東京都墨田区「つなぐ手治療院」院長・村上哲也さんは、自律神経と心、そして意識を一体のものとして捉える治療を続けています。その中心にあるのが、BHS療法の創始者・肘井博行先生が体系化した“Body・Heart・Spiritual”という考え方です。前編では村上さんの歩みを伺いましたが、後編では、肘井先生との出会い、BHS療法の哲学、自律神経が乱れる仕組み、そして「治したい」という思いが患者に与える影響まで、多角的に伺いました。村上さんは「治療とは、患者と治療者が同じ方向を見ること」と語ります。
今回は早川千鶴がナビゲーターとなり、つなぐ手治療院・村上哲也さんから、肘井博行先生のBHS療法との出会いと、その哲学をどのように臨床へ活かしているのかを伺いました。
目次
肘井博行先生との出会い──BHS療法に触れた衝撃
早川:
後編では、現在取り組まれている治療について伺いたいと思います。どのような方法を取り入れているのでしょうか。
村上さん:
開業当初は、1人ひとりの生活や食事内容を詳しく伺いながら、毎回施術の組み立てを変えていました。1人あたり最低1時間は必要で、そのうえ鍼を行うと、診られる人数に限界が出てしまった。より多くの方に届く方法を模索していた時期に、”肘井博行先生が創始した「BHS療法」”と出会いました。
最初にDVDを拝見したのですが、「これは何だ」と衝撃を受けました。すぐに千葉県我孫子市にある肘井先生の整骨院へ伺い、実際に施術を受けることにしました。
整骨院の外まで患者さんが並び、施術は数分で淡々と終わっていきます。それにも関わらず、多くの患者さんが施術後に涙を流していました。「身体が軽くなった」だけではなく、“自分で治す力を取り戻した”ような表情に見えました。
その光景を見て、「この体系を深く学びたい」と強く感じ、以降、肘井先生のセミナーに今も通い続けています。
BHS療法の本質──身体・感情・意識を同時に整える
早川:
短い施術時間でも大きな変化が生まれるのはなぜでしょうか。
村上さん:
BHS療法は、肘井先生が体系化した**Body(身体)・Heart(感情)・Spiritual(神性・意識)**の3つを同時に整える考え方です。身体の不調には感情や意識の影響が必ず伴うため、身体だけを整えても持続しにくい。
肘井先生の施術を見たとき、「意識が変われば身体は変わる」という事実を強烈に体験しました。人は、予測できる刺激には緊張し、予測外の出来事にはふっと力が抜ける。この“予測と意外性”に働きかけることが、深いリラックスを引き出す鍵になります。
この術理を学び、私自身の臨床にも丁寧に取り入れています。
言葉が自律神経を変える──予測と緊張のメカニズム
早川:
言葉によって踏ん張る力が変わる、というお話がありました。仕組みを教えてください。
村上さん:
人間の脳は常に「次に何が起こるか」を予測しています。病院で血圧が上がるのも、その予測が身体を緊張させているからです。
たとえば、「あなたはがんです。でも一緒に頑張りましょう」と言われたとします。励ましの言葉のようですが、脳の深部では“重い病気の宣告”という事実が強く働き、一瞬で力が抜ける場合があります。
肘井先生から学んだのは、言葉ひとつで身体は確実に変化するということ。予測の仕組みを理解し、患者さんの自律神経の状態を見ながら言葉を選ぶことの重要性です。
「治したい」の反作用──中庸の姿勢が緊張を解く
早川:
治療家はどうしても「治したい」という気持ちが強くなりがちですが、この点についてはいかがですか。
村上さん:
私も長年「治したい」と思って向き合ってきました。しかし、肘井先生の学びや東洋医学の「陰陽」の思想を理解する中で、「治したい」が強すぎると、その反対側に“治らない”が生まれることに気づきました。
BHS療法では、“どちらでもよい”という中庸の姿勢を重視します。今日は変化がなくても、明日、来週と少しずつ変わればよい。結果に執着せず、人生がより良くなる方向であれば十分だという視点です。
治療者が力めば患者さんも力みます。中庸の姿勢には、両者を自然にリラックスへ導く作用があります。
