズに応じてインフラ整備を進めています。
石塚:電力の確実な供給が競争力の鍵を握るということですね。
星野市長:その通りです。いまや電力の「量」と「即応性」が誘致の勝敗を分けています。

制度と「伴走支援」:税・補助・生活面まで一気通貫

石塚:企業誘致に関する具体的な支援制度について教えてください。
星野市長:用地取得・施設稼働後3年間の固定資産税を全額免除し、新規進出企業には最大5,000万円の補助金を用意しています。さらに、経済部を中心に「伴走支援」を行い、住居・子育て・教育・医療といった生活面まで一貫してサポートします。転勤や移住を伴う従業員にも安心して暮らしていただけるよう、行政が積極的に支援しています。
石塚:まさに企業と地域が共に定着していく支援体制ですね。
星野市長:はい。人が根づけば企業も根づく。そこを重視しています。

人材と教育:高校再編とIT人材の受け皿づくり

石塚:若者の流出に対してはどのように取り組まれていますか。
星野市長:中高生との対話を重ね、将来の希望を把握しています。県立高校の統合によって教育環境が再編され、今後は旧校舎の利活用も検討しています。地方でもIT関連の仕事ができる環境づくりを進め、データセンター誘致とも連動させたいと考えています。
石塚:地元で学び、働ける循環をつくるということですね。
星野市長:そうです。若い世代が戻り、地域で新しい産業を起こせる流れをつくっていきたいです。

生活価値と地域資源:安全性・食・観光・森林文化都市

石塚:働く人の暮らしの観点から見た、沼田の魅力は何でしょうか。
星野市長:まず災害が少ないことです。**群馬県は震度4以上の地震発生回数が関東で最少という統計があり、沼田市もこの傾向にあります。**また交通の利便性と自然環境の両立が魅力です。農地を活かして「週4日勤務+週3日農業」といったライフスタイルも可能です。米や果樹、高原野菜の品質も高く、吹割の滝・老神温泉・玉原高原など観光資源にも恵まれています。
石塚:「森林文化都市」という理念について改めて教えてください。
星野市長:平成2年に全国初の「森林文化都市宣言」を行いました。スローガンに留まらず、実践として位置づけています。市有林約800ヘクタールの適切な管理を起点に、INPEX・群馬県森林組合連合会・利根沼田森林組合との四者連携で森林由来のJクレジット創出を進めています。経済と環境を両立させ、市民と移住者が「稼げる」と実感できる地域づくりを目指しています。

企業へのメッセージ

石塚:最後に、進出を検討する企業へのメッセージをお願いします。
星野市長:税・補助・電力・人材・生活まで、一気通貫で受け入れる体制を整えています。木材加工、漢方薬栽培、情報産業など、沼田ならではの産業分野に注力しながら、長期的な信頼関係を築いていきたいと考えています。まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。

編集後記

取材を通じて印象的だったのは、星野市長が何度も口にした「伴走」という言葉でした。補助金や税の優遇といった制度は、沼田市の支援策の一部にすぎません。住まい・教育・医療・子育てといった生活領域まで支援を拡張することで、企業と人が共に定着する基盤を整えています。木材加工、漢方薬、情報産業という産業ポートフォリオは、環境政策と一体化した持続可能な成長戦略でもあります。森林由来のJクレジットをはじめとする「稼げる環境政策」は、沼田市が掲げる「森林文化都市」の理念を現実の経済循環へと接続する試みです。制度・インフラ・生活価値を三位一体で設計する姿勢に、地方自治の新しい形が見えました。

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Profile

星野 稔

沼田市
市長

星野 稔

ほしの みのる

群馬県利根郡片品村出身。高校在学中から自動車整備工場で住み込み勤務を経験し、働きながら学ぶ姿勢を貫く。
国士舘大学政治学科(第二部)卒業後、地元政治家の秘書を10年間務め、2003年に沼田市議会議員に初当選。以後5期19年にわたり議員活動を行い、地域経済・福祉政策に携わる。2022年に沼田市長に就任。森林文化都市の理念を掲げ、木材・環境・情報産業を軸とした企業誘致と地域再生に注力している。
信頼を重んじ、市民との対話を基礎とした「伴走する行政」を掲げる。

沼田市のHPはこちら
石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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