滋賀県で犬猫の鍼灸・整体治療を行う「滋賀ペット治療院」。獣医師でありペット鍼灸セラピストでもある山路美晴さんが高齢化するペットと飼い主が「最後まで寄り添える環境」をつくるための東洋医学の視点を取り入れた新しいケアを実践している。動物保護管理センターで高齢の犬猫と向き合った経験から薬だけでは補えない領域に課題を感じ、鍼灸治療へ踏み出したという。足腰の衰えや自律神経の乱れなど慢性的な不調に悩むペットに対し、刺激を最小限にした施術や家庭でのケア指導を行う同院の取り組みは、飼い主ができるケアの選択肢を大きく広げている。本稿では、治療理念、印象的な症例、そして今後の展望について伺った。
今回は石塚直樹がナビゲーターとなり、滋賀ペット治療院 獣医師/ペット鍼灸セラピスト・山路美晴さんのキャリアと取り組みについて伺いました。
目次
東洋医学と出会った背景──「高齢ペットの悩み」に向き合うために
石塚:まずは自己紹介からお願いできますか。
山路さん:滋賀県で犬猫の鍼灸・整体治療を行っています。治療と同時に、飼い主さん向けに家庭でできるケアもお伝えしています。
石塚:動物病院は一般的ですがペット鍼灸はまだ珍しい印象があります。興味を持ったきっかけを伺えますか。
山路さん:もともと滋賀県の職員として働いていました。退職後に次の仕事を考えていたとき、「ペット鍼灸セラピー協会」を紹介していただきました。ペットの東洋医学は当時まだ珍しく、そこに惹かれたのが最初のきっかけです。
石塚:獣医師として東洋医学は普段から扱っていたのですか。
山路さん:いえ、直接触れていたわけではありません。ただ、動物保護管理センターでは高齢ペットの相談が増えており、東洋医学ならこうした高齢の問題にも対応できるのではないかと感じました。
動物鍼灸の歴史と基礎──「人と動物は共通点が多い」
石塚:ペットの鍼灸というと歴史が浅いように感じますが、実際はどうなのでしょうか。
山路さん:動物の鍼灸自体は古く、中国では馬が最初の対象だったと言われています。その後、家畜の繁殖などにも応用されてきました。ペットへの鍼灸は比較的新しいですが、研究も蓄積されています。
石塚:動物は研究が少ないという印象もありますが、実際は古い歴史があるのですね。
山路さん:人ほどではありませんが、動物鍼灸にも実績があり理論も整っています。
石塚:どのような症状に効果が期待できますか。
山路さん:運動器疾患が最も多いです。足腰が立たない、歩けない、麻痺がある、といった症状です。また、自律神経の乱れや原因不明の不調にも効果があります。
治療方針──「悪い箇所を治すのではなく、体全体を整える」
石塚:施術では動物の歩き方などを見て不調を判断されるのでしょうか。
山路さん:特定の部位だけを見るのではなく、体全体を整える考え方です。針の本数はできるだけ少なく、刺激も弱めにします。姿勢が整うことで自然と歩き方も変わっていきます。
石塚:技術の変化や成長を感じる瞬間はありますか。
山路さん:開業当初は迷うこともありましたが、今は動物の体を総合的に見ながら自信を持って施術できるようになりました。
石塚:飼い主向けのレクチャーではどのような内容を教えているのでしょうか。
山路さん:刺さない鍼やお灸など家庭で簡単にできるケアをお伝えしています。続けていただくと姿勢が改善したり歩き方が変わったり、鼻水が収まるなどの変化が出ます。
家庭ケアの普及と受講者の広がり──「飼い主の手でできることがある」
石塚:習得するまでの期間はどれくらいですか。
山路さん:基礎講座は1日で学べます。より深く知りたい方向けには6回や12回の講座もあります。基礎講座だけなら1000名近い方に指導してきました。
石塚:治療だけでなく家庭ケアが重要ということですね。
山路さん:はい。動物病院では「年齢だから仕方ない」と言われてしまうケースがありますが、東洋医学では身体を整えることで治る力を引き出すことができます。家庭でのケアもその一つです。