同調と環境──身体は「個人」だけでは整わない
早川:
「同調」という言葉が印象的でした。
村上さん:
人は、一緒にいる相手の状態に自然に影響されます。スポーツの円陣で力が湧くのも同調です。治療の現場でも、患者さんと治療者が同じ方向を向いていると変化が起こりやすい。
また、特に子どもの不調では家庭環境が大きく影響します。夫婦関係が緊張している場合、子どもは敏感にその空気を感じ取ります。不調は「本人だけの問題」ではなく、環境と密接につながっているという視点を肘井先生の学びから得ました。
視野を広げるだけで身体の反応が変わるケースもあります。マイクだけを見ると踏ん張れますが、部屋全体や窓の外へ視線を向けるとふっと力が抜ける。意識の焦点が変わることで自律神経が切り替わるのです。
「自分で治す力」を取り戻すために
早川:
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
村上さん:
今は情報が多すぎて「何が正しいのか」が分かりにくい時代です。治療院も名称や手法が多様で、迷われる方が多いと思います。
まずお伝えしたいのは、“丁寧に向き合ってくれる先生は必ずいる”ということ。ただし出会える確率は高くないので、セカンド・サードオピニオンを前提に探していただきたい。
健康づくりは「食事・睡眠・運動」が必ずセットです。ここが整えば自律神経は大きく変わります。
そして肘井先生から深く学んだのは、
「自分の身体は、自分の力で良くできる」
という前提です。治療はサポートであり、主体はご本人自身。私はその力を取り戻すお手伝いを続けていきたいと思います。
早川:
本日はありがとうございました。
村上さん:
ありがとうございました。
編集後記
後編の取材では、肘井博行先生のBHS療法が村上さんの臨床観にどれほど大きく影響しているかが明確に語られました。身体・感情・意識を切り分けずに扱うという視点は、医療とケアを統合的に捉えるための重要な枠組みです。
とりわけ「治したい」という意図が、相手にとってはプレッシャーや緊張になり得るという指摘は考えさせられます。中庸という余白のある姿勢は、治療だけでなくあらゆる対人関係に通じる構造的な示唆でした。
視野が狭くなると身体は硬くなり、広がると緩む。環境との同調や、言葉が自律神経に与える影響を踏まえると、「健康をつくる」とは行動だけでなく“意識の扱い方”を学ぶことに近いのかもしれません。
村上さんが強調した「自分で治す力」という視点は、健康観を外部依存から主体的なものへと引き戻すのではないでしょうか。
ご紹介
Profile
つなぐ手治療院
院長
東京都墨田区で治療院の院長を務める鍼灸師・整体師。高校時代は千葉市屈指の短距離走選手としてオリンピック出場を目指すも、度重なる怪我と大学入試中の大怪我により競技の道を断念。その後、九州の大学在学中に重いパニック障害を発症し、「原因は脳と自律神経にある」と自ら仮説を立てて実践し、発作を克服した経験から、自律神経と東洋医学に軸足を置いた治療家として歩み始める。
住田区(墨田区)での勤務を含め治療歴は約25年、開業から10年以上。鍼灸と整体に加え、BHS療法(Body・Heart・Spiritual)を取り入れ、身体だけでなく感情・思考・生活習慣までを丁寧に観察しながら、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの施術を行う。「自分の体は自分で治せる」という考えのもと、短時間の施術で深いリラックス状態と自律神経の安定を促し、患者が意識と行動を変え、健康と人生の質そのものを高めていくことを目標に日々臨床に向き合っている。
埼玉県川越市出身の早稲田大学創造理工学部在学中の学生。
ミスユニバーシティ2024埼玉代表として注目を集める一方、「ACTRESS PRESS」や「NEWSポストセブン」などで取材・発信活動を行い、言葉の力で人の心を動かすことを目指している。
理工学分野を学びながら、防災士の資格も取得。
趣味はアニメやカラオケ、特技は書道とイラスト。
座右の銘は「明日は明日の風が吹く」。