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馬の筋肉や血管も全てフィギュアで再現。競走馬造形師の美学とは?/ Sense Paddock・大和田咲綺

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競馬と馬への深い愛情を造形という形に昇華させた「Sense Paddock」造形師・大和田咲綺さん。彼女が手がける競走馬フィギュアは、筋肉や血管の一本一本にまでリアリティを追求し、ファンや馬主から熱い支持を集めています。会社員からの転身、ディープインパクトへの特別な想い、そして「引退競走馬を救いたい」という活動の原点を語っていただきました。さらに、ジョッキーとのコラボ構想やグッズ展開など未来への展望も伺い、Sense Paddockが描く“競馬文化と命をつなぐ物語”に迫ります。

競馬との出会いとディープインパクトへの特別な想い

石塚:今日のゲストはSense Paddock造形師の大和田咲綺さんです。本日はよろしくお願いします。

大和田:よろしくお願いいたします。

石塚:まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

大和田:はい。Sense Paddockの大和田と申します。私は馬を専門に、リアルなフィギュアを個人で制作しています。

石塚:実際に作品を持ってきていただきましたが、本当に驚くほどリアルですね。血管まで浮き上がっていて、まるで本物の馬がそこにいるようです。思わず触るのが怖いほどの存在感です。

大和田:ありがとうございます。そう言っていただけるのが一番嬉しいです。

石塚:そもそも、こうしたフィギュア制作を始めたきっかけは何だったんですか?

大和田:もともとは会社員をしていたのですが、産休に入るタイミングで少し時間ができました。ちょうどコロナ禍でもあってテレワーク中心になり、自分の時間をどう使おうかと考えたときに、「ディープインパクトの命日」が近いことに気づいたんです。

石塚:あの名馬ディープインパクトですね。

大和田:はい。ディープインパクトは私が中学生の頃に活躍していた馬で、リアルタイムで応援していた存在でした。亡くなって1年が経ったその命日に、「彼の姿を形に残してみたい」と思ったんです。それが最初のフィギュア制作でした。

石塚:普通は命日をそこまで意識しないですよね。

大和田:そうかもしれませんね。でも私にとっては芸能人や大切な人が亡くなったときと同じくらい大きな出来事で、「何か残したい」と自然に思えたんです。

会社員から造形師へ ― コロナ禍で芽生えた挑戦

石塚:会社員時代はどんなお仕事を?

大和田:営業事務やデザイン周りの補助などをしていました。造形とは全く関係のない仕事です。

石塚:それがいきなりリアルなフィギュアに挑戦するのはすごいですよね。

大和田:小さい頃から工作が好きで、美術の授業も大好きでした。美大ではイラストを専攻していましたが、今振り返ると造形の方が向いていた気もします。

石塚:最初からこんな完成度だったんですか?

大和田:いえ、最初は全然でした。見よう見まねで作ってみたけれど、首と足の比率が変だったり、筋肉の流れが違っていたり…。やはり馬をただ「見る」と「造形する」では全然違うんだと痛感しました。

石塚:そこから勉強されたんですね。

大和田:はい。馬の骨格や筋肉を解説した本を読んだり、映像を見たり。さらに実際に乗馬クラブで馬に触れることで、厚みや筋肉の流れを肌で感じながら学びました。

フィギュア制作の工程と“リアル”へのこだわり

石塚:制作にはどれくらい時間がかかるんですか?

大和田:本業と子育てをしながらなので、1日に取れる制作時間は3〜4時間程度。それでも1体完成させるのに1か月半くらいかかります。

石塚:こだわりのポイントは?

大和田:やはり「走る姿」です。競走馬は“走る芸術品”と言われます。その美しさをそのまま表現したい。筋肉の張り、大動脈の通り方、腱の位置。そうした内部構造を理解していないと、不自然な作品になってしまいます。だから、解剖学的な正確さにとてもこだわっています。

依頼者の想いを形にする ― 完全オーダーメイドの魅力

石塚:依頼者はどういう方が多いですか?

大和田:大きく二つに分かれます。ひとつは競馬ファンで、好きな馬のレースシーンを再現したい方。もうひとつは乗馬をしている方で、自分の馬やクラブでお気に入りの馬を作ってほしいという依頼です。

石塚:完全オーダーメイドなんですね。

大和田:はい。型がないのでポーズも完全に自由です。ゴール前の瞬間や、空中で全脚が浮いているフォームなど、依頼者が大切にしている「その一瞬」を形にできます。また、依頼者の思い出やエピソードを伺い、その背景まで作品に込めることを大事にしています。

フィギュアから広がる未来 ― ジョッキーとのコラボ構想

石塚:今後の展開については?

大和田:ジョッキーとコラボしたいですね。たとえば引退時や大きなレースでの勝利の瞬間をフィギュアに残す。ジョッキー自身が監修して、「この時はこう手を上げていた」と指定してもらえたら素敵だと思います。記念品としての価値も高いはずです。

引退競走馬を救うために ― Sense Paddockが目指す社会的使命

石塚:さらに先の展望は?

大和田:フィギュアの売上を、引退競走馬の引き取りに充てたいんです。維持費は月15万円ほど。それを賄える価格で作品を設定しています。最終的には自分の乗馬クラブを作り、殺処分される馬を減らしたいと考えています。

石塚:馬を救うという使命ですね。

大和田:はい。本当はたくさん救いたいですが、まずは一頭から。フィギュアやグッズを通じて資金を生み出し、社会的にも意義のある活動にしていきたいです。

石塚:最後に読者へのメッセージをお願いします。

大和田:造形師というと敷居が高いと感じるかもしれませんが、気軽に相談していただけたら嬉しいです。依頼者の想いを丁寧に形にしますし、今後は女性や子供向けに自分で色を塗れる複製フィギュアやアパレル・雑貨なども展開していきます。ぜひ「Sense Paddock」で検索して、ホームページからお問い合わせください。

編集後記

今回の対話を通じて強く感じたのは、大和田さんの活動が「造形」や「アート」の枠を超え、社会的使命を背負っているということです。競走馬フィギュアは単なる作品ではなく、引退競走馬の命をつなぐ手段であり、競馬文化を未来に残す大切なメッセージでもあります。

また、依頼者と密にやり取りを重ね、思い出やエピソードを作品に反映する姿勢にも感銘を受けました。造形は一方的な表現ではなく、「依頼者と共に作る物語」であると感じます。

ジョッキーとのコラボ、グッズ展開、そして馬の保護活動。Sense Paddockの挑戦はこれからさらに広がっていくでしょう。大和田さんの作品は、馬を愛するすべての人にとって希望の象徴になるはずです。

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Profile

大和田 咲綺

Sense Paddock
造形師

大和田 咲綺

おおわだ さき

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馬専門のリアルフィギュア工房。造形師。
型は使わずに針金で骨組みを形成するため、あらゆるポーズに対応可能。
依頼主の思いや馬の内面までも汲み取り、世界に一つだけのリアルフィギュアを生み出す。

HPはこちら LINEでのお問い合わせはこちら
石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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