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効果音はゲーム体験の心臓部──音づくりの現場から見える進化/株式会社ソノロジックデザイン・牛島正人

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ゲームの世界に没入できるのは、映像だけではありません。銃声の爽快感、モンスターの咆哮、草原を駆け抜ける足音――それらを支える“音”の仕掛け人がいます。株式会社ソノロジックデザイン 代表取締役・牛島正人さん。バークリー音楽大学で音響工学を学び、20年以上にわたりゲーム効果音を手がけてきた第一人者です。『Hi-Fi RUSH』で世界的ゲームアワードを受賞し、いま恵比寿と保土ヶ谷のスタジオから次なる挑戦を仕掛けています。牛島さんが語る“音作りの裏側”に迫ります。

幼少期から音の道へ─ファミコンとバンドブームが原点

石塚: 本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いできますか。

牛島: 株式会社ソノロジックデザイン代表の牛島正人と申します。私はゲームの効果音やサウンドデザインを約20年やってきまして、会社を法人化してからは5年になります。現在は保土ヶ谷と恵比寿にそれぞれスタジオを構え、10名ほどのメンバーと一緒に制作を進めています。

石塚: 幼少期から音に関心があったと伺っています。

牛島: そうですね。小さい頃からファミコンやスーパーファミコンでよく遊んでいました。中学生になるとバンドブームの影響でギターを始め、音楽にもどんどんのめり込んでいきました。高校生の頃には「音で生活していきたい」と漠然と考えるようになりました。当時はまだ「サウンドデザイン」という仕事の存在すら知りませんでしたが、とにかく音に関わる仕事をしたいと思っていたんです。

石塚: 音楽アーティストを目指すというより「音全般」だったのですね。

牛島: はい。作曲家やシンガーソングライターのような道ではなく、もっと広い意味で音に携わりたいと思っていました。ただ、当時から「音で食べていくのは狭き門だ」とも言われていて、ある種ギャンブルのような選択でもありましたね。

バークリー音楽大学で学んだ「音響工学」との出会い

石塚: 進学先にバークリー音楽大学を選んだ理由を教えてください?

牛島: 当時はインターネットもなく、情報源は雑誌くらいでした。世界で最も有名な音楽大学に行けば音で生活する可能性が広がるだろうと考え、バークリーに進学しました。専攻は「ミュージック・シンセシス学部」で、コンピューターを使った音作りやサウンドエンジニアリングを学びました。

石塚: サウンドエンジニアリングとは具体的に何でしょうか?

牛島: 部屋の反響や音の広がりを数学や物理でシミュレーションし、コンピューター上で再現するような研究ですね。音楽理論だけでなく理数的な知識が必要で、音響工学的な学びが多かったです。当時、アジア人でエンジニアリング専攻を選ぶ人はほとんどいませんでした。

ゲームサウンドの世界へ─メタルギアに衝撃を受けた瞬間

石塚: ゲームサウンドに強く惹かれたきっかけはありますか?

牛島: 2005年頃、アメリカで日本のゲームがレンタルショップにずらっと並んでいるのを見て「日本のゲームは世界に通用する」と感じました。特に『メタルギアソリッド』や『モンスターハンター』をプレイしていて、音響の完成度に感動しました。

調べてみると、その効果音の多くはアメリカの会社が制作していたのです。当時の日本では、まだ「映画的な音づくり」が浸透していませんでした。そこで「自分が日本で映画的な効果音を作れるようになれば強みになる」と考え、ゲームサウンドに道を絞りました。

下積みと独立の道─横浜の小さな会社から世界的プロジェクトへ

石塚: 最初のキャリアを教えていただけますか?

牛島: 横浜の小さな音響制作会社で修業を積みました。毎日ひたすら効果音を作り、パチンコ・パチスロや家庭用ゲーム機向けタイトルの案件を担当しました。最初の3年間はまさに下積みで、言われたことをひたすらこなす日々でしたね。

その後、アメリカのプロレスゲーム『WWE』シリーズのサウンドディレクションを4年間担当しました。毎年複数プラットフォームに新作をリリースするため、非常にタイトなスケジュールで進める必要があり、サウンド制作だけでなく進行管理や判断力も求められました。この経験を経て独立し、フリーランスとして活動を始めました。

効果音制作の裏側─数万ファイルを生む膨大な作業とデバッグの苦労

石塚: ゲーム効果音制作の大変さとは何でしょうか?

牛島: 近年のオープンワールドゲームでは、効果音ファイルが数万単位必要になります。たとえば足音ひとつでも「歩く・走る・忍び足」「コンクリート・草・砂利・水面」など、組み合わせで膨大な数が生まれます。

さらに大変なのがデバッグです。想定外の条件で音が重なりすぎて爆音になるなど、バグが頻発します。小さな「コップを置く音」が鳴らないだけでも違和感が生じるため、意図通りに鳴っているかの確認作業は地道で重要です。

石塚: 印象に残る代表作はありますか?

