静岡県 沼津市に根ざした会計事務所・株式会社イワサキ経営。会計事務所を経営母体に、経営財政コンサルティングや人材育成支援など、多岐にわたるサービスでお客様を支援するワンストップコンサルティングが強みです。創立50周年を迎えた2023年には、感謝と恩返しをテーマにした「イワサキ経営グループ感謝祭」を開催。約3,000人が来場するなど、地域密着型の企業としてさまざまな取り組みを展開しています。今回は従業員承継の道を歩んだ、代表取締役社長/吉川 正明さんにお話を伺いました。
突然の後継者指名から代表へ。覚悟を決めるまでの道のり
吉川さんは従業員承継により代表取締役に就任されていますよね。とても印象的な経歴ですが、後継者として認めてもらえるまでの道のりについてお聞きしたいです。
吉川さん:新卒で税理士事務所に入社し、相続部門の仕事を任されました。入社して2年ほどで上司が辞めてしまい、部署内に僕しかいなくなっちゃったんですよ。頼れる先輩もおらず、一般納税者のふりをして税務署に電話して聞いたり、本でいろいろ調べたり、自力で解決しなければいけない状況でした。その結果、自分のやり方がうまく軌道に乗り、成果を認めてもらえたことで後継者の話が持ち上がったのかなと思います。
後継者指名の話を聞いたときはどんな印象を受けましたか。
吉川さん:先代が全社員の前で「後継者を吉川くんにする」と発表したんですけど、そこで初めて知って驚きました。当時は32歳で課長の役職ではありましたが、役職者の中では最年少だったこともあり、自分が指名された理由がわからなくて……。後で聞いた話によると、人をまとめる力や人間関係を構築する能力が評価されたみたいです。
それは衝撃でしたね。代表になるまでに辛かったことはありますか?
吉川さん:代表に指名された3ヶ月後、4月から専務に就任したんですよ。そこから7年間、経営者になるための修行を積みました。たとえば、役員会議の運営や朝礼でのスピーチなど、さまざまな判断をするようになったんです。もちろん最終決裁権や代表権はないですが、それまでのプロセスは全部僕が任されました。それが結構きつくて、辛かったです。ほかの先輩たちからもあまり良く思われていなかったし、「なんでこんな辛い思いをしなきゃいけないんだ」と感じて、何度か挫折しそうになりました。辛すぎて先代に代表を辞めたいと伝えましたが、「社員が半分になっても構わないから、やりたいように思うようにやりなさい」って言われて。断っても聞き入れてくれない感じではありましたね。
その際、どのようにして乗り越えていきましたか。
吉川さん:創立40周年を迎えた2013年に代表になったんですが、そのときが大きな気持ちの変化ではありましたね。代表権を持つことや大きな仕事を任せられるようになって経験を積むうちに、悩んでいる自分がちっぽけに感じてきて。もっとやるべきことがあるだろうと自分を奮い立たせて、代表になる覚悟を決めました。
地元の中小企業を元気にすることが地域活性化につながる
イワサキ経営は「地域貢献」という経営理念を掲げていますが、そのきっかけは何かありましたか。
吉川さん:地元が好きという想いが原動力になっています。首都圏の大学に在学中も就職先を静岡以外で考えていなかったですし、4年時には静岡から通学していたほど地元愛が強い。ですが、沼津市の人口流出が全国ワースト20位ぐらいになったときがあって。若者がまちから離れる背景には、地域の魅力や活気の欠如があるのではないかと感じました。そこで、もっと地域を良くすればその地域で暮らす人や会社にとっても良い循環が生まれ、若者が地元に留まるのではないかと考えました。僕らの仕事は中小企業を活性化することなので、「地元の中小企業が元気になれば地域全体が活性化する」という想いから、もともと先代の経営理念の中にあった「地域貢献」という言葉を自分なりに解釈して、具体的な行動に移す活動を始めました。
「地方の中小企業を元気に」という言葉がありましたが、会社としての強みがあれば教えてください。
吉川さん:「イワサキ経営に相談すればほとんどの問題は解決できる」と、お客様もよく言ってくれるんですが、税務・会計だけではなくて、DX支援、人材育成、コンサルティング業務など、多岐にわたるサービスでサポートできるのがうちの強みですね。
だからこそ、地域の中小企業からの信頼も厚いのですね。地域貢献としてはどのような取り組みをおこなってきましたか。
吉川さん:売上を伸ばすための「必要な情報」「学び」「人との交流」という3つの要素を一つの空間で体験できる「売上アップ祭り」というイベントを毎年開催しています。展示会コーナーやセミナーコーナー、交流ブースなど、参加者が売上向上のヒントを得られる仕組みをつくっていて、地域の人たちやお客様も含めて約400〜500人が来るイベントです。また、社員からの提案で、サッカーのワールドカップの試合をパブリックビューイングで開催しました。地域の方が2,000人も集まり、大いに盛り上がりましたね。
東京に負けない地域をつくることで、若者が地元に残る選択を増やしたい
これまでに開催したイベントで特に印象に残っている出来事はありますか?
吉川さん:創立50周年記念に開催した「イワサキ経営グループ感謝祭」が印象に残っています。「感謝と恩返し」をテーマに掲げ、実行委員会を結成して約1年半かけて準備しました。社員たちからの提案で記念式典とは別に、地域の人たちに向けたイベントを開催することになりました。地域向けのイベントではステージを設置したり、車屋のお客様には子どもたちがカーペイントを楽しめるスペースを設けてもらったり、地元の中学生が50周年記念のTシャツを作って販売してくれましたね。その時には来場者が3,000人以上来てくれて、市長からは「これは、いち民間企業がやるレベルじゃないですね」と称賛されました(笑)。そのイベントがすごく印象に残っていて、本当に価値のある取り組みでした。
まさに、地域の活性化に貢献していますね!社員の方も自発的に行動されているんですか?
吉川さん:そうですね。うちは本業とは別に約16個の委員会制度を設けています。委員長は20代、30代の若手社員が中心となり、そこに40代、50代の委員会メンバーが参加しています。その背景としては若手リーダーの育成や部署を越えた交流、適性の見極めなどがあります。50周年委員会も特別に作っていますが、ほかにも地域貢献委員会や生活お役立ち委員会など、さまざまな委員会でメンバーが意見交換をおこないながら活動していますね。
素晴らしい取り組みですね。最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
吉川さん:僕はいつも「東京に負けない地域を作りたい」と言ってて。若者や子どもたちにとって、地元に残ることが魅力的な選択肢となるような、強い地域をつくりたいと思っています。企業をもっと知ってもらうために、各小中学校に足を運んで職業講話や探求授業をおこなったり、夏休みには子ども向けの税金教室も積極的に開催したりしています。これまでの取り組みが身を結んでいるのか、最近入社した社員たちは、 お父さんやお母さんに勧められましたと言ってくれていて、僕が理想とする形に近づいてきていると思っています。地域社会と連携することによって、子どもたちが地元を好きになったり地元に誇りを持ってくれたり、より良い地域を目指すための挑戦を続けていきたいです。
編集後記
先代から突然の後継者指名を受けて従業員承継をした吉川さん。後継者としての道を歩む過程には、想像を超える苦悩や葛藤があったのではないでしょうか。代表になる覚悟を決めてから、地域との連携を深めてさまざまな仕掛けをつくる姿勢がとても印象に残りました。「東京に負けない地域をつくりたい」と話す吉川さんの地元に対する熱い想いが人々を巻き込み、その熱量が周囲にも伝播していくのだと感じることができました。