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中小企業が直面する労務トラブルと人事制度の課題
中小企業経営において、人材に関する課題は避けて通れません。採用・退職・労務トラブル・評価制度の不備など、適切な対応を怠ると大きなリスクにつながります。特に「優秀な人材とは何か」という定義の違いや、評価の基準が不明確なまま運用されることが、従業員との信頼関係を損ない、トラブルの火種となるケースは少なくありません。
今回の対談では、【真田直和社会保険労務事務所(大阪)】代表・真田直和さんが、4万件以上の労務トラブルを解決してきた経験をもとに、中小企業に必要な人事制度設計やトラブル予防のポイントを語りました。
社会保険労務士が伝える「基準づくり」の重要性
真田さんが強調するのは「事前に基準を共有すること」。例えば、遅刻は1回でも3回でも問題であることを明確に伝える、評価において「なぜその点数なのか」を説明できる仕組みを作る、といった取り組みです。こうした透明性が、従業員の納得感を高め、モチベーション向上にもつながります。
また、パワハラ問題や従業員の不満は「解釈の違い」から生まれることが多く、経営者と従業員双方の視点を踏まえた制度設計が求められます。社会保険労務士の役割は、こうしたズレを整理し、明文化して共有することで、職場の健全な環境を維持することにあります。
経営者・人事担当者が学べる実践的なヒント
本動画では、実際の労務トラブル事例をもとに、評価制度の作り方、従業員の定着を促す仕組み、パワハラ防止の考え方などが具体的に紹介されています。中小企業の経営者や人事担当者にとって、すぐに活用できる実践的な学びが多い内容です。
大阪を拠点に活動する佐田直社会保険労務事務所では、労務問題の解決だけでなく、人事制度・就業規則の整備やコンサルティングも行っています。信頼できる労務パートナーを探している方は、ぜひチェックしてみてください。
「手続きをしない社会保険労務士」
真田直和さんは、大阪で真田直和社会保険労務士事務所を一人で運営しています。収録時点で52歳、大阪生まれの大阪育ち。
まず、社会保険労務士とは何をする仕事か。真田さんの説明はこうです。
企業には採用、退職、病気、怪我といったさまざまな手続きがあり、どの企業でも必ず行うのが給与計算。それらを人事担当者に代わって行う国家資格者が社会保険労務士です。加えて、労働問題や就業規則・人事制度の策定も担います。
ところが、真田さんの事務所は一般的な社労士とは大きく違いました。
手続きは会社側でやってもらう。自分は、自分たちではできない制度設計、就業規則の作成、そして人とのコミュニケーションが必要な労働問題の解決を中心にやる。
なぜ手続きをやめたのか
理由は、この30年の変化にありました。
真田さんがこの業界に入った23歳の頃は、事務手続きがとても大変でした。手で書かなければならず、専門的な知識も要る。
ところが今は――
あらゆるものが簡単に手続きでき、インターネットもAIもある。ソフトも安価で売られている。
だから真田さんの提案はこうなります。
自分たちでできるなら、少しばかり努力してやっていただく。その余ったお金を、自分たちでは解決できないものに使ってください。
例えとして挙げたのがクリーニングでした。洗濯は自分でもできる。それでもお金を出すのは「もっとうまく洗いたい」「急いでいる」といった特別な付加価値のため。だったら自分でできるものは自分でやったらいい、と。
35歳で代表、44歳で辞めた
真田さんの経歴は、かなり異例です。
44歳までは社会保険労務士法人に所属し、手続きを中心に業務を行っていました。その組織は全国に4万件近くの顧客を持ち、当時のスタッフは600名近く。そこで真田さんは35歳で代表に就任しています。年上の上司や部下もたくさんいる立場でした。
その立場を、44歳で手放します。理由は、驚くほどあっさりしていました。
「なんとなく飽きちゃって」
もう少し丁寧な説明も続きます。世間的には35歳で代表という早いポジションでも、社会人としてはまだまだ勉強しなければいけない。23歳で国家資格を取っているので、そこから考えるともっと勉強したいという気持ちになってきた。そして時間は限りがある。
周囲からはかなり止められたそうです。何もなければ60歳までその立場でいることもできた。
ただ、一人だけ違う反応をした人がいました。
妻だけが「やったら」と言ってくれた。
社内結婚で、もともと部下だったこともあり、性格も仕事ぶりも知っていたのかもしれない、と真田さんは振り返ります。
独立後の立ち上げも、決して順調ではありませんでした。セミナーを開いて契約につなげる方法を取ったものの――
1回目のセミナーは、参加者ゼロ名。
そこからお客様が何を考えてセミナーに参加するのか、どういうニーズがあるのかを考え直したところ、4〜5名は来てもらえるようになり、顧客獲得につながっていきました。
高い点数をつけた社員から、クレームが来る
