山形発のジェラート専門店。本場イタリア仕込みの石田流ジェラートとは?


株式会社寒河江商店 代表 石田 真澄 MASUMI ISHIDA

山形発のジェラート専門店。COZAB GELATOをご存知でしょうか。2018年4月に山形の観光スポットである山寺に、石田さんの祖父が50年以上営んでいた寒河江商店をリノベーションして生まれました。ご夫婦で経営をされていて、夫の大さんが主に作り手として、妻の真澄さんが代表をしておられます。作り手の大さんは、味の美味しさを常に追求しジェラートを毎朝手作りで仕込んでいます。今回は作り手の大さんに、創業ストーリーや味の美味しさを追求するために行なってきた熱い想いを伺ってきました。

創業ストーリー・出会いはイタリアにあった

—どうして山形でジェラート店を始めようと思ったのでしょうか。

石田さん:イタリアでの経験からですね。30歳のときに脱サラをして、イタリア料理を学ぶためにイタリアに留学しました。そこでイタリアの食文化とか人々の生活の豊かさにたいへん魅了されました。帰国して東京のイタリア料理店で働いたりもしたんですが、なんか違う、イタリアを感じない、とずっと悶々としていて、そんな時に妻に出会って山形を初めて訪れて、「ここはまるでイタリアじゃないか!」と感動しまして。自然とか、風土とか、文化の残り方とか、ほんとにイタリアに似てるなぁと思ったんです。そこから山形で生活したいと思うようになりました。

—山形にイタリアの風景を見出したのですね。そこからジェラートを作ることになった経緯はどのようなものだったのでしょうか?

石田さん:今は移転してしまったのですが、もともとお店があった場所はすぐ近くに泳げるくらい綺麗な清流が流れていて。イタリアに留学していたとき、仕事終わりにシェフがよく連れて行ってくれたジェラテリアも川岸にあって、その光景とリンクしたんです。「ここはジェラートだ!」って。それが今のジェラート店の創業に繋がっています。

—イタリア料理ではなくジェラートを始めたのにはどういった思いがあるのでしょうか?

石田さん:当時の山形では道の駅や産直でジェラートが売られているものの、「ジェラート専門店」として専門的にジェラートを作っているところはなかったので、誰もやっていないことをやろうと思っていました。また、埼玉出身の僕にとって山形はアウェーの土地で、生産者さんと繋がりがほとんどない、一方で、生産者さんと繋がる活動がしたかった。それを叶えるために、山形に豊富にある果物や農産物などの食材を活かしやすい「ジェラート」は良い商材なのではないかと思いジェラート作りを始めました。

—ジェラート作りにおいて苦労されたことを教えてください。

石田さん:料理留学のときに苦労していた分、ジェラート作りに対する苦労は少なかったです。言葉とか、文化の違いとか、イタリア人との付き合い方とか、そのあたりの苦労は料理留学のときに済ませた感じですね。ジェラート店を始めるにあたって、改めてイタリアに留学してガンベロロッソ(イタリア版ミシュラン)でイタリア全土のTop30にランキングされているシェフからジェラート作りを学びました。「目指す形」がはっきりとしていたのと、基礎からみっちり勉強したので、開発自体はそこまで苦労せず理想の形に辿り着くことができました。

ただ、イタリアと日本の違い、というところではそれなりの調整が必要でした。例えば、イタリアのジェラートはめちゃくちゃ甘いです。イタリアで学んだレシピのものを妻に試食させたら「甘すぎる!!」と酷評され、それから「日本人の味覚に寄り添った味」にレシピ改変を重ねました。

石田流のこだわり〜機械・質感・温度

—ジェラートを美味しい状態で提供するのに、製造機械などにもこだわっているそうですね。

石田さん:はい。機械に関しては種類が大きく2つあって、わかりやすく例えると、ドラム式洗濯機と縦型洗濯機です。ドラム式の方はアイスの液体が上に上がって、落とされて、を繰り返すので、液体が叩きつけられるときに空気が含まれてふわふわになって嵩増しができます。縦型の機械は、空気が全然入らず嵩増しはできないんですけど、その分仕上がりがすごく濃厚になって、素材感が強く感じられます。僕がイタリアで実際に味わってきたたのは後者のジェラートで、やはり表現したいのは山形の食材の「素材感」だったので、縦型の機械を使っています。

