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数字の裏側で、何を判断しているのか──ファンドマネージャーの運用実務から/株式会社パリミキアセットマネジメント・宇野隆一郎

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投資の世界では、成果としての「数字」が先行して語られることが多い。
しかし、その数字がどのような思想や判断の積み重ねによって生まれているのかが語られる機会は決して多くない。
株式会社パリミキアセットマネジメントのファンドマネージャー・宇野隆一郎氏は、都市銀行、スイスでのプライベートバンキング、超富裕層の資産管理といった多様な実務経験を通じて、ヨーロッパのファミリーオフィス思想を体得してきた人物である。
本対談では、宇野氏のキャリアの歩みを軸に、同社が掲げる「守りながら増やす」運用の実態、そして日本の投資家に提示しようとしている選択肢について、具体的な実務の言葉で掘り下げていく。

金融という制度の内側に立つ|運用以前のキャリア原点

石塚:
まずは改めて、現在のお立場とお仕事について教えてください。

宇野:
はい。株式会社パリミキアセットマネジメントでファンドマネージャーを務めています、宇野隆一郎と申します。当社では現在3つのファンドを運用しており、その中で中心となる「コドモファンド」の運用を担当しています。日々、市場を見ながら、ポートフォリオの構成や売買の判断を行っています。

石塚:
金融業界に入られたのは1988年とのことですが、当初から運用を志していたわけではなかったそうですね。

宇野:
そうですね。大学を卒業して都市銀行に入行しましたが、その時点では特別に運用をやりたいという意識はありませんでした。銀行員として、一般的なキャリアを歩み始めた、という感覚が近いです。

石塚:
ただ、そこから結果的に、長く運用の世界に関わることになりますよね。

宇野:
はい。ただ、最初から明確なゴールがあったというよりは、仕事をしていく中で、少しずつ興味や関心が運用の方に向いていった、というのが正直なところです。

〈編集注:1980年代後半は、日本の都市銀行が国内外で大きな存在感を持っていた時代〉

運用が生活と直結する社会|スイスで触れた金融の別解

石塚:
銀行時代にスイスへ赴任された経験が、大きな転機になったそうですね。

宇野:
はい。スイスの現地法人に赴任し、プライベートバンキング業務に携わることになりました。
それまで日本で見てきた金融の世界とは、価値観がまったく違っていました。

石塚:
具体的にどのような違いを感じましたか。

宇野:
一番印象的だったのは、「お金を増やすこと」で生活している人たちが、特別ではなく普通に存在しているという点です。
運用で生計を立てている人が身近にいて、それが当たり前の社会でした。

石塚:
なるほど。日本ではあまり見ない光景ですね。

宇野:
そうですね。国自体も非常に豊かで、「こういう世界があるのか」という衝撃は大きかったです。
同時に、運用という行為が、単なる投機ではなく、将来を見据えた知的な判断の積み重ねである、ということを強く実感しました。

他者の資産を預かる責任|ファミリーオフィス的実務の現場

石塚:
その後、銀行を離れて外資系のプライベートバンキングに移られています。

宇野:
はい。そこで富裕層向けの営業をしていました。
新規のお客様を開拓する中で、ある大口の資産家の方と出会い、「一緒にやらないか」と声をかけていただいたのが大きな転機でした。

石塚:
その方の専属として、資産管理を任されるようになった。

宇野:
そうです。運用だけでなく、その方の資産全体の管理を一任されました。
今で言うと、ファミリーオフィスの役割ですね。

〈編集注:ファミリーオフィス=ヨーロッパを中心に発展してきた、超富裕層一族の資産管理・運用・管理全般を担う仕組み。単なる資産運用にとどまらず、世代を超えた資産の維持・承継を前提とした考え方〉

