経営において「数字」は、ときに判断を縛るものとして扱われてきた。
売上、利益、原価、KPI──それらは正しさを示す一方で、現場の感覚や迷い、違和感を切り落としてしまうこともある。
株式会社QuattroManagement&Accountingの上田巧さんは、その数字を、もっと自由に、もっと人間的に使おうとする。原価計算や管理会計を武器にしながらも、彼が向き合っているのは「正解」ではなく、経営者一人ひとりの意思決定と、その先にある納得感だ。
本対談では、会計士としてのキャリアから独立後の試行錯誤、数字と直感をどう重ね合わせるか、さらには「ストレスをコストとして捉える」という独自の発想で、上田さんの思考の輪郭を対話を通してたどっていく。
数字をどう扱うか。その向き合い方に、ひとつの実践例が示されている。
目次
数字は、経営に触れるための入口だった
石塚:
本日は、株式会社QuattroManagement&Accountingの上田巧さんにお越しいただきました。 まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。
上田:
はい。
いきなり会社名で石塚さんを困らせるところから入るんですけど(笑)、株式会社QuattroManagement&Accounting 代表取締役の上田巧と申します。
よろしくお願いします。
石塚:
QuattroManagement&Accountingは、どんな会社なのでしょうか。
上田:
ざっくり言うと、経営コンサルティングの会社です。数字を使って、事業を強くしていこう、というのが軸ですね。
経営理念としては「数字を力に、事業前進」というテーマを掲げています。
税理士さんがやられている仕事と近い部分もありますが、僕自身は「事業を強くするために、数字をどう使うか」というところを一番大事にしています。ただ、やっているうちに数字だけに限らず、人の側面だったり、組織づくりだったり、クライアントの意思決定そのものに関わるようになってきて、気がついたら「できることは何でもやる」みたいな会社になっていますね。
石塚:
なるほど。
上田さんは公認会計士の資格もお持ちなんですよね。
上田:
一応、持ってはいるんですけど、この見た目でどこが会計士なんだ、ってよく言われます(笑)。ただ、あえて「会計事務所」と名乗っていないのは、性格的に、どんどん経営の中に入っていきたいタイプだからだと思います。
「Management&Accounting」という言葉を会社名に入れているのも、「 管理会計」つまり数字を使って経営を考える部分が、自分の一番得意で、好きなところだからです。
僕にとっては、自分の「好き」が社会の役に立つなら、それが一番いいと思っています。
石塚:
なるほど。
ちなみに「Quattro」という名前には、どういう意味があるんですか。
上田:
経営資源って、ヒト・モノ・カネ、そこに最近だと「情報」が加わって、4つあると言われますよね。
それをちゃんと数字で管理できたらいいよね、というところから来ています。
英語の「four」だと面白くないなと思って、語感で「Quattro」にしてしまいました(笑)。
石塚:
では少し過去の話を聞いていきたいのですが、
もともと会計士を目指していたんですか?
上田:
母が税理士だったので、数字が身近な環境で育ったのは確かです。
ただ、「跡を継げ」と言われたわけではなくて、気がついたら目指していた、という感じですね。
自由にしていいよと言われていた分、逆に自然とその道に行ったのかもしれません。
石塚:
公認会計士の試験、大変じゃなかったですか。
上田:
もう二度とやりたくないです(笑)。いくら積まれても、やりません。
石塚:
なるほど(笑)。資格取得後は、監査法人に?
