ネット通販の拡大により需要が高まる運送業界。しかし、その裏にはどのような現実があるのか?LaMerci代表・佐藤亮が、運送ドライバーの働き方、独立のリアル、企業の利益構造などを包み隠さず語る。配達員不足が叫ばれる今、業界の未来はどうなるのか?経営者の視点から見た課題と展望に迫る。
【合同会社LaMerciのホームページ】
目次
合同会社LaMerciと、軽貨物配送という仕事
合同会社LaMerci(ラメルシー)は軽貨物配送業の会社です。代表は佐藤亮さん。
運んでいるのは、Amazonや楽天といった通販の荷物、お中元・お歳暮など。荷主からお客様の自宅へ届けるのが仕事です。
この仕事の身近さを示すエピソードとして、佐藤さんは米の流通の話を挙げました。スーパーから米が消えたと言われた時期、農家をしている友人によれば産地には普通にあったそうです。
そして実際に――
実家や地元から米を送ってもらう人が多かったようで、一時期ものすごい量が届いた。
最初はフレンチの料理人を目指していた
佐藤さんのキャリアは、運送業から始まったわけではありませんでした。
最初の業種は飲食店。料理を作るのが好きで、フレンチの料理人を目指していました。ただ、途中で断念します。
その後アルバイトを2つ掛け持ちする期間を経て、21歳頃に「そろそろ正社員として職を」と考え、車の免許を活かしてトラック運転手になりました。それが運送業との出会いです。
そこで知り合った先輩が会社を立ち上げる際に誘われ、現場責任者のような役割を担います。そのなかで「自分でもやってみたい」という気持ちが芽生え、その先輩に相談したうえで独立しました。
独立のきっかけは「マージンの抜き方」への疑問だった
この回でいちばん踏み込んだ話が、独立の動機でした。他社を悪く言うわけではない、と前置きしたうえで、佐藤さんはこう語ります。
荷主からお金が入り、会社がマージンを抜いて、ドライバーに支払う。その抜く額について――
「そこまで抜いたら、ドライバーさんは全然稼げないよね」と思ってしまうことが結構多かった。
そこを変えたくて会社を立ち上げた。だから同社はなるべくマージンを少なくする方針を取っています。
その理由も明快でした。
仕事をしている一番の理由は、生きていくためにお金を稼がなければいけないから。「やったらやった分だけ」はこの業界の一番の売りだと思っているので、それを分かってもらうにはそれしかない。
報酬は「1個いくら」。売上は月50万円前後が目安
同社に所属するドライバーは、現在すべて個人事業主です。
報酬体系は現場によりますが、基本は「1個いくら」。つまり配達すればするだけ収入につながる形です。
金額感についても具体的に語られました。売上イコール収入ではなく、駐車場代やガソリン代といった経費は出ていく。そのうえで――
売上だけで言えば、だいたい月50万円前後にはいく。
スキルによる差はあるものの、同社ではそのくらいを目安に報酬体系を作っているとのことでした。
「運送業ではなく、サービス業だと思っている」
ではドライバーの「スキル」とは何か。分かりやすいのは1時間あたりに何件こなせるか=スピードです。
ただし佐藤さんは、そこで止まりません。
物流業界のなかで、お客様に手渡しする一番最後の要だと思っている。だから運送業ではあるかもしれないが、僕はサービス業、接客業だと思っている。
そのうえで、この仕事に求められる難易度が説明されました。
感じの良い接客をしつつ、「午前中指定」「2時から4時」といったお客様との時間の約束を守り、なおかつスピードを維持する。
さらに、運転しながら判断することもあります。配達する荷物の住所はその日ごとに違うので、瞬時に判断してルートを組みながら配達する。そこに接客まで乗る。
「すごく難しいものを求められている」――だからこそしっかりと報酬で返していきたい、というのが佐藤さんの立場でした。
スピードより、品質
興味深いのは、報酬が件数に連動するにもかかわらず、同社が第一に掲げているものです。
スピードが上がれば売上につながる。けれど一番大事にしているのはスピードではなく、品質、サービス。
ドライバーにもそこは厳しく言っているそうです。そしてその成果は、数字にも表れていました。
破損やクレームは非常に少ないほうだと思うし、荷主からもそういう声をいただくことが多い。
それが評価となり、次の仕事につながっていく、という循環です。
この仕事に入ってくる理由が、変わってきている
やりがいについて、佐藤さんはまず分かりやすさを挙げました。
頑張った分だけお金として現れる。明細を見たとき、振り込まれた金額を見たときに「先月きつかったけど頑張った甲斐があったな」と思える。
ただし、動機の変化も観察していました。
一昔前はそれ(収入)が理由の人が多かった。最近は、特に若い方であまりお金に執着がない方が多く、この業界に入ってくる理由が変わってきている。
では今、何が求められているのか。挙がったのは2つでした。
- 時間内に配達が終われば、好きなタイミングで休憩が取れる自由度
- 車の中という一人の空間――人付き合いが苦手な方も来るようになった
- 車のサイズが違う。そのため必要な免許が変わる(一定のサイズを超えると中型免許が必要)
- 軽貨物=宅配。各家庭に届けるのがメイン
- 一般貨物=企業対企業。倉庫から倉庫が多くなる
休憩中の過ごし方も人それぞれ。読書、動画、ゲーム。「休憩時間は自由だよ、というのがこの業界の良さでもある」。ただし「ここまでに配達しなければいけない」という約束はあるので、メリハリはすごく必要だと付け加えていました。
一番のピンチは、人が「ぽろぽろ」と辞めた時期
創業からの3年で最もしんどかった時期についても、率直に語られました。
スタート後はトントン拍子で10人ほどまで増えたそうです。ところが単価が合わなかったり、実家に帰ることになったりと、さまざまな理由で急に人数が減ってしまった時期がありました。
