沖縄県那覇市に本社を置き、全国にクライアントを持つ新卒採用に特化したHR事業を展開する株式会社Human Creation(ヒューマンクリエイション)。地方創生を人の創生からというミッションで、主に新卒採用コンサルティング(業務代行)や体験型インターンシップの企画設計を行っています。地方の次世代リーダーの発掘育成事業に携わる意気込みを、代表の山川さんに伺いました。
合同採用プロジェクトで地方の人口流出に歯止めをかける。
ー地方の中小企業向けの地方創生プロジェクト「OFA(オファー)」は、地域の採用課題解決を目指すモデルだと伺っています。
具体的にどのようなプロジェクトかお聞かせください。
山川代表 「OFA」は市町村単位のエリアで区切った10社から15社の企業でプロジェクトチームを作り、就活生/内定者/新入社員を一気通貫で採用育成する仕組みです。構想自体は創業して間も無くの2022年頃に発案したのですが様々な弊害もあり実現まで難しかったのですが、現在は北九州市にて展開しており、2024年11月現在で北九州市の優良企業18社、約50名の学生が参加をしております。将来的には全国に広げていきたいと考えています。命名として One For All,All For One の頭文字を取って、「OFA」と名づけました。
ーエリアプロジェクトを地方で展開したいと考えたのはなぜですか?
山川代表 実際に前職時代人事責任者をやっており、様々なエリアの合同企業説明会に参加する中で、BtoCのビジネスを展開する学生の馴染みのある企業や名の知れた大手企業と比べて、地方の中小企業やBtoB企業にとって採用というフィールドで戦うときに、大きなビハインドがあると感じたからです。企業としての知名度や採用ブランドに明らかに差がある企業同士が、同じフィールドで戦わなければならないのは、中小企業にとって厳しい状況だと感じました。ましてや人手不足の売り手市場や社会情勢の不安な中で、大手志向が増しているという市況感もある中でより一層厳しい戦いになると感じています。
さらに、地方のエリアのほとんどが少子高齢化に伴いそもそもの働き手の数も減っています。北九州市もその一つで人口流出が著しいエリアで、地元に就職する学生を増やすのはもはや市の未来として急務です。地元に働き手を増やす意味でも、中小企業は戦い方を変えなければいけないなと。そこで思いついたのが、複数の企業連携による合同採用でした。
ー中小企業にとって、大手企業と戦いやすくなるメリットがありそうですね。プロジェクトにはどんな学生が集まっていますか?
山川代表 「OFA」は企業側の参加目的と学生の参加目的をあえてずらしています。企業の目的は採用ですが、実は、学生に対しては応募・募集段階では就活目的で集めているわけではありません。
前提として、こういった地域色の強いプロジェクトになると地元就職に興味がない学生は参加しません。それだと従来の採用アプローチと変わらず、大きな改善が見込めないため、学生の参加動機として「地方創生に興味がある」「地元を盛り上げたい」「ガクチカを手に入れたい」「長期インターンシップしたい」「成長したい」等、就活向けのコンテンツというよりまずは参加学生の志向を地元に就職したいと思ってもらえるようなワークショップやコンテンツを企画して参加者を募っています。
参加企業には参加学生の目的に沿うようにメンターという立ち位置でプロジェクトに参加してもらいます。コンテンツには「地方創生とは?」「地方創生の訴求ポイント」「北九州発の仕掛けとは?」「エリアの人口減を食い止める施策」等市の未来を考えるようなトピックを中心に、学生が持つ「地元へのアイデンティティ(次世代リーダーとしての自覚)」に火をつけるような仕掛けをしています。
プロジェクトを進めていくうちに、地元での就職に興味がなかった学生たちが、地元の企業に目を向けるようになります。参加者に「北九州市で働いてみようかな」という気持ちが芽生えるタイミングで、「OFA」専用の特別会社説明会やマッチングを実施する流れです。本来は大学3年生の3月が一般的な新卒就活の解禁ですが、「OFA」では3月までには内定を出している状況を作ります。
次世代のリーダーが地方の中小企業に集まる
ープロジェクトに参画する企業にはどのようなメリットがあると考えていますか?
山川代表 今まで知名度やリソース、採用費用で大手に叶わなかった中小企業に、新卒学生が採用できたり、中には次世代のリーダーと呼ばれる会社の幹部候補になる主体性を持つ意欲ある人材が集まるのは非常に大きなメリットだと感じています。
「OFA」には、大学の外に出て学びを得ようと行動する意欲が高い学生が集まって来るので、そういった素質を持った人材が採用できるモデルが確立されれば、地域社会にも中長期的にインパクトを与えられると思います。また「地域のヒーロー(次世代リーダー)=アンバサダー」という制度を設け、特に地域内で学生団体を運営している代表や求心力、発信力を持つ学生リーダーの方々には「OFAアンバサダー」として個別にお声がけし、学生向けのプロモーションや集客のお手伝いを一緒に行なっていただいております。
学生に対し、参加企業側もメンターとして学生の成長支援を推進によって、学生のうちから社会で役立つスキルが身に付くので、採用だけでなく、入社後の早い段階で即戦力として活躍できる人材が育つという育成も兼ねたプロジェクトになっているのも大きな利点です。
ー実際に参画した企業からはどんな声があがっていますか?