上田:
はい。
大学院修了と同時に監査法人に入り、2年ほど監査業務をしていました。監査自体は面白かったんですが、自分のコアかと言われると、少し違和感があったんです。試験勉強の頃から、管理会計や原価計算がすごく楽しくて。「数字を使って、事業をどう良くするか」により関わりたい気持ちが強くなっていきました。
石塚:
そこから独立をされたわけですね。
上田:
はい。思い立ったら止まれない性格なので(笑)。
監査法人にいると、「そこまで踏み込むのはお前の仕事じゃない」と言われる場面も多くて。クライアントと話していると、「もっとこうしたい」「これ、何とかならない?」
という声がたくさんあったんですが、それに応える時間を使うと怒られるんですね。
その違和感が、独立につながったと思います。
独立後の試行錯誤と、仕事の輪郭が見え始めるまで
石塚:
独立してからは、やはり大変だったのではないですか。
上田:
なかなかでしたね。
独立しました、はい終わり、というわけには当然いかなくて。
公認会計士だと、税理士登録をして顧問先を取っていく、という道を選ぶ方も多いと思うんですけど、それをやりたくて独立したわけではなかったんです。なので、最初は本当にお客さんゼロでした。
石塚:
そこからどうやって仕事を作っていったんですか。
上田:
大学院時代に、資格の専門学校でアルバイトをしていたので、まずはそこに顔を出して、公認会計士講座のサポートや、簿記の講師の仕事をさせてもらいました。それと並行して、大学院の指導教官のもとに、助手のような形で戻って、研究活動にも関わらせてもらっていました。
専門学校と大学院、その二つを同時にやりながら、本当に少しずつ、少しずつ仕事をつないでいった感じです。
石塚:
かなり泥臭いですね。。
そこから、少しずつクライアントが増えていったのですか。
上田:
そうですね。
ただ、営業をかけて取った、というよりは、 「自分はこういうことをやってます」と話しているうちに、それってもう仕事じゃない?みたいな形で始まることが多かったです。
例えば、研究の一環で企業の実態を知る必要があって、原価計算や管理会計を一緒にやらせてもらいました。最初はフィーも発生しない、完全に無償です。
石塚:
無償で。
上田:
はい。ただ、それを1社、2社とやっていく中で、「あ、これは価値になるな」という実感が、自分の中に少しずつ溜まっていきました。
同時に、
「自分は何をやっている人間なのか」
「どういう価値を出せるのか」
それを言葉にできるようになっていった気がします。それが伝わる相手が、徐々に増えてきた。結果として、今ここにいる、という感じですね。
石塚:
ご自身では、ここまでの経緯をどう捉えていますか。
上田:
正直、98%は運だと思っています。計画的に積み上げた、という感覚はあまりないですね。
石塚:
今は拠点が長野ですよね。それも何か理由があったんですか。
上田:
ノリと勢いです。
石塚:
(笑)
上田:
直前までは、川崎の武蔵小杉に住んでいました。子どもが保育園に上がるタイミングで、「自分で仕事をしていると、保育園に入りづらいな」と思って。だったら、いっそ環境を変えてみよう、と。 自然が多くて、子育てもしやすそうだし、長野、面白そうじゃないか、という本当に直感的な理由です。
人には「数字を使って意思決定しましょう」と言っているのに、自分の人生の意思決定は、ほぼ勢いですね(笑)。
石塚:
型にはまらずに進んできた結果、今の形があるということですね。
上田:
そうですね。会計士としては、ちょっと恥ずかしいかもしれません。
会計士協会から怒られそうです(笑)。
数字は「判断を縛るもの」ではなく、「前に進むための道具」
石塚:
ここまでのお話を聞いていると、上田さんの仕事の中心には、やはり「数字」があると思うんですが、コンサルティングやアドバイスをする際、一番大事にしている考え方って、どこにあるんでしょうか。
上田:
基本はすごくシンプルで、「数字をちゃんと使おうよ」ということですね。
どんな事業者さんでも、目の前の仕事──例えば、飲食店なら料理を作る、美容師ならカットをする、そういう“作業”にどうしても集中しがちだと思うんです。
それ自体は、もちろん大事なんですけど、その行動の結果って、必ず数字として表れるんですよね。売上だったり、利益だったり、キャッシュだったり。ただ、その数字を「税理士さんが作ってくれた資料だから、とりあえず保管しておく」という扱いをしている会社さんが、すごく多いんですね。