そこで起きたのが、空気の変化です。
一人、二人と辞めていくと「この会社やばいんじゃないか」「俺も辞めようかな」という空気が漂う。
どう乗り越えたのか。佐藤さんが取った行動はシンプルでした。
残ってくれたメンバーを集めて、どうしていきたいか、どういう仕事をしたいか、どういう現場がいいかを聞いた。
そのうえで、正直な述懐が続きます。「僕にも正解が分かっているかというと全然分かっていない。なぜあのとき残ってくれたのか、自分でも不思議に思う」。その人たちは今も残っているそうです。
ちなみに、人が増えた要因を自己分析すると「出ていく人間、辞めていく人間が比率として少ない」ことではないか、とも語っていました。
軽貨物と一般貨物は、何が違うのか
会社としての目標は、一般貨物(トラックでの配送)への挑戦です。立ち上げ時からの思いだといいます。
両者の違いも整理されました。
本当は最初から一般貨物をやりたかったものの、法改正以降乗れる人が限定され始めているという事情がありました。若い世代で中型免許を持っている人は多くありません。
だから運転免許さえあればできる軽貨物を窓口としてスタートし、そこから一般貨物へという順序を考えている、と。
ドライバー不足を解消する鍵は「持ち戻り」
需要については、はっきりした認識が語られました。コロナ以降、需要は増えた。ピーク時よりは落ち着いたが、コロナ前と比べれば圧倒的に多い。
通常時は届けられているものの、大型セールの時期には「頼んだものが来ない」というニュースが上がる。それを心苦しい気持ちで読んでいるそうです。
繁忙期の乗り切り方も具体的でした。同社は基本は週休2日制。ただし7月と12月(お中元・お歳暮)は間違いなく荷物が増えるため、その時期だけ休みを週1にして稼働台数を増やすことで対応しています。
そして、ドライバー不足を解消する鍵として佐藤さんが挙げたのが、これでした。
持ち戻りが減ること。
不在の場合は不在票を入れて持ち帰ることになります。これは効率面で非常に悪い。届けても1件配達したという成果にならない――つまり、ただ働きになってしまいます。
置き配というシステムは始まっているものの、すべての荷物が対象ではありません。そして佐藤さんは、その普及が進みにくい理由についても業界の内側から正直に語りました。
無断で置いていってしまうドライバーもいる。そういうクレームが入れば、利用者は嫌な気持ちになる。それがある以上、なかなか進めにくい。
だからこそドライバー側が少しずつでもしっかりサービスをしていけば、そういう声はなくなっていく。同社が品質を第一に掲げる理由も、ここにつながっています。
あわせて、現場の切実な要望も語られていました。黒ナンバーの業務用車両については、駐車の扱いをもう少し考慮してもらえないか――好きで停めているわけではなく、仕事上どうしても停めなければならない現状がある、と。
「楽して稼げる」とは思っていない
これから入る人へのメッセージが、この回でいちばん誠実な部分でした。
業界の求人には「楽して稼げる」「月◯◯万円稼げます」「自由時間があります」といった文言が多い。それに対して佐藤さんは、はっきり言います。
僕は正直、楽して稼げるとは思っていない。
拘束時間の実態も明かされました。
朝7時前から積み込みをして、夜は7時から9時という最後の時間指定を片付けてから締め作業をする。拘束時間は非常に長い。
そのうえで、こう続けます。
楽して稼げるわけではない。ただ、それに見合った報酬を得られる可能性は秘めている。何より僕はこの仕事が大好きで、すごく楽しいと思って毎日やっている。それが伝わればいい。
仕事の面白さとして挙げられたのは2つ。繁忙期をやり切ったあとの「俺、これだけやれた」という達成感。そして――
いいサービスをしていると、お客様からちゃんとお返しが来る。「いつもありがとう」と言われたり、夏には「暑いから、これ飲んで」と飲み物をくれる方がいたりする。
ちなみに同社のドライバーは年齢も性別もさまざまですが、共通点があるそうです。「僕がすごくしゃべるのが好きなので、おしゃべりな人が揃っている」。積み込みの空き時間に話したり、ご飯に行ったりもするといいます。
「まずは、目の前にいるみんなを豊かに」
最後に「物流業界を良くしていく意気込みは」と問われた佐藤さんの答えが、この回を締めくくっていました。
そんな大それたことを言える立場ではない、と断ったうえで――
僕の目の届く範囲、一番身近なところで言えば、今うちにいてくれているドライバーの生活を豊かにしてあげたい。まずはそこから。
いっぺんに世の中や業界を語れる立場ではない。とにかく目の前にいるみんなに豊かな生活をしてもらいたい――その気持ちがいっぱいだ、と。
なお、業界の横のつながりについても「うちだけ、僕だけで解決できる問題ではない。業界全体でみんなで頑張っていけたら」と話していました。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。報酬・制度・数値は収録時点で語られた内容であり、条件は現場によって異なります。
ご紹介
Profile
合同会社LaMerci
代表
白鳥中学校卒業。高校へは行かず、フレンチ料理店に就職。3年ほど勤めたが挫折。 スーパーとファミレスのバイトを2年ほど掛け持ちしたのちに、運送会社に就職。 そこで知り合った先輩の立ち上げた会社に就職。2年ほど現場責任者を経験し、その後独立。 約1年後、合同会社LaMerciを立ち上げた。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。■編集長インタビュー「メディア「地域色彩」立ち上げの背景とは?株式会社ウェブリカ・石塚直樹が語る地域企業活性化のビジョン」https://chiiki-shikisai.com/webrica-ishizukanaoki/