石塚:
実務としては、どのような内容だったのでしょうか。

宇野:
まずはお金の管理が最優先でした。
投資だけでなく、貸付や日常的なお金の出入りも含めて把握し、その上で余剰資金をどう運用するかを考える立場でした。

石塚:
会社で言えば、CFOのような役割ですね。

宇野:
まさにそのイメージです。
「増やす」以前に、「守る」「管理する」という責任が常にありました。

個人の経験が組織思想になるまで|PMAM参画の背景

石塚:
その経験が、現在のパリミキアセットマネジメントにつながっていくわけですね。

宇野:
はい。資産家の方の運用を行う中で、世界中のファンドを探す必要がありました。その過程で、現パリミキホールディングスの多根会長と、南米やアメリカ、ヨーロッパなどを一緒に回る機会がありました。

石塚:
かなり広い地域を回られていますね。

宇野:
そうですね。海外のファンドを実際に見て回る中で、多くの運用会社やファンドマネージャーと接点を持ちました。
そのご縁もあり、日本に戻ったタイミングで、多根会長が運用会社を立ち上げていると聞き、ぜひお手伝いしたいと思い参画しました。

石塚:
パリミキアセットマネジメントでは、ファミリーオフィスの考え方を重視されています。

宇野:
はい。基本にあるのは「元本をできるだけ減らさない」という考え方です。
何世代にもわたって築かれた資産を、簡単にリスクにさらさない。
その思想を運用の前提にしています。

守ることを前提にした運用判断|トレンドとリスクの捉え方

石塚:
具体的な運用スタンスについて、もう少し詳しく教えてください。

宇野:
一番重視しているのは、世の中の流れ、つまりトレンドに逆らわないことです。
暴落は突然起きるように見えますが、実際にはその前に必ず下落のトレンドがあります。

石塚:
兆しを見て、事前に対応するということですね。

宇野:
そうです。キャッシュ比率を高めたり、場合によっては売りのポジションを取ることもあります。
逆に、上昇トレンドでは、その流れに乗る。臨機応変にポジションを調整します。

石塚:
その結果として、数字にも表れていますか?

宇野:
私が担当してから約3年弱ですが、平均すると年率で約16%、直近1年では約23%のリターンになっています。
ただ、私が重視しているのはリターンだけではありません。

石塚:
ボラティリティですね。

宇野:
はい。年間の変動率は約8%です。

〈編集注:ボラティリティ=価格変動の大きさを示す指標〉

現地で見る、現地で確かめる|ファンド選定の最前線

石塚:
ここまで伺っていて感じたのですが、日本の投資信託業界全体を見ると、ファンドマネージャー自身が実際に海外まで足を運び、投資先の運用会社や人に直接会いに行くケースは、決して多くない印象があります。その点、宇野さんはかなり現地に行かれていますよね。

宇野:
そうですね。私はそれは必須だと思っています。
大きなお金を投資するわけですから、実際にそのファンドマネージャーに会わずに判断するというのは、やはりリスクが高いと感じています。

石塚:
資料やレポート、オンラインの面談だけでは足りない、と。

宇野:
はい。数字や資料はもちろん大切ですが、それだけでは見えない部分があります。
実際にオフィスに行って、どういう環境で運用しているのか、どういう考え方の人たちがやっているのか。そういったことは、現地に行かないと分かりません。

実際に、今年は6月から7月にかけてヨーロッパに行き、複数の運用会社を訪ねました。
ファンドマネージャーと直接会い、オフィスを見て、どういう体制で運用しているのかを確認しました。

石塚:
現地を見て、印象が変わることもありますか。

宇野:
あります。有名で規模の大きなファンドでも、オフィスが非常に豪華で、人数も多く、コストがかかっているように見えるところがあります。
ただ、そうしたファンドが必ずしもパフォーマンスと比例するわけではない、というのは実際に見てきて感じるところです。

石塚:
つまり、「どこに投資するか」だけでなく、「誰が、どういう環境で運用しているか」を見ている。

宇野:
そうですね。資産を預かる立場としては、そこまで見て初めて判断できる、という感覚です。

日本の投資文化に残された問い|運用者として伝えたい視点

石塚:
最後に、ファンドマネージャーとして、日本の投資家に伝えたいことを教えてください。

宇野:
ヨーロッパでは当たり前の「守りながら増やす」運用を、日本にも広めていきたいと思っています。
トレンドに基づいて判断し、無理なリスクを取らない。そうした運用方法が、日本にも選択肢として存在することを知ってもらいたいですね。