中小企業で最も困っているのは人の問題だと真田さんは言います。なかでも中心にあるのが評価です。
そこで語られたエピソードが、意外なものでした。
いい点数をつけた従業員から、クレームが来る。
「なんで私はこの点数なんですか」と。高評価なのに、です。
理由は、説明が欲しいから。褒められてもどこが良かったのか分からないと不安なのです。
そして真田さんは、はっきりこう言います。
それに答えられなかったら、辞めてしまう。
だから評価で一番大切なのは「なぜこの点数なのか」をちゃんと説明する仕組みだ、と。
「君、頑張ったよ」だけでは、何を頑張ったのかも、どれくらい頑張ったのかも分からない。あらかじめ経営者が「頑張った基準」を作っておかないといけない。
遅刻1回と3回、どちらが悪いか
基準づくりの具体例として出されたのが、この質問でした。
遅刻を1回する人と3回する人、どちらが良くないか。
多くの人は「3回」と答えます。しかし真田さんの答えは違いました。
どちらもダメだと思う。1回であろうと3回であろうと、これは良い悪いではなく「考えの違い」。
経営者もそうだし、働く本人も「1回くらいいいじゃん」と思っているかもしれない。「3回でもいいじゃん」と思っているかもしれない。
だからこそ「3回はダメですよ」とあらかじめ提示しておかないといけない。
「えこひいきします」と最初に言っておく
この回でいちばん意表を突いたのが、えこひいきについての考え方でした。
一般的に、えこひいきは良くないとされます。しかし真田さんは現実から出発します。
えこひいきは、絶対にする。人間だから好き嫌いも多少あるし、仕方がない。
問題はそこではない、と。
こそこそするから問題になる。表では「平等ですよ」「公平ですよ」と言っているのに、陰で点数をつけるときに「こいつ嫌いだから1点」とする。
だったら、と真田さんは言います。
最初から「えこひいきしますよ」と言っておけばいい。
それでいいのか、と驚くパーソナリティに、真田さんはこう続けます。コミュニティにはだいたい好きな人が集まるもの。こういう考えですよ、と共感してくれる人に集まってもらえばいい。えこひいきが嫌いな方は、そこに行かなければいい。
つまり、これは自社がどういう人を求めているのかを伝えることであり、それが評価の基本だ、という主張です。
「優秀な人が欲しい」の“優秀”とは何か
採用のミスマッチについても、同じ構造で説明されました。
経営者は必ず「優秀な人が欲しい」と言う。しかし――
「優秀」って何ですか、ということなんです。
同じことを繰り返し間違えずにできる人も優秀。独創的なアイデアをたくさん出す人も優秀。優秀の定義はバラバラです。
ちなみに真田さん自身は「同じことを繰り返しずっとできる人が優秀だと思うタイプ」だそうです。だからこそ、自分たちはこういう優秀さを求めていると、あらかじめ言っておかないといけない。
そしてもう一つ、伝えておくべきものとして挙げられたのが給与が上がる仕組みでした。
子どもなら花丸をもらえてラッキーだけれど、大人が働く意味は最終的に給料。
「これだけ頑張った人を認めるよ」と言ったら、次には「だからこれだけ給料を上げるよ」まで言っておかないといけない。そこが一番大事だ、と。
パワハラは「他人だと思えるか」の問題
最近多い相談として挙がったのがパワハラです。
真田さんはまず、当事者からヒアリングをします。そして実感として、強弱のグラデーションはあるが、大半はしていると言います。
そのうえで、動機については冷静でした。多くの方は、一生懸命のあまり厳しい言葉になってしまっているのが事実。
では何が問題なのか。ここで示された整理が明快でした。
会社はあなたのコミュニティではない。家族や友人なら、きつい言葉も多少はありでしょう。けれど会社でたまたま出会った上司と部下であって、そこに人間関係は「あるようでない」。こちらはあると思っていても、相手がどう思っているかは分からない。
だから他人には丁寧に接するという気持ちがないと、パワハラになる。
それでも伝わらない人には、こんな例えを使うそうです。
満員電車で肩がぶつかって「お前、なんだよ」と怒る人はあまりいない。他人だから遠慮する。
逆に「部下は家族です」と言っていると、ついつい出てしまう、と。
「仕事ができない社員を辞めさせたい」と言われたら
真田さんは経営者から報酬を受け取ってコンサルティングをしています。それでも労働者の目線を伝えながらアドバイスするのが方針です。理由はシンプルでした。
そうは言っても、働く方がいなかったら会社は潰れてしまう。
実例として挙がったのが「仕事ができない社員を辞めさせたい」という相談です。真田さんが確認するのは、この2点でした。
- どんな仕事をお願いすると約束していましたか
- どれくらいできていれば「頑張っている」と認めるかを、ちゃんと伝えていましたか
伝えていたなら、社員側も「もう少し頑張らないと」となる。伝えていなかったなら――もう一度ちゃんと伝えて、契約を仕切り直すことを考えなければいけない、と。