それって、自分たちがやってきた行動の“答え合わせ”をしていない、ということだと思っていて。
石塚:
なるほど。
上田:
全部を理解しろ、とは言わないんです。でも、自分たちの行動が「どういう形で数字に表れているのか」そこだけは、一緒に見ていきたいんですね。
「あなたのこの頑張りが、こういう結果になってるよ」
「じゃあ、次はどうする?」
そこを一緒に考えるのが、僕の役割だと思っています。
原価計算は「現実を見える化するための作業」
石塚:
先ほどから「原価計算」という言葉が何度か出ていますが、改めて、どういうことを指しているんでしょうか。
上田:
一番分かりやすいのは製造業ですね。
例えば、ペットボトルのお茶を1本作るとしたら、その1本が完成するまでに、何に、いくらコストがかかっているのか。材料費、人件費、機械の費用、そういったものを全部洗い出して、「結局、1本あたりのコストはいくらなのか」を明らかにする。それが原価計算です。
石塚:
言葉にするとシンプルですが、実際はかなり奥が深そうですね。
上田:
会社ごと、事業ごとに、原価の考え方は全然違います。
テキスト通りの「正解」はあるんですけど、それをそのまま当てはめても、場にフィットしないことが多いんですね。
だから僕は、「60点でいいから、まず現実に合った原価計算をしよう」というスタンスです。
石塚:
実際に、原価計算を通じて成果が出た事例はありますか。
上田:
よくあるのは、「忙しいのに、なぜか儲からない」というケースですね。
そこで、商品やサービスを全部洗い出して、それぞれの収益性を見える化します。
どれが儲かっていて、どれが赤字なのか。
石塚:
それって、当たり前のようで、実はできていない会社も多いですよね。
上田:
本当に多いです。でも、それができるようになるだけで、
「これは攻めよう」
「これはやめよう」
「ここは価格を見直そう」
という判断ができるようになります。
実際に、赤字からV字回復した会社もありますし、売上が10倍になったケースもあります。
数字は「行動」に落とさなければ意味がない
石塚:
分析して終わり、ではないということですね。
上田:
そこが一番大事です。数字を作って、「はい、資料です」で終わったら、ただの評論家です。
例えば、価格交渉をするときでも、「なんとなく」ではなく、「この価格が最低ラインだ」という根拠を持って交渉する。それがあるだけで、意思決定のスピードも、精度も、全然変わってきます。
石塚:
確かに、腹をくくれるかどうかは大きいですね。
上田:
そうなんです。最大のリスクが何か分かっていれば、「ここまでなら大丈夫」と判断できます。そうすると、事業の進み方が一気に早くなります。
石塚:
管理会計という言葉もよく出てきますが、財務会計や税務会計との違いはどこにあるんでしょうか。
上田:
財務会計や税務会計は、ルールがガチガチに決まっています。でも、管理会計は違います。
事業を良くするためなら、もっと自由に数字を使っていいんです。
例えば、「店舗を出すのが怖い」という経営者さんがいたら、初期投資、回収期間、リスクを整理して、「ここまでなら勝負できるよ」と示す。最後は、人として背中を押す役割も含めて、一緒に意思決定する。それが、僕の考える管理会計です。
見えない負荷を、あえて数字に置き換えてみる
上田:
管理会計を「自由に使っていい」と考えている延長線上の話で、立ち返るような話で、「事業って数字だけではなくない?」と思ったんですよね。
通常、コストというと、材料費、人件費、設備費など、金額としてはっきり測れるものを指しますよね。でも、特にサービス業の場合、それだけじゃないな、と思うことが多くて。
石塚:
というと?
上田:
例えば、「このお客さんの仕事、正直やりづらいな」とか、「お金にはなるけど、精神的にきついな」
と感じることって、誰しもあると思うんです。それって、 実は立派な“コスト”なんじゃないかと。
石塚:
確かに、時間以上に削られるものがありますよね。
上田:
そうなんです。でも、その「ストレス」って、普通は数字に表れない。だから無視されがちなんですけど、事業を長く続けることを考えると、かなり重要な要素だと思っています。
石塚:
それを、どうやって数字にするんですか?