印象的な症例──「8歳のトイプードルが劇的に変化した」
石塚:これまでの治療で特に印象に残っている例はありますか。
山路さん:8歳のトイプードルです。幼い頃から病弱で、毎月のように病院に通っていました。下痢が止まらず入院と退院を繰り返していたのですが、鍼灸治療を始めると体調が劇的に変わりました。
石塚:どのように変化したのでしょうか。
山路さん:食欲が安定し、体格が一回り大きくなりました。以前の服が着られなくなったと飼い主さんが驚いていました。家庭でのケアを続けていただいた結果、ほとんど病院に行かなくなったと伺い、とても嬉しかったです。
高齢ペットと東洋医学の可能性──「選択肢のひとつとして広げたい」
石塚:ペットの高齢化についてどのように感じておられますか。
山路さん:寿命が伸びる一方で、老化による体の変化は薬だけでは補えない部分があります。「年齢だから仕方ない」と言われがちですが、東洋医学では身体の内側を整えることで生活の質を高めることができます。
石塚:寝たきりになる前後でもケアの内容は変わるのでしょうか。
山路さん:はい。寝たきりになる前のケアは特に大切です。また、寝たきりになっても鍼灸や家庭ケアでリラックスでき、生活が楽になります。
石塚:今後の展望を教えてください。
山路さん:飼い主さん向けのケアを広めること、そして獣医師向けの講座を通じて東洋医学の選択肢を広げていきたいと考えています。
石塚:最後にリスナーのみなさんへメッセージをお願いします。
山路さん:犬や猫に鍼灸というと驚かれることもありますが、まずは一度体験していただきたいです。ストレスで身体がこわばり、不調につながることも多いので、負担の少ない鍼灸で体を整える選択肢を持っていただければと思います。
編集後記
山路さんの話で印象的だったのは、「悪い箇所だけを見るのではなく、身体全体を整える」という姿勢が一貫していることでした。高齢化した犬猫は、薬だけでは十分に対応できない領域を抱えている。動物病院で「年齢だから仕方ない」と言われ、飼い主が選択肢を失うケースは少なくない。山路さんの実践は、そうした“行き場のない悩み”に応える手法として機能していると感じました。また、鍼灸という専門的な技術を飼い主自身に開いている点も特徴的です。刺さない鍼やお灸など、家庭で継続できるケアを丁寧に伝えることで、動物との関係性がより豊かになる。日常的に触れ、観察し、変化に気づけるのは飼い主です。専門家に任せるだけでなく、共にケアしていくという発想は、これからのペットケアに欠かせない視点になっていきます。滋賀ペット治療院の取り組みは、治療にとどまらず「長く健やかに暮らすための環境づくり」を志向している。今後、鍼灸という穏やかなアプローチが広がることで、犬猫などのペットがより暮らしやすい世の中になるのではないだろうか。
ご紹介
Profile
滋賀ペット治療院
獣医師・ペット鍼灸セラピスト
滋賀県を拠点に、犬猫を対象とした鍼灸・整体治療を行う獣医師。
動物保護管理センターで高齢ペットのケアに携わった経験から、薬だけでは支えきれない慢性的な不調や老化の課題に向き合う必要性を痛感し、東洋医学へ関心を持つ。「ペット鍼灸セラピー協会」との出会いを機に専門的に学び、体全体を整える鍼灸施術と、自宅で継続できる家庭ケアの指導を実践している。
治療では、針の本数を最小限に抑えた負担の少ない施術を特徴とし、姿勢や歩行の改善、自律神経の調整など幅広い症状に対応。これまでに約1000名の飼い主へ家庭ケア講座を提供し、動物が持つ「治る力」を引き出すアプローチを広げている。現在は獣医師向け講座も開講し、東洋医学を学ぶ獣医療従事者の育成にも取り組む。
株式会社ウェブリカ
代表取締役
新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。