株式会社ディテールキャリア 代表の山田 慎さんは、横浜と長野県を往復しながら、スタートアップ・中小企業向けの人事支援と20、30代を中心としたキャリア支援を展開しています。
リンク・アイでの札幌拠点立ち上げ、製造業向けSaaS企業アペルザでの人事部門立ち上げを経て、現在はディテールキャリアでの業務と並行して農業などを通じた地域活性化にも従事。人事×農業で健康経営やウェルビーイングへつなげるビジョンを語ります。
目次
キャリアの原点、札幌での挑戦
石塚:まず簡単に自己紹介をお願いします。
山田さん:ディテールキャリアという会社で、代表取締役をやらせてもらっております。山田と申します。
半年前にこの会社を立ち上げまして、 事業は大きく2つ展開しています。
1つがスタートアップ・ベンチャー企業を中心とした、中小規模の企業向け人事支援。
もう1つが個人向け、特に社会人の 20 代、30 代を中心としたキャリア支援。
この 2 つを軸に事業を展開させていただいております。
少し変わった点としては、現在、二拠点生活をしていまして、会社の拠点は横浜ですが、住まいは長野県の栄村にあります。
石塚:なるほど。なかなかツッコミどころ満載なキャリアかなと思うんですけれども、このあたりを深掘りしていきたいと思います。
最初はどんなキャリアのスタートだったんですか?
山田さん:もともとは、組織人事コンサルティングのリンクアンドモチベーションのグループ会社「リンク・アイ」で、大学生向けのキャリアアドバイザーをしていました。
大学生のときにインターンシップとして入社して、そのまま社員になって合わせて約5年半勤めました。
石塚:なるほど。そのとき印象に残っている仕事はありますか?
山田さん:いろいろありますが、一番自分を形作っているのは札幌拠点の立ち上げですね。
サービス自体はすでに整っていたので、私の役割は主に顧客開発。
大学生の方とどれだけ会えるか、企業さんの開拓をどう進めるか、そこからどう売上につなげるか。そうしたことを担当していました。
石塚:学生の開拓と、紹介する企業の開拓を両軸でやっていたということですね。
その時、一番苦労したことは何でしたか?
山田さん:ゼロからのスタートで学生さんの知り合いもいなかったので、まず関係づくりですね。
学生ネットワークも企業のつながりもない状態で、「誰に、どんな順番でアプローチするか」を考えながら、自分が上司として2人で取り組んでいました。
農業との出会いと起業への意識
そこから、今は農業もやられていて二拠点生活とのことですが、農業というのはどこから出てきたんでしょうか?
山田さん:札幌拠点立ち上げのときのご縁がきっかけでした。
帯広で学生や社会人に農業インターンシップを提供している会社があり、そこのコーディネーター役を担当させていただいたのが最初の出会いです。
石塚:それで、なぜやりたいと思ったんですか?
山田さん:最初は「農業インターンシップ、楽しそうだな」という気持ちでした。
大学生とも関われるし、キャリア支援としても意義があるなと思ってスタートしたんです。
でも、実際20〜30軒ほどの農家さんと関わるうちに、自分も農業の世界に飛び込んでみたいと思うようになりました。
理由はいくつかあります。
1つは、祖父母が農地を持っていて農家をしていたことです。「そういえば、あの土地って誰が引き継ぐんだろう」とふと考えたときに、「自分がやったら面白そうだな」と思ったのがきっかけの1つです。
もう1つは、将来的に何かしら自分で事業をやりたいと思っていたタイミングだったことです。
どんな事業をやるか考えたときに、農業ってクリエイティブで、経営にも深みがあって面白そうだと思いました。それもあって、札幌に行って1年後くらいには「農業で起業しよう」と決めていました。
石塚:その後、東京にもどってきてすぐ農業をやったんですか?
山田さん:いえ、正確にはまだ農業に入り込まず。正直まだ自信がなかったですし、まだ首都圏でキャリア積みたいと思っていました。
石塚:そこからどんな経緯で…?
山田さん:札幌から東京に戻ってきたときに、なんだか土地が合わないなと感じたんです。
どうやらそういう人は多いらしくて、札幌や福岡から東京に帰ってくると肌感覚が合わなくなる人もいるらしいです。
僕もまさにそうで、札幌から帰った時に、ちょうど横浜に住まいを移したこともあり、それなら東京じゃなくて海の近くで働くのも面白そうだなと思いまして。たまたま横浜で出会ったアペルザという会社に転職しました。
これが次のキャリアのステップです。
アペルザでの経験と学び
石塚:その後、製造業向けのインターネットサービスの企業へ転じられていますね。どんな経験をされたんですか?