牛島: 2023年の『Hi-Fi RUSH』ですね。世界的ゲームアワードでサウンドデザイン部門を受賞できたことは大きな成果でした。私はチームの一員として関わりましたが、自分の経験が国際的な評価に繋がったことは大きな励みになりました。

ソノロジックデザインの挑戦─ワンストップの音制作体制へ

石塚: 現在の会社経営や今後の展望を教えてください?

牛島: 個人事業を経て、法人化して5年目です。プロジェクト規模の拡大や立体音響への対応のため、設備投資が必要になり法人化を決断しました。現在は効果音と音声収録に加え、2025年9月には楽器収録スタジオを新設しました。これで「効果音・音楽・音声」の三要素をワンストップで提供できる体制になります。日本国内でも同様の会社は非常に少なく、独自の強みになると考えています。

石塚: 採用面で求める人物像はありますか?

牛島: まずは「体力」です。制作スケジュールは厳しく、徹夜で対応しなければならないこともあります。また、効果音をゲームに組み込むにはプログラマーとの密な連携が必要で、論理的な思考力も求められます。「体力」と「ロジカルシンキング」、この二つが重要だと思います。

石塚: 牛島さんが考えるこの仕事の魅力を推してください。

牛島: 効果音はプレイヤーが最も多く耳にする音です。例えばメニューを操作する「ピッ」という音は、数十万回も聞かれることになります。悪目立ちせず、自然に繰り返し聞ける音を作ることができるのがやりがいです。さらにeスポーツでは、足音や環境音が勝敗を左右することもあり、音の重要性を肌で感じますね。

次世代へのメッセージ──ゲームサウンドの未来へ

石塚: そろそろ時間も迫ってきましたが、最後にご覧の方々へメッセージをお願いします。

牛島: ゲームの音を作る仕事は、非常に専門性が高く、そして今後ますますニーズが高まる分野です。開発規模が大きくなり、リッチな音が求められるようになった今、若い方にとっても活躍のチャンスが広がっていると思います。

普段ゲームを遊んでいると、音楽や声優の声には耳が向きやすいですが、実は「効果音が鳴っていないゲーム」はひとつもありません。効果音は表に出にくいけれど、ゲーム体験を根本から支える大切な要素なんです。

学生や音楽専攻の方、そして「音で仕事をしたい」と思う若い人たちに、この業界の存在をまず知ってもらいたい。そして興味を持ったら、ぜひチャレンジしてほしいですね。

私たちソノロジックデザインでも、新しい仲間を募集しています。効果音・音楽・音声という三つの要素をワンストップで提供できる環境で、一緒に挑戦してくれる方をお待ちしています。

編集後記

牛島さんとの対話を通じ、ゲームサウンドの世界がいかに奥深いかを強く感じました。普段私たちが意識しない小さな効果音も、数万のファイルから設計され、緻密なデバッグを経て初めて自然に響く。その裏には、徹底したこだわりと膨大な労力が隠されています。
特に印象的だったのは「効果音は最も多くプレイヤーに聴かれる音」という言葉。目立たないけれど欠かせない存在、それがサウンドデザインの真髄だと思います。さらに、ソノロジックデザインが目指す「効果音・音楽・音声を揃えたワンストップ体制」は、今後のゲーム業界において確実に大きなアドバンテージとなるでしょう。
「体力」と「ロジカルシンキング」という採用のキーワードは、一見相反するようでいて、この業界で生き抜くリアルを端的に表しています。体力勝負の現場を支える論理的思考、その両立こそが世界に通用する音を生み出す原動力なのだと実感しました。
牛島さんとソノロジックデザインの挑戦は、日本発のサウンド制作が世界の舞台で存在感を増す未来を鮮やかに描いています。

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ご紹介

Profile

牛島 正人

株式会社ソノロジックデザイン
代表取締役

牛島 正人

うしじま まさと

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Berklee College of Music Music Synthesis 学科にて音響/音楽理論を習得。
2007年帰国後サウンドデザイナーとしてキャリアをスタート。WWEシリーズでは約3年間サウンドデザイン/ディレクション/仕様作成/通訳担当。
その後2015年フリーランスサウンドデザイナーとして独立。平行して2017年3月〜2022年3月の間、audiokinetic株式会社プロダクトエキスパートとしてゲームサウンド開発のサポートを担当。
2021年4月に株式会社ソノロジックデザインとして法人化し、ゲーム業界を中心にサウンドデザイン/ディレクション/仕様作成も含めた統合的なサウンド制作業務を提供。
キャリア通してゲーム、映像、VR、遊技機等これまでにかかわったプロジェクトは大小含め300以上。

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石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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