山川代表 採用マーケティングの新しい手法として非常に興味を持っていただいています。採用というフレームの中だけで戦うと、やはり人気企業に新卒者の目が向いてしまうので、「現状の厳しいマーケット環境を打破できるプロジェクトとして期待の高さを感じました」と言ったお声をいただきます。実際にプログラムに参加した企業様のお声として「目的意識を持って参加されていると感じられ、出会えたことに感謝したいと感じるような皆さんでした。」「学生と企業の意見を同時に聞けるので刺激的です!」というお声をいただいております。
一方で、「本当に自社のネームバリューで採用できるのか」といった懸念部分に関しては、現在プロジェクト1年目ということもあり、まだまだこれからブラッシュアップしていきたいと考えています。
ー今後「OFA」をどのようにアップデートさせていきたいと考えていますか?
山川代表 ゆくゆくはその地域で自走できる体制を整えていきたいと思っています。実際に想定しているのは実施継続2年目以降には、1年目に「OFA」に参加して参加企業とご縁があった内定者が、次は参加企業サイドの採用メンターとなってもらい、企業側として参画いただき後輩学生へのアプローチや育成を促す存在になってもらいたいなと。
さらに、企業間の連携を強めるために企業間交流を毎月様々な組織課題の共通テーマに沿ってディスカッションや交流会も兼ねつつ、合同内定式や合同入社式、内定者(新入社員)合同研修として数社で合同開催する計画もあります。エリアの会社同士がより連携して地域全体の採用力の向上や未来のリーダーを育成するフレームを確立させ、地方創生の起爆剤として「OFA」を全国展開していきます。
地方創生のパイオニアとして「世界の沖縄」ブランドを築く
ー「OFA」を推進した先のビジョンを教えていただきたいです。
山川代表 「地方創生を人の創生から」をミッションとして掲げる企業として、採用や育成を通じて「地方創生のパイオニア」というポジションを創っていきたいです。特に中小企業や地方企業に特化した採用育成モデルを各地で確立させていきたいと思っています。
現在はBtoBの採用支援として北は新潟や関東、南は沖縄までクライアント様がいる状況です。また地方創生事業としては沖縄や九州を拠点に活動していますが、ゆくゆくは日本全国の地域自治体や地方企業と連携したり、情報共有をさせていただき、共同でプロジェクトを広げていく予定です。
ーHuman Creationの拠点であり、山川代表の地元でもある沖縄への想いをお聞かせください。
山川代表 「日本の沖縄」ではなく「世界の沖縄」の位置付けを築きたいと考えています。
日本は観光資源が豊富で、外国人を呼べるポテンシャルを持つ国です。同じく沖縄も、琉球王朝時代から現在までを見ると、そのポテンシャルを県レベルで持ってると思うので、より強みを磨いて沖縄ブランドを強化していきたいです。
「世界の沖縄」ブランドが確立できれば、沖縄で暮らす人たちにもっと選択肢を増やせると思っています。沖縄では依然として貧困家庭やシングルマザーの問題などで、経済貧困を理由に選択肢がなくて苦しい思いをしている人たちが多数います。その一人一人に選択肢を増やしたり、世界を身近に感じられる機会を作ることは私個人の使命でもあります。
ー沖縄に思い入れが強いのは「地元だから」といった理由でしょうか?
山川代表 それもありますが、子どものころから考えていたことが、今の課題観につながっていると感じています。わたし自身、裕福とは言えない幼少期で、選択肢が少ない生活をしてきた当事者でした。しかし、生活に苦労しているはずの自分の家庭と周りの人の暮らしぶりに大きな変化がなかったんですね。その事実を目の当たりにして以来、ずっと疑問に思っていた「沖縄の経済そのものに原因があるのでは」との考えに行きつきました。その経験を経て中学や高校時代には、今のビジョンにつながる「琉球再建」という大きなテーマについて考えていましたね。
ー幼少期のエピソードが今のビジョンに繋がっているのですね。
山川代表 そうです。会社としてはHuman Creationの人材採用育成のコンテンツにもっと磨きをかけ、沖縄から世界へと渡り合えるビジネスパーソンを輩出していく必要性を感じています。「地方創生のパイオニア企業」としてのブランドを確立することを目指します。そのためにも、一緒に戦ってくれる沖縄や地方創生をしたい仲間を増やしていきたいです。
編集後記
「OFA」プロジェクトの採用モデルは、地方の人口流失、地方企業の採用難、中小企業の担い手不足などの複数の課題を一手に巻き取る可能性を秘めています。ほかの地域への汎用性が高く、まさに「地方創生のパイオニア」として、地域の人材育成を推し進めるHuman Creationに期待が高まりそうです。