上田:
すごく単純で、主観でいいんです。
極端な例ですが、顧問報酬が月100万円のお客さんがいるとします。
でも、ストレス度合いが「100」だとする。
一方で、顧問報酬は月3万円だけど、ストレスが「1」のお客さんがいる。
この場合、
100万円 ÷ ストレス100 = 1万円
3万円 ÷ ストレス1 = 3万円
こうやって見ると、「どちらの顧客の方が、実は“収益性が高いか”」違う景色が見えてきますよね。
石塚:
確かに、金額だけでは見えなかったものが、浮かび上がりますね。
上田:
そうです。売上だけを見れば、100万円の方が圧倒的に良いですよね。
でも、心が削られていく仕事を続けられるか、という視点で見ると、話は変わってきます。
石塚:
この考え方は、実際にどう使うのでしょうか。
上田:
まずは、今いるお客さん全員を、この「ストレススコア」で見直してみます。そうすると、自分たちの“現在地”が分かります。
例えば、平均スコアが4,000だったとしたら、「昨日より今日、今日より明日、 この数字が良くなっているか」を見る。どうせ頑張るなら、苦しくなる方向じゃなくて、 少しずつ楽になる方向に進みたいですよね。
石塚:
確かに、指標があると判断しやすいですね。
上田:
そうなんです。じゃあ、
・価格交渉をするのか
・業務範囲を見直すのか
・場合によっては手放すのか
そういう判断も、感情論だけじゃなくて、「数字」として話せるようになります。
数字は、幸せのために使っていい
石塚:
売上や利益とは、また違う次元の話ですよね。
上田:
はい。売上を最大化しようと思えば、やり方は限られてきます。
でも、「自分たちが幸せに続けられるか」という軸を持つなら、見方は変わってきます。
このストレススコアって、言ってしまえば、自分たちの幸福度を測るための指標なんです。
石塚:
管理会計を、かなり自由に使っていますね。
上田:
自由でいいんです。管理会計も原価計算も、本来は事業のための道具ですから。
数字に縛られるためじゃなくて、幸せに事業を続けるために使う。
それが、僕の考える「数字との付き合い方」です。
目指すのは「卒業していく人が増えること」
石塚:
ここまで、かなり深いお話を聞いてきましたが、最後に、今後のビジョンや目標について教えてください。
上田:
正直に言うと、今やっていることを、このままずっと続けていけたら、それで十分幸せだな、と思っています。
売上をどこまで伸ばしたいとか、会社をどこまで大きくしたいとか、そういう目標は、あまりなくて。
でも、結局僕が考えていることって、仕事でも、人生でも、全部一緒で。
自分自身が、少しずつでもいいから、幸せになれているか。幸福度が、ほんの少しでも上がっているか。そこを一番大事にしたいんです。
石塚:
上田さんの仕事のゴールって、どこにあるんでしょうか。
上田:
実は、ずっと僕が関わり続けなきゃいけない状態、というのは、あまり好きじゃなくて。
自分がいなくても、お客様の方で数字を見て、判断して、前に進めるようになることです。
石塚:
それは、ある意味、コンサルタントとしては理想ですね。
上田:
そうかもしれません。「上田さんがいないと回りません」じゃなくて、「もう大丈夫です、ありがとうございました」って言ってもらえる。そうやって“卒業していく人”が増えていくことが、僕にとっては、一番の成果指標かもしれません。
大きな成功より、関わる人が幸せになること
石塚:
最後に、ここまで見ている方に向けて、メッセージをお願いできますか。
上田:
「ちょっと話を聞いてみたいな」
「何をやっている人なんだろう」
そんな軽い気持ちで大丈夫です。僕自身、 数字を使わなきゃいけないから使っている、という感覚はありません。もし、今やっている商売を、もう少し楽しくしたいとか、長く続けたいとか、そんな気持ちを持たれていたら、一度、話してみるのもいいかもしれません。
編集後記
この対談で語られていたのは、数字の使い方そのものというより、
数字をどう扱おうとしているか、という姿勢だった。
売上や利益は、経営判断において欠かせない指標である。
一方で、それだけを見ていると、判断の背景にある迷いや負荷、違和感は、
意識の外に押し出されてしまうこともある。
上田さんは、数字を万能な答えとして扱わない。
原価計算や管理会計を使いながらも、それを「決断を代替するもの」にはしなかった。
むしろ、数字を通じて、経営者が自分の感覚と向き合い、
自分で判断できる状態をつくろうとしているように見えた。
ストレスをコストとして捉えるという発想も、新奇なアイデアというより、
現場で日常的に感じられている感覚を、あえて数字の側に引き寄せただけのものだろう。
そこには、数字で管理するためではなく、
事業を続けていくために数字を使う、という一貫した考え方がある。
数字は事業の結果を示す。
同時に、その数字をどう扱うかによって、経営者が何を大事にしているのかも浮かび上がる。
本対談は、その姿勢がどのように実務に表れているのかを、理屈ではなく、具体的な実践を通して記録したものだ。
ご紹介
Profile
株式会社Quattro Management&Accounting
代表取締役 / 公認会計士
大学在学中より公認会計士試験に取り組み、大学院在学中に合格。監査法人にて製造業を中心とした監査業務に従事した後、独立。
現在は原価計算・管理会計を軸に、経理・財務にとどまらず、人材・組織・意思決定まで含めた経営支援を行っている。
数字を「管理のためのもの」ではなく、「事業を前に進めるための共通言語」として捉え、経営者自身が数字を自分の言葉で使える状態をつくることを重視している。
クライアントが自走できるようになることを最終的な成果と位置づけている。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。