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においとにおい測定の難しさとはー電子鼻の現状と今後の可能性は? 株式会社におい科学研究所・喜多純一

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「匂いはA+BがA+Bの匂いにならない」。株式会社におい科学研究所 代表取締役・喜多純一さんは、匂いの“複合効果”こそが測定を難しくしていると語ります。京都の分析機メーカーで約30年、匂い計測装置や関連機器の開発に携わり、独立。悪臭苦情対応から食品・香料分野の品質保証まで広がる「匂いの客観化」に対し、電子鼻というアプローチで挑み続けています。

今回は石塚直樹がナビゲーターとなり、株式会社におい科学研究所 代表取締役・喜多純一さんのキャリアや取り組みについて伺いました。

30年の装置開発経験から独立へ

石塚:本日はよろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介をお願いできますか。

喜多さん:京都の分析機メーカーに長年勤務してきました。匂いを測る装置や、分析装置に取り付ける匂い関連機器の開発に携わってきました。退職後、当時関わっていた装置を継続して開発するために、株式会社におい科学研究所を立ち上げました。現在2年半になります。

石塚:30年近く匂いの装置に携わってこられたのですね。

喜多さん:約30年になります。匂い測定装置や関連機器の開発を一貫して行ってきました。また、装置を通じて知り合ったセンサ分野の先生のもとで工学博士号を取得しました。

〈編集注:大学で研究を主導していたのではなく、企業での装置開発を軸に専門性を深め、その延長線上で博士号を取得されています。〉

匂いはなぜ客観化しにくいのか

石塚:匂い測定機はどのような場面で使われるものなのでしょうか。

喜多さん:匂いを客観的に見たいというニーズは多くあります。しかし匂いは本質的に客観化しにくい対象です。最も客観性が高い方法は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)で成分に分離し、それぞれを確認する方法です。多くの匂いは、どのような成分で出来ているかで客観化はできます。

石塚:それでもなお難しい理由はどこにありますか。

喜多さん:成分が混ざったときです。匂いはA+BがA+Bの匂いになりません。化学反応が起きているわけではありませんが、混合すると別の匂いとして知覚されます。これをハーモナイズ効果やマスキング効果と呼ぶことがあります。

石塚:成分分析だけでは説明できない部分が残るのですね。

喜多さん:そうです。そのため最終的には官能評価、つまり人の嗅覚による評価に頼る場面が多くなります。そこをセンサで捉えられないかというのが、私の取り組みです。

単一成分では語れない「複合臭」

石塚:代表的な匂い成分にはどのようなものがありますか。

喜多さん:アンモニア、硫化水素、メチルメルカプタンなどがあります。ただ重要なのは、ほとんどの匂いが単一成分ではないという点です。

石塚:温泉は硫化水素、といった説明もありますが。

喜多さん:実際には多成分の混合です。さらに、匂いのある成分の周囲には匂いとして感じにくい揮発性物質が大量に存在します。それらが混ざり合うため、検出や解釈はより難しくなります。

石塚:匂いの難しさは、成分の多さだけではないということですね。

喜多さん:混合による知覚の変化と、背景に存在するノイズの影響が重なっています。

電子鼻というアプローチ

石塚:現在開発されている装置は、どのような方向性なのでしょうか。

喜多さん:従来の成分分析は「分けて見る」方法です。一方、人の鼻は分けて嗅いでいるわけではありません。約400種類の受容体でパターンとして捉えています。その考え方に近づけるため、複数のガスセンサを組み合わせた電子鼻のアプローチを採っています。

石塚:具体的な例はありますか。

喜多さん:例えば、靴下の蒸れた匂いにバニラの匂いを混ぜるとチョコレートの匂いのように感じることがあります。成分分析だけでは、混合した匂いが「どれだけチョコレートに近づいたか」を判断するのは難しいのです。だからこそ、分けない分析が必要になります。

社会実装の可能性

石塚:実社会ではどのように活用されるとお考えですか。

喜多さん:悪臭苦情対応があります。特定成分だけを見る方法では、10件中3件程度しか説明できないことがあります。残りは人の鼻で判断せざるを得ません。負担も大きく、個人差もあります。

石塚:食品分野でも応用できそうですね。

喜多さん:コーヒーの香り変化や、食品の品質変化を客観的に示すニーズがあります。また、代替肉のように大豆由来の匂いを抑えたいという課題もあります。匂いを安定して制御できれば、品質保証の幅が広がります。

「匂いに原臭がない」という構造的課題

石塚:最大の技術的課題は何でしょうか。

喜多さん:匂いには原臭がありません。光は三原色がありますが、基底臭が見つかっていません。匂い物質は10万〜100万以上あるとも言われます。どれだけ用意すれば再現できるのかが分からないのです。

石塚:だから再現や標準化が難しいのですね。

喜多さん:その通りです。さらに匂いは湿度や周囲環境の影響を受けます。試験室でうまくいっても、現場では通用しないことがあります。

石塚:今後の取り組みについて教えてください。

喜多さん:においの問題とにおいセンサ・電子鼻で困っている方に、できるだけ早い段階で相談してほしいと考えています。解決に導く原因を丁寧に説明に、どこで詰まりやすいか、何が起きているのかを共有させていただきます。

編集後記

匂いは感覚的なテーマに見えますが、喜多さんの話はむしろ構造論でした。成分は分かる。それでも混ざると別の匂いになる。この現象が、技術開発・評価設計・投資判断を難しくしています。さらに「匂いに原臭がない」という指摘は、再現・標準化・遠隔伝送といった未来像を支える前提が成立していないことを示しています。匂いを測るとは、単にセンサを高感度化することではありません。外乱や複合効果を含めた全体設計の問題です。その難しさを直視しながらも、客観化の可能性を諦めない姿勢に、匂い科学の現在地を見ました。

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ご紹介

Profile

喜多 純一

株式会社におい研究所
代表取締役

喜多 純一

きた じゅんいち

株式会社におい科学研究所 代表取締役。工学博士。
京都の分析機メーカーにて約30年にわたり、匂い測定装置および関連分析機器の開発に従事。ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)をはじめとする成分分析技術と、複数ガスセンサを組み合わせた電子鼻の開発に携わる。
退職後、匂いの客観化と複合臭の計測という課題に取り組むため、株式会社におい科学研究所を設立。悪臭対策、食品・香料分野の品質保証、匂い全般のお困りごと相談、においセンサ開発支援などをテーマに活動している。
においかおり環境協会 理事・副編集委員長

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石塚 直樹

株式会社ウェブリカ
代表取締役

石塚 直樹

いしづか なおき

新卒でメガバンクに入社し、国土交通省、投資銀行を経て独立。
腕時計ブランド日本法人の立ち上げを行い、その後当社を創業。
地域経済に当事者意識を持って関わりながら、様々な企業の利益改善や資金調達を、デジタルや金融の知見を持ってサポートしています。

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