山田さん:アペルザに営業として入社しまして、その後に人事へ異動しました。
スタートアップで人事部は少人数体制だったので、実務を1人で回す場面も多く、人事部の立ち上げを担当しました。
石塚:そこからついに農業の道に進まれたわけですが、そのきっかけは何だったんですか?
山田さん:帯広にいたときに、農業では「機械が大事」だということを強く感じていました。
最近はスマート農業が注目されていて、零細農家よりも大規模農家が増えて、
機械を扱える人が増えなければ産業として成り立たなくなる。
一方で、アペルザという会社自体が製造業向け、つまり設備産業で、工場で使われる機械を扱える会社でした。その分野に営業・人事として関わる中で、「こうやってこの産業ってビジネスモデルを回しているんだ」「こうやって利益を出すんだ」と学べたのがアペルザでの3年の経験でした。
そこでふと「40歳になってから農業をやる」と決めていましたが、もっと早くてもいいと思いまして。そのきっかけが、アペルザ時代の直属の上司からの後押しでした。現在は祖父母の農地の近くにある、別の大きな農地で修行中といったところです。
石塚:そこはどういう出会いで繋がったんですか?
山田さん:最初は直接の繋がりがないか、栄村の役場に電話で相談しました。そのとき、ちょうど地域おこし協力隊という制度があり、祖父母の家の地域の近くの山間部で募集が出ていました。農業を中心に地域支援をするという内容だったので、「実践の中で農業を学んだり、地域を盛り上げたりしたい」と思って始めました。
農業で痛感した経営の重要性と二拠点生活の実態
石塚:実際に農業をやってみてどんなことを学べましたか?
山田さん:そうですね、1つは経営能力の重要性ですね。今って昔より農業が難しい時代と言われています。天候が不安定ですし、資材の価格高騰でしっかり利益を出すには高単価で売る工夫が必要です。新規参入で上手くいく人は一握り。農業に関われば関わるほどそんな情報が入ってくる中で、「ただやるだけでは絶対に上手くいかない」と痛感しています。
石塚:業界全体が難しくなってきているということですよね。
一方で、スタートアップ支援の仕事も並行してやられていますよね?そちらはどんなお仕事が多いんですか?
山田さん:今は2つありまして、1つはスタートアップ企業や、中小企業の人事支援です。特に人事機能がまだ整っていないところや人事担当がいない会社の支援ですね。人事企画から採用まで幅広く関わっています。
もう1つがキャリア支援の仕事です。スタートアップ転職のサポートや、副業・起業・フリーランスとして独立する人の支援などをしています。
それこそ「二拠点生活をしたい」というフリーランスの方もいて、そうした方々をこれまで数十名ほど支援してきました。
石塚:そういう方に向けてアドバイスするとしたら、どんなことを伝えたいですか?
山田さん:自分の強みを客観視して、「どんな暮らしをして、どう稼ぐのが自分に合うのか」と戦略を立てられるかどうかが鍵だと思います。
石塚:山田さん自身が二拠点生活をしていて、難しさを感じたことはありますか?
山田さん:やっぱりお金がかかるというところで頓挫してしまう人がいることです。「どうすればお金をかけずにできるか」「もしコストがかかるならどう会計を工夫するか」といったところが難しいですね。家賃も2つかかりますし、移動費もかかりますし。
石塚:ちなみに山田さんはどのくらいの頻度で行き来してるんですか?
山田さん:平均1、2週間に1回、往復しています。基本的には平日は長野県の栄村で、休日は横浜で過ごすという生活です。
石塚:そう聞くとなんか理想な感じが…。いいなあ。実際収入は農業と人事系のお仕事、割合はどんな感じなんでしょう?
山田さん:今は農業と人事系の仕事で半々くらいです。地域おこし協力隊には2種類の雇用形態があって、1つは地方自治体に半公務員みたいな形で入る「雇用型」、もう1つが「委託型」。私は今、「委託型」として活動していますが、3年間は一定の収入が得られるのでこの割合になっています。
ただ、将来的には農業をしっかり収益化するために、いろいろ模索したり仕掛けを考えたりしています。
人事×農業×地方創生――健康経営とウェルビーイング支援へ
石塚:農業と人事支援系のお仕事、2つある中で、今後の展開はどのように考えていますか?
