和菓子の伝統と革新について、新正堂3代目の和菓子職人・渡辺仁久が語る。変革を進めたことで売上が上がった”切腹最中”


株式会社新正堂  会長 渡辺 仁久 WATANABE YOSHIHISA

株式会社新正堂は、1912年に創業された和菓子の老舗です。初代は江戸の庶民に親しまれる和菓子を提供し、その品質と味で評判を得ました。明治以降も、伝統を守りながら時代の変化に適応し、皇族や有名人にも愛されました。

特に「切腹最中」という和菓子が現代では象徴的で、ユーモアと誠意を込めたこの商品は贈答品として人気です。新橋に本店を構え、オンライン販売も行いながら、日本の和菓子文化の継承と発展に貢献しています。今回は株式会社新正堂の会長を務めながら、一般社団法人港区観光協会の会長も務めておられる渡辺仁久さんに和菓子の伝統と革新について存分に語っていただきました。

伝統からの脱却〜”切腹最中”はそうして生まれた

今日は、和菓子の伝統と革新についてお話を伺いたいと思います。まず、小豆の品種改良とそれに伴う調理法の変化について教えてください。

仁久会長: はい。小豆の品種は常に改良されていますが、それに伴って調理方法も変える必要があります。鎌倉時代から続く方法・伝統というのに固執するのは合理的でないと思いますね。

具体的にどのような調理法が研究されているのでしょうか?

伝統的には小豆を一晩水に浸けてから炊く方法が使われてきました。しかし、うちでは沸騰したお湯に直接小豆を入れています。これにより、短時間で炊き上げることができます。

工場の様子

そのような新しい方法は、和菓子職人の間でどのように受け入れられていますか?

多くの和菓子職人は伝統的な方法に誇りを持っているため、新しい方法を受け入れるのに抵抗があります。特に老舗の和菓子屋では、伝統を守る姿勢が強いですね。なので、それを乗り越えるため、新しい方法を普及させるために講習会などを行っていますが、全員がすぐに受け入れるわけではありません。それでも、伝統を守りながら変革を進めることが大切だと考えています。

仁久さんは義理の息子として家業に入られたとのことですが家業を継いだ後、どのような変革を行われましたか?

伝統を守りながらも、和菓子の炊き方や製法、デザインなどを改良しました。代表的なもので言うと、”切腹最中”や”義士ようかん”などですね。最初はうまくいかないことも多かったですが、試行錯誤の末に成功を収めました。うまくいかなかったものも含めると、これまでに約120種類の商品を開発しましたね。

”切腹最中”独自の技術で作られた皮には、切腹のシーンを表現する模様が施されている。伝統と現代の融合を感じさせるこの商品は、武士の精神を讃える一方で、見た目にも美しく、多くの人々に興味を持たせている。また、最中の皮は水分量を減らすことでしっとりではなくパリッと仕上がっており、食べた時に上唇に皮がくっつかない食べやすい和菓子となっている。

伝統と革新の融合〜目をつけたのは商品のパッケージだった

伝統を守る一方で、変革を進めることの難しさはどのようなものなのでしょうか?

伝統的な職人たちは変革に対して抵抗が強いですが、我々は変化を進めることで成果を上げることができました。特に、商品のデザインやパッケージに工夫を凝らし、売り上げを上げることができました。

元の切腹最中のパッケージ画像
改良された切腹最中のパッケージ。2つ縦に並べるとパッケージ下部の”切腹最中”の文字が浮かび上がるようになる。

忠臣蔵への情熱と地域貢献

忠臣蔵への興味も深いと伺っていますが、その活動について教えてください。

忠臣蔵に対しては小さい頃から深い興味を持っており、関連する知識を広めることに努めています。中央技師会での勉強や、忠臣蔵に関連する映画やテレビ番組の撮影にも協力しています。忠臣蔵がきっかけで出会った人も多いので貴重な経験をさせてもらっていますね。

歌川国芳の武者絵で蘇る四十七士!
”義士ようかん”は、忠臣蔵に敬意を表した特別な商品。このようかんは、伝統的な製法とこだわりの素材を使って丹精込めて作られている。その名前は、忠臣蔵の義士たちに敬意を表し、彼らの精神を讃えるものでこの商品は、日本の歴史と文化を称えるとともに、その美味しさで多くの人々に喜ばれている。

地域への貢献も重要な活動の一つですね。

そうですね。和菓子職人としての技術と伝統を地域に還元し、地域社会の発展に寄与しています。地域の歴史や文化を大切にし、その魅力を発信することに努めています。

東京タワーを拠点にした観光協会の取り組み

観光協会の会長も務められているとのことですが、その活動について教えてください。

はい。観光協会の会長として、地域の観光振興に努めています。東京タワーを中心に観光協会を運営し、フォトコンテストの委員長を18年間務めた経験もあります。

観光資源の活用にも積極的ですね。

港区には83の大使館や119の観光名所があり、それらを活用した観光振興を行っています。例えば、港区のマンホールをデザインしたコースターを作成し、観光客に配布するなどの活動を行っています。

インバウンド観光についてはどうでしょうか?

羽田から浜松町までのモノレールを利用する観光客の動向を調査するため、NTTのアプリを活用したビッグデータの分析を行っています。具体的には、観光客の滞在時間や移動パターンを把握し、効果的なサービス提供を目指しています。

おでかけウォッチャー(https://odekake-watcher.info/)

苦難が訪れても忠臣蔵への愛情が自己を支えていた

最後に、地域活性化のためのプロジェクトについて教えてください。

地域の観光施策や経済活性化のため、ポストの色を変えたり、イベントを開催したりする計画が進行中です。例えば、東京タワーのライティングや色の変更が提案されています。また、何かをやる際には、面白さを追求することが何より重要だと感じています。苦難が訪れても物事に対する情熱や忠臣蔵への愛情が続ける力となり、伝統からの革新、改良や挑戦を重ねてきました。今後も常に好奇心旺盛に、新しいことや興味のあることに積極的にチャレンジしていくつもりです。

伝統と革新のバランスを保ちながら、地域と共に発展していく姿勢が素晴らしいですね。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

新正堂店頭で購入できる”忠臣蔵クリアファイル”

編集後記

新正堂は、長い歴史の中で培った伝統と技術を大切にしながらも、時代の変化に対応し続けています。今後も、和菓子の魅力を多くの人々に届ける存在であり続けることでしょう。切腹最中は老若男女どなたにもお勧めできる一品となっています。今では限定の檸檬切腹最中、抹茶切腹最中がお勧めです。お近くの方はぜひ店舗に足を運んでみて下さい。

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株式会社新正堂  会長

渡辺 仁久 WATANABE YOSHIHISA