石塚:
運用者自身も資金を投じている、という点も印象的です。

宇野:
はい。私自身もファンドに投資しています。
お客様と同じリスクを取ることは、資産を預かる立場として非常に大事なことだと考えています。

編集後記

本対談を通じて浮かび上がったのは、宇野隆一郎氏、そしてパリミキアセットマネジメントの強みが、短期的な収益や話題性とは距離を取り、「資産を預かる立場として、どのような判断を積み重ねてきたか」という点に集約されているという事実である。同時に、日本の投資信託業界が長年にわたり十分に言語化してこなかった前提も、結果として見えてきた。

日本の投資信託はこれまで、「利回り」「ランキング」「直近のパフォーマンス」といった結果を中心に語られてきた。販売や情報発信の現場でも、「どれだけ増えたか」が強調され、「なぜその判断をしたのか」「どの局面でリスクを取らなかったのか」といった判断のプロセスは、十分に共有されてきたとは言い難い。これは特定の運用会社や個人の問題というより、業界全体が結果偏重型の構造に最適化されてきたことの帰結だろう。

その結果として見えにくくなったのが、「資産を預かる責任」という視点である。資産を増やすことと同時に、どのように減らさないかという問いは、本来、長期で資産を託す行為において欠かせないはずだ。しかし日本では、この視点は十分に体系化されないまま、「自己責任」という言葉のもとに個人へ委ねられてきた側面がある。

ファミリーオフィスという考え方が日本で一般化しなかった理由も、単に富裕層が少ないからではない。資産を「増やす対象」として捉える文化が強く、「管理し、守り、引き継ぐ」という発想が十分に言語化されてこなかったことが背景にある。ヨーロッパにおけるファミリーオフィスは、資産最大化を目的とするのではなく、世代を超えて資産を維持し、生活や事業を支えるための合理的な仕組みとして機能してきた。

宇野氏が語る運用思想は、こうした断絶を埋める一つの実務的な視点として読むことができる。トレンドに逆らわないこと、ボラティリティを抑えること、運用者自身も投資家と同じリスクを取ること。いずれも派手さはないが、資産を預かる立場に立てば極めて現実的であり、一貫した判断の積み重ねと言える。

本記事は、特定の企業やファンドを評価するためのものではない。日本の投資信託業界がどのような前提のもとで語られ、何が十分に語られてこなかったのかを、ひとつの事例を通じて照らし出す記録である。数字の先にある判断や思想に目を向ける姿勢は、今後の投資を巡る議論の中で、改めて問い直されていくテーマの一つになるだろう。

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ご紹介

Profile

宇野 隆一郎

株式会社パリミキアセットマネジメント
取締役/ファンドマネージャー

宇野 隆一郎

うの りゅういちろう

1988年に富士銀行(現みずほ銀行)に入行。国際部門を中心に国内及び証券部門にて従事。
1998年には当時のスイス富士銀行(スイス・チューリッヒ)に駐在。
2004年にドイツ銀行のプライベートバンキング部門に転職。
その後独立し、ファミリーオフィスの運用を担当。年間約100以上の世界中のファンドマネージャーとミーティングを実施。
2009年にシンガポールに拠点を移し、ファンドに限らずあらゆる金融商品の運用を行い、2017年に帰国後も個人投資家として相場・トレードの研究を継続。
2023年から現職。

趣味はサッカーと音楽。好きなサッカーチームは、幼少期をミラノ(イタリア)で過ごしたこともあり、50年来のインテル・ファン。

パリミキアセットマネジメント 公式HP ファンド紹介
石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

X(旧:Twitter)

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

編集長インタビュー「Shikisai」立ち上げの背景とは? ウェブリカ公式HP

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