直近で取り組もうとしていることも教えてください。
山田さん:今後は、両方を掛け合わせたいと思っています。人事は人事、農業は農業で分けるのではなく、シナジーを生み出せる事業展開をしたいです。
人事×農業、人事×地方創生の中で、特に相性が良いと思っているのが「健康経営」事業です。
健康経営とは、従業員の健康を促進して生産性を高め、結果として企業の利益を伸ばしていく考え方です。
その中でも、食生活の改善は大きなテーマです。栄養価の高い食事で生活習慣病を防いで、エネルギッシュに働ける環境を整える。それを人事支援の文脈でもできますし、農業で作物を提供することで実現することもできます。
石塚:他にも、今後やってみたいことはありますか?
山田さん:健康経営に近い領域ですが、個人向けのウェルビーイング事業にも挑戦したいです。ウェルビーイングとは、心も体も健康で、社会的にも承認されながらキャリアを歩む状態。その実現を支援していきたいと思っています。
特に、新しいキャリアの形を支援する領域に絞りたいです。
二拠点生活、地方移住、フリーランス、副業、起業――「やってみたいけど一歩を踏み出せない」という人を後押しできるようなサービスを考えています。
石塚:みんな憧れはあっても、実際には実務的なハードルがありますもんね。
そんな中で、ディテールキャリアとして掲げているビジョンは何ですか?
山田さん:ビジョンとしては、農業と人事の両方のビジネスを伸ばすこと。
ただ、それ以上に地方の人材流動性を高めたいという思いがあります。そのきっかけをディテールキャリアが作れたらいいなと思っています。
石塚:確かに、東京一極集中で地方が衰退していく構造は、
ウェルビーイングの観点でも歪ですよね。我々も同じ思いで活動しています。
ちなみに、「ディテールキャリア」という社名の由来は?
山田さん:ディテールキャリアっていうのは、キャリアや人生に重きをおいてサポートしていきたいという思いがまずあります。「ディテール(detail)」は「詳細に」という意味ですが、私はキャリア戦略に細部までこだわって実現するサポートをしていきたいと思っています。新しいキャリアを歩むには、戦略的に考えないと、結局また東京でのサラリーマン生活に戻ってしまうといったようなこともありますよね。そうならないように、“頭にも心にもすっと落ちる戦略”を二人三脚で描きたいと思っています。
ディテールキャリア-これからの展望とビジョン
石塚:今後の目標はありますか?
山田さん:まずは、支援できるお客様の数を増やし、会社をしっかり軌道に乗せることです。
そして、社員やパートナーさんと連携しながら、会社を大きくしていきたいと思っています。
石塚:興味を持った方は、どこから問い合わせできますか?
山田さん:XまたはLinkedIn、YOUTRUSTのいずれかで「ディテールキャリア 山田慎」で検索して、お問い合わせください。
石塚:最後に、このインタビューを読んでいる二拠点生活やキャリア支援に興味のある方にメッセージをお願いします。
山田さん:はい。会社名の通り、「ディテール」にこだわってキャリア戦略を考えれば、
意外と二拠点生活や「自分には無理」と思っていたキャリアにも踏み出せると思います。
自信をつけていけば、必ず成功に近づけます。
そのサポートを私たちがしますので、ぜひ二人三脚で一緒に頑張っていきましょう。
編集後記
「農業」と「人事支援」。一見まったく別の世界に見える2つの仕事を、山田さんは“ウェルビーイング”という一本の軸でつなげ、構想します。
東京と地方、ビジネスと農業、会社員と自営業。
どちらかを選ぶのではなく、行き来しながら自分に合うバランスを探す。
そんな“二拠点的な生き方”は、これからの働き方のヒントにもなるはずです。
山田さんの言葉の端々には、「挑戦は特別な人のものではなく、誰にでもできる日常の選択の延長にある」という温度がありました。
キャリアの細部(ディテール)にこだわること。それが、自分らしい生き方を描く第一歩なのかもしれません。
ご紹介
Profile
株式会社ディテールキャリア
代表取締役
株式会社ディテールキャリア 代表取締役。
大学在学中よりリンクアンドモチベーショングループの「リンク・アイ」に参画し、大学生のキャリア支援に従事。
札幌拠点の立ち上げを経験後、製造業向けSaaS企業・株式会社アペルザにて営業、人事部門の立ち上げを担当。スタートアップや中小企業の人事支援に携わる中で、「働く人の健康や暮らし方にも寄り添う支援が必要」と感じ、2025年に株式会社ディテールキャリアを設立。
横浜と長野を拠点に、企業向け人事支援と20〜30代のキャリア支援を展開するほか、自らも農業に従事。人事と農業の両軸から健康経営・ウェルビーイングの実現を目指している。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。