ストレスや孤独が広がる今、心を守るには「話す」と「聞く」が大切だ。悩みを吐き出し、誰かに聞いてもらうだけで心は軽くなる。佐藤茂則が教える、日常でできるセルフケアの方法と支え合いのヒント。家庭や職場、地域のつながりを深め、不安や孤独から解放されるコツがここにある。ぜひ最後までお聴きください。
目次
有限会社ミック研究所とメンタルサポートアカデミー
佐藤茂則さんは、埼玉県鴻巣市にある有限会社ミック研究所の代表取締役であり、メンタルサポートアカデミーの理事長です。
やっていることは大きく2つ。自治体・企業・病院・介護施設のスタッフ教育と、講演・セミナー。そしてアカデミーではカウンセラー養成講座や、商標登録も取得している「心支援士」の講座、講師養成講座を行っています。
経歴はサラリーマンからの転身でした。20年勤めたのち、大学院でカウンセリングを学び、精神科病院での勤務も経験。将来はメンタルの問題で独立したいと考え、1997年に独立しています。
なぜ企業にストレスチェックが義務づけられたのか
心の不調を抱える人は増えているのか。佐藤さんの答えは即答でした。「増えてますね。間違いなく」。
その根拠として挙げられたのが、独立直後からの流れです。
1998年から12年続けて、自殺者が3万人を超えた。そういう中で国が動き出した。
そして2015年、従業員50人以上の企業にストレスチェック制度が義務づけられます。佐藤さんが講演やセミナーを頼まれるようになったのも、この制度の一環としてでした。
経済的な側面についても数字が挙がりました。心の問題で会社を休む人が増えることによる経済的損失は11兆円とも言われる、と。
法制化のきっかけについて、佐藤さんははっきり指摘しています。大企業で起きた社員の自殺が引き金になったことは間違いない。結果として、企業はリスク管理の一環としてやらざるを得なくなった。
コロナがもたらした矛盾
コロナ禍の影響を、佐藤さんは「失われた3年」と表現しました。そして、そこにある矛盾を指摘します。
オンライン化でコミュニケーションの機会は残った。しかし一方で、コミュニケーションがなくなったことで相互理解が深まらないという問題が増えた。
リアルに会って話をして体感する部分は大きい。
そうした社会のなかで孤独になった人が増え、国は孤独・孤立対策推進法を施行しました。各自治体で具体的な活動が始まっていく段階です。何をするかといえば、地域で「つながりサポーター」のような役割を担える人を増やしていくことになるだろう、と佐藤さんは見ています。
「誰にも相談しない」人が2〜3割いる
この回で繰り返された結論はシンプルです。何らかの形でアウトプットできるかどうか。
パーソナリティが「ストレスを抱え込みがちで、紙に書き出している」と話すと、佐藤さんは「紙に書くね、すごく大事なこと」と応じました。紙に書いても、言葉に出してもいい。
ただ、現実の数字は厳しいものでした。
- 孤独を感じている人は約4割(総務省の調査として紹介)
- 小・中・高校生から高齢者まで、2割から3割は「誰にも相談しない」
- セルフケア(自分で自分を守る)
- ラインケア(上司が部下をケアする)
- 事業場内資源の活用(保健師、産業医など)
- 外部機関の活用(佐藤さんはここに入って各企業を訪れています)
- 時間の法則――「なんとかなる」と思えれば、自然に消えていく
- 蓄積の法則――家庭や職場でいつも顔を合わせる相手から小さいことをチクチク言われ続けると、溜まっていく
- 発散の法則――上手に発散して吐き出す
- ハグする
- 握手する
- 手を握る(1分以上)
- 膝の上に抱っこする
- 中心=インナーカウンセラー(誰の心の中にもいる、自分を癒しまとめていく存在)
- その周り=ピアカウンセラー(同じ経験をした人同士)
- さらに外=ミドルカウンセラー(地元の保健師など)
- 一番外側=職業カウンセラー
- 自分の心は自分で守る――これが大原則
- 悩んだときは気軽に誰かに話す
- 同時に「聞くこと」を学ぶ
相談しない人のなかに、だんだん溜まっていく。そして病気になってしまう――「それが今の世の中の現実だ」というのが佐藤さんの見立てです。
職場の4つのケアのうち、一番大事なのはどれか
職場のメンタルヘルスには、4つのケアがあります。
このうち何が一番大事かというと、佐藤さんはセルフケアだと答えました。自分の健康は自分で守る。
ラインケアに期待しすぎない理由も、現実的でした。
上司が部下をケアするといっても、仕事をしながら部下の管理まで真剣にできるかは難しい。生産性、コストパフォーマンスが問われる状況では、そこまで気が回らない。気が回らないうちに部下が傷ついた心を溜めて病気になっていくケースが山ほどある、と。
感情には「3つの法則」がある
ストレスを軽減する一番簡単な方法として、佐藤さんが挙げたのは話すことでした。悩んでいる期間が長ければ長いほど病気になっていくから、なるべく早く吐き出したほうがいい。
その説明として示されたのが、感情の3つの法則です。
溜まったものは、その相手に向かうか、向かえずに自分の心の内側に入っていくか。だから小出しに発散していくことがとても大事だといいます。佐藤さんは、日本の殺人事件の半数超が親族間で起きているという統計を引きながら、溜め込むことの危うさを語っていました。
そして、そこに共感の法則が加わるとなおいい。誰かが話を聞いて「大変だよね」と共感してくれること。
消費と充電のバランス。中心にあるのは「寝ること」
日常でできることとして紹介されたのが「消費・充電バランス」という考え方です。