また、ジェラートの口溶け、質感に関してもこだわっています。ジェラートらしい滑らかさを表すためには安定剤が必要で、イタリアではシェフオリジナルの安定剤を使っていました。ただ、それは日本では手に入らなかったので、仕方なく日本で売られている既製品を使ってみたら、僕が求めているのとは全然違う質感のジェラートが出来上がってしまい、これはもう自分で配合するしかないと。イタリアでは昔から「イナゴ豆」の胚乳が安定剤として使われているということを知り、その性質などを調べて、量を調整して試作を繰り返して、それでようやく今の質感を出すことができました。とろみはつくけど空気は入らないように調整しているので、しっとりとしていて滑らかな口当たりなのがうちのジェラートの特徴です。他のジェラートの質感とほんとに全然違うので、是非食べ比べてみてほしいですね。

秘密は温度調節にあった

—味の美味しさを追求するために自作のを使ったりと取り組まれているのですね。提供するタイミングにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?

石田さん:食べ物は何でもそうですが、やはり作りたてがいちばん美味しいです。なので、毎朝その日の分だけを作って、作りたての状態で提供するようにしています。ジェラートの作り方は加熱殺菌をして冷却するのが基本で、-8℃くらいで機械から出して完成させます。一般の家庭用冷凍庫の標準温度は-18℃で、その温度帯だとジェラートがガチガチに硬くなってしまいます。うちのショーケースは-11℃くらいに設定していて、冷凍だけどガチガチに凍っていない、何というか「チルド」みたいな状態で提供しています。

—温度が関係していたのですね。これらの強みもあって経営が軌道に乗ってきたのだと思いますが、火のついたタイミングはいつだったのでしょうか?

地域貢献のため山寺で新ジャンルを確立させてきた

石田さん:ありがたくオープン当初からたくさんのお客様に恵まれました。その要因の1つは、、メディアですね。山寺という場所は、山形の三本指に入る観光地で僕たちが店を始める1,2年前までは大きな観光施設もあったのですが、そこもなくなり地元の人からも山寺は何も無くなったと言われていたような場所でした。そんなところに「ジェラート専門店」という新たなジャンルを始めたというので、メディアから「山寺に新たな観光スポット!」という風に取り上げていただいて一気に広まりました。

もう1つ、一過性のブームで終わらず長く続けてこられたのは、口コミのおかげだと思っています。生産者とか同業者と積極的に繋がって、一人勝ちするのではなく「皆で地域を盛り上げよう!」と周りを巻き込んだことで、口コミが徐々に広がっていったというのがあります。

—地域を盛り上げようと尽力されているわけですね。様々な地元の食材を使われていると思いますが、どのように選んでいるのでしょうか?

石田さん:特定の生産者さんに絞ることはなくて、毎回しっかり生産者さんとお話をして判断しています。ただ、やはり気が合うというか、同じ方向を向いていることは大切だと思っています。品質最優先でかつ、自分らしさを出しながら作っている生産者さんのものを積極的に使っていますね。

農産物の味は、その年、その時期、その日によって変わります。天候はもちろんだし、生えている木の位置によっても変わるんです。ジェラートの味に「ゴール」を設けずに、その年の味、その時期の味、その日の味というのをそのまま伝えられるようにしています。それが生産者さんに対するリスペクトであり、山形だからこそ作ることができるジェラートだと思っています。

—最後に今後のビジョンを教えてください。

石田さん:海外進出をしていきたいです。山形でジェラート作る意義として、生産者さんに対する貢献という意味合いもあるわけですが、生産者さんが何トンという量を生産しているのに対し、現状僕が使わせてもらっているのは1種類の作物につきせいぜい100kgくらいにしかなりません。生産者さんの役に立っている、地域に貢献していると胸を張って言えるぐらいの量を消費するには、今の何倍ものジェラートを作る必要があって、それには最終的には海外進出するしかないと思っています。

編集後記:石田さんのジェラートにかける熱い想いが伝わってきました。普通のジェラートとは違うその背景には、製造機械、自作した安定剤、そして、温度調節による提供タイミングがあり、美味しいベストなタイミングを追求されていたストイックなお方でした。また、苦労したことは、夫婦の力で乗り越えられていました。そんな夫婦で経営されるCOZAB GELATOは、現地で食べることができますが、オンラインショップからもお求めいただけます。遠方の方でもお楽しみいただけますので、この機会にぜひ1度、食べてみてはいかがでしょうか。

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株式会社寒河江商店 代表

石田 真澄 MASUMI ISHIDA