結論としては、仕事内容が伝えられておらず、「頑張っていない」の基準も曖昧なら、解雇はできないということになります。
そして真田さんは、リスクと機会の両面から助言します。
間違った解釈で解雇すると訴えられるリスクが出る。せっかく人を雇っているのだから、この人をもっと有効に、効果的に活かす方法を考えたほうが将来にとってプラスかもしれない。
そこからその人の能力を分析し、社内でどの仕事が得意なのかを見て割り振るという支援につながっていく。「結局、会社というのは人の集まりなので」。
人を育てるのは、宿題と同じ
この回でいちばん持ち帰りやすいのが、この考え方でした。
仕事となると難しく考えてしまう。けれど子どもの頃の宿題を思い出してほしい、と真田さんは言います。
学校の先生は「来週の火曜日までに漢字ドリル3ページ」と、時間も量もちゃんと決めて課題を出す。そして期限を守って3ページやった人に花丸をくれる。
大人も同じだ、と。ところが――
大人になると、経営者は「そんなの言わなくても分かるだろう」になってしまう。でも、言わないと分からない。
真田さんいわく「察して」がトラブルになる。
そして、ちゃんと伝えると何が起きるか。
子どもは花丸をもらえたら嬉しくてまた頑張る。大人も一緒。小さな成功体験を積み上げたほうが承認欲求が満たされるので、勝手にモチベーションが上がっていく。
しかも、こちらのほうが楽だといいます。ネガティブなコミュニケーションより、ポジティブなコミュニケーションのほうが簡単。「3ページやったよね」と言えるので会話も活発になり、企業として良くなっていく。
法学部の卒論は「国際法から見た戦争」
真田さんのものの見方の原点は、大学時代にありました。法学部で、卒論のテーマは国際法から見た戦争です。
そこで痛感したことがありました。
法律には一定の基準があるはずなのに、視点が変われば解釈も違ってくる。
戦争は、その分かりやすい例だといいます。一方は「正義の戦争」と言い、他方は「侵略」と言う。立場によって見方がまったく違う。
そして、この気づきが日常につながります。
日常を生きるなかでも、私たちは実はいろいろな法律に接している。その解釈が違っていてトラブルになることがすごく多い。
だから法律の世界で頑張ってみようと思った――それが今の仕事の出発点でした。
仲間を増やす、そして障害のある方の評価へ
今後の展望として挙げられたのが2つです。
1つは仲間を増やすこと。一人では直接関われるお客様に限界があるため、社労士向けの講座を開いています。収録時点で5年目、200名以上が受講しているそうです。
もう1つが、評価という領域のなかで真田さんが特に気にかけているテーマでした。
障害のある方の評価の仕方を、もっと広めたい。
まだ十分に評価されていないと感じている、と。
大事にしている3つのこと
仕事で大事にしていることを問われた真田さんは、3つ挙げました。
1つ目。いろいろな人がいる、価値観は違うということを、まず受容する。遅刻1回と3回の話も、まさにそこでした。
2つ目。嘘をつかない。これも子どもの頃から言われてきたことです。
そして3つ目が、この回の締めくくりになりました。
どうせ仕事をしないと生きていけないのだから、どうせやるなら楽しくしたい。
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。労務・法令に関する記述は真田さんの説明に基づくものであり、個別の判断は社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
ご紹介
Profile
真田直和社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
人事・労務コンサルティングの第一人者。
これまで 100社以上の人事制度設計や 40,000件超の労務問題解決に携わり、企業規模や業種を問わず幅広い実績を持つ。
独自に提唱する「真田式リアル人事評価制度(RPES)」は200名以上の社労士が受講し、中小企業支援の現場で注目を集めている。
また、大阪商工会議所や中小企業庁のセミナー講師、商工会職員研修など教育活動にも尽力。執筆・メディア出演も多数で、人事制度や労務管理の実務に関する知見を社会へ広く発信している。
兵庫県出身。学生時代からDJ、テレビ出演、イベント司会などを経験。神戸大学大学院(美術教育論)修了。
NHKキャスターやFM徳島ラジオDJ、神戸にある国際語学学院の職員を経て2009年渡米。NYで主人と出会って2011年西海岸へ移住し結婚。
De Anza Collegeで映画/テレビの資格を取得後、カリフォルニア州立大学サンノゼ校大学院にてジャーナリズム・マスコミ修士取得。
修了制作のドキュメンタリーはBest Short国際映画祭で優秀賞を受賞。その後は子育て&IT企業で4年ほど働き、現在はラジオと男児2人の子育てに専念。
趣味はハイキング・写真・カフェでお喋り・息子とお菓子作り。