仕事をするのは消費している。子どもが学校に行くのも消費している。ならば、その裏側で充電できているか。
充電の方法として、遊ぶこと、好きなことをすること、運動することも大事。ただ、中心にあるのは一つでした。
寝ること。
寝た分だけ充電できる。パーソナリティが「5時間になってしまう時もある」と言うと、佐藤さんは「それ、短すぎるの」と即答し、厚生労働省の睡眠指針にも触れながら先進国のなかで日本人の睡眠時間が最も短いと指摘されていることを挙げていました。
能登の小学校が出した、算数でも国語でもない宿題
この回でいちばん印象に残るエピソードが、能登での支援活動の話でした。
ある小学校の先生が、1年生から6年生まで全学童に宿題を出したといいます。算数でも国語でもありません。
家に帰って、お母さんとハグしてきましょう。
選択肢は4つ用意されていました。
このうちどれかをお母さんと相談して決めてやってくる、という宿題です。
結果としてお母さんも安定し、子どもたちも心穏やかになって不安が少し消えたといいます。パーソナリティが指摘していた点も的確でした。触れ合いたくても言い出せないとき、「宿題だから」という名目があればお願いしやすい。
専門家は、一番遠いところにいる
この宿題の話には続きがあります。佐藤さんは、自分たち専門家の立ち位置を冷静に語りました。
専門家が震災の後に行っても、外部の人はなかなか使いにくい。初めて会った専門家に話ができるかというと、できないと思う。
だったら、地元の人たちが同じ被災者同士で声をかけ合って話していくほうが望ましい――そういう話を現地でしてきたそうです。
その構図が、佐藤さんの中では同心円になっています。
一番外側だから、なかなか行きにくい。同じ被災をした人同士、あるいは同じ依存の苦しみを経験した人同士でカバーし合うほうが心を開きやすい。
そして、外側の3者に共通する役割はこう定義されていました。
真ん中にいる本人の「インナーカウンセラー」を呼び覚ます、目を覚まさせる役割。
「アクセスマインドリンク」――程よい関心を持ち続ける
周りに心の不調の人がいたら、どうすればいいか。佐藤さんの答えは具体的でした。
人は元気がなければないなりに、顔や態度で信号を発信している。そのときに「どうした?大丈夫?」と一声かけることで救われることがたくさんある。実際「その一声で救われました」という話をたくさん聞くそうです。
ポイントは負担がないように、関心を持って声をかけること。つまり程よい関心を持っているかどうか。
佐藤さんはこれを「アクセスマインドリンク」と呼んでいます。相手のマインドにアクセスして、リンク(つながり)ましょうという意味。
そして、こう続きます。関心がないとリンクできない。だから自分の周辺の気になる人に対しては、いつも程よい関心を持ち続けているといい。
「話すことは本能。聞くことは学習」
メンタルサポートアカデミーは収録時点で20年目。カウンセラー養成講座は22期目で、4月から12月まで学び、成果発表を経て認定される形です。
学ぶ内容は、カウンセリング、簡単な認知行動療法的アプローチ、そして聞く技術。
この「聞く」について佐藤さんが語った整理が、この回の核心でした。
話すことは本能。怒ることも本能。けれど、聞くこと、褒めること、励ますことは、学習して意識していないとなかなかできない。
受講に向いているのは、今悩んでいる人、かつて悩んだことがある人、そして純粋に人の話を聞いて役に立ちたい人、もっと自分のことや人間関係を知りたい人。修了後の進路はさまざまで、ボランティアをする人、職業カウンセラーとして活動する人、職場のなかで生かしている人がいるそうです。
開催は埼玉・鴻巣が中心で、横浜でも開催する動きがあると話していました。今後の展望も、その延長線上にあります。埼玉・東京から横浜へ、そして全国へ活動を広げていきたい、と。
聞くことは、身近な社会貢献
最後のメッセージは、3点にまとめられていました。
そして、佐藤さんはこう締めくくりました。
「聞くことは、身近な社会貢献だと思ってます。話す人にもならなきゃいけないし、聞く人にもなっていただけたらいい」
※本記事は、ラジオ番組でお話しいただいた内容をShikisai編集部が記事としてまとめたものです。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。数値・制度の内容は収録時点のものです。心身の不調が続く場合は、医療機関や公的な相談窓口にご相談ください。
ご紹介
Profile
有限会社ミック研究所
代表取締役
有限会社ミック研究所の代表取締役を務める心理カウンセリングと人材育成の専門家。 1950年に埼玉県で生まれ、心の問題に長年向き合い続けている。 1977年から1997年までの20年間、コンサルティング会社で経験を積み、1997年に独立して有限会社ミック研究所を設立した。 その後、2004年にはNPO法人メンタルサポートアカデミーを立ち上げ、理事長としてメンタルサポートの普及に力を注いでいる。 現在、企業や医療施設、介護施設、自治体において人材育成やメンタルヘルス対策の研修や講演を行い、現場での教育や支援に取り組んでいる。 専門家としての確かな知見を持ちながらも、人々の心の問題に真摯に寄り添い、健やかな社会づくりを目指して活動を続けていく。
経歴:大学卒業後、「東京アナウンスセミナー」でスキルを磨く。2015年に「第24代椿の女王」に選ばれ、1年間伊豆大島の観光大使として活動。2020年にNHK和歌山放送局の契約アナウンサーとして入局。出演番組:「ギュギュっと和歌山(わかやま見つけ隊)」「ぐるっと関西おひるまえ」