激務の霞ヶ関勤めからワイナリーへの転身!日本ワインコンクール金賞受賞「飛鳥ワイン」仲村茂記が目指す「大阪のテロワール」


飛鳥ワイン株式会社 仲村 茂記 NAKAMURA SHIGEKI

大阪・羽曳野市で自社のぶどう園を保有している飛鳥ワイン株式会社。素材への追求を行う老舗のワイナリーです。コロナ禍でお酒全般の売り上げが減少した中、仲村さんがとった行動は逆転の発想でした。今回はそんな仲村さんにワイン造りのこだわりとコロナ禍で挑戦した行動についてお話を伺ってきました。

ぶどうの産地として有名だった大阪・羽曳野市

本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、大阪でのワイン作りというのは一般的にイメージがないと感じたのですが、ご創業の経緯からお聞かせいただけますか?

仲村様:もともとこの地域はブドウ農家が多い地域なんです。ブドウの生産というと、山梨を思い浮かべる方が確かに多いのですが、昭和の頃は実は大阪が一位だったこともあるのです。特にこの羽曳野市というところはブドウの産地として有名でした。ただ、最初からワインを作っていたわけではありませんでした。昭和の初期ごろに大きな台風が来まして、その時にブドウ農家が大打撃を受けたんです。ブドウが生食用に卸すことができなくなってしまったのです。その時に国が救済措置として醸造免許を交付したのが始まりです。そのころは約100社の醸造所が近隣にあったと聞いています。とはいえ、時代的にもワインがあまり売れなかったようで、現在残っているのは弊社を含めて3つほどになっています。

そういう意味では、ほとんどが淘汰されていく中、飛鳥ワインさんは残ってきたわけですが、その要因はなんだと思いますか?

仲村様:1つは創業者である祖父がものすごく営業熱心だったと聞いています。そのほかの要因でいうと、もともとこの辺りで作っているワインというのは、デラウェアという生食用のブドウを使って作っていたんですが、弊社はいち早くワイン専用品種の栽培を始めたんです。メルローやシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの品種ですね。これは仕立て方が違うんです。生食用のデラウェアは「棚仕立て」といってたくさん実をならすような方法で作るのですが、ワイン専用品種は「垣根仕立て」と言って、数量を制限していく方法なんですね。その制限した実に栄養を行き渡らせて凝縮感のあるものを作るということに、いち早く取り組んだんです。

それは大きなポイントかもしれませんね。その他、製法などでこだわっていることはありますか?

生まれ育った地の環境要因を表現したワイン造り

仲村様:うちは減農薬でブドウを栽培しています。できるかぎり農薬や除草剤を使わない栽培をしているんです。大阪府が認証する「エコ農産物認証制度」において、加工品部門第1号で認証を受けています。ここは栽培における1つの強みだと思っています。また、ブドウからワインまで一貫して自社で作っているというのも強みだと思います。全てというわけではないですが、うちはほとんどのブドウを自社農場で栽培したブドウで賄って、ワイン作りを行っています。日本のワイナリーだと、自社栽培のブドウで賄いきれないところが多いので。ワインは、ぶどうの栽培地の環境が表れると言われます。この環境要因をテロワールと言い、寒い地域では酸が強くなり、暖かい地域ではトロピカルな風味が生まれたりします。生まれ育った大阪の地で大阪のテロワールを表現したワイン造りができているというのは、うちのこだわっているポイントだと思います。

まさに大阪ならではの味を楽しめるワインということですね。2023年の日本ワインコンクールでは金賞を受賞されていますよね。この受賞はどのようなことが評価されたのでしょうか?

仲村様:これは実はコロナ禍が影響して出来たお酒なんです。というのも、ワインは熟成させると味が変わるのですが、コロナ禍でお酒全般の売り上げが下がり、弊社もワインが全然売れない事態に陥りました。スパークリングワインも当然売れなくなっていまい、通常1年程で売り切れるワインが売れず、次のヴィンテージをリリースすることが難しくなりました。経営的にはピンチな状況なのですが、逆にこの状況を生かして、通常数ヶ月の熟成を1年半もの長期熟成に変えるチャレンジを行いました。通常、この長期熟成は我々のような小規模なワイナリーでは難しいんです。保管経費もかかりますし、卸売業者との関係上、毎年一定の量を販売していかないといけないため、熟成するためにその期間の販売を止めると、再販売時にまた取引してもらえるかわからないので、売り切れ状態にはしたくなかったんですね。ただ、コロナ禍という状況をチャンスと捉え、スパークリングワインを熟成させた結果、爽快感だけでなく深みが生まれ、その点が評価されたのだと思います。

ピンチをチャンスに変える逆転の発想ということですね。長年、地域に根ざして商売をされてきていると思いますが、今後地域に対してどのように関わっていきたいと考えていますか?

農地減少から羽曳野市のぶどう産地を守っていきたい

仲村様:羽曳野の地域だけではありませんが、農地が減少し、耕作放棄地が地方では増えています。私が小さい時はもっとぶどう畑が広がっていましたし、周りの生産者は高齢者の方が多いのが現状です。我々のワイナリーはそういった耕作放棄地になる可能性がある畑を借り受けたり、耕作放棄地になった畑を開墾してぶどう畑にしています。大阪にぶどうのイメージはないかもしれませんが、昭和の初期には、収穫量が都道府県で1位になっていたこともある等、隠れた産地なんです。現在では、8位くらいに順位が落ちていますが、このぶどう産地を守っていきたいという気持ちはすごくありますね。羽曳野市は大阪の東南に位置し、奈良との県境にあるのですが、畑と住宅地が混在する地域です。山から見る景色は全国的にも珍しい唯一無二の景色だと思っています。我々は少ない人数で現在5haを栽培しており、結構限界ではあるのですが、今後も面積を増やして、ぶどう産地を守っていく役割を担って行けたらと思っています。

素晴らしい取り組みですね。仲村さんご自身の今後のビジョンをお聞かせいただけますか?

仲村様:大阪の「テロワール」を表現したいと考えています。とはいえ、正直今のところ、何を持って大阪の「テロワール」と言えるかはわかっていません。栽培方法なのか、品種なのか、醸造方法なのか。仮に65歳まで仕事を続けるとして、ぶどうは1年1作なので、栽培・仕込みが出来るのは27回くらいしかないので、残りの人生をかけて大阪のテロワールを表現したワインを造っていきたいと思います。あとは、もう一度日本ワインコンクールで金賞を取るワインを作りたいですね。今年度受賞したのは私が家業に戻る前に仕込んだものなので、自分で作ったワインで金賞を取ることを目標にしています。

仲村さんであれば必ずや達成されると思います。本日はありがとうございました!

編集後記

飛鳥ワイン株式会社の仲村さんでした。コロナ禍でお酒全般の売り上げも下がる緊迫した状況から熟成期間をあえて伸ばすことで、ワインに深みを持たせたエピソードがまさに逆転の発想ですばらしいと感じました。インタビューを終えてからは大阪・羽曳野市の環境で生まれたワインをぜひ飲んでみたいと思えるようになりました!飛鳥ワインは下の公式サイトから買